ポートライナー新線計画(補論)

 神戸空港、三宮、新神戸駅を結ぶ、神戸の中央軸となる新交通機関については、筆者はポートライナーの新線を建設することを提案している。

 その理由は、ポートライナーが交通手段として、以下のような優れた特徴を持っているからである。

(1)無人運転による運行コストの安さ

(2)運行時間、運転本数の弾力性が高い

(3)建設コストの安さ

(4)交通渋滞がないこと

(5)最小曲線半径が小さく、急勾配での走行が可能

(6)ホームと車両の間に段差がなくバリアフリーである

 

 交通機関は合理性が貫徹するものである。したがって、どのように性能がすぐれていたとしても、それが経済的に見合わないものであれば、選択されることがないのが原則である。

 神戸市が神戸空港と都心・三宮を結ぶ地下鉄新線の整備を検討することが今年の1月1日付けの神戸新聞で報じられた。

 神戸市が神戸空港と都心・三宮を結ぶ地下鉄新線の整備を検討していることが同市への取材で分かった。国際化が決まった同空港は、2030年前後の国際定期便の就航で国内外の利用客増が見込まれるほか、周辺の臨海部への企業進出によって開発が加速することも想定。都市部に近く便利な国際空港としてアクセス強化が必須とみて、23年に需要調査に乗り出す。

(略)

 市は23年に始める需要調査で新線のルートも検討する。都心部から空港までは直線距離で約8キロだが、再開発が進むウオーターフロントを抜けて、ポーアイ西側の大学群を通るルートや、企業進出が期待されるポーアイの中央部を通るルートなどが想定される。

 一方、新線の検討では建設費が課題となる。三宮周辺で運行している地下鉄よりも深い位置に建設する必要があり、市営地下鉄海岸線の総事業費約2400億円を上回る見込みという

 

神戸新聞 2023/1/1)

 

 そこでは、様々な可能性が示されているが、仮に地下鉄を建設するとすれば、総事業費は市営地下鉄海岸線の約2400億円を上回る見込みだということだ。一般に、鉄道の新線の構想が次々と生まれるものの、なかなか実現しないのは、この事業費の捻出が難しいからだ。これほど費用がかかるのであれば、国の補助なども得られるとしても中々実現は難しいように思われる。しかも、この新聞で報じられたプランは、神戸空港と三宮を結ぶだけで、神戸商工会議所が要望しているような神戸空港新神戸駅を直結するものではない。やはり、もっと少ない費用で、神戸空港新神戸の直結プランを実現できないものだろうか。

 そこで、ポートライナーの新線建設プランであるが、新線は、地下路線ではなく、現在のポートライナーと同様に地上を高架で走行することを想定している。一部、例外的に、本土からポートアイランドに渡る部分では沈埋トンネルを通ることとしているので、その取り付け部分については地下路線を構築する必要がある。沈埋トンネルを通すのは、入出港する大型客船の通行に支障を来さないためである。こうした海底トンネルは、すでに港島トンネルが供用されているので、技術的に問題はないだろう。それ以外はすべて地上部を高架で走行する案である。

 ルートは、三宮から南側に向かう部分は現在ポートライナーが走行している2本東に当たる筋を想定している。その理由は、現在のポートライナーの路線にさらに往復の路線を加えることはできないと考えられるからだ。他の道路について検討すると、西側のフラワーロードに通すとなれば、都市の景観上の問題があり採用しがたく、1本東の筋だと道路幅員が狭く、もう2本東の筋であれば、なんとか高架を通すことができそうな幅員がある。

 このポートライナーから2本東にあたるルートを通り、新神戸方面には2号線を東へ進むルートを設定するとすれば、新三宮駅は、現在のJR三ノ宮駅から見て東に偏り、乗り継ぎが不便になるのではないかという問題が生じる。この問題を解決する方法があるだろうか。それは、いったん西側へ進み、ミント神戸前あたりに新三宮駅を設置する方法が考えられる。そして、そこから新神戸駅に向けて東方向へ走行させる。これは、いわゆるスイッチバック方式というものだ。このようにすれば、現在のJR三ノ宮駅ポートライナー三宮駅、阪急、阪神、地下鉄の各三宮駅からの距離を小さくすることができるだろう。

