関西3空港懇談会(2022.1.13)の開催結果について

 関西、大阪(伊丹)、神戸空港の役割を官民で話し合う「関西3空港懇談会」(座長=松本正義関西経済連合会会長)が13日、大阪市内であった。神戸空港については、次回会合までに神戸市と3空港を運営する関西エアポートが共同で、国際化に向けたあり方を検討する方針を確認した。

(以下略)

神戸新聞 2022/1/13)

 

 1月13日、関西3空港懇談会が開催された。

 この件について、主要各紙が報じているが、今回の懇談会の結果について整理してみよう。

 各紙で報じているところを総合すると、次のとおりである。

(1)「関空の発着枠拡大」や「神戸空港の国際化」の方向性を再確認

(2)神戸市と関西エアポート神戸空港の国際化に向けた整備の方向性をまとめ、次回の会合で報告する

 

 以前にはほとんど「禁句」とさえなっていた「神戸空港の国際化」について、関西の政界、財界の主要な人物が集まる関西3空港懇談会で、その方針を改めて確認し、神戸市と関西エアポート神戸空港の国際化に向けた整備の方向性をまとめ、次回の会合で報告すると合意されたことの意義は非常に大きい。つまり、公に、神戸空港の国際化の議論ができるようになったということだ。

 では、「整備の方向性をまとめる」とは、どういうことを意味しているのだろうか。

 

 懇談会の座長を務める関経連の松本会長は、懇談会後の記者会見で、「万博もあり、関西の活性化もあり、次回(の懇談会)にも神戸空港の国際化をどうするかということは真剣に話し合う必要があり、空港へのアクセスも含めて神戸市から話があると思っている」、「国際空港だからターミナルを作る必要もあるし、西の方のカスタマーのポテンシャル(可能性)を大きくするため」の施策などが必要と指摘。「神戸市も重要なポイントをクリアしないといけない」と強調したと報じられている(神戸経済ニュース 2022/1/13)。 

 関経連の松本会長が求めていることは、(1)空港アクセスの能力強化と(2)国際線ターミナルの設置、(3)西の方のカスタマーポテンシャルの拡大の3点と思われる。これらの3つの重要なポイントについてクリアしなければならないと述べている。つまり、こうした需要ポイントを含めて、方向性をまとめ、次回に報告するということだ。

 

 この点について、読売新聞も次のように報じている。

(略)

 神戸空港は神戸市が施設を所有し、関西エアが運営している。現在は国内線のみに対応しており、国際線の就航には旅客ターミナルの改修が必要になる。空港に乗り入れるポートライナーや周辺の道路は混雑が目立ち、スムーズな交通手段の確保も課題となっている。

 市と関西エアは、これらの課題への対応策をまとめる

(略)

(読売新聞 2022/1/13(抜粋))

 

 

 関経連の松本会長は、神戸空港の国際化を中期的な取組に取り上げた2019年5月の3空港懇談会後にも、同様の積極的な発言をしており、神戸市の「背中を押す」姿勢は一貫している。したがって、これらの発言は、決して思いつきやリップサービスではなく、神戸空港の国際化が関西経済界の重要な課題になっているということを表していると考えられる。そしてそれを求めているのは、おそらく関西エアポートであると考える。関西エアポートは、関西国際空港の運営に加えて神戸空港の国際化により西日本全域における航空需要の拡大と独占を狙っており、関経連はそれを代弁しているのだと推測する。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 その後、新型コロナウイルス禍の発生など、環境が激変し、神戸空港の国際化については、関西エアポート側からも先送りの意向が示されていた。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

 現在、新型コロナウイルスを克服できたわけではないが、全く先が見通せない状況からは抜け出せた感があり、コロナ収束後に向けて議論をする環境が整ってきたと理解してよいだろう。神戸市は、この機会を逃さず、神戸空港国際化の具体的な姿を提示する必要がある。

 

 その中心的役割を担う神戸市の久元市長は、懇談会終了後の取材で、今回の懇談会で、神戸市が空港運営会社の関西エアポートと共同で国際化を含む神戸空港のあり方について検討したうえで、次回の同懇談会で報告することで合意したことについて認め、「スピード感を持ってやりたい」と話したと報じられている(神戸経済ニュース 2022/1/13)。

