三宮クロススクエアに対する懸念

 神戸市の久元喜造市長は(12月)8日の神戸市議会本会議で、神戸市の中心市街地である三宮を南北に通る道路「フラワーロード」(税関線)の車線を、JR三ノ宮駅から南側で「自動車の通行を妨げない範囲で、現在の6車線から4車線に減らす」と述べ、歩道を拡幅する方針を示した。歩道や自転車が通行する領域をより広く確保したうえで、「キッチンカーやショップなどが出店できるような滞留空間の創出もめざす」という。

 久元市長は「ウォーカブルな(歩きやすい)公共空間の連続的な整備」によって「都心と(新港町など旧港湾部を市街地化する)ウォーターフロントへの回遊性を高め」ることで「都心エリア全体を活性化する」と、ねらいを説明した。(略)

 

(神戸経済ニュース 2023/12/9)

 

 

 久元市長は、「ウォーカブルな公共空間の連続的な整備」によって「都心エリア全体を活性化する」と説明をしている。神戸市では「三宮クロススクエア」などの計画があり、「ウォーカブルシティ」は久元市長の「看板政策」ともいえるような位置づけとなっている。

 

三宮クロススクエア

 三宮駅前は、もともと人のための滞留空間が非常に狭く、さらには、駅とまちが幹線道路で分断されている課題があります。特に、神戸の玄関口として非常に重要な駅前の空間である中央幹線は、都心に用事のない通過交通が約半数を占めています。
そこで三宮交差点を中心に、「三宮クロススクエア」として、駅周辺へのアクセス機能に配慮しつつ、その大切な空間を車中心から人中心に段階的に転換し、周辺の建築物と一体となって、神戸の玄関口にふさわしい象徴となる空間を創出していくことを計画しています。

 

(神戸市HP)

 

 

「三宮クロススクエア(第1段階)東側」イメージ

 

現況(三宮交差点より東を望む)

 

第1段階【10車線→6車線 (2029年度目標[JR新駅ビルと同時期])】

 

第2段階【6車線→3車線(大阪湾岸道路西伸部供用後以降)】

 

(将来像)




 実は、これは久元市長のオリジナルの政策ではなく、国土交通省が全国的に進めている「ウォーカブル推進都市」に基づくものだ。

 

国土交通省 WALKABLE PORTAL(ウォーカブルポータルサイト) (mlit.go.jp)

 

 世界中の多くの都市で、街路空間を車中心から”人中心”の空間へと再構築し、沿道と路上を一体的に使って、人々が集い憩い多様な活動を繰り広げられる場へとしていく取組が進められています。これらの取組は都市に活力を生み出し、持続可能かつ高い国際競争力の実現につながっています

 近年、国内でも、このような街路空間の再構築・利活用の先進的な取組が見られるようになりました。しかし、多くの自治体では、将来ビジョンの描き方や具体的な進め方など、どう動き出せば良いのか模索しているのが現状です。
このような背景のもと、国土交通省では街路空間の再構築・利活用に関する様々な取組を推進しております。

 

(出典 国土交通省「ウォーカブルポータルサイト」)

 

 国土交通省はこの取り組みに賛同する「ウォーカブル推進都市」を募集し、現在368都市(2024年年年1月31日現在)が登録されている。

 

ウォーカウォーカブル推進都市について | 国土交通省 WALKABLE PORTAL(ウォーカブルポータルサイト) (mlit.go.jp)ブル推進都市一覧 (mlit.go.jp)

 

 その一覧を見ると、ほぼすべての県庁所在都市、政令指定都市が登録されており、その中に神戸市の名前もある。兵庫県下でも、神戸市、姫路市尼崎市、西宮市、芦屋市、伊丹市加古川市と主立った市が登録されている。

 

 神戸市では、神戸市復活の「切り札」として、ウォーカブルシティ推進に向け、市内最大の三宮交差点を将来的には完全に自動車を閉め出す「三宮クロススクエア計画」を進めている。上記の車線の削減はその計画の一環と思われる。

 

 果たして、この神戸市の方針は正しいのだろうか。

 

 「車中心から”人中心”の空間へ」と言えば、とても素晴らしいことのように思われる。しかし、考えてみれば自動車も、人間のためにあるものだ。

 過去から存続するものには何らかの必要性があり、その必要性から必然的に生じているのが現在の姿である。街路空間が車中心と思われるとすれば、それは、それだけのスペースを与えなければ、流入する交通量を捌くことができないという実態を反映したものであったと考えるべきだろう。

 

 自動車交通が果たしている役割はどのようなものだろうか。人の運搬ということを考えた場合に、自動車は公共交通機関の役割を持っている。公共交通機関が十分に発達している都市圏内であっても、大きな荷物がある場合や、家族連れの場合、特に小さい子供や高齢者がいる場合、天候や時間帯等によっては、自家用車で移動する方が都合がよい場合があるだろう。また、娯楽としても自動車は公共交通機関では得ることができない楽しみを与えてくれる。特に若い人々にとってはそうだろう。

 域内の近距離の移動だけではなく、周辺部や遠隔地から人を運ぶ、中距離、長距離の移動の役割もある。大都市圏以外の地方は、公共交通機関が十分には発達していないから、必然的に車社会となっている。日本全体の人口が減少し、公共交通機関の維持が難しくなってくると、ますます自動車は欠かせないものとなっていく要因ともなるだろう。

 そして、それは地方に限られず、神戸市内においても、北区や西区等の郊外は車が移動の主力となっている。また、神戸市内は坂道が多いので、自転車や歩行による移動は制約があり、都心の近くでも車がないと生活が難しい地域がある。

 実際に市内を走行している乗用車を見ると、神戸ナンバーはもちろん、実に多くの都府県のナンバーを見かける。特に関西圏一円、中国、四国地方から多くの乗用車が入り込んでいることがわかる。休日になると、大丸や阪急の百貨店の駐車場には長蛇の列ができている。

 そのような状況下において、都心の中心部から自動車を排除することが都市にとってよいことなのだろうか。もちろん、歩行者の便宜も大切だから、どちらか一方ということではなく、両者のバランスが必要となるだろう。

 

