王子公園の再整備計画について(2)

王子公園再整備基本方針(素案)に対する意見募集

 この度、王子公園を「グローバル貢献都市を先導する学術・文化・スポーツ拠点」として再整備を進めるにあたって、「王子公園再整備基本方針(素案)」として取りまとめましたので、市民の皆さまのご意見を募集します。

(神戸市HP 2021/12/10)

 

 

 神戸市が、先頃取りまとめた「王子公園再整備基本方針(素案)」について意見募集を始めた。(意見募集期間は令和3年12月10日~令和4年1月17日まで)

 

神戸市:王子公園再整備基本方針(素案)に対する意見募集 (kobe.lg.jp)

 

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 この素案に対する意見を述べてみる。

 全体的に、この素案は多くのものを詰め込みすぎだ。

 元々、動物園と競技場などの運動施設の2つで区分されていたところへ、大学のスペースを捻出するがために、競技場の多くを廃止し、動物園の遊園地を立体駐車場に置き換え、運動施設もアメリカンフットボール主体の球技場を作るなど、多方面の要望を抜本的に整理せずに、なんとか押し込んだような計画だ。しかし、これでは、せっかくの再編をするのに、大学はともかく、動物園も運動施設も中途半端にならざるをえない。

 やはり、この三者のうち、どれかを移転させるべきだろう。それは、運動施設であるべきだろう。

 動物園は、小さな子供たちや家族連れが多く訪れる場所だから、交通の利便性のよいところがよいだろう。それになんといっても、生き物が暮らす場なのであるから、環境のよい場所、安全な場所であることが必要だろう。とすると、いくら広い土地があるからといって、海岸部の埋め立て地であれば、先年に見舞われたような高潮やさらには地震による大津波などのおそれもあるから、その立地は自然の脅威から安全な場所であることが必要だろう。となると、王子動物園が移転できるような適地は、なかなか見当たらない。

 一方、運動施設は、人が常時いる場所ではないから、動物園ほどの安全性は必要ではない。現に、他都市では河川敷の遊水地を運動施設にあてている例(日産スタジアムなど)がある。利用する者も健康で活動的な人々なので、駅前に立地させることも必要はないだろう。ただし、商業ベースの運動施設ということであれば、高い交通の利便性が要求されるから、都心への立地がふさわしい。それならば、三宮の近辺のみなとのもり公園や新港地区なども候補地になるが、今回の運動施設は商業ベースではないだろうから、それほどの交通利便性は不要だろう。したがって、動物園と運動施設のどちらを取るかとなると、動物園を取るべきである。

 では、運動施設はどこに移転させるのがよいか。そもそも、グラウンドは市内にすでにたくさんあるので、新たにつくる必要があるのかという点から検討した方がよい。その結果、もし、必要だということであれば、王子公園の南側に位置する、なぎさ公園やもう少し広い範囲で考えるなら、六甲アイランドの南端の遊園地跡地などが考えられる。王子スポーツセンター(体育館)も現地にはあるが、1978年建築でかなり老朽化していると考えられるから、将来的には移転させた方がよいだろう。

 以上のように考えて、王子公園は動物園と大学の2者で使用すればよいと考える。この案のメリットは、王子動物園の敷地を大幅に拡充できることだ。

 現在の王子公園は全体で19ヘクタールほどの広さなので、大学に4ヘクタールを割くとして、残り15ヘクタールが動物園の敷地となる。現在の王子動物園は遊園地を含めて8ヘクタールほどなので、倍程度の広さを確保できることになる。東京の上野動物園は約14ヘクタール、大阪の天王寺動物園は約11ヘクタールだから、決して広すぎるということはない。むしろ、動物の成育環境を整えるという趣旨から考えると、現在よりも広い敷地を確保するのは当然のことだ。王子動物園はすでに神戸市民が誇る動物園ではあるが、新しい動物園は十分な敷地を確保して、今後の50年、100年を視野に、上野動物園にも負けない、世界でも注目されるような、日本有数の動物園を整備するのがよいと考える。もちろん、遊園地も整備し、神戸市や周辺の都市の市民が多く訪れ、平和な一日を楽しめる施設にしてほしい。

 