 久元氏は、神戸空港が国際空港になった際の姿をどう想定するかについては、「滑走路を延長することはない」、「ターミナルは関西エアポートとの役割で、同社と相談をしながらだが、国際線ターミナルが必要という認識は持っている」と話したということだ。

 つまり、滑走路の延長は考えないが、国際線ターミナルについては必要と考えているようだ。

 2500メートル級の滑走路は短いように感じられるが、2500メートルでも、一部の長距離便を除き、国際便を就航させることは十分可能だから、現在の航空機の技術進歩や機材の小型化の趨勢も考え合わせると、優先順位は高くないだろう。

 

 

 では、神戸市が提示すべき神戸空港の国際化の姿はどのようなものだろうか。

 それは、西日本全域から国際航空需要を集め、西日本全域へ送り出す真の意味の「関西国際空港」である。これまでも当ブログでたびたび述べてきたが、関西国際空港は建設場所決定を巡る紆余曲折があり、関西の中心部から大きく外れた南に偏った立地となってしまった。その結果、東京、名古屋、京阪神、広島、福岡を貫く国土軸から大きく南に外れた位置になってしまった。関西3空港問題の混迷はこの立地場所の選定から始まる。すなわち、現関西国際空港の新幹線への接続は新大阪駅が最寄り駅となるが、そのアクセスに1時間半近くの時間が必要であり、西日本からアクセスする場合には、大阪湾を半周しなければ到達できない。その不便さから利用が伸びず、本来、西日本全域を後背地とする真の意味での関西国際空港であるべきところが、大阪や和歌山など、関西地方南部の「関西地方の国際空港」にしかなれていない。関西空港へのアクセスの改善については、たびたびプランは打ち上げられるが、なかなか実現は容易ではないのが現実だ。それを補完するのが神戸空港に期待されている役割である。

 神戸には、新幹線、在来線の大動脈が集まり、今後、西日本最大級のバスターミナルも建設される。それらとアクセスができれば、まさに西日本全域から利便性のよい国際空港が実現するだろう。

 国際線のターミナルは建設する方向性がすでに示されている。あとは、神戸空港と新幹線、在来線、バスターミナルとのアクセスをどうするかが課題である。

 神戸市には、今、大きな期待を寄せられている。その役割は、振り返ると、神戸市が明治時代以降、この国で果たしてきた役割である。この機を逃さず、大きな絵姿を描いてほしい。この大事業は神戸市だけで行えることではなく、経済界全体の参画が必要だ。その期待に応えられるかどうかに神戸市の未来がかかっている。

 次回の開催時期について、松本会長は「夏前には」との見方を示している。スピード感のある対応が必要だ。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

(資 料)第11回関西3空港懇談会 報告(全文)(2022/1/13 関西3空港懇談会)

 

2022 年1月 13 日 関西3空港懇談会

 

第11回関西3空港懇談会 報告

 

1.基本方針
・ワクチン接種の進捗など、新型コロナウイルス感染症の収束に向けた対応が進む
一方で、新たな変異株の発生等により、関西3空港は依然として厳しい状況が続
いており、とりわけ国際線を主力とする関西空港は顕著である。
・新型コロナの収束により、入国規制が解除されるタイミング等を捉え、速やかに
航空ネットワークや需要を回復させ、併せて、2025 年までに、万全な空港受入体
制を整えることにより、国家プロジェクトとして、関西一体で取り組む「2025 年
大阪・関西万博」の成功を期すとともに、さらなる関西の成長へと繋げていかな
ければならない。
・こうした共通認識のもと、まずは、今年度末に関西観光本部において策定が予定
されている「関西ツーリズムグランドデザイン 2025」などをベースに、迅速に需
要回復を図るための取組を準備し、関西の官民が一丸となって、進めることを確
認した。
・また、第9回懇談会取りまとめで合意した取組である関西空港の発着容量の拡張
に関する検討、神戸空港のあり方の検討などを着実に進めていくことを改めて確
認した。


