井戸兵庫県知事が退任を表明

 兵庫県井戸敏三知事(75)は11日の県議会本会議で、来年夏に予定される次期知事選に立候補せず、同年7月末の任期満了で退任する意向を明らかにした。阪神・淡路大震災の復興事業が節目を迎え、行財政改革など重要施策にも道筋がついたことなどを理由とした。5期20年に及ぶ長期政権にピリオドが打たれる。

神戸新聞 2020/12/12)

  兵庫県井戸敏三知事が、11日の県議会本会議で、来年7月の任期満了で退任することを明らかにした。井戸知事は、75歳という高齢はさておいても、前回2017年の県知事選で多選批判にさらされながらも県政史上最多の5選を果たしたということもあり、今期で退任することはほとんど既定の事実だった。

 井戸知事は、総務官僚の出身で、阪神淡路大震災後の1996年に兵庫県の副知事となり、2001年7月に貝原知事の後を受けて兵庫県知事に初当選した。以後5期20年にわたって兵庫県知事を務めることとなった。

 

 井戸知事の功績としては、震災後の財政悪化に対する行財政改革が挙げられている。

 井戸知事の就任は、阪神大震災から6年後だった。震災の復旧・復興にかけた金額は16兆3千億円。うち1兆3千億円を県債で賄ったため、当初から厳しい財政運営を余儀なくされた。3割の職員削減などの行財政改革に取り組み、19年度決算で県債残高は3229億円まで減らした。

朝日新聞 2020/12/12) 

  また、2010年に発足した関西広域連合の初代連合長に選出され、今年12月に退任するまで10年間に渡り同連合を牽引したことも業績に挙げられるだろう。

 神戸との関わりでは、関西3空港問題の解決に向けて神戸市長以上に積極的な発言を続け、3空港懇談会の再開にこぎつけ、神戸空港の初の規制緩和を実現させたことも井戸知事の大きな功績といってよいだろう。

 人目を引くパフォーマンスをする人ではなかったが、その割には意外な存在感があり、「関東大震災が起きればチャンス」発言や、NHK大河ドラマ平清盛」についての「画面が汚い」発言などの「舌禍事件」を起こすこともたびたびあり、全国的な注目を集めることも多かった。特に新型コロナウイルス対応では、大阪府の吉村知事との対比で批判を浴びることも多かった。

 しかし、全般としては、非常に手堅く、優れたバランス感覚をもって、20年の長きにわたって兵庫県知事として安定した県政を実現したことは評価されるべきだろう。人物的にも「飾らない人柄」との評があり、実際、県知事会見の議事録を見ると、穏やかで丁寧な説明で、質問に対しても誠実に回答をしているのが印象的だ。また、久元神戸市長のように、職員を矢面に立たせるようなこともなく、高級車問題もそのような知事の姿勢のせいなのではないだろうか。

 後継については、金沢和夫副知事の名前が挙がっており、井戸知事は既に水面下で県議会最大会派・自民党の幹部に対し提示をしているようだ。対して自民党は、11日に金沢副知事を支援する方針を決めたと報じられている。ただし、満場一致というわけではなく、一部には異論もあり、多数決で決せられたとのことだ。(神戸新聞 2020/12/12)

 知事の退任表明がこの時期になったのは、大阪府での大阪都構想住民投票の動向を見定めてのことだったのかもしれない。

 

 金沢氏は、総務省出身の64歳で、2010年4月から副知事を務めており、10年以上も井戸知事と一緒に仕事をしてきたわけで、後継者としては順当なのだろう。

 

 一方、久元神戸市長の井戸知事退任のニュースに対する反応が次のとおり報じられている。

「昨日もお会いしたが、いつも通り気力、体力がみなぎっているご様子だったので驚いている。」神戸市の久元喜造市長のコメントからは、知事の退任表明が思いがけない出来事だったことがうかがえる。

神戸新聞 2020/12/12)

  井戸知事の退任はほぼ自明のことだったので、久元市長が驚いていることに逆に奇異な印象を受けるが、このあたりの動きについての情報が余り入っておらず、両者の関係が実は必ずしも緊密でないことを物語っているのかもしれない。

 久元市長は、金沢副知事より2年年長であり、兵庫県知事の世代交代は神戸市長にも影響を与えるかもしれない。

 