 ところで、この素案によると、東側に大学を置き、現在地を含む西側に動物園を置くプランとなっているが、王子公園の駅前を大学に提供する必要があるだろうか。王子公園の南西の隅に神戸文学館があるが、これは関西学院大学当時のチャペルであったとのことだ。これを取り込む形で、大学を西側に配置し、動物園を中央部から東側に置いた方がよいだろう。

 

 今回の素案は、一見大胆なようで、美しいお題目はたくさん並んでいるが、取捨選択ができない現在の神戸市政の状況があらわれた計画だ。

 

 

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王子公園の再整備計画について

 開園から70年を迎え、再整備の方針が決まっている神戸市立王子動物園(同市灘区)について、神戸市は立地特性を生かした都市型動物園に刷新することを決めた。展示方法を改めるほか、1951年の開園以来ある遊園地を廃止し、跡地約1ヘクタールに立体駐車場を設置。現在のエントランス付近には芝生広場などを設け、来園者の歓迎ムードを高める。

(2021/11/22 神戸新聞

 

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(出典 2021/11/22 神戸新聞

 11月22日、神戸新聞が王子公園の再整備方針について報じた。それによると、再整備の内容は次の通りである。

(1)公園東部の王子スタジアムおよび補助競技場を廃止し、約4ヘクタールの土地に大学を誘致する。

(2)プールやテニスコートなどのスポーツ施設を廃止し、公園の北側に、アメリカンフットボールやサッカーなど、球技利用を中心とする新スタジアムを建設する。体育館は現在地に存続する。

(3)現在の動物園入口近辺の駐車場はエントランスとして芝生広場等を設ける。

(4)残りのスペースを動物園の敷地にあてるが、現在の遊園地は廃止し、立体駐車場の用地にあてる。動物園の敷地は7ヘクタールとし、「都市型動物園」に刷新する。

(5)市は22年度に動物園と新スタジアム、エントランスの各基本計画をまとめ、一部の事業にも着手する。さらに、2022年度に大学を公募する。

 

 計画はかなりのハイペースだ。来年度にも大学を公募するということから考えると、進出予定の大学はすでに決まっているのではないかと思われる。それは、おそらく関西学院大学であろう。関西学院大学は関西の有力な私立大学の一つで、創立は現在の王子公園の場所であったことはよく知られている。おそらくは、関西学院大学側が創業の地に復帰したいという願いを持っており、神戸市に働きかけをしたのではないか。それを受けて、神戸市が大学の進出地を確保するために王子公園の再編計画を立てたと推測する。新しく整備される新スタジアムも、アメリカンフットボールでの利用をうたっており、関西学院大学アメリカンフットボールの強豪校であることから、そのホームスタジアムとすることを想定しているのではないだろうか。もしも進出するのが関西学院大学でないならば、特に王子公園にこだわることはなさそうであるし、神戸市がわざわざ王子公園に土地を捻出しようとすることはないであろう。

 

 動物園に大学、スタジアム、芝生広場など、かなり窮屈な計画だ。様々な需要がある中で、限られた敷地内に詰め込めるだけ詰め込んだという印象だ。その最後の調整を遊園地の廃止という形で帳尻を合わせたような感じだ。

 今回の計画で一番頭を悩ませたのは、王子公園という限られたスペースに、大学、スタジアムと体育館などのスポーツ施設、動物園という3者をどう配分するかということではなかったであろうか。抜本的に考えるならば、王子動物園やスポーツ施設の移転などのアイデアもあったかもしれないが、それほどの大構想は望むべくもなく、すべてを現在地に残して、なんとか押し込んだというような印象だ。

 

 

 そんな中で、久元市長の次のツイッターが話題となった。

 2013年11月、市長になった直後の出勤途上、王子公園に立ち寄りました。動物園長は親切に園舎を案内してくれましたが、私の関心は動物ではなく、王子公園全体の再整備にありました。あれから8年、大学誘致など再整備基本方針の素案を取りまとめました。各方面のご意見をお聞きし、具体化を図ります。
(2021/11/23 久元喜造Twitter

 

 これに対して、一部から、「動物に関心がない」と明言する久元市長に対する失望や憤りの声があがった。「親切に園舎を案内」してくれた園長に対して失礼ではないかという声もあった。