2.各空港に関する報告と取組方向
(1)関西空港
・T1リノベーション、災害対応力強化などの取組について、関西エアポートより進
捗状況の報告がなされた。
・コロナ収束後を見据え、国際拠点空港として、一層の競争力向上と機能強化を図
っていく必要性を確認した。
・新型コロナ発生前の 2019 年実績等を踏まえ、2025 年万博開催時とその後の成長
に適切に対応できるよう、国土交通省に対し、現行空域における最大発着回数の
検証を依頼した。
・調査委員会による将来航空需要の予測については、現時点においても新型コロナ
の動向等、見極めが困難であることから、次回(第 12 回)懇談会への報告に向け
て精査を継続することとした。


(2)伊丹空港
関西エアポート社から定時運航率向上の取組状況等について報告がなされた。
・引き続き、都市型空港として、地域社会との共生を基本に、環境改善と利用者の
利便性向上に努めることとした。


(3)神戸空港
関西エアポート社及び神戸市から国内線発着枠・運用時間の拡大に対応した取組
やアクセス改善の取組について報告がなされた。
・今後、新型コロナの動向等も踏まえつつ、関空・伊丹を補完する観点からの国際
化を含む空港機能のあり方について、関係団体の協力の下、関西エアポート及び
神戸市による検討を深化させ、次回(第 12 回)懇談会で報告を受けることとし
た。


以上

 

我が国の労働生産性について

 最近、我が国の労働生産性が、他の先進諸国と比べて低いということが話題に上る。

 2019年の日本の就業者1人当たり労働生産性は、81,183ドル(824万
円)であったとのことだ。OECD加盟37カ国の中でみると、26位にあたる。これは、韓国(24位 やニュージーランドとほぼ同水準で、米国と比較すると、6割程度に相当するそうだ。

(「労働生産性の国際比較2020」公益財団法人日本生産性本部

ⅠOECD諸国の労働生産性の国際比較 (jpc-net.jp)

 

 一国の労働生産性は、次のように計算される。

 

 労働生産性 =GDP(付加価値) ÷ 総就業者数

        または、

 労働生産性 =GDP(付加価値) ÷ 総就業時間数(就業者数 × 労働時間の総和)  

 

 つまり、ここでいう「労働生産性」とはGDPの関数ということになる。では、この「労働生産性」の意味するものは何だろうか。

 「労働生産性」と言うならば、本来、一人あたり、または1時間あたりにどれだけの量の生産を行うことができるかという「能力」を示すものではないかと思われるが、この定義では、「能力」ではなく、「稼働実績」を表していることになる。例えば、ある生産設備の、物理的な性能としては1日に1000台生産する能力があるが、実際は600台しか生産していないような場合、本来の意味での生産能力は1日1000台と表すべきところを、600台と表示をしているようなものだ。とすると、同一の設備の生産能力が、その時々で増えもすれば減りもすることになるだろう。この労働生産性も、同様に、同じ能力を持つ人々が、その時々の状況で、上昇したり下降したりすることがあるだろう。こうした類の数字を「労働生産性」と、あたかも物理的な絶対的な能力のような言葉を使うのは誤解を招く元ではないか。

 

 具体的に想像してみよう。企業は従業員を雇って事業を営んでいるが、あまり景気がよくない。客が来店することは少なく、たまに来店しても財布のひもは固く、商品はなかなか売れず、とてもフル稼働といえない状態が続いている。これは、まさに労働生産性が低い状態ということができるだろう。これとは逆に、景気がよくなり、商品がどんどん売れるようになれば、従業員は忙しく、売り上げもどんどん上がる。これは、労働生産性が高い状態といえるだろう。

 企業が事業を行うためには、どのような営業状態でも必ず、一定の従業員が必要だ。本社の総務や経理のスタッフは、景気の良し悪しに関係なく一定数必要だろう。営業のスタッフにしても、客入りが悪くても、一定の数を配置しなければならないだろう。現実の企業では不景気が続くと、リストラを行い、正社員を減らし、パートや高齢者などの低賃金の従業員に置き換えていく。その結果、人件費は抑制されるだろうが、その分需要も増えず、商品はますます売れず、総体としてGDPは低迷し、我が国の労働生産性は伸び悩む状態が続くことになる。