 ウォーカブルシティ構想に則り歩行者優先の原理を導入するとしても、実際にどのように適用をするかは様々であろう。たとえば、ある街区に限ってその原理を導入することは、よい結果を生むこともあるだろう。一例として、住宅地の中で、自動車の通行を制限したりすることは、その街区の住民の安全や騒音、排気ガス、振動の排除など快適性の向上につながることもあるだろう。風致地区では、美観の向上に役立ち、観光政策的に利点があるかもしれない。他都市でも様々な取り組み事例があるだろうが、神戸市のように、都心部において、大動脈が交わる市内最大の交差点を廃し、自動車を完全に閉め出すようなことを行おうとしている事例は余りないのではないか。神戸市の中心市街地には、東西に3本の幹線道路がある。北側の山手幹線、浜手の浜手幹線、そしてその間を走る中央幹線である。この3本の幹線道路は、自然にできたものではなく、先人が努力して造りあげてくれたものだ。これらは市民の財産ともいうべきインフラだ。そのうちの都心の中央部を貫く中央幹線は特に市街地の往来を扶ける重要な幹線道路だが、それをいとも簡単に捨て去ってしまっていいものだろうか。

 ウォーカブルシティには利点もあるだろう。海外で成果を上げているという話はあるが、その都市の属性や諸条件は同じではないのだから、鵜呑みにすべきではない。都市の諸条件、道路の機能や様々な利益のことも十分に考えるべきだ。ある特定の信条をあらゆる価値から優先させて、他の価値を考慮しないならば、それは「原理主義」というべきだ。

 

 周辺に競合都市がひしめきあっている神戸市においては都市間競争の観点からも考慮が必要だ。たとえば、郊外で幹線道路の近辺に大規模な駐車場を備えたショッピングモールの存在がある。神戸三田プレミアム・アウトレットやマリンピア神戸西宮ガーデンズららぽーと甲子園など、大規模な施設が目白押しだ。これらの施設は、神戸の中心市街地にとって強力な競合施設となっている。

 この状況下で、神戸の都心の大動脈を封鎖することは妥当なのか。もし、人々に神戸の都心は自動車の乗り入れに不便だと認識されたら、他の競合施設、他都市へ人が流れてしまうおそれがある。

 将来、三宮クロススクエアが完成した暁には、道路の渋滞は発生しないかもしれない。しかし、それは、郊外の他施設、他都市へ流れているだけなのかもしれない。人々は、いちいちダメ出しをしてくれない。黙って他所へ流れていくだけだ。

 実際に、地方の都市で中心市街地がシャッター街になったしまっている例が多く発生している。中心市街地の衰退の原因として、民間の調査によると「商店街などの個人経営の店舗に魅力がないため」とともに「郊外のショッピングセンターのように大規模な無料駐車場がないため」が挙げられている。幹線道路の封鎖は、このような中心市街地の衰退を招くおそれはないのか。

 久元市長は、このクロススクエア構想を都市活性化の切り札と考えているようだが、そもそも、国の施策に乗っかって日本全国の都市が取り組んでいる施策が、都市間競争で切り札となるはずがない。

 

 超広域の中心都市となるべき神戸市としては、自動車交通を排除することは、その方向性に反する結果となる。結論としては、三宮クロススクエアは行うべきではないと筆者は考える。もしも、車線を削減してしまうとしても、公共スペースとして確保し、やはり道路の拡幅の必要があると判断する場合には、いつでも道路として復元できるようにしておくべきだ。いったん、建築物で埋まってしまうと、再び、スペースを確保することは事実上不可能だからである。

 

 神戸市は坂道が多く、徒歩や自転車だけでは交通の便が悪く、観光名所も車で訪れた方が便利な場所も多い、かえって六甲山や須磨や舞子の海岸線、都心部の高架道路など、ドライブに最適な観光地もある。国の施策に乗っかって、いたずらに自動車を都心部から閉め出すのではなく、自動車をもっと都市部に招き入れる施策を取ることが必要だ。そういう意味で、他都市と逆張りの方が都市活性化には効果があるだろう。今後、自動車はEVが主流となるだろう。これらは、従来のガソリン車と異なり、排気ガスや騒音の問題がない。したがって、都心に流入させても、環境上の負荷が少ないはずだ。積極的に充電スタンドや駐車場所を確保して、広く自動車の流入を促進させることは、長距離交通機関の結節点を目指す神戸の方向性とも合致しているだろう。

 

ルミナリエ2024を振り返って

(東遊園地会場の様子)


 第29回ルミナリエが1月28日に閉会した。神戸ルミナリエ組織委員会の発表によると、10日間の開催期間中の来場者数は229万8000人、このうちメリケンパークに開設された有料エリアの来場者数は15万400人だったということだ。

 

 今回はコロナ禍後、4年ぶりの本格開催ということだったが、旧居留地内、東遊園地内の会場を大幅に縮小し、メリケンパークに有料会場を初めて導入する等、新しいスタイルを模索するルミナリエとなった。

 来場者数は、前回の第28回(2019年)の346.9万人から33.8%の大幅減少となり、過去最低となった。過去最高であった第10回(2004年)の538.3万人と比べると、42.7%と半分以下となっている。

 一日あたりの来場者数を見ても、過去最高だった第10回(2004年)と比べると6割弱の数字となり、「集客力」が大幅に低下したという評価もできる。

 

ルミナリエ 1日あたりの来場者数)

 

 この結果について、新聞報道(神戸新聞2024/1/29)によると、組織委員会は「想定通りの数字だった」と言い、「観光の閑散期である1月に、これだけ多くの方に楽しんでもらえた」と話したそうだ。

 来場者数を評価尺度とすると、来場者数が前回の3分の2に激減し、過去最低であったという点から考えると「失敗」と言うべきだと思われるが、組織委員会は決してそのような評価を下さないだろう。しかし、そのこと自体が大きな問題であるように思われる。組織委員会ルミナリエに人を集めたいと思っているのか、人を集めたくないと思っているのか、その方向性が定まっていないように感じる。

 そもそもルミナリエを開催する目的は何なのだろうか。組織委員会自体がその目的がわからなくなっているのではないだろうか。

 

 そこで、ルミナリエを開催することの意義を再度考えてみよう。

(1)ルミナリエ開催の意義

 ルミナリエ阪神淡路大震災の「メモリアル」であって「鎮魂行事」ではない。個人が鎮魂の思いで参加することを妨げるものではないが、かつて神戸を襲った大震災を記念する行事である。対象は不特定多数で、できるだけ多くの人々に参加してもらい、あの震災に思いを致し、再び襲う大自然の脅威に備えるきっかけとなることがルミナリエの意義であると考える。これに対して、1・17のつどいは「追悼行事」であり、肉親など近しい人を失った人たちが中心となる、まさに鎮魂のために行事である。