 本土側からポートアイランドには沈埋トンネルで渡り、そこからはまた地上に戻り、ポートライナーのループ部分の東側、すなわち、中ふ頭駅北埠頭駅を結ぶ部分に沿って南下するが、この部分は元々単線部分であるものを複線化する。単線を複線に変えるという方法は、2006年の神戸空港への延伸工事の際に中公園駅から市民広場駅までの部分で実際に行われた。これにより、工事費を大幅に軽減することができる。さらに、そのまま南へ進み、ループ部分が尽きるその先には新たに複線の区間を構築し、再び、計算センター駅の東側突き当たり部分で本線に接続し、現在の本線を通って神戸空港まで至るルートとなる。

 神戸空港線の新設と中公園から市民広場駅までの間の複線化工事の費用は590億円であったという。その後の資材費の高騰などの影響もあるだろうが、おおよそこれと同規模の工事と考えられるから、これが一応の目安になるだろう。いずれにしても、地下鉄による新線建設よりは、はるかに安くなることは間違いないだろう。

 

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 しかし、巷ではポートライナーによる新線建設構想は余り人気がないようだ。やはり、地下鉄を押す声が多いように見受けられる。中には、海岸線を延長する案なども出ている。

 ポートライナーの人気がないのは、次の理由のようだ。

(1)車両が小さく圧迫感がある

(2)走行速度が遅い

(3)輸送力が小さい

 

 (1)については、ポートライナーの車両を地下鉄海岸線の車両と比較すると、1両の車両の長さは半分程度と短いが、天井高や車内幅には大きな差はない。小さな車体でも、もっとデザインや内装を工夫すれば、圧迫感を軽減できるのではないだろうか。

 (2)については、ポートライナーは最高速度時速60㎞で、三宮から神戸空港の路線延長を約8キロメートルとすると、途中で一切停車しないで走行すると約8分で到達することができる。したがって、所要時間については、どれだけ停車場所を設けるかに依るところが大きい。また、カーブの部分では大きく減速することになるから、どれだけ直線で高速走行が可能なルートを設定するかも重要な要素だ。それ以上に、どれぐらいの頻度で走行させるのかという点が実際の所要時間に大きな影響を与える。たとえば、15分間隔で運行するのと、5分間隔で運行するのでは単純に10分も結果が違ってくる。したがって、この全体10キロメートルのルートでそれ以上の高速性能を確保する必要は少ないのではないか。新交通システム(AGT)では、現在、高速型も開発されており、時速120㎞で走行できる性能の車両もあるから、このような車両を導入することも考えられるが、車両の性能よりも高速走行できるルートの構築の方が優先だと考える。

 (3)については、ポートライナーは6両編成では300人の定員である。一方、海岸線は4両編成で362人の定員である。もちろん、地下鉄山手線は6両編成の808名の定員であり、巨大な輸送力を持っている。しかし、輸送力は1編成の定員だけでは決まらない。問題は同じ時間内にどれだけの人員を運ぶことができるかであり、もしポートライナーが、同じ時間内で3編成を運行するなら、地下鉄1編成の輸送人員を超えることができる。将来の輸送力に心配があるようなら、将来的に1編成を8両(400人)でも12両(600人)にでも増やせるように、駅舎を設計しておけばよいだろう。

 

 また、大阪や京都からの直通を求める声もあるが、これも事業費の面から難しいだろう。神戸は東西から多くの鉄道路線が集まっており、このすべてについて神戸空港への乗り入れをすることは難しいだろう。たとえば、仮に阪急、阪神のみが乗り入れるとしても、JRが乗り入れしなければ、全体のうちの一部にしか直通の利益が及ばないことになる。東側から直通させるとしても、西側からも乗り入れができなければ西側方面からの利用者には利益が及ばない。これでは、かえって東西方向にきわめて効率的な神戸の鉄道網に混乱をきたすだけかもしれない。ここは、三宮駅でいったんすべてが乗り換える方が、円滑ではないかと思われる。その代わりに、新神戸神戸空港の直通運転の方こそ重視するべきだ。神戸空港は元々が極めてコンパクトに設計されているので、他の大空港のように、空港内の移動の必要が少ない。ポートライナーは、通常のアクセス線という位置づけではなく、「空港内シャトル便」や「水平エレベータ」相当と捉えるのが妥当だ。

 

 以上のように考えると、ポートライナーであることのデメリットは、決定的なものではなく、メリットの方が大きいと考えられる。何よりも、建設費の点で、実現可能性が一番高いと思われる。最小曲線半径が小さく、急勾配にも対応できるポートライナーは神戸のような起伏に富んだコンパクトな街には理想的なのだ。

 

 

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