 これが我が国の労働生産性が低いということの現実の姿であろう。つまりは、労働生産性の低さは、不景気を別の言葉で言い換えたものだ。

 

 では、我が国の労働生産性を上げるためには、どうすればよいのだろうか。企業の従業員が頑張れば労働生産性が上がるのだろうか。社会全体の需要が不足している中では、1社の売り上げの増加は他社の売り上げの減少になり、社会全体の売り上げが増加するわけではなく、結果として、社会全体の労働生産性は変わらないということになる。以上のように考えるならば、社会全体の労働生産性を上昇させるには、景気がよくなって、社会全体の需要が増加することが必要であることがわかる。

 

 「労働生産性が低い」と言われると、その犯人捜しで、我が国の様々な特殊要因を探し出し、これが無駄、あれが無駄という議論になりがちだ。一時もてはやされた「働き方改革」もその類だろう。その帰結として、果てしない改善、改革運動を招き、それがさらに従業員を疲弊させることになる。しかし、そうした運動が、労働生産性の向上に結びつくことはありえない。なぜならば、それらの運動は社会全体の需要の増加、売り上げの増加に結びつくものではないからだ。労働生産性は労働者の能力や仕事の仕方の良否を一概に表すものではなく、稼働実績を表すものであると考えるなら、本来の能力を発揮させるには社会全体の需要、購買力に裏付けられた「有効需要」が増えなければならない。

 我が国の労働生産性が低いのは、従業員の責任だろうか。景気の良し悪しは経済政策の問題であって、一従業員の責任ではあり得ない。にもかかわらず、従業員を責め立てて、絶え間ない改善、改革を掲げ、ますますの勤勉を求めることは筋違いというものだろう。また、労働生産性が低いと言ってしまえば、従業員の賃金にも引き下げの圧力となるだろう。労働生産性が低いということが流布される背景には、おそらくそのような意図があると考えられる。

 

 経済のしくみをもっと、わかりやすく、一般の人に説明をすることが必要だ。現在のマスコミは、その任を果たしているだろうか。誤った理解に基づき、あらぬ方向の議論に導き、人々を苦しめる側に立っていないだろうか。

 

 

(補足)

 労働生産性には、労働者一人あたりの労働生産性と労働時間1時間あたりの労働生産性とがあるが、労働者一人あたりとした場合に、パートタイマーや労働日数の少ない高齢労働者も一人としてカウントするので、他国がフルタイムを基本とする実情があるならば、労働生産性はより低めにランクされてしまう。実際、労働者一人あたりではOECD37カ国中26位となるが、労働時間1時間あたりで計算すると同37カ国中21位となり、両者で結果に差が出るようだ。労働生産性という場合には、それがどういう計算で導かれるのかに注意をする必要がある。

 

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」と神戸

 今年度のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放映が、1月9日から始まった。

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」

 

 今年度のドラマは、平安末から鎌倉前期を舞台に、源平合戦鎌倉幕府が誕生する過程で繰り広げられる権力の座を巡る駆け引きを、その勝利者となり北条得宗家の祖となった北条義時を主人公に描くものと紹介されている。脚本は、「新撰組!」、「真田丸」に続く、大河ドラマ第3作目となる三谷幸喜である。出演は、主役の北条義時小栗旬源頼朝大泉洋源義経菅田将暉など、当代の人気俳優が名を連ねている。そして、対立する平家の総帥 平清盛には松平健後白河法皇西田敏行と、豪華なラインナップであり、脚本は三谷幸喜であることも合わせて、今後が非常に楽しみだ。初回から、大勢の登場人物が、それぞれ明確なキャラクターを与えられ、生き生きと動き始め、テンポよく、スリリングな展開は期待を裏切らないものだった。