 阪神淡路大震災は、単に破滅だけの物語ではなく再生の物語でもあった。だからこそ尊く、後世の人々の希望となりうるのだ。それは、その後の数々の災害が起きた際に、復興した神戸の姿が被災地の被災者を励ましたことをもって立証されるであろう。その復興の側面の象徴こそがルミナリエなのだ。

 これを比喩的に言うなら、1・17のつどいは「死」「闇」であり、ルミナリエは「再生」「光」ということになるだろう。光と闇は両立しない。鎮魂と集客という目標を巡って方向性の定まらないルミナリエの現状は、光と闇のそれぞれが、互いに打ち消し合おうと争っているかのようだ。

 ルミナリエ阪神淡路大震災のメモリアルとすれば、できるだけたくさんの人に参加してもらうことは趣旨にかなっているし、現在の神戸に求められている、街のにぎわいづくりに大いに役立つ貴重な行事ということができる。

 以上の理由から、ルミナリエ1・17のつどいとはしっかり切り分けて、開催時期も従来どおりの12月の開催とした方が妥当であり、歴史的事実にも忠実であると考える。

 

 その他、いくつか気づいた点を記しておこう。

 

(2)ルミナリエの会場について

 会場は分散させず、できるかぎり一まとまりとした方がよい。分散会場だと、一つ一つの規模が小さくなってしまう。ルミナリエは単体で見るものではなく、集合体を見るものだ。また、分散型だと、人々はたくさん移動しなければならず、結果的に人々の足を遠のかせることになってしまう。今回、おそらく、メリケンパークには足を運ばず、東遊園地だけを見て帰った人たちも多いに違いない。その人たちが感じることは、「ルミナリエは大幅に縮小された」という印象だと思われる。その人たちは今後、ルミナリエを見に来てくれるだろうか。

 会場はハーバーランドからメリケンパークまでの間に設けるのがよいだろう。つまり、従来は三ノ宮駅から元町駅の間の旧居留地を会場として人が流れていたが、神戸駅から元町駅の間を人が流れるようにするのがよい。ハーバーランドからメリケンパークは元々観光地であるから、これらの活性化のためにも有効だろう。メリケンパークには神戸港震災メモリアルパークもあり、震災のメモリアルという趣旨からも都合がよいだろう。

 今回、メリケンパークに有料会場を設定したが、メリケンパークも、いつの間にか、いろんなものが詰め込まれて、手狭になっているように感じる。今後、都心のイベントスペースとして大空間を確保し、ハーバーランドからメリケンパークを一まとまりとして、円滑な動線を確保するよう整備を進めるのがよいだろう。大勢の人たちが集まるならば、メリケンパークから新港第1突堤に渡る橋も建設する必要があるのではないか。

 

(3)有料化の問題

 今回、有料会場が設けられたが、有料会場の来場者はわずか15万人で、一人500円として7500万円の収入にしかならず、これだと有料化の効果はあまり得られなかったというべきだ。有料化には賛成であるが、もっと低額にした方がよいだろう。そして、有料会場、無料会場と分けずに、すべての参加者(小学生以上)から100円程度の入場料をもらうようにするのがよいだろう。そうすれば、仮に来場者が300万人とすると3億円の収入となる。100円の入場料であれば、人々の抵抗も少ないだろう。今回導入した予約制も、ルミナリエの参加しやすさを損ない来場者数を減らした要因と思われるので、撤廃すべきだろう。

 

 

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神戸空港アクセスの検討状況について(神戸市長記者会見 2023.9.28)

 神戸市の久元喜造市長は28日の定例記者会見で、神戸空港中心市街地を結ぶ交通アクセスについて「商工会議所からの提言を受けて、(国際定期便が就航する)2030年を見据え、もう少し検討を加速する必要があると感じた」と述べた。

 

(神戸経済ニュース 2023/9/28)

 

 久元神戸市長が、昨年9月28日の定例記者会見において、神戸商工会議所から要望のある「神戸空港中心市街地を結ぶ交通アクセス」について、検討を加速する必要があると述べた。

 神戸商工会議所の要望とは、9月25日に神戸商工会議所会頭が神戸市長に手渡した「令和6年度 神戸市政に対する要望」のことであり、その中の神戸空港に関する部分を抜き出すと次の通りである。

 

神 戸 商 工 会 議 所 令和6年度 神戸市政に対する要望(抜粋)

 


3.神戸空港国際化に向けた対応


 昨年9月の関西3空港懇談会で合意を得て、神戸空港国際化に向けた道筋が示された。2025年国際チャーター便の運用開始、2030 年前後の国際定期便就航に向けて、ターミナル整備等受入態勢に万全を期し、運用開始時の稼働率を高めるとともに、長期的な視点をもって神戸空港を成長発展させるため、以下の施策に取り組まれたい。


(1)神戸空港の利用促進ならびに規制緩和に向けた働きかけ強化
  神戸空港国際化の認知度向上に向けたPR施策の展開
  神戸以西の需要獲得に向けた積極的なプロモーション活動
  2030年前後の国際定期便就航を見据えた国際チャーター便の誘致促進
  発着枠拡大・運用時間延長、ひいては規制撤廃に向けた働きかけ
  国際チャーター便・プライベートジェットの円滑な受入れに向けたCIQ体制充実の働きかけ強化


(2)空港ターミナルビルの整備強化
  新ターミナル整備の着実な推進
  2030年前後の国際定期便就航を見据えた新たなターミナル整備の早期検討
  カーボンニュートラルエアポート実現に向けた取り組み強化


(3)南北アクセス強化に向けた地下鉄導入の早期検討
  抜本的な南北アクセス強化策となる新神戸~三宮~神戸空港間を結ぶ地下鉄導入』について、神戸市が主体的に検討を進めること
  生田川右岸線道路改良工事、新神戸トンネル南伸事業の早期完了に向けた予算措置


《会員企業からの意見》
神戸空港の機能強化については、国際線定期就航に加えて国内線拡充など、中核空港としての整備を遅滞なく進めてほしい。また、空港へのアクセスも含めて、特に南北のアクセスとしての地下鉄整備や新神戸駅へのJR在来線接続などの鉄道ネットワークの強化も検討いただきたい。【建設業】


神戸空港について、機能強化・利便性の向上もさることながら、2025年には開港20周年を迎え、グローバルな玄関口となるべく、環境等にも配慮したシンボリックな存在となる必要がある。【エネルギー】


