神戸空港 新ターミナルの建設位置が変更

 神戸市は、神戸空港の2025年の国際チャーター便運用開始・国内線発着枠の拡大に向けて、国内・国際一体型の新ターミナル(サブターミナル)の建設を進めている。昨年(2023年)5月には事業概要が発表されたが、その建設予定地は現在のターミナルからかなり西側に位置し、ポートライナー神戸空港駅からも遠く、その間は無料のシャトルバスで結ぶこととなっていた。現在の神戸空港は、ポートライナー神戸空港駅に直結し、その利便性が高く評価されているため、新ターミナルのアクセスの悪さを指摘する声が各所から起きていた。

 

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 そのような中、新ターミナルの建設場所が、当初想定されていた、現ターミナルとの間に緑地を設けてその西側に建設するのではなく、緑地を設けず東側の道路に直接面する位置に変更されることが1月9日の神戸市の発表で明らかとなった。

 

神戸市:「神戸空港サブターミナル整備基本計画(改定)【案】」について意見を募集します (kobe.lg.jp)

 

 

 

 この変更について、最近明らかになった新ターミナル関連工事の入札資料等も見ながら考えてみよう。

 

(配置図 変更前)

 

 

 

(配置図 変更後)



 

(建物レイアウト 変更前)

 

 

(建物レイアウト 変更後)



 

 

 この新しい配置では、当初の計画と比べてポートライナー神戸空港駅までの距離が大幅に短縮されることになる。これは大きな改善である。これに歩行者用デッキやムービングウォークなどを併設すれば、シャトルバスを要さず、徒歩で往来ができるようになるだろう。

 しかし、神戸市の発表資料を見ると、「将来的にデッキにより接続」と記載され、バスのマークが表示されているので、歩行者用のデッキは将来的な計画であって、当面は当初の案のとおりシャトルバスで神戸空港駅と新ターミナルとを結ぶようだ。当初の計画と比べると大幅に距離が短縮されるものの、それでも、神戸空港駅からの動線は300メートルを超えるだろう。利用者が大きなスーツケースを引っ張りながら路上を移動するのはなかなか大変に違いない。天候の悪い時はなおさらだろう。であれば、さらに東側の、現空港ターミナルの北側あたりに設置できないものだろうか。その場所であれば、長大な歩行者用デッキ等の設置も不要となるし、シャトルバスも必要ないから、建設・管理コスト的にも合理的ではないだろうか。

 

 ところで、新ターミナルの当初の建物レイアウトと変更後のレイアウトは、基本的には同じであるように見える。新ターミナルへのアクセスは当初はシャトルバス一択だったので、北側に正面玄関を設け、それを起点とする動線であったと考えられる。すなわち、建物の北東側にロビーが設けられ、正面玄関から入って右手にチェックインカウンターがあり、そこを通過してそのまま南下して保安検査場へと進むことになる。

 しかし、新ターミナルの建物の建設地が新しい配置図のように変更されるならば、新ターミナルへのアクセスはポートライナー神戸空港駅からの徒歩でのアプローチが想定される。であるならば、建物の北側ではなく南側にメインの出入り口を設ける必要があるだろう。建物全体を神戸空港駅側へ寄せた際に、南側に出入り口を設ければ、それだけ動線を短縮することができるはずだ。にもかかわらず、北側から出入りすることになれば、その分無駄な動線になる。しかし、北側から入って南側へ進むという建物の構造を前提とすれば、やはり出入り口は北側に設けざるを得ない。

 

 なぜ、このようなちぐはぐなことになるのかというと、当初の基本計画に問題があるからだ。その基本計画に基づいて設計仕様を提示して事業者の公募を行った結果、採用されたのが当初の設計案であるが、その後、当初の仕様で示された場所から建設予定地が大幅に東へ移動されることになり、接道の条件も大きく変更となった。しかし、既に事業者の公募により建設案が決定してしまっており、建物の基本的な構造を変えることができないため、このような不整合が生じているのだと考えられる。

 

 そもそも、神戸空港島はまだまだ空地が多く、ほとんど白紙に計画を描くのに近い状況だと思われるのに、なぜ、神戸市は交通アクセスを十分考慮しない基本計画を立ててしまったのだろうか。バスハンドリングを前提とするにしても、神戸空港駅や現ターミナルと隣接させることは念頭になかったのだろうか。さらに言うなら、現ターミナルの西側の管制塔との間はまだまだ空地があるから、その空港のエプロンに面する部分を敷地にして、ボーディングブリッジ形式を採用することはできなかったのだろうか。

 

 

(当初の基本計画)

神戸空港サブターミナル整備基本計画(PDF:2,873KB)

subkihonkeikaku (kobe.lg.jp)

 

 

 あらためて、当初の基本計画を見てみると、新ターミナルのコンセプトは「海に浮かび、森を感じる。」とされ、次の3つのサブテーマが置かれている。

(1)神戸の歴史と伝統、山・海、豊かな自然との調和

(2)神戸らしさ香るおもてなし

(3)ユーザーフレンドリーで快適・質の高い旅の始まり

 

(神戸市「神戸空港サブターミナル整備基本計画」2022/12/15)

 

 そして、具体的な施設の概要として次の8点を掲げている。

 

1)自然・歴史・文化と調和する施設

2)おもてなしの心とにぎわいを大切にする空間

3)利用者に優しくストレスフリーで健康な旅 

4)地域木材の活用 カーボンニュートラルへの対応

5)災害対策拠点となる防災機能の確保

6)既存ターミナルとの円滑な移動を提供

7)新たな駐車場、バスやタクシーが利用しやすい乗降施設の整備

8)誰もがスムーズに移動できる施設

 

 この基本計画を見て感じることは、この新ターミナルは交通機関のターミナルなのだから、もっとアクセスや交通施設としての基本性能にこだわるべきではないのかということだ。ところが、それらとは関係のない、「自然、歴史、文化と調和する」、「地域木材の活用 カーボンニュートラルへの対応」、「災害対策拠点」などの項目が並び、極めつけは「海に浮かび、森を感じる。」である。この基本計画を作った人は、新ターミナルを何だと思っているのだろうか。まるで、交通施設であることを忘れて、見た目に美しい建築物を設計しようとしているようだ。空港のターミナルで「森を感じる」かどうかは主要な課題ではあり得ない。それよりも、いかにアクセスがしやすく、現ターミナルとも往来が容易で、風雨や寒暑から利用者を守り、わかりやすく、快適で機能的なターミナルを作ることが第一の目的だと思われる。ところが、この基本計画では、建物のデザインや眺望ばかりに気を奪われ、肝心のアクセスのことが閑却されている。

 その結果、当然のように、この基本計画は人々に強い違和感を与えることになり、最終段階で建設予定地の変更とアクセスの見直しを迫られ、結果的に立地条件と不整合なレイアウトという利便性に疑問のある新ターミナルが建設されることになってしまった。

 

 今回のようなことは、最近の神戸市で共通して現れている傾向ではないかという気がする。中心市街地の高さ制限や三宮クロススクエアなど、その施設のそもそもの目的や必ず押さえるべき物的な基本条件を考慮せず、デザインや景観などが最優先される傾向である。市長の嗜好なのか、人材の偏りなのか、いったい何がこれらの傾向を神戸市にもたらしているのだろうか。