 その第1回の最後の部分で、平清盛が大和田の泊を背景に登場し、ナレーションでは「大和田の泊、後の神戸」に湊を広げ、宋との交易で莫大な富を得、絶頂期を迎えていたと紹介されていた。

 今年の大河ドラマの前半は、源氏と平家の相克を描くことになると思われる。その一方の主役ともいうべき平家は福原(現在の神戸)、大和田の泊に拠点を構え、史上空前の繁栄を謳歌した。今後、ドラマにおいても、平清盛及び福原が重要な舞台として登場すると期待されるところであるが、第1回から早速、紹介され、しかも「後の神戸」とまで紹介してくれた。

 2012年の大河ドラマ平清盛」は、主役の平清盛松山ケンイチ、そのライバルとなる源義朝玉木宏後白河法皇松田翔太という布陣であったが、ドラマの人気は今ひとつ盛り上がりに欠け、兵庫県知事が「画面が汚い」とクレームをつけたことが話題となった。その知事のクレームのせいか視聴率は振るわず、当時の史上最低を記録し、地元神戸では観光ブームを期待していたが、拍子抜けとなったことがあった。今年度の大河ドラマの前半部では、平清盛、福原が重要な役割を与えられると予想される。大河ドラマは、視聴者が格段に多く、社会、経済面でも大きな影響力を持っている。この絶好の機会を兵庫県や神戸市はどのように考えているのだろう。ちゃんと、地元をアピールすることを考えているのだろうか。筆者は、平清盛を、偉大な政治家、神戸を開いた恩人として、その業績、神戸に残された足跡を大いに顕彰すべきと考えている。ぜひこの機会を逃さず、平清盛と神戸、兵庫との結びつきをアピールし、観光振興や街作りに活かしてもらいたい。

 

三宮と梅田の比較

 梅田に行くと、巨大なビルが林立し、三宮の規模と比べるとその差に圧倒されてしまう。おまけに梅田北地区にはまだまだ広大な土地が残されており、これでは神戸はとても太刀打ちできないと感じてしまう。

 三宮と梅田の地図を同じ縮尺にして並列し、比較してみた。

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 両地区を同一の縮尺で並べてみると、その地区全体の広さは、それほど違いがあるようには見えない。街区の区割りにしても、両者でそれほど広さに違いはないように思われる。違いは1街区あたりのビルの数であろうか。三宮は街区が細分化されているのに対して、梅田は1街区に概ね1ビルと、土地の集約化が進んでいる。

 梅田北の広大な土地にしても、神戸には、みなとの森公園や新港地区が周辺に存在しており、開発余地でも決して見劣りはしない。むしろ、神戸の方が広いくらいだ。

 

 そこで、神戸が進むべき方向性を考えてみよう。

 狭小な敷地のビルについて、土地の集約化を図り、ビルの大型化を目指すべきだろう。それは、1フロアあたりの面積の拡大によってビルの機能性の向上、高規格化につながり、都市の景観向上にも役立つはずだ。そして、それらのビルに大型のテナントを誘致し、企業の中枢機能を集め、都市全体の機能性の向上、都市のグレードの向上を目指すべきだ。大型のテナントを誘致しようにも、それを受け入れる器がなければ話にならない。だから、ビルの大型化、そのための大きな敷地が必要だ。

 現在、三宮東地区では、再開発ビルの再編成により西日本最大級のバスターミナルの建設を進めている。これを嚆矢として、同様にビルの集約化を計画的に進めていくべきだろう。さらに、三宮センター街でも、再開発ビルの再整備の動きがあるという。

 兵庫県内最大規模の商店街「三宮センター街」(神戸市中央区)にある商業施設の所有者らが、ビルの建て替えを含めた再整備を検討していることが2日、分かった。阪神・淡路大震災後では初。神戸市が再整備の具体化を支援し、2~3年で基本構想の策定を目指す。三宮では駅周辺やウオーターフロントの再整備が本格化しており、施設の老朽化が進むセンター街でも機運が高まりそうだ。

神戸新聞 2022/01/03)

 