・MICE誘致と神戸空港国際定期便就航獲得に向けて、ポートアイランドと市街地のアクセス強化が求められるため、より充実した交通インフラを整備いただきたい。【ホテル業】

 

 

(令和5年9月 神 戸 商 工 会 議 所 令和6年度 神戸市政に対する要望(抜粋))

 

 この要望に対して神戸市長の定例記者会見で、記者から質問があったことに答えたということを報じたのが冒頭の記事である。

 その記者会見の議事録が神戸市のHP上で公開されているので、その内容を見てみよう。

 

記者: 月曜日に神戸商工会議所からの要望を受け取るというのがあったかと思うんですが、その中で、やはり2030年前後の神戸空港の国際線就航に向けて定期便が出るということについて、そのためのインフラ整備をどうするかということで、また引き続き、南北インフラと、市街地と神戸空港をいかに結ぶのかということについてもまた要望が上がっていたかと思うんですが、その後、何か神戸市のほうで検討が進んでいるようであればお伺いしたいと思います。果たして30年、定期便が就航し始める時点で完成している必要があるのかどうかということも含めて議論があるのではないかという気もしますが、その辺も含めてお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

 

久元市長: 現在のポートライナーの増強、あるいは短期的にバスの便を増便したりするということはあり得るかと思いますが、より抜本的に踏み込んだアクセスについては、まだ十分検討はできておりません。ただ、改めて、商工会議所からの提言を受けまして、2030年という時期を見据えて、神戸空港へのアクセスについては、もう少し検討を加速させる必要があるということは感じました。

 

記者: 基本的には、やっぱり、国際定期便が就航し始める時点で何らか新たなインフラができている必要があるというふうにお考えになっているということでしょうか。

久元市長: 新たなインフラというよりも、道路だけではなくて、ポートライナーの増強も含めて、鉄道輸送という面でも対応を考える必要があるということは感じております。

 

記者: バスの増便以外にも何らか必要だと。

 

久元市長: 何らかの対応がやはり必要ではないかというふうに思っておりまして、改めて、商工会議所からの提言を受けて、この辺の検討は加速する必要があるというふうに感じました。

 

(2023/9/28 神戸市長記者会見)

 

 

 久元市長の回答の要旨は次のようにまとめられるだろう。

(1)神戸空港のアクセスについては、鉄道輸送でも対応を考える必要がある。

(2)鉄道輸送の対応の中には、ポートライナーの増強が含まれる。

(3)商工会議所の提言を受けて、検討を加速する必要がある。

 

 ポートライナーの輸送力については、これまで、利用者をはじめ各所から限界を指摘する声があり、神戸空港規制緩和の動きが強まる状況の中、空港アクセスの増強を訴える声が随所から上がっていた。ところが、久元市長は、問題を真正面から捉えようとせず、①バス便の増発(混雑緩和を図るための共通乗車証社会実験)や、②時間をずらして利用する「時差利用」を呼び掛けたりと、本質から外れた対策しか講じようとしてこなかった。

 しかし、今年の1月12日の定例記者会見で、神戸空港都心部の三宮を結ぶ交通機関について、記者の質問に対して「鉄道輸送を考える必要が間違いなくある」との考えを示した。

 

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 神戸商工会議所からは、昨年度も「新神戸駅三宮駅と空港を結ぶ南北アクセス強化(鉄軌道整備)」の要望が出されている。今年度の要望では新神戸~三宮~神戸空港間を結ぶ地下鉄導入』となっており、少し内容が具体的になっている。

 

 久元市長は「商工会議所からの提言を受けまして、2030年という時期を見据えて、神戸空港へのアクセスについては、もう少し検討を加速させる必要がある」と述べており、その時期から考えると、できるかぎり早期に検討結果を発表する必要がある。そして、要望の趣旨に沿った検討結果が発表されることが期待される。

 

松本関経連会長が、神戸空港と新神戸駅を結ぶ路線整備を期待

 関西経済連合会の松本正義会長は、2025年の大阪・関西万博に合わせて国際チャーター便の就航が予定される神戸空港について、「(新幹線の)新神戸駅と空港が一つの路線で結ばれれば、西日本の利用者がさらに増えるだろう」と期待した。同空港は30年前後に、国際定期便の就航を目指している。

 神戸新聞社のインタビューに応じた。松本氏はインバウンド(訪日客)の着実な増加を念頭に「神戸空港が国際化すれば、兵庫県以西の観光に大いに寄与するだろう」と述べた。その際のポイントとして、空港と新幹線の円滑な乗り継ぎを実現する交通手段の必要性を挙げた。

 

神戸新聞 2024/1/5)

 

 新年1月5日の神戸新聞が、関西経済連合会の松本正義会長が、同社のインタビューで、神戸空港について「新神戸駅と空港が一つの路線で結ばれれば、西日本の利用者がさらに増えるだろう」と期待を示したと報じた。

 松本会長が言う「新神戸駅神戸空港を結ぶ一つの路線」とは、神戸商工会議所が予て神戸市に実現を要望している『新神戸~三宮~神戸空港間を結ぶ地下鉄導入』と同趣旨と思われる。

 この新神戸駅神戸空港を結ぶ路線(鉄道)については、様々な方面から要望が上がっている。

 

 

神 戸 商 工 会 議 所 令和6年度 神戸市政に対する要望

https://www.kobe-cci.or.jp/pdf/20230925_youbousho.pdf

 

 

神 戸 商 工 会 議 所 令和6年度 神戸市政に対する要望(抜粋)

 


3.神戸空港国際化に向けた対応


 昨年9月の関西3空港懇談会で合意を得て、神戸空港国際化に向けた道筋が示された。2025年国際チャーター便の運用開始、2030 年前後の国際定期便就航に向けて、ターミナル整備等受入態勢に万全を期し、運用開始時の稼働率を高めるとともに、長期的な視点をもって神戸空港を成長発展させるため、以下の施策に取り組まれたい。


(1)神戸空港の利用促進ならびに規制緩和に向けた働きかけ強化
  神戸空港国際化の認知度向上に向けたPR施策の展開
  神戸以西の需要獲得に向けた積極的なプロモーション活動
  2030年前後の国際定期便就航を見据えた国際チャーター便の誘致促進
  発着枠拡大・運用時間延長、ひいては規制撤廃に向けた働きかけ
  国際チャーター便・プライベートジェットの円滑な受入れに向けたCIQ体制充実の働きかけ強化