 確かにこれは、不思議なツイートだ。このツイートの要旨は、王子公園の再整備は市長就任当時から考えてきて、ようやく基本方針の素案がまとまった、ということであろう。とすると、前段は全く不要な説明だ。王子公園の再整備は、当然のことながら、王子動物園の将来像をどう描くかということと不可分だ。にもかかわらず、「私の関心は動物ではなく」と言う感覚が理解に苦しむ。また、「園長は親切に園舎を案内」してくれたということをわざわざ書いて、その善意や骨折りをないがしろにするような発言は、読むものを不快にするし、その人の人となりが酷薄な印象を受ける。これをわざわざ書いたということは、むしろ、自分の深慮遠謀を誇る気持ちがあったのだろう。実に悲しいことだ。

 

 王子動物園が都市型動物園に刷新することとに対して、多くの人が不安を表明している。特に遊園地がそのまま立体駐車場に置き換えられてしまうことを悲しむ声が多く上がっている。

 王子動物園は、入園料も低額で、市民が気軽に楽しむことができる施設であった。子供を持つ神戸市民で、王子動物園のお世話にならなかった者はいないだろう。春には桜が咲き乱れる美しい園内で、動物の姿に喜び、遊園地の遊具で飽きることなく遊び続ける子供たちの姿を眺め、家族一緒に半日をすごす、人にとって、これほど幸せな時間はないだろう。王子動物園はまさに夢の国だった。市が、こうした施設を維持することは都市の生活の豊かさを実現するために、決して無駄なことではない。王子動物園は神戸の先人たちが作り、育て、残してくれた市民の財産なのだ。

 

 神戸は、こうした市民の娯楽施設が乏しく、青年以上の人々の娯楽施設は、皆無といってよいような状況であり、幼児・児童向けの王子動物園はとても貴重な施設であった。久元市長は、クラシック音楽やストリートピアノなどを愛好するが、大衆的な文化や娯楽に対する関心が薄いように感じる。

 大衆が愛好する芸能や娯楽は、時代の流行とともに移ろっていくものであるが、時代の先端にあるため、保守的な人々から見ると異端であることが多いし、評価が定まらないところがある。しかし、大衆の支持を広く得ることは、まさに選ばれたものだけがなしうることで、見かけの親しみやすさの裏に、過去の芸術や文化の集大成という性格も持っている。現役時代に大衆の支持はあったが、高い評価が得られていなかったものが、今では高い評価を受けているものは多い。

 世間の評価にかかわらず、自らがよいと思うものを愛することができるのがあるべき姿であって、すでに評価の定まったものばかりを愛好するのは、心が自由ではなく、真に芸術を愛好している人の姿ではないと思う。

 

 

 

 

兵庫県立兵庫津ミュージアム・初代県庁館がオープン

 11月3日、初代兵庫県庁を復元した「兵庫県立兵庫津ミュージアム・初代県庁館」(神戸市兵庫区中之島2)がオープンしたと聞き、出かけてみた。

 

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 現地に来てみると、人気がない様子を想像していたが、行列するほどではないが、途切れなく人が訪れ、建物の規模がそれほど大きくないこともあって、意外に賑わっている印象だ。

 この施設については、正直、あまり期待を持っていなかったが、当時の県庁の姿が細部に至るまで忠実に復元されており、意外に興味深く、十分に楽しむことができた。初代の兵庫県知事は、かつての千円札で有名な初代内閣総理大臣伊藤博文であることはよく知られているところであるが、その初代知事の執務室(といっても、比較的こじんまりとした座敷に机と椅子を置いただけだが)や、風呂や炊事場、厠まで忠実に復元されており、当時の様子が生々しく再現されている。建物の周りには、庭園、白州(しらす)や仮牢、井戸と、徹底した復元ぶりで、まるで時代劇のセットに入り込んだようだ。

 昔の建築物を復元することはよくあるが、最近の尼崎城のように外観のみの復元ということも多い。この初代兵庫県庁館は、外観だけではなく、内部の復元も重視しており、建物だけではなく、そこで繰り広げられた当時の人々の息吹をよみがえらせようという思いが伝わってくるようだ。

 建物自体に文化財的な価値があるものではないが、建物を忠実に復元することは当時の人々の姿や生活を再現することでもあり、そうした目的のために建物を再現するということは意味のあることだと思われる。