 そのためには、まず、大きなビジョンを描くべきだ。神戸という都市の本来の立ち位置を再確認しよう。その際、「小さくともきらりと光る地方都市」という自画像を修正すべきだ。かつての五大都市で、戦前には日本第3の都市にまで発展した歴史を思いだそう。現在の神戸に欠けているものは、都市の将来像、ビジョンだ。東京や大阪、地方のブロック中心都市にはかなわないと勝手に思い込んで、その競争の場に立たず、脇道に潜り込もうとする姿勢を改めるべきだ。そのビジョンを示すのは市長の責任だ。

スタートアップは神戸経済活性化の切り札となるのか

 「神戸経済ニュース」が久元神戸市長に対して、神戸市が取り組んでいるスタートアップ支援事業の現状認識や今後の展開についてインタビューを行った記事を掲載している。(2021/12/28 神戸経済ニュース)

 

久元神戸市長に聞く スタートアップ支援「やりかた変える必要」「自由な発想で起業を」 - 神戸経済ニュース (kobekeizai.jp)

 

 その中で、「最大の成果は自治体によるスタートアップという施策を、日本でけん引したこと」と神戸市の取り組みを評価をしながらも、結果としては、スタートアップの実績は東京に集中し、大阪や京都にも大きく水をあけられている現状を認め、現在のやり方を変える必要があると述べている。

 その上で、今後もスタートアップを支援していく必要性を述べ、神戸市独自の取り組みとして、「都市の隣にある豊かな自然は、東京にはない」利点を活かした『六甲山上スマートシティ構想』と『神戸里山・農村地域活性化ビジョン』を挙げた。

 

 久元市長は起業による神戸経済の活性化を考えているようである。これについては、どう考えるべきであろうか。

 

 神戸市がスタートアップ支援の施策を行った結果、どれだけの費用対効果、実績があったのかが明らかではない。まず、こうした情報をもっと明らかにしてほしいところだ。その上で、次のように考える。

 

 地元の大学や企業などで、すでに存在する起業の動きに対して支援をし、育てていくことは当然やっていくべきだろう。しかし、縁もゆかりもないところで、やみくもに支援を行うことは適切ではないだろう。というのは、おそらく、成功の道筋が見えているような事業については、すでに民間レベルで企業化が進んでいるだろうと考えられるからである。わざわざ、自治体の公募で集まってくるような案件は、おそらくは、そもそも事業化が難しい案件であろう。だから支援をしても、一定期間は存続するかもしれないが、これが爆発的な成功を収めて、将来的に大きな経済的効果を及ぼすようなことはほとんど期待できないのではないだろうか。仮にその中から、大きな成功を収める企業が生まれたとしても、その確率は極めて低いだろう。その低い確率の中から成功する企業を生み出すためには、相当の巨額の資金を必要とするだろう。したがって、神戸市のような一地方都市が、こうした効率の悪い事業にのめり込むのは、あまり妥当ではないように思われる。

 神戸市の独自の展開として、六甲山や里山を起業の舞台にと考えているようだが、今から企業を立ち上げようとする者が、そのような、のどかな所でのんびりとしていられるだろうか、なかなかその姿が想像できない。仮にあったとしても、それは市場性のある業態なのかどうか疑わしい。

 起業ができたとしても、当初の雇用はせいぜい数名であろう。だとすると、仮に100社が起業に成功したとしても、せいぜい数百人の仕事が生まれるに過ぎないから、経済の活性化を目的とするならば非常に効率が悪いと思われる。

 以上の理由から、スタートアップは神戸経済活性化の切り札とはならないだろうと考える。

 神戸経済の活性化を考えるならば、一から立ち上げるのではなく、すでに企業として存在している事業所の新しい事業展開の場として神戸を選んでもらうのがよいと考える。一から企業を立ち上げるより、既存の企業の中から新しい事業展開をしてもらうことの方が、はるかに簡単なはずだ。つまり、起業よりも企業誘致の方に重点をおくべきだ。たとえば、東京圏の企業が西日本全域への事業展開を考えるときに、これまで地方に分散していた事業所を統合するときに、交通条件に優れ、住宅、教育環境の整った神戸を選んでもらうのがよいと考える。特に、外国人学校やコミュニティがあることから、外資系企業の進出先には適しているのではないか。