(2)空港ターミナルビルの整備強化
  新ターミナル整備の着実な推進
  2030年前後の国際定期便就航を見据えた新たなターミナル整備の早期検討
  カーボンニュートラルエアポート実現に向けた取り組み強化


(3)南北アクセス強化に向けた地下鉄導入の早期検討
  抜本的な南北アクセス強化策となる新神戸~三宮~神戸空港間を結ぶ地下鉄導入』について、神戸市が主体的に検討を進めること
  生田川右岸線道路改良工事、新神戸トンネル南伸事業の早期完了に向けた予算措置


《会員企業からの意見》
神戸空港の機能強化については、国際線定期就航に加えて国内線拡充など、中核空港としての整備を遅滞なく進めてほしい。また、空港へのアクセスも含めて、特に南北のアクセスとしての地下鉄整備や新神戸駅へのJR在来線接続などの鉄道ネットワークの強化も検討いただきたい。【建設業】


神戸空港について、機能強化・利便性の向上もさることながら、2025年には開港20周年を迎え、グローバルな玄関口となるべく、環境等にも配慮したシンボリックな存在となる必要がある。【エネルギー】


・MICE誘致と神戸空港国際定期便就航獲得に向けて、ポートアイランドと市街地のアクセス強化が求められるため、より充実した交通インフラを整備いただきたい。【ホテル業】

 

 

(令和5年9月 神 戸 商 工 会 議 所 令和6年度 神戸市政に対する要望(抜粋))

 

 

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神⼾空港〜三ノ宮・新神⼾連絡鉄道プロジェクト

神戸空港の機能強化と関西三空港連携】

~関西ルネサンスに向けた提言~
(一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)国土・未来プロジェクト研究会(2022年3月))

 

http://www.japic.org/information/assets_c/2022/03/20220331_16.pdf

 

 

 

 この路線を開設することの意義は次の3点にまとめられるだろう。

(1)新交通ポートライナーの輸送力の限界に対する輸送力の拡大

(2)神戸空港の後背地の拡大による需要拡大

(3)神戸市の都心の拠点性の向上

 

(1)については、特に詳しく論じるまでもないだろう。神戸空港規制緩和、国際化が今後急激に進展をしていくので、現在でも容量をオーバーしている神戸空港のアクセスの拡大を図ることが急務となっている。

(2)については、今回の松本会長の発言はこれに当たるが、神戸空港福岡空港を除くと、新幹線駅と最も近接する空港である。新神戸駅は、東海道・山陽新幹線九州新幹線の全列車が停車する重要な駅である。今後、神戸空港が国際化した場合に、この新幹線を使って神戸空港から海外に出かけることが確実に予想される。そして、今後さらに、神戸空港規制緩和、拡張につながっていくだろう。

(3)については、神戸という都市の利便性を高め、拠点性を高めることになるだろう。(2)については、極端に言うと旅客が神戸市を通過するだけだが、国内、海外から人が集まるのに便利であるという特性を活かし、神戸自身が人々が集まる目的地となり得るということだ。つまり、新幹線と空港という二つの長距離交通の結節点として、たとえば、企業の中枢管理部門や、コンベンションセンター、大型アリーナなどの集客施設を集積させることが可能となるだろう。

 

 今回の松本会長の発言は、(2)の神戸空港の需要拡大の観点からの話であるが、神戸市にとっては、むしろ(3)の方が重要である。

 新神戸駅神戸空港を結ぶだけであれば、バスでも良いように思われるかもしれないが、大切なのはその両交通機関を用いて、国内や世界から神戸に人を集めることだ。バスであれば、両者をダイレクトにつなぐだけであり波及効果は少ない。しかし、両者を鉄道で結ぶならば、新幹線と空港との2ウエイアクセスが可能な長大な沿線を生み出すことができる。このきわめて利便性の高い沿線に、先述の企業の中枢管理部門や、コンベンションセンター、大型アリーナなどの集客施設を集中的に立地させ、これらを自由に往来できるような高度の機能性を持つ空間を設けるべきであるというのが筆者の提案である。

 この新神戸・三宮・神戸空港を結ぶ路線は、神戸に新しいフロンティアをもたらすものだ。人口減少に悩まされている神戸に新たな上昇気流を巻き起こし、神戸復活の起爆剤となるはずだ。神戸にとって必ずや大きな利益をもたらすだろう。

 地下鉄との路線競合を指摘する声もあるが、交通拠点に複数の交通機関が接続することは当然のことだ。

 新神戸駅神戸空港とを結ぶ鉄道については、今回の発言だけではなく、すでに多くの要望が神戸市に出されている。神戸商工会議所の要望もその一つだ。都市開発で、これだけ多くの期待が寄せられている計画は少ないのではないだろうか。

 巨額の費用がかかるだろうが、沿線の開発効果も考え、是が非でも実現をすべきであると考える。

 

 

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神戸空港 新ターミナルの建設位置が変更

 神戸市は、神戸空港の2025年の国際チャーター便運用開始・国内線発着枠の拡大に向けて、国内・国際一体型の新ターミナル(サブターミナル)の建設を進めている。昨年(2023年)5月には事業概要が発表されたが、その建設予定地は現在のターミナルからかなり西側に位置し、ポートライナー神戸空港駅からも遠く、その間は無料のシャトルバスで結ぶこととなっていた。現在の神戸空港は、ポートライナー神戸空港駅に直結し、その利便性が高く評価されているため、新ターミナルのアクセスの悪さを指摘する声が各所から起きていた。

 

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 そのような中、新ターミナルの建設場所が、当初想定されていた、現ターミナルとの間に緑地を設けてその西側に建設するのではなく、緑地を設けず東側の道路に直接面する位置に変更されることが1月9日の神戸市の発表で明らかとなった。

 

神戸市:「神戸空港サブターミナル整備基本計画(改定)【案】」について意見を募集します (kobe.lg.jp)

 

 

 

 この変更について、最近明らかになった新ターミナル関連工事の入札資料等も見ながら考えてみよう。

 

(配置図 変更前)

 

 

 

(配置図 変更後)



 

(建物レイアウト 変更前)

 

 

(建物レイアウト 変更後)



 

 

 この新しい配置では、当初の計画と比べてポートライナー神戸空港駅までの距離が大幅に短縮されることになる。これは大きな改善である。これに歩行者用デッキやムービングウォークなどを併設すれば、シャトルバスを要さず、徒歩で往来ができるようになるだろう。