 同ミュージアムは現在建設の途中であり、先行して初代県庁館のみが完成し、オープンした。隣接地には「ひょうごはじまり館」が建設中で、来年の下期に全体計画の完成ということだ。全体が完成し、社会全体のコロナウイルス禍が落ち着けば、人気施設として多くの人が訪れることになるのではないだろうか。

 場所は、兵庫のイオンモール神戸南の隣接地で、その向かいには中央卸売市場があり、これらが一体となって神戸の観光の核の一つとなることが期待される。

 周辺には、清盛塚や能福寺大仏などの観光名所がある。ミュージアムには、ぜひとも兵庫津や福原京などを整備した平清盛および平氏一門に関する展示を行ってほしい。平清盛は兵庫に拠点を定め、兵庫津に経ヶ島を建設し、ごく短期間ではあるが福原に都を遷した、神戸、兵庫の恩人ともいうべき人物だ。平清盛は瀬戸内航路を整備し、日宋貿易を盛んにし、宋銭を輸入し、貨幣経済化を推進するなど我が国の発展に大きな足跡を残した。厳島神社の造営も忘れることができない。歴史上、天下の権力を手中にする者は多いが、その権力を用いて何事かを成した者は少ない。平清盛はそうした数少ない人物の一人であり、歴史上の偉人としてもっと顕彰されるべき人物だろう。その偉大な足跡を顕彰するに、兵庫の地ほどふさわしい場所はない。現在建設中のミュージアムはぜひそのような平清盛顕彰のためのミュージアムとなることを期待したい。

 




京橋の復原

京橋(神戸市)

 

 京橋(きょうばし)は、神戸市中央区の京町筋の南にある橋である。京町に在ったので京橋と名前がついたといわれる。

 付近に阪神高速3号神戸線京橋出入口や京橋パーキングエリアがある。

 1864年(慶応元年)5月に勝海舟により神戸海軍操練所が立てられた。現在は橋の東側に記念碑が残る。

wikipedia

 

 神戸ポートミュージアムがオープンし、市街地側の京町から新港町に向かって人通りが増えたが、その経路の中程に京橋という地名がある。これは京町と新港町を挟んで実際に存在する京橋という橋にちなむ地名である。京橋は、橋とはいうものの、その西側は海ではあるが東側は地続きなので、うっかりすると見過ごしてしまうかもしれない。しかし、注意して見ると、その道路の両側には欄干があり、要所には石柱が立ち、その上にはクラシカルなデザインの街灯を戴いている。石柱と石柱の間にはモダンな幾何学的文様の装飾を施した重厚な鋳鉄の格子が施されている。かつて、ここには実際に海を隔てた陸地と陸地を結ぶ橋があったのだ。

 

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(Google ストリートビューから作成)

 

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(Google ストリートビューから作成)

 

 京橋は明治から大正にかけて建設された新港突堤と市街地を結ぶために建設された橋で、1960年頃までは橋の東側にも船だまりが広がり、橋の形態を保っていたが、その後埋め立てられて現在のような地続きになったようだ。橋のデザインが重厚であるのは、橋が建設された時期が神戸港が繁栄をした時代であったためであろう。

 この度の新港地区の再開発に合わせて京橋もライトアップなどの化粧直しが行われたようだ。京橋から西側を眺めると、辺りは船だまりとなっている。神戸税関の監視艇をはじめ多くの小型船舶が係留されている姿を見ることができ、その先にはメリケンパークが見える。しかし、東側は埋め立てられて地続きになっており、現状は駐車場やストックヤードとして利用されているようで、あまり見栄えがよいとは言えない。西側が実際に船だまりとして利用され、港町神戸にふさわしい景観で雰囲気がよいだけに、東側の状態が残念に思われる。もしも、かつてのように橋の両側に船だまりが広がり、海を渡る橋であることが見て取れるようであれば、京橋は今でももっと存在感がある橋であったに違いない。

 そこで、京橋の東側を掘り起こし、再び水を引き込み、京橋を「橋」として復原してはどうだろうか。神戸の市街地には大きな河川がないため、街のシンボルとなるような橋がない。京橋は規模といいグレードといい、立地といい、街のシンボルになるのに十分な風格を備えている。東側は欄干が撤去されている部分があるので、これを修復すれば橋としての姿がより明瞭になるだろう。

