スタートアップは神戸経済活性化の切り札となるのか

 「神戸経済ニュース」が久元神戸市長に対して、神戸市が取り組んでいるスタートアップ支援事業の現状認識や今後の展開についてインタビューを行った記事を掲載している。(2021/12/28 神戸経済ニュース)

 

久元神戸市長に聞く スタートアップ支援「やりかた変える必要」「自由な発想で起業を」 - 神戸経済ニュース (kobekeizai.jp)

 

 その中で、「最大の成果は自治体によるスタートアップという施策を、日本でけん引したこと」と神戸市の取り組みを評価をしながらも、結果としては、スタートアップの実績は東京に集中し、大阪や京都にも大きく水をあけられている現状を認め、現在のやり方を変える必要があると述べている。

 その上で、今後もスタートアップを支援していく必要性を述べ、神戸市独自の取り組みとして、「都市の隣にある豊かな自然は、東京にはない」利点を活かした『六甲山上スマートシティ構想』と『神戸里山・農村地域活性化ビジョン』を挙げた。

 

 久元市長は起業による神戸経済の活性化を考えているようである。これについては、どう考えるべきであろうか。

 

 神戸市がスタートアップ支援の施策を行った結果、どれだけの費用対効果、実績があったのかが明らかではない。まず、こうした情報をもっと明らかにしてほしいところだ。その上で、次のように考える。

 

 地元の大学や企業などで、すでに存在する起業の動きに対して支援をし、育てていくことは当然やっていくべきだろう。しかし、縁もゆかりもないところで、やみくもに支援を行うことは適切ではないだろう。というのは、おそらく、成功の道筋が見えているような事業については、すでに民間レベルで企業化が進んでいるだろうと考えられるからである。わざわざ、自治体の公募で集まってくるような案件は、おそらくは、そもそも事業化が難しい案件であろう。だから支援をしても、一定期間は存続するかもしれないが、これが爆発的な成功を収めて、将来的に大きな経済的効果を及ぼすようなことはほとんど期待できないのではないだろうか。仮にその中から、大きな成功を収める企業が生まれたとしても、その確率は極めて低いだろう。その低い確率の中から成功する企業を生み出すためには、相当の巨額の資金を必要とするだろう。したがって、神戸市のような一地方都市が、こうした効率の悪い事業にのめり込むのは、あまり妥当ではないように思われる。

 神戸市の独自の展開として、六甲山や里山を起業の舞台にと考えているようだが、今から企業を立ち上げようとする者が、そのような、のどかな所でのんびりとしていられるだろうか、なかなかその姿が想像できない。仮にあったとしても、それは市場性のある業態なのかどうか疑わしい。

 起業ができたとしても、当初の雇用はせいぜい数名であろう。だとすると、仮に100社が起業に成功したとしても、せいぜい数百人の仕事が生まれるに過ぎないから、経済の活性化を目的とするならば非常に効率が悪いと思われる。

 以上の理由から、スタートアップは神戸経済活性化の切り札とはならないだろうと考える。

 神戸経済の活性化を考えるならば、一から立ち上げるのではなく、すでに企業として存在している事業所の新しい事業展開の場として神戸を選んでもらうのがよいと考える。一から企業を立ち上げるより、既存の企業の中から新しい事業展開をしてもらうことの方が、はるかに簡単なはずだ。つまり、起業よりも企業誘致の方に重点をおくべきだ。たとえば、東京圏の企業が西日本全域への事業展開を考えるときに、これまで地方に分散していた事業所を統合するときに、交通条件に優れ、住宅、教育環境の整った神戸を選んでもらうのがよいと考える。特に、外国人学校やコミュニティがあることから、外資系企業の進出先には適しているのではないか。

 企業の進出先に選んでもらうと、その雇用は、大きなものでは1事業所で数千人の雇用を伴うことがある。

 

 最近の神戸市に共通する傾向だが、本来、取り組むべき課題が進まない場合に、その本来の筋で努力をするのではなく、安易に新機軸を持ち出してきて、それに飛びつくことが多いように思われる。六甲山や里山の活用や、スタートアップもその流れかもしれない。本来、取り組むべき課題を解決するために、必要な条件が何かを考え、それの実現に向けて施策を総合的に行い、それを研ぎ澄ませていくところを、目新しい施策を次々と中途半端に打ち出し、成果に結びつかない。六甲山や里山や、下町に対して「神戸」の名を冠し、外から見える神戸の姿をあいまいにさせ、先進的で垢抜けた都市のイメージを毀損し、結果的に、周辺都市に大きく遅れをとっているのではないだろうか。

 東京や大阪、名古屋などと比べて、かなわないと思うのか、主戦場を避けて、競合相手がいないところにばかり活路を見いだそうとしているように見える。では、その競合相手がいないところで頑張って、競合相手に負けないだけの成果が出せるのだろうか。その先は、袋小路ではないのだろうか。そうした本道を外れた施策を8年間もやっている。これでは神戸と周辺都市の差は開くばかりだろう。