前回の議論において、神戸が「夜が早い都市」から脱却し、ナイトタイムエコノミーを活性化させるためには、単発の夜間コンテンツ拡充以上に、「神戸市への宿泊客(滞在人口)を増やすこと」が先決であるという結論に達した。需要(宿泊者)のないところに供給(夜の賑わい)は定着しないからだ。
では、大阪の「日帰り圏」という既存の図式を打破し、福岡や札幌に匹敵する規模へと宿泊客を増やし、「夜が遅い都市」へと変貌させるためにはどうすべきか。その具体的な方策を考えてみた。
1.「関西旅行」の概念の明瞭化とプロモーションの転換
遠方の東日本や九州南部、あるいはインバウンドの旅行者にとって、通常、関西観光は都道府県単位ではなく「京阪神という同一都市生活圏(同一周遊圏)」を舞台にした一体的な旅行である。それらの地域にとって、やはり関西というのは遠方であるので、移動のコストも時間もかかる。したがって、旅行を計画する際には、2泊以上の複数日の日程を組んで、圏内の複数の観光地を巡るのが合理的だと考えられる。このことは、関西に住む我々が、北海道や東北、海外旅行をするときのことを考えると容易に想像がつく。そうであるとするならば、旅行計画の最大のポイントは「どこを旅のベース(宿泊地)に選ぶか」という拠点選択にある。
神戸市民は通常、大阪や京都に宿泊せず、日帰りで楽しんでいる。「大阪・京都は日帰りで十分。神戸を拠点にすれば関西全域が快適に回れる」という事実を強力なキャッチフレーズとして打ち出し、神戸を関西周遊のハブとして再定義する。
具体的には、神戸の観光キャンペーンでは、神戸の観光名所だけでなく、周辺の姫路、大阪、京都など観光名所もカタログのラインナップとしてPRするべきだということである。
神戸の周囲には日帰り観光が可能な観光資源が目白押しである。京都、奈良などの古都、姫路城や彦根城、琵琶湖・竹生島等の国宝、USJ、天橋立、宮島(厳島神社)と、日本三景のうち二つまでが日帰り観光可能だ。神戸はこれらの観光地から中心地的な場所に位置している。(つまり、どこに行くにも便利な場所である。)
30分:大阪、明石、有馬(日本三名泉)
60分:京都、滋賀、姫路、淡路、岡山*
90分:奈良、福知山、広島*、名古屋*
120分:鳴門(鳴門のうず潮、大塚国際美術館)、舞鶴、岩国(錦帯橋)*
150分:天橋立(日本三景)
180分:宮島(日本三景)** は新幹線利用の場合
たとえば、3泊4日であると、初日は神戸の六甲山、2日目は京都(清水寺や二条城、市街地など)または大阪のUSJ、3日目は姫路(姫路城)、明石(魚の棚)、4日目は大阪や神戸の市街地 というようなルートが考えられる。日程が長くなれば、それだけ周遊の範囲は拡大する。

(日本交通株式会社 高速バス の広告用リーフレット)
今後、神戸発着のバス路線、観光バスツアーの育成、クルーズ船の就航を図ると、相乗効果的に神戸の観光の拠点性が高まっていくだろう。
2. 交通結節点の拡充と「手ぶら観光」の徹底追及
三宮エリアのバスタ(西日本最大級のバスターミナル)整備と並行し、京都駅などで実績のある「クロスタ(Crosta)」のような手ぶら観光のための荷物一時預かり・宿泊施設への配送サービスを三宮に誘致・整備し、宿泊を伴う周遊観光の最大のネックである「荷物の負担」と「移動の煩雑さ」を、インフラの力で根本から解消する。 これにより、到着した瞬間から重い荷物から解放され、身軽に街歩きや夜の街へと出かけられる環境を構築し、滞在のストレスをゼロにする。つまり、三宮到着から、旅行者の周遊が始まることになる。
3. 関西のラスト・ステーション:「大規模土産物センター」の建設
旅行者は旅の最後に「まとめてお土産を買う」という行動傾向を持っている。地方の巨大空港(新千歳空港、那覇空港など)が圧倒的な規模で土産物等を集積させている仕組みを三宮に導入する。