 地図をあらためて眺めてみると、京町から新港町まで一直線に道路が続いており、京町には市立博物館やオリエンタルホテルなどの重厚なデザインの建築物が建ち並び、その先には新阪急三宮駅ビルがそびえ立っている。京橋の東側の歩道脇には幕末の神戸海軍操練所跡の碑が立っている。この京町から新港町に向かう道路を神戸のシンボルロードと位置づけて整備すれば、周辺の建築物とあいまって、神戸らしい景観が形成されるのではないだろうか。そして、京橋を、往年の神戸港の繁栄をしのばせる歴史的遺産、市街地と港を結ぶシンボルとして復活させればどうだろうか。どこか中心が不明確な神戸の市街地に中心地が確立されるのではないだろうか。

 

 

「神戸ポートミュージアム」がオープン

「アート(芸術)」との融合をうたう次世代型の水族館「アトア」を中核とする文化施設「神戸ポートミュージアム」が29日、神戸市中央区神戸港(新港突堤西地区)に開業した。臨海部の新たな観光拠点とあって、初日から家族連れやカップルらでにぎわった。

(2021/10/29 読売新聞)

 

atoa-kobe.jp

 

 10月29日、新港突堤西地区に次世代型の水族館「アトア」を中核とする文化施設「神戸ポートミュージアム」がオープンした。

 

 オープン後に周辺を歩いてみると、同施設へ向かう人、戻る人、市街地から京橋沿いに一定の人の流れが生まれていると感じ取られた。現地に到着すると、周辺は大勢の人でにぎわっていた。

 施設は2階以上が水族館で、1階部分は飲食店となっている。道路に面した部分はオープンテラスが設けられている。建物は、写真で見るとコンクリートの塊のようだが、間近に見ると表面には細かな凹凸が施され、質感は岩肌のようで、特に水族館に上がる階段は洞窟のような雰囲気である。2階に上がると、山側にミュージアムの入り口があり、それと反対の海側には展望デッキがある。前方に新港第一突堤とホテルが間近に見え、その背後に広々とした神戸港を見晴らすことができる。1階にはミュージアムショップがあり、ミュージアムの入館者以外も入ることができる。ショップでは、見る方向によって色が変わるカメレオンや、ゴマフアザラシのぬいぐるみ等が販売されていた。目を引いたのは、15㎝ほどの大きさのハダカデバネズミを模したリアルなスイートポテトで、少し気味が悪いような気もするが、土産物としてはかなりインパクトがありそうだ。これらは同施設のオリジナル商品とのことだ。オープン直後で大勢の見学者が訪れている同施設であるが、施設の規模が限定されて拡張の余地がなく、入館料もやや高額なので、長期的に安定した集客をどのように維持するかが課題だろう。

 この施設の開設により、これまでは遠くに感じた港が街と直結し、一続きとなったように感じられる。山側を臨むと、京町筋が伸び、沿道の博物館やホテルなどのビル街を見通すことができ、その先には新阪急三宮駅ビルが屹立している。神戸の町は海と山に挟まれた東西に細長い街の印象であったが、この神港地区の開発によって、街の広がり、奥行きを感じることができるようになった。新港地区の開発は緒に就いたばかりであるが、街の印象は大きく変わったように感じられる。

 当ブログでも、新港地区の再開発、観光ゾーン化を提案してきた。この施設を嚆矢として、今後も開発が進んでいくと思われる。今後、これらの施設を結ぶ交通手段の整備、共通チケットの販売など、一つのテーマパークのように一体化を図り、長時間滞在できる観光地づくりを進める必要があるだろう。

 

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六甲アイランドの活性化(2)

 六甲アイランドは中心部のテナントが撤退し、灯りが消え、非常に寂れた風景となっている。その再活性化が課題となっている。人口減少に悩む神戸市にとって、阪神間の住宅地は転入・転出などの人口移動の受け皿として貴重な存在といえるだろう。この問題について、再度考えてみたい。

 

