神戸市人口150万人割れについての新聞報道

 本格的な少子高齢化時代に突入する中、政令指定都市の二極化が進んでいる。神戸市の推計人口は10月1日時点で149万9887人となり、22年ぶりに150万人を下回った。京都市でも減少傾向が続く一方、大阪市は増加。福岡市も増え続けており、地域ごとの一極集中がうかがえる。有識者は持続可能なまちづくりに向け、経済活動の拠点形成が必要だとしている

(以下 略)

 

産経新聞 2023/12/3)

 

 神戸市の人口が150万人を割り込んだことは、世間から高い関心を集めている。人々はこの事実を、久元市長が言うように我が国の「人口減少社会」による当然の成り行きとしてではなく、この記事が記すように「政令指定都市の二極化」として捉えている。神戸市や京都市が人口減少が続くのに対して、大阪市、福岡市は人口が増え続けており、地域ごとの一極集中が進んでいると捉えられているのだ。

 上記の記事では、神戸市の人口減少は、単にニュータウンの高齢化現象だけではなく、「若い世代が結婚や住宅購入などのタイミングで、職場に近い大阪市阪神圏、住宅コストが抑えられる隣接の兵庫県明石市などに流出している影響」と報じている。

 この記事は、神戸市の人口減少の要因を的確に捉えていると考える。つまり、神戸市の人口減少は、神戸市内に若い世代が働ける場所が少ないため、卒業後、必然的に東京や大阪で就職することになり、就職時や、結婚、住宅購入の機会に職場に近い大阪市阪神圏、住宅コストが抑えられる隣接の明石市などに流出していると分析をしている。

 神戸市の人口減少の原因は、結局は、少子高齢化による自然減を補うだけの社会増、つまり人口流入が得られないところにある。それが意味するところは、神戸市に若い人々が世帯を営むのに十分な賃金が得られる仕事がないということだ。都市が吸引力を失い人口減少が進む状態、これこそ「都市の衰退」と言うべきものだ。

 

 記事では、有識者の見方として角野幸博・関西学院大教授(都市計画)のコメントが掲載されている。

角野氏は「人口減少時代に直面する中、単純に住宅を建設すれば問題が解決するわけではない」として「持続可能なまちづくりでは住む場だけでなく、働く場を創出しなければならない。子育て支援などの政策も大事だが、そもそも財源がなければ成り立たないため、経済活動の拠点づくりが必要不可欠だ」と強調した。

(同記事)

 

 つまり、働く場を創出しなければ、都市は持続可能ではないということだ。働く場がないのに、人口だけ増えるということは、基本的にありえない。

 さらに、同教授は次のように言う。

また、神戸市への通勤圏は主に隣接市などに限られるが、大阪市への通勤圏はより広範囲にわたるとの見方を示し「地域の主要都市として周囲の自治体を支える機能があるはずだが、神戸市の場合、近年は経済活動の拠点となる大阪市への依存が目立つ」と述べ、次のように訴えた。

政令市は都道府県並みの権限を生かし、独自のまちづくりができるはず。都市として個性や魅力をどう創出していくかという戦略が今後、必要になるだろう」

(同記事)

 

 大都市には、その都市だけではなく、周囲の自治体の人口を支えるだけの働く場を創出する役割があるが、神戸市は、その役割の大阪への依存が生じている、政令市は与えられた都道府県並みの権限を生かし、その機能を果たすべきであると指摘している。

 この指摘は的確であると考える。

 

 神戸市は大都市なのであるから、大都市型の産業を振興する必要がある。それは、圏域の中心都市、遠距離交通の中心地として、広域の需要を満たす商業施設、企業の中枢管理機能を持つ本社や支社、コンベンション施設や大型アリーナなどの集客施設の整備、集積等である。そしてそれを支える交通インフラの整備である。

 

 神戸市の本来の課題は、かつて明治から昭和初期にそうであったように、神戸市が圏域の中心都市に返り咲くことだ。この課題に、久元市長は正しく取り組んでいるだろうか。

 