 しかし、神戸市の発表資料を見ると、「将来的にデッキにより接続」と記載され、バスのマークが表示されているので、歩行者用のデッキは将来的な計画であって、当面は当初の案のとおりシャトルバスで神戸空港駅と新ターミナルとを結ぶようだ。当初の計画と比べると大幅に距離が短縮されるものの、それでも、神戸空港駅からの動線は300メートルを超えるだろう。利用者が大きなスーツケースを引っ張りながら路上を移動するのはなかなか大変に違いない。天候の悪い時はなおさらだろう。であれば、さらに東側の、現空港ターミナルの北側あたりに設置できないものだろうか。その場所であれば、長大な歩行者用デッキ等の設置も不要となるし、シャトルバスも必要ないから、建設・管理コスト的にも合理的ではないだろうか。

 

 ところで、新ターミナルの当初の建物レイアウトと変更後のレイアウトは、基本的には同じであるように見える。新ターミナルへのアクセスは当初はシャトルバス一択だったので、北側に正面玄関を設け、それを起点とする動線であったと考えられる。すなわち、建物の北東側にロビーが設けられ、正面玄関から入って右手にチェックインカウンターがあり、そこを通過してそのまま南下して保安検査場へと進むことになる。

 しかし、新ターミナルの建物の建設地が新しい配置図のように変更されるならば、新ターミナルへのアクセスはポートライナー神戸空港駅からの徒歩でのアプローチが想定される。であるならば、建物の北側ではなく南側にメインの出入り口を設ける必要があるだろう。建物全体を神戸空港駅側へ寄せた際に、南側に出入り口を設ければ、それだけ動線を短縮することができるはずだ。にもかかわらず、北側から出入りすることになれば、その分無駄な動線になる。しかし、北側から入って南側へ進むという建物の構造を前提とすれば、やはり出入り口は北側に設けざるを得ない。

 

 なぜ、このようなちぐはぐなことになるのかというと、当初の基本計画に問題があるからだ。その基本計画に基づいて設計仕様を提示して事業者の公募を行った結果、採用されたのが当初の設計案であるが、その後、当初の仕様で示された場所から建設予定地が大幅に東へ移動されることになり、接道の条件も大きく変更となった。しかし、既に事業者の公募により建設案が決定してしまっており、建物の基本的な構造を変えることができないため、このような不整合が生じているのだと考えられる。

 

 そもそも、神戸空港島はまだまだ空地が多く、ほとんど白紙に計画を描くのに近い状況だと思われるのに、なぜ、神戸市は交通アクセスを十分考慮しない基本計画を立ててしまったのだろうか。バスハンドリングを前提とするにしても、神戸空港駅や現ターミナルと隣接させることは念頭になかったのだろうか。さらに言うなら、現ターミナルの西側の管制塔との間はまだまだ空地があるから、その空港のエプロンに面する部分を敷地にして、ボーディングブリッジ形式を採用することはできなかったのだろうか。

 

 

(当初の基本計画)

神戸空港サブターミナル整備基本計画(PDF:2,873KB)

subkihonkeikaku (kobe.lg.jp)

 

 

 あらためて、当初の基本計画を見てみると、新ターミナルのコンセプトは「海に浮かび、森を感じる。」とされ、次の3つのサブテーマが置かれている。

(1)神戸の歴史と伝統、山・海、豊かな自然との調和

(2)神戸らしさ香るおもてなし

(3)ユーザーフレンドリーで快適・質の高い旅の始まり

 

(神戸市「神戸空港サブターミナル整備基本計画」2022/12/15)

 

 そして、具体的な施設の概要として次の8点を掲げている。

 

1)自然・歴史・文化と調和する施設

2)おもてなしの心とにぎわいを大切にする空間

3)利用者に優しくストレスフリーで健康な旅 

4)地域木材の活用 カーボンニュートラルへの対応

5)災害対策拠点となる防災機能の確保

6)既存ターミナルとの円滑な移動を提供

7)新たな駐車場、バスやタクシーが利用しやすい乗降施設の整備

8)誰もがスムーズに移動できる施設

 

 この基本計画を見て感じることは、この新ターミナルは交通機関のターミナルなのだから、もっとアクセスや交通施設としての基本性能にこだわるべきではないのかということだ。ところが、それらとは関係のない、「自然、歴史、文化と調和する」、「地域木材の活用 カーボンニュートラルへの対応」、「災害対策拠点」などの項目が並び、極めつけは「海に浮かび、森を感じる。」である。この基本計画を作った人は、新ターミナルを何だと思っているのだろうか。まるで、交通施設であることを忘れて、見た目に美しい建築物を設計しようとしているようだ。空港のターミナルで「森を感じる」かどうかは主要な課題ではあり得ない。それよりも、いかにアクセスがしやすく、現ターミナルとも往来が容易で、風雨や寒暑から利用者を守り、わかりやすく、快適で機能的なターミナルを作ることが第一の目的だと思われる。ところが、この基本計画では、建物のデザインや眺望ばかりに気を奪われ、肝心のアクセスのことが閑却されている。

 その結果、当然のように、この基本計画は人々に強い違和感を与えることになり、最終段階で建設予定地の変更とアクセスの見直しを迫られ、結果的に立地条件と不整合なレイアウトという利便性に疑問のある新ターミナルが建設されることになってしまった。

 

 今回のようなことは、最近の神戸市で共通して現れている傾向ではないかという気がする。中心市街地の高さ制限や三宮クロススクエアなど、その施設のそもそもの目的や必ず押さえるべき物的な基本条件を考慮せず、デザインや景観などが最優先される傾向である。市長の嗜好なのか、人材の偏りなのか、いったい何がこれらの傾向を神戸市にもたらしているのだろうか。

 

摂州神戸海岸繁栄之図

 

 「摂州神戸海岸繁栄之図」は、大阪の浮世絵師、長谷川小信(このぶ)(1848-1941)による浮世絵画である。明治4年(1871年)の作とされている。

 市営地下鉄三宮駅構内の壁画にもなっているので、見覚えのある人もあるだろう。

 この絵の詳細な画像を、神戸市立博物館のHPから館内収蔵コレクションとして見ることができる。

 

摂州神戸海岸繁栄之図 - 神戸市立博物館 (kobecitymuseum.jp)

 