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 前回にも書いたが、六甲アイランドは神戸と大阪の中間点に立地し、六甲の山並みと海を見渡せる開放的な風景、整然とした街並み、広い公園、外国人学校が複数立地する国際的な住環境など、元々持っている条件は非常にすばらしい。しかし、商業施設の撤退が相次いだために、中心部が薄暗く、島全体が寂れたようなイメージが定着してしまった。それが、街の活性化を妨げることになっている。

 では、そもそも、商業施設の撤退の原因は何だろうか。商業施設には広域的な商業施設と近隣的な商業施設がある。広域商業施設については周辺地区の競合施設に対してどれだけの競争力を持つことができるかという点に尽きるので、六甲アイランドの商業施設がそうした魅力を発揮することは、周辺に大規模な商業施設がひしめきあっていることを考えると容易ではない。一方、近隣商業施設については、周辺人口が最重要だと考えられる。六甲アイランドは文字通りの「島」であるから、周辺地区からの来訪はほとんど期待できず、商圏人口は島内の人口に限られるだろう。一般的に、大型食品スーパーの場合の商圏人口は1~3万人、小型食品スーパーで5千人~1万人と言われている。では、六甲アイランドの状況はどうかというと、大型店のダイエーと小型店のトーホーがあり、以前はこの他にコープ神戸とパントリーなどがあったが現在は撤退している。これに対して、六甲アイランドの人口は約2万人とのことである。もともとの計画人口は3万人であったが、世帯の小規模化により、世帯数はほぼ計画どおりであるが人口は計画の3分の2に止まっている。つまり、必要な商圏人口(大型店3万人+小型店1万人)>六甲アイランドの人口2万人 ということになり、これでは六甲アイランドの商業施設の営業が振るわないのもやむを得ないことだ。

 六甲アイランドの活性化のためには、島内の人口増加が必要だ。

 神戸市は他人事のように「六甲アイランドの活性化」などといっているが、今日の事態は計画を立てた神戸市に責任があるだろう。世帯の小規模化は全国共通の現象だから、その傾向がわかった時点で計画を修正しなければ、このような現状に陥るのは予想がつくことだ。神戸市は、こうした社会情勢の変化をもっと真剣に考えるべきであったのではないか。

 六甲アイランドに行ってみると、いたるところに広大な公園やグラウンドがある。特に島の南側は、大学のグラウンドなどが大きなスペースを占めており、住宅地はわずかである。バブル経済が崩壊し、土地の処分を急いだのか、まとまって売れるところなら何でも売ったのではないかとすら思える。その結果、多くが大学や学校などのグラウンドに処分されたのではないだろうか。しかし、それらは利用人口が少なく島内の活性化にはあまり寄与しないし、固定資産税も生まないから神戸市の財政的な観点から言っても、あまりよい売却先といえなかったのではないだろうか。これだけよい立地条件で、立派なインフラを作ったのに、広大な公園やグラウンドにしてしまうのは有効な土地利用とはいえないだろう。そうした、展望のない、その場しのぎの対応が六甲アイランドの今日の不振を招いているのだ。

 六甲アイランドの街としての維持、発展を考えるならば、時間はかかっても、継続的に住宅を整備し島内人口を少なくとも計画人口通りに持っていく必要があったのではないか。その責任が開発をした神戸市にはあったのではないか。

 今後の方策として、今からでも、住宅地に転用できるところは住宅地として供給し、島内人口の増加を目指すべきだ。そうして、島内の人口が適正水準に達することによって、島内は再び活性化し、それを魅力と感じる人々が常時流入を続け、安定した街として成熟をしていくのではないかと考えられる。神戸市は「六甲アイランドの活性化」などの後ろ向きな姿勢ではなく、再度、六甲アイランドの都市ブランドづくりに取り組むべきだ。それだけの優れた条件を六甲アイランドは持っている。そのための一定の投資も必要だ。

 

神戸市長選 久元氏が3選

 神戸市長選は31日投開票され、自民・立憲・公明・国民が推薦した現職の久元喜造氏(67)が3選を果たした。投票率は53・85%(前回47・58%)だった。

(2021/11/1 朝日新聞

 

 10月31日、神戸市長選挙が行われ、久元氏が3選を果たした。

  久元 喜造   439,749
  鴇田 香織    69,648
  中川 暢三    59,857
  岡崎 史典    59,722
  酒谷 敏生    20,269