 企業の進出先に選んでもらうと、その雇用は、大きなものでは1事業所で数千人の雇用を伴うことがある。

 

 最近の神戸市に共通する傾向だが、本来、取り組むべき課題が進まない場合に、その本来の筋で努力をするのではなく、安易に新機軸を持ち出してきて、それに飛びつくことが多いように思われる。六甲山や里山の活用や、スタートアップもその流れかもしれない。本来、取り組むべき課題を解決するために、必要な条件が何かを考え、それの実現に向けて施策を総合的に行い、それを研ぎ澄ませていくところを、目新しい施策を次々と中途半端に打ち出し、成果に結びつかない。六甲山や里山や、下町に対して「神戸」の名を冠し、外から見える神戸の姿をあいまいにさせ、先進的で垢抜けた都市のイメージを毀損し、結果的に、周辺都市に大きく遅れをとっているのではないだろうか。

 東京や大阪、名古屋などと比べて、かなわないと思うのか、主戦場を避けて、競合相手がいないところにばかり活路を見いだそうとしているように見える。では、その競合相手がいないところで頑張って、競合相手に負けないだけの成果が出せるのだろうか。その先は、袋小路ではないのだろうか。そうした本道を外れた施策を8年間もやっている。これでは神戸と周辺都市の差は開くばかりだろう。

 

 

神戸ウォーターフロント アートプロジェクトが始動 / 神戸ポートタワープロジェクションマッピング

 神戸ポートタワーのリニューアルにあたり、神戸ウォーターフロントエリア全体の魅力を発信するため、2022年1月から2023年春にかけて神戸の街とアートを掛け合わせた「神戸ウォーターフロント アートプロジェクト」を実施します。
 本プロジェクトの幕開けとして、神戸ポートタワーをアートのキャンバスに見立てたプロジェクションマッピングを1月14日(金曜)より開催します。

(2021/12/16 神戸市 記者提供資料)

 

神戸市:神戸ウォーターフロント アートプロジェクトが始動 神戸ポートタワープロジェクションマッピング 1月14日(金曜)より開始~高さは最大80m!港や鯉、アジサイなど神戸ゆかりのモチーフがキャンバスに見立てたタワーを彩る~ (kobe.lg.jp)

 

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 ポートタワーの大規模な改修工事が行われることになり、タワーは、しばらくの間、営業を休止、周囲が仮設の足場に覆われることになった。その足場を活かしてプロジェクションマッピングを行うことを、神戸市が発表した。これを「神戸ウォーターフロント アートプロジェクト」と銘打ち、2022年1月から2023年春までイベントを行うとのことだ。

 イベントの期間は1年以上の長期にわたるので、プロジェクションマッピングは、何回かの模様替えを予定しているようで、まず第一弾として、「One and Only」と題して、市民の花 アジサイ、フィッシュ・ダンスの鯉、港や街並みなどの神戸ならではのシーンや、縦長の投影面を活かした高さ70mの巨大なマネキンが出現するなど、次々とデザインが変わるコンテンツとなるそうだ。

 投影は、1回あたり6分間で、19:00~22:00の時間帯で、毎時0分・30分の2回投影し、一日7回実施するとのことだ。

 

 これはなかなか楽しみなプロジェクトだ。

 ポートタワーは、周囲に高い建築物が増えたのであまり高さが目立つことはないが、それでも高さは108メートルあり、これを覆う足場を利用した投影面は高さ80メートルにも及ぶようで、これだけ巨大な投影面を持つプロジェクションマッピングは少ないのではないだろうか。かつて、USJのクリスマスツリーは高さが30メートルを超え、世界一の高さとのことだったので、それをはるかに超える高さ80メートルは圧倒的な迫力に違いない。