 一見して、色使いが鮮やかでとても美しい。そのタイトルのとおり、非常に賑わい、活況を呈している港の姿がいきいきと描かれている。

 浮世絵なので、写真ほどには細密ではないが、よくよく見てみると、案外に写実的で描写が細かく、様々なことがわかる。

 まず、全体の構図は、現在のメリケンパーク、ハーバーランドあたりから東側を見渡した神戸港の風景で、右手が浜側で、左手が山側となる。手前から奥に向かって陸地が緩やかな湾曲を描き、それが囲む内側に海が広がり、背後には屏風のような六甲連山の山々が連なっている。山の頂には名札が付され、左手から摩耶山、六甲山、有馬、岡本、甲山などの名前が読み取れる。

 山々を背景に、海岸線に沿うようにコロニアルスタイルの洋館がずらりと並んでいる。その中に、外国の領事館であろうか、オランダやイギリスの国旗が掲揚されているのが見える。

 海岸線の中央部に突堤が見え、メリケン波止場と思われる。その基部には、日の丸に紺色の横一文字が入った旗が掲げられた奉行所風の建物が見える。兵庫運上所の建物だろうか。現在の海岸通りの神戸合同庁舎の敷地の西南角に「神戸税関発祥の地」の石碑が立てられており、ここに神戸運上所があったことがわかっている。それは、絵の中では旭日旗が掲揚されているところに当たるだろうか。

 そのさらに右手を見ると、黒い屋根の上に「傳信機(?)」の名前がある。日本で電信が実用に使用されるようになったのは 明治2年(1869)の東京横浜間が最初で、その翌年の明治3年(1870年)に大阪神戸間に電信が開通した。現在、京橋の「神戸海軍操練所」の石碑の横に「神戸電信発祥の地」の石碑がある。明治維新鳥羽伏見の戦いは慶応4年1月(1868年)のことだが、1871年6月には上海長崎間の国際海底ケーブルが敷設され、1872年1月にはロンドン長崎間の国際電信サービスが始まっている。鳥羽伏見の戦いからわずか4年、現代では考えられないスピードだ。この絵は明治4年(1871年)の作だから、まだ国際通信は始まっていなかったかもしれない。

 海岸線に沿って街灯が並んでいるのが見える。日本で最初に西洋式ガス灯が灯されたのは1871年(明治4年)、大阪の造幣局周辺といわれている(Wikipedia「ガス灯」)ので、この絵の制作年代から考えると、石油ランプと思われる。

 海に目を転じると、何隻もの蒸気船が穏やかな湾内を波を蹴立てて進む様子が見え、船上には西洋人や弁髪を結った清国人らしき姿が見て取れる。その進む脇には、洋式の大型帆船や、大小の和船が停泊している。手前右手の和船はかなり大型のいわゆる千石船で、船上を檜垣で囲んだ内側に荷物を高く積み上げている。沖合には、何隻かの西洋の帆船が停泊している。また、和船の帆も見える。

 陸上部には、多くの人が行き来している姿が見える。にぎやかな様子は、まるでお祭りの雑踏のようだ。ステッキを持ち帽子をかぶった西洋の男性、日傘をさした西洋の女性、その脇には親子であろうか洋装の童女の姿も見える。遙か本国から遠く、当時必ずしも安全ともいいかねる航海を経て、まだ政情も安定しているとはいえない極東の日本に家族で渡ってきたのだろうか。

 一方、髷を結って笠を手にした日本人の旅人の姿も見える。この当時の日本人は洋装ではなく、皆まだ髷を結っていたようだ。遠方から大勢の人々が集まっていたのだろう。こちらも、女性を同伴しており、物見遊山風だ。歩く人々は、街灯を見上げたり、興味深そうに、あちらこちらと周囲の様子を眺める様子がよくわかる。日本の商人らしき人物が、子供をお供に、西洋人の家族となにやら話しをしている。弁髪の清国人も大勢見える。

 案外、女性の姿が多く、幼児を背負って歩く姿まで見える。幕末には攘夷運動が盛んで、外国人を恐れる風潮もあり、外国人への襲撃事件もあったと聞くが、やや意外の感がある。

 自転車に乗った西洋人、手押し車を押す者、人力車を引っ張る者、馬車を操る者、馬に乗って連れだって進む者、荷造りをする者、その脇で帳簿を持って清国人と話をしている者、荷物を載せた馬を引く者、実に多くの人々が港を囲み、行き交っている。

 新たに開かれた神戸港を中心に、世界中、日本中から大勢の人々が集まり、交流をしている、この絵はまさにその瞬間を描いたものだ。そして、これこそが、神戸の創成時の姿である。絵師は、その姿をいきいきと描きとっている。

 

 それから150年以上たった現在、港の姿や役割は大きく変わった。しかし、世界中、日本中から多くの人たちが集まり、出会い、新たな文化を生み出していく港。時代が変わっても、いつまでも、このような賑わう神戸であってほしい。ここに神戸という都市の原点と理想がある。神戸の人々は、この絵を見ることにより往事の繁栄する姿を偲び、思いを新たにするだろう。そして、また繁栄する神戸を未来の人々に託していくだろう。

 

神戸市人口150万人割れについての新聞報道

 本格的な少子高齢化時代に突入する中、政令指定都市の二極化が進んでいる。神戸市の推計人口は10月1日時点で149万9887人となり、22年ぶりに150万人を下回った。京都市でも減少傾向が続く一方、大阪市は増加。福岡市も増え続けており、地域ごとの一極集中がうかがえる。有識者は持続可能なまちづくりに向け、経済活動の拠点形成が必要だとしている

(以下 略)

 

産経新聞 2023/12/3)

 

 神戸市の人口が150万人を割り込んだことは、世間から高い関心を集めている。人々はこの事実を、久元市長が言うように我が国の「人口減少社会」による当然の成り行きとしてではなく、この記事が記すように「政令指定都市の二極化」として捉えている。神戸市や京都市が人口減少が続くのに対して、大阪市、福岡市は人口が増え続けており、地域ごとの一極集中が進んでいると捉えられているのだ。

 上記の記事では、神戸市の人口減少は、単にニュータウンの高齢化現象だけではなく、「若い世代が結婚や住宅購入などのタイミングで、職場に近い大阪市阪神圏、住宅コストが抑えられる隣接の兵庫県明石市などに流出している影響」と報じている。