  無効       22,082

   投票総数   671,357

 ※ 有権者数 1,248,191

 

 久元氏は史上最多得票での当選ということだが、市民全体から熱烈な支持を受けて当選したと言えるのだろうか。

 今回の選挙では、現職の久元氏が全方位にわたる網羅的な政策を展開したのに対して、これに競合できるだけの政策を打ち出せる対抗候補者が現れなかった。そのため、久元市政の実績に対する議論や政策論が戦わされることもなく、きわめて低調な選挙戦に終わった。市民にとっては選択肢がなかったと言ってよいだろう。

 実際、久元氏以外の候補者に投じられた票は、合計で209,496票と久元氏の得票数の約半数に相当し、有力な対抗候補者がいなかったにしては、かなりの数に上っている。これは、久元市政を支持していない市民もかなりの数が存在していることをうかがわせる結果である。それは、大幅な人口減少が続き、京都、大阪はもとより周辺都市にも遅れを取り、地盤沈下が著しい神戸市を活性化するという最大の課題に対して久元市政が有効な手を打てていないことから来ているのではないだろうか。

 

 当選後の会見で、久元氏は、神戸市の最大の課題は「人口減少」であると指摘したとのことだ。

 

 神戸市の最大の課題は「人口減少」だと改めて指摘。「全国的な課題ではあるが、神戸の場合はより強く意識しなくてはならない」とみている。1960年代に計画的な街づくりが始まる前に、無秩序に開発された山麓部で人口減少が顕著。加えてニュータウンのオールドタウン化もある。「腹をくくって、思い切ったことをやっていかなくてはならない」「これまでの取り組みは不十分」と決意をみせていた。 

(2021/11/1 神戸経済ニュース)

 

 久元市政のこれまでを振り返ると、久元氏は、2013年の市長就任後は神戸市の人口減少について、「人口規模を追わない」として、問題視しない姿勢であった。その後、2019年7月に総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口動態調査で神戸市の人口減少数が全国のワースト1となるに及び、ようやく重い腰を上げ、「人口減少対策」に取り組み始めた。「リノベーション・神戸」と銘打ち、第一弾として市内の街灯、防犯カメラの増設、第二弾として名谷駅や西神中央駅、垂水駅など郊外の主要ターミナル周辺のリニューアルなどの施策を打ち出した。

 しかし、久元氏の基本的な姿勢は、神戸市の人口減少の最大の原因は「東京一極集中」であると指摘した(2019/7/11 記者会見)ように、なお、神戸市が抱える固有の問題について目を向けようとしなかった。

 そしてこのたび、「神戸市の最大の課題は「人口減少」」との表明に至り、「人口減少という全国的な課題を神戸はより強く抱えていると改めて感じた」、「これまでの取り組みは不十分。よほど腹をくくって思い切ったことをやらなければならない」(2021/11/2 朝日新聞)と述べたと伝えられている。

 神戸市の人口減少問題は、我が国全体の少子高齢化による人口減少の傾向と、もう一つの要因、こちらこそが重大な問題であるのだが、神戸市の大都市としての求心力の低下とが合わさって生じている現象である。人口減少はすべての大都市で起きているわけではない。福岡市や川崎市大阪市など、人口集中が続いている。このことは、多くの人々が気づき、指摘をしてきたことだ。

 久元氏は、当初、人口減少問題の原因を人口減少社会と東京一極集中と捉え、神戸市固有の問題については認識が不十分であった。ここに来てようやく、神戸市は人口減少の課題をより強く抱えていると、神戸市固有の要因があることを認識するようになった。正しく認識することは、正しい行動のために不可欠なことだ。2期8年をかけて、ようやくスタートラインについたようなものだ。

 

 では、その神戸市の固有の要因とは何であると考えているのだろうか。

 久元氏は、「人口減少は全国的な課題だが、神戸はより加速する要因を持っている。斬新でボリューム感ある政策を行わないと全国平均以上に加速していくことは間違いない」(2021/11/3 朝日新聞)と述べている。神戸が有する、人口減少が加速する要因とは何なのか、もっと具体的に示して、議論を加速してほしい。

 

 

 

 

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