 神戸市のHPに、久元市長が神戸市の人口が150万人を割ったことを発表した10月12日の定例記者会見の議事録が公表されているが、その内容を見てみよう。

  神戸市:定例会見 2023年10月12日 (kobe.lg.jp)

 

 久元市長は、「神戸市の人口が150万人を割った」という表現を避け、「今月10月1日時点の推計人口は149万9,887人」になったと単に事実だけを述べている。神戸市の人口減少の原因として、「少子高齢化の進展によります自然減の傾向が継続しているということが大きな要因」と説明し、「全国的な傾向と軌を一にしている」と述べた。

 これに対して、記者から人口が150万人を切ったということの受け止めについての質問があり、市長は、「これは予想していたこと」、「全国的な人口の減少傾向と神戸市の人口減少傾向とは、これはほとんど軌を一にしている」、「全国と神戸の人口動向を比較すると(略)傾向は非常に似ています」、「この問題というのは神戸に特有の問題ではなくて、全国に共通した我が国が抱えている問題」と問題は神戸だけではないことを強調し、問題の矮小化と責任回避に努めている。

 

 久元市長はその後の質疑応答の中で、「今求められていることは、この人口減少幅を神戸市としてもいかに抑制をするかということ」、「人口減少時代にふさわしいまちづくりをどう進めるのかということが大事」、「神戸が再び人口増に転換するという可能性はほとんどない」、「我が国の人口が増えない中で(略)神戸市が独自に人口増という目標をたてることは、これは非現実的」、「我が国全体の人口傾向であるわけですから、その現実というものを真正面から受け止める、(略)それに対してどう的確に対応するかという発想に立つということが基本姿勢ですし、大事なことではないか」と人口減少を容認し、人口増加のための取り組みに後ろ向きと捉えられる発言を重ねている。

 

 そして、これらの発言の根拠となる現状認識として次のように述べている。

20の政令指定都市の中で、人口が増えているのは8市ですね。この8市のうち、8市は東京圏の市と、それから圏域の中心市、福岡市、大阪市仙台市名古屋市などですね。これらが圏域の中心市です。圏域の中心市以外の、東京圏ではない、地方圏の圏域の中心市ではない市は全て人口が減っています。神戸もそうですし、関西圏でも大阪だけが増えていて、京都、神戸、堺は人口が減少しているということですね。ですから、まず全国的傾向として、東京圏への一極集中をどのように我が国全体の地域振興策として抑えていくのかということと、それから圏域内の中心都市への集中傾向というのをどう考えるのか。やはり圏域以外の都市も、独自の地域活性化策をしっかりやっていかなければいけないということを感じます。

 

 

 これらの発言を見ると、現状追認と諦め、責任回避に終始し、都市作りのビジョンもなければ、気概も感じられない。久元市長は、その本来の課題に取り組むべき責任を放棄しているように見える。

 市長が「神戸が再び人口増に転換するという可能性はほとんどない」と言ってしまえば、誰もが神戸市の人口増加はありえないと思うだろう。人口を増加させることを目標にすらしていないのだから、人口増加のための施策が行われることもありえない。

 久元市長は、神戸市が圏域の中心都市でないから人口減少していると述べているが、その「現実を真正面から受け入れる」という態度は、一種の責任放棄である。または、何をやっても勝ち目がないと考えているなら、「敗北主義」と言うべきであろう。

 三大都市圏の一角を占めながら、神戸市を圏域中心都市でない「一地方都市」と同列に位置づけ、一生懸命、「地域活性化策」、「村おこしの特産品づくり」に励んでいる。その姿は、かつて流行った地方の「一村一品運動」に取り組んだ、どこかの地方の知事のようだ。久元市長は本来的に、大都市の市長ではないのだ。かつて自分が身を置いた、地方の県の県知事がその原型なのではないだろうか。