 最近、神戸港に面したハーバーランドメリケンパークなどのウォーターフロント地区は、再整備が行われつつあり、新港町では、水族館などを擁する開発が行われている。

 筆者は、従前から、この神戸港ウォーターフロント地区は、神戸の観光の中核として開発すべきと考えていた。その理由は、神戸は、都市の中心部に広大な空間があり、大規模なイベントを実施するにはうってつけであると考えるからである。実際に、同地区で毎年行われる神戸港花火大会は、たった1日のイベントで30万人を超える見物客が訪れる。だから、すぐれた企画さえ行えば、必ず大成功を収めるはずだ。今回はポートタワーの仮設足場を利用したイベントであるが、その周囲には、倉庫や橋、高架道路など、巨大な構造物がいくつもある。こうした構造物を被写体にして、今回のようなプロジェクションマッピングを行えば、様々な可能性があると考える。また、周辺に住宅などもないので、使用を制限するものが少ないのも、この地区の利点だ。

 他都市にも巨大な港があるが、街はずれにあって、神戸のように港を囲んで街が広がっている都市、中心部に巨大な空間が広がっている都市はあまりないだろう。これこそが、神戸の都市の特徴で、活用すべきものだ。その、可能性、成功例を、毎年、神戸港の花火大会が見せてくれている。

 これまで、この地区で、神戸港花火大会以外に成功例がなかったのは、空間が巨大なだけに、逆に、小規模なものだと、まったく見栄えがしない。だから花火大会ぐらいの派手なことを考えないと、成功はおぼつかない。

 そうした大規模なイベントを行うには、大きな費用がかかるだろう。だから、商業ベースで企画をすることが必要だ。スポンサーを付けるのも一つだろう。また、駐車場や物販、有料化を図るのも一つだろう。さらに、そうした企画を考える組織、この地区の集客を第一目的に考える経営体が必要だ。

 筆者は、こうしたイベント以外に、このウォータフロント地区に、リゾートホテルや遊園地、観光施設、アトラクションなどを集中立地させることを提案している。それらの施設やイベントを有機的に結合できれば、それはこれまでにないビジネスモデルが必要かもしれないが、一つのテーマパークのようになるのではないかと考える。筆者はそれを「神戸港 ポートパーク」と呼んでいる。その実現は、遠い先かもしれないが、今回のイベントがその先駆けとなることを期待している。

 

 

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県が行財政運営方針の見直し案公表

 兵庫県は16日、行財政運営方針の見直し案を公表し、2021~28年度の8年間で歳出が歳入を上回る「収支不足」が総額440億円に上るとの試算を明らかにした。これを受け、59事業の廃止・見直しと投資事業の抑制で約1300億円の効果を見込む財政健全化の計画を策定。大型プロジェクトでは、県庁舎を建て替え、周辺にホテルや商業施設などを誘致する再整備事業を撤回し、22年度にも新計画の検討に入る方針を示した。井戸敏三前知事が掲げていた大規模アリーナの建設も凍結するとした。

(2021/12/16 神戸新聞

 

 

 兵庫県が12月16日 行財政運営方針の見直し案を公表し、財政健全化対策として、県庁舎の建て替え事業の撤回、大規模アリーナ建設の凍結の方針が明らかとなった。

 今年7月の兵庫県知事選挙の結果については、その直後に論評したが、新知事は、元大阪府の財政課長であり、選挙戦でも吉村大阪府知事、松井大阪市長大阪維新の会(維新)の全面的な支援を受けて当選を果たした人物である。新知事が大阪維新の影響を受け、その中で、「身を切る改革」、「行財政改革」の名の下に、兵庫県独自の大規模プロジェクトは廃止、縮減し、ただただ大阪の大規模プロジェクトへの奉仕を行う存在に成り下がるのではないかと予想した。その懸念が現実のものとなりそうだ。

 

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 ここに、「新知事は兵庫県民のためではなく大阪のために働く人物である」と仮説を立てよう。兵庫県民は、その仮説をもって、新知事の動向に十分注意を払おう。特に、兵庫県の地元メディアは、郷土の報道機関として、兵庫県の動向を注視し、兵庫県民の利益が損なわれないかどうか、またそのような動きがあれば、兵庫県民に正しく報道すべきである。その役割は重大である。