具体的には、関西圏全域の土産物がすべて揃う拠点をコンセプトに整備する。現在でも、新神戸駅では、他地域銘菓(伊勢の赤福や京都の八つ橋など)が販売されているように、三宮のバスタに「関西全域の銘品・土産物がすべて揃う巨大な土産物センター」を建設する。
これにより、「手ぶら観光」と連動させ、旅の最後にバスタで関西全域のお土産をまとめて購入し、自宅へ直接配送する利便性を提供する。関西圏を離れる際に最後に立ち寄りたい場所を目指す。
4. 圧倒的な「宿泊環境の良さ」の訴求:朝夕の散歩と朝食カフェ
ハード面の利便性に加え、大都市・大阪や観光地・京都の喧騒にはない、神戸ならではの「滞在の豊かさ」をアピールする。
コンパクトな地形に洗練された街並みが広がる神戸では、夜のライトアップされた旧居留地やウォーターフロント、朝の爽やかな海風や六甲山の緑を感じながらの散歩そのものが極上のリゾート体験となる。
神戸では、西欧料理や中華料理、インド料理、トルコ料理など、世界の料理が味わえる。神戸ビーフ、日本酒、瀬戸内海の海の幸、洋菓子、和菓子、お好み焼きやたこ焼き、明石焼きなどの庶民の味まで、すべてがそろっている神戸は、旅行者を受け入れるには最適である。 古くから根付く洋食・コーヒーや紅茶、パンの文化を活かし、「神戸での朝食」をアピールすれば、神戸宿泊の理由が強化されるだろう。
5.まとめ
これらの施策が有機的に連動し、長期的な都市計画として結実したとき、神戸の宿泊客は顕著に増加すると考えられる。それによる滞在人口の増加こそが、結果として街に夜遅くまでの賑わいをもたらし、神戸を真の「夜が遅い都市」へと生まれ変わらせる道である。
将来的な目標としては、この分野の先行都市である福岡市や札幌市のレベルにまで宿泊客数を増やしたい。それは、現状の倍増を意味する。そのためには、まだまだ多くのホテルを誘致しなければならない。
この目標は過大だと思う人があるかもしれない。しかし、次のように考えるならば、必ずしも過大とは思わない。関西圏は国内最大の観光資源集中エリアなので、宿泊需要は北海道、九州をはるかに超える。それが現在の大阪の巨大な宿泊需要を生んでいる。大阪の需要は優に神戸の5倍(注)を超える。関西圏全体への巨大な観光、宿泊需要を想定するならば、その一部を分担するとして、倍増は不思議でない。むしろ、到達点から考えなければ、行動変容を促す論考になり得ない。
こうした目標のもと、民間事業者とも方向性を共有し、着実に取り組みを進めるなら、長期的には実現は可能であると考える。
これまでは、神戸単独で観光誘致をしようとしてきたが、神戸に観光施設をつくることではなく、関西圏全域を観光する、そのための利便性を追求するべきだ。進めるべきは「神戸からの関西旅行」である。この取り組みのキャッチフレーズとして、「始まりはいつも神戸から」、というのはどうだろうか。
これまでも、一般に、「京都で学び、大阪で働き、神戸に住む」が関西人のライフスタイルの理想とされてきた。その「関西スタイルの体験」を旅のテーマにすれば、観光客の理解が得られやすいのではないか。
ターゲットとしては、関西から遠方の北海道、東北、北関東、インバウンドの東アジアなどが、神戸空港の就航先との親和性もあり、有望だと考えられる。それは、神戸空港の飛躍にも大きく寄与するだろう。
これは、夢物語だろうか。筆者はそのようには思わない。なぜなら、神戸はもともと、そういう都市として選択、設計されているからだ。すなわち、西日本全体の世界への玄関として長年君臨してきたのだから。市内の行政、事業者が発想を転換して、取り組めば、神戸は関西の観光拠点の一角を確実に占めるようになる。そのパイは巨大だから、神戸は札幌や福岡に負けない国際観光都市に変貌するはずだ。
(注)延べ宿泊人数
神戸市 総数 7,757千人 うち、外国人:1,407千人(2025年 神戸市延べ宿泊者数)
大阪市 総数 50,534千人 うち、外国人:23,888千人(大阪府地域別 延べ宿泊者数 2024年)












