任期満了に伴う兵庫県知事選は18日投開票され、総務官僚出身で元大阪府財政課長の斎藤元彦氏(43)=自民、維新推薦=が無所属新人5人による争いを制し、初当選した。県政史上初めて自民分裂選挙となったが、5期20年務めた井戸敏三知事(75)の後継として、党方針に反発する自民県議らが支えた前兵庫県副知事、金沢和夫氏(65)をかわした。
(2021/7/18 神戸新聞)
7月18日に行われた任期満了に伴う兵庫県知事選は、自民、維新が推薦する総務官僚出身で元大阪府財政課長の斎藤元彦氏が当選した。
確定投票数は次のとおりであった。
斎藤元彦 858,782
金沢和夫 600,728
金田峰生 184,811
中川暢三 140,575
服部 修 46,019
2021年7月18日は、兵庫県民にとって歴史的な日となった。
新しい知事は、元大阪府の財政課長であり、選挙戦でも吉村大阪府知事、松井大阪市長ら大阪維新の会(維新)の全面的な支援を受けて当選を果たした。新知事が維新の系列に属することは間違いない。吉村知事の部下であり、その全面的支援を受けて知事となった人物が、大阪府の意向に反して行動することはあり得ないだろう。これまで兵庫県は全国有数の大県として、大阪府と対等の立場で、良きにつけ悪しきにつけ対抗関係にあった。その兵庫県が大阪府の軍門に降ったのが今回の選挙結果の歴史的意義である。
今後起きるであろうことを予想してみよう。
(1)身を切る改革として、県職員の人件費抑制、人員の削減、非正規職員化、公的セクターの縮減、独自事業の見直しなど。
(2)しがらみを断ち切る改革として、これまで兵庫県と密接な協力関係を築いてきた文化団体等への支援の見直しと再編。
(3)兵庫県と神戸市の二重行政問題
(4)関西圏全体における二重投資問題
(1)については、新知事はすでに県知事の報酬や退職金の減額、センチュリーの即時廃止を表明している。今後、兵庫県庁舎の建て替え、兵庫津博物館の建設などの井戸カラーの施策はことごとく見直しの憂き目にあうだろう。
(2)では、これまでの兵庫県庁に連なる各種団体の支配関係が再編され、各所で権力の交代が生じるだろう。
特に、問題は(3)と(4)である。
(3)について、兵庫県と神戸市との間の二重行政による無駄の解消の名の下に、神戸市の権限・財源の縮小が議論に上がる可能性がある。
(4)について、維新が目指すのは関西圏における大阪一極集中である。兵庫県と大阪府の間の二重投資として、兵庫県下で進められてきた事業の縮減が議論に上がるかもしれない。たとえば、伊丹空港や神戸空港、医療産業都市構想、大規模アリーナ構想など、それらは大阪と重複する無駄な投資として指弾されるかもしれない。(この構図は、神戸空港の建設時によく見られたものだ。)今後、兵庫県では大阪と競合するような都市施設は持つことは許されなくなるかもしれない。
これらの改革、兵庫県の変質が、「行政の無駄の排除」の名の下に、在阪マスコミや一部の市民の熱烈な支持を受けて進められるおそれがある。
今後、兵庫県は、大阪との連携、「強い関西」の名の下に、大阪への一方的協力を求められるだけの存在となるかもしれない。そして、それらの連携・協力の行く先は、大阪が進める万博やIRということになるだろう。
それらの改革の行き着く先は、関西の都市機能の大阪への一元化、つまりは「道州制」の実現である。そして、それは、大阪と並び立つ独立した兵庫県、神戸の終焉だ。
今回のことは、単に兵庫県下で起きた出来事ではなく、もっと大きな流れの中で、周到に準備が進められたものかもしれない。そして、早い段階から井戸知事に対しての印象操作など在阪マスコミも一体となって実行に移されたものかもしれない。
かつて、兵庫県は兵庫県民の利益を守る存在であった。関西国際空港の泉州沖設置に最後まで同意をしなかったり、伊丹空港の廃港に反対したり、大阪府と対立しながらも、兵庫県民の利益のために立ちはだかっていたのが兵庫県であった。神戸空港の規制緩和を神戸市以上に主張をしていたのも兵庫県だった。兵庫県の高い城壁の中で神戸は穏やかな日常を送ることができていた。しかし、その兵庫県は、もう過去の兵庫県ではない。兵庫県民を守る兵庫県ではなく、大阪府の利益のために奉仕する存在となった。今後、神戸は身を守る城壁を失ったまま、暴風の中にさらされることになるだろう。
再び、兵庫県民のための兵庫県を回復することは可能だろうか。20年間兵庫県下の隅々まで統治し、盤石の体制を誇っていた井戸県政においてさえ、この大風の前にひとたまりもなく吹き飛ばされてしまった。今後、兵庫県の再編が進められていく中で、再び昔日の兵庫県を回復することについて悲観的である。
2021年7月18日は、兵庫県が兵庫県民の手から失われた日として記憶されることになるのかもしれない。