 この記事は、神戸市の人口減少の要因を的確に捉えていると考える。つまり、神戸市の人口減少は、神戸市内に若い世代が働ける場所が少ないため、卒業後、必然的に東京や大阪で就職することになり、就職時や、結婚、住宅購入の機会に職場に近い大阪市阪神圏、住宅コストが抑えられる隣接の明石市などに流出していると分析をしている。

 神戸市の人口減少の原因は、結局は、少子高齢化による自然減を補うだけの社会増、つまり人口流入が得られないところにある。それが意味するところは、神戸市に若い人々が世帯を営むのに十分な賃金が得られる仕事がないということだ。都市が吸引力を失い人口減少が進む状態、これこそ「都市の衰退」と言うべきものだ。

 

 記事では、有識者の見方として角野幸博・関西学院大教授(都市計画)のコメントが掲載されている。

角野氏は「人口減少時代に直面する中、単純に住宅を建設すれば問題が解決するわけではない」として「持続可能なまちづくりでは住む場だけでなく、働く場を創出しなければならない。子育て支援などの政策も大事だが、そもそも財源がなければ成り立たないため、経済活動の拠点づくりが必要不可欠だ」と強調した。

(同記事)

 

 つまり、働く場を創出しなければ、都市は持続可能ではないということだ。働く場がないのに、人口だけ増えるということは、基本的にありえない。

 さらに、同教授は次のように言う。

また、神戸市への通勤圏は主に隣接市などに限られるが、大阪市への通勤圏はより広範囲にわたるとの見方を示し「地域の主要都市として周囲の自治体を支える機能があるはずだが、神戸市の場合、近年は経済活動の拠点となる大阪市への依存が目立つ」と述べ、次のように訴えた。

政令市は都道府県並みの権限を生かし、独自のまちづくりができるはず。都市として個性や魅力をどう創出していくかという戦略が今後、必要になるだろう」

(同記事)

 

 大都市には、その都市だけではなく、周囲の自治体の人口を支えるだけの働く場を創出する役割があるが、神戸市は、その役割の大阪への依存が生じている、政令市は与えられた都道府県並みの権限を生かし、その機能を果たすべきであると指摘している。

 この指摘は的確であると考える。

 

 神戸市は大都市なのであるから、大都市型の産業を振興する必要がある。それは、圏域の中心都市、遠距離交通の中心地として、広域の需要を満たす商業施設、企業の中枢管理機能を持つ本社や支社、コンベンション施設や大型アリーナなどの集客施設の整備、集積等である。そしてそれを支える交通インフラの整備である。

 

 神戸市の本来の課題は、かつて明治から昭和初期にそうであったように、神戸市が圏域の中心都市に返り咲くことだ。この課題に、久元市長は正しく取り組んでいるだろうか。

 

 神戸市のHPに、久元市長が神戸市の人口が150万人を割ったことを発表した10月12日の定例記者会見の議事録が公表されているが、その内容を見てみよう。

  神戸市:定例会見 2023年10月12日 (kobe.lg.jp)

 

 久元市長は、「神戸市の人口が150万人を割った」という表現を避け、「今月10月1日時点の推計人口は149万9,887人」になったと単に事実だけを述べている。神戸市の人口減少の原因として、「少子高齢化の進展によります自然減の傾向が継続しているということが大きな要因」と説明し、「全国的な傾向と軌を一にしている」と述べた。

 これに対して、記者から人口が150万人を切ったということの受け止めについての質問があり、市長は、「これは予想していたこと」、「全国的な人口の減少傾向と神戸市の人口減少傾向とは、これはほとんど軌を一にしている」、「全国と神戸の人口動向を比較すると(略)傾向は非常に似ています」、「この問題というのは神戸に特有の問題ではなくて、全国に共通した我が国が抱えている問題」と問題は神戸だけではないことを強調し、問題の矮小化と責任回避に努めている。

 

 久元市長はその後の質疑応答の中で、「今求められていることは、この人口減少幅を神戸市としてもいかに抑制をするかということ」、「人口減少時代にふさわしいまちづくりをどう進めるのかということが大事」、「神戸が再び人口増に転換するという可能性はほとんどない」、「我が国の人口が増えない中で(略)神戸市が独自に人口増という目標をたてることは、これは非現実的」、「我が国全体の人口傾向であるわけですから、その現実というものを真正面から受け止める、(略)それに対してどう的確に対応するかという発想に立つということが基本姿勢ですし、大事なことではないか」と人口減少を容認し、人口増加のための取り組みに後ろ向きと捉えられる発言を重ねている。

 

 そして、これらの発言の根拠となる現状認識として次のように述べている。

20の政令指定都市の中で、人口が増えているのは8市ですね。この8市のうち、8市は東京圏の市と、それから圏域の中心市、福岡市、大阪市仙台市名古屋市などですね。これらが圏域の中心市です。圏域の中心市以外の、東京圏ではない、地方圏の圏域の中心市ではない市は全て人口が減っています。神戸もそうですし、関西圏でも大阪だけが増えていて、京都、神戸、堺は人口が減少しているということですね。ですから、まず全国的傾向として、東京圏への一極集中をどのように我が国全体の地域振興策として抑えていくのかということと、それから圏域内の中心都市への集中傾向というのをどう考えるのか。やはり圏域以外の都市も、独自の地域活性化策をしっかりやっていかなければいけないということを感じます。

 

 

 これらの発言を見ると、現状追認と諦め、責任回避に終始し、都市作りのビジョンもなければ、気概も感じられない。久元市長は、その本来の課題に取り組むべき責任を放棄しているように見える。

 市長が「神戸が再び人口増に転換するという可能性はほとんどない」と言ってしまえば、誰もが神戸市の人口増加はありえないと思うだろう。人口を増加させることを目標にすらしていないのだから、人口増加のための施策が行われることもありえない。

 久元市長は、神戸市が圏域の中心都市でないから人口減少していると述べているが、その「現実を真正面から受け入れる」という態度は、一種の責任放棄である。または、何をやっても勝ち目がないと考えているなら、「敗北主義」と言うべきであろう。

 三大都市圏の一角を占めながら、神戸市を圏域中心都市でない「一地方都市」と同列に位置づけ、一生懸命、「地域活性化策」、「村おこしの特産品づくり」に励んでいる。その姿は、かつて流行った地方の「一村一品運動」に取り組んだ、どこかの地方の知事のようだ。久元市長は本来的に、大都市の市長ではないのだ。かつて自分が身を置いた、地方の県の県知事がその原型なのではないだろうか。