国際会議開催件数2019年 神戸市は国内第2位

 11月27日に日本政府観光局(JNTO)から発表された、2019年「日本の国際会議開催件数」によると、神戸市は年間438件の国際会議を開催し、東京23区に次いで国内第2位という結果に。3年連続で2位を堅守しました。内訳は前回同様、医学・科学技術関係の学会が一番多く193件、次いで社会学関係の会議が144件という結果でした。

 また、ICCA(国際会議協会)から今年5月に発表された、2019年1月~12月に世界で開催された国際会議の統計においても神戸は歴代最高位(初の2桁台)となる世界82位を獲得。

日本全体で開催された国際会議開催件数は前年比5.5%増の3621 件となっており、参加者総数は前年比8.4%増の200万人、うち外国人参加者数も前年比1.8%増の21.3万人となりました。

(神戸市 記者発表資料 2020/12/4)

 

神戸市:国際会議開催件数の都市ランキングが発表されました

 

 日本政府観光局が発表した2019年の国内での国際会議開催件数において、神戸市は東京23区に次いで国内第2位となった。国内第2位となるのは3年連続ということだ。

f:id:firemountain:20201205214601j:plain

日本政府観光局資料2020/11/27 から作成)

 

 これによると、神戸市は国内の並み居る大都市を抑え、堂々の第2位となっている。特に、近隣の競合都市である大阪市に対しては倍以上と大差をつけている。

 また、これらの国際会議における外国人の参加者を見ると、神戸市は第4位となっている。京都や横浜には及ばないものの、大阪市に対してはやはり大きな差を付けている。

f:id:firemountain:20201205214613j:plain

日本政府観光局資料2020/11/27 から作成)

 

  神戸市での国際会議の内訳は、医学・科学技術関係が193件、社会学関係が144件と、この二つで全体の4分の3を占め、学術系の会議が多い傾向があるようだ。総参加者数は200万人で、神戸市内の平成元年度の観光客数は日帰り客1,742 万人、宿泊客477 万人の合計2,219 万人であることを考えると、かなりの経済効果があると考えられる。 

 近年の神戸市の様々な方面における劣勢の中では数少ない実績を上げている分野と言えるだろう。この結果を見ると、コンベンション産業は神戸市が比較優位を持つ分野であると言ってよいだろう。どうして神戸市がこういう結果を残せているかというと、神戸市の持っている基礎的条件が優位に働いているからだと考えられる。

 一つは、国内の中央部にあるという地理的条件、新幹線や空港を擁する優れた交通条件、さらに風光明媚な都市景観、豊富な食文化などがあり、さらには周辺の京都、大阪、姫路などの世界的な観光地があることなどが強みである。神戸市としてはこの比較優位を持つ分野を守り、さらに発展させるよう努力をすべきだと考える。

 近年、他都市では大型施設を建設するなど積極的な投資を行っており、近隣の姫路市でも大規模なコンベンションセンターの建設が計画されている。神戸市でも現状に甘んじることなく積極的な投資を行うべきだと考える。投入できる資源に限りがある以上、こうした比較優位を持つ分野にこそ、重点的に投資をすべきだ。また、こうした優位性をさらに強めるよう交通機能の強化を図るべきだろう。

 コンベンション産業は、その経済効果だけでなく、都市の知名度、都市格をあげることにつながり、企業誘致にも効果があるだろう。コンベンション産業による集客は、ビジネス需要が乏しい神戸にとって企業誘致の足がかりとなりうると考えられる。

 神戸市は、平成25年3月に、「コンベンションセンター再構築基本構想 ~アジアの MICE センターを目指して~ 」という報告書を作成しているが、その後、何か進展したという情報を聞かない。

 

 現在は、コロナウイルス禍で世界的な人の移動が困難になり、人と人の接触を避けるようウェブによる会議等が行われるようになってきている。そのため、今後は、これまでのような人が直接集まって行う会議は少なくなるのではないかという予想もあるだろう。しかし、人が集まる会議は、単に「会議」を開くことだけではなく、それ以外の副次的役割や効能があったのだと考えられる。たとえば、会議の終了後の懇親であったり、観光や開催地の文化を知ることであったり、手触りや肌触り、空気やにおいなど、ウェブの平面的なディスプレイを通した情報だけでは得られない何かがあるのだと考えられる。もし、単に「会議」を開くだけであったら、コロナ禍以前に、会議は、そうした通信手段を用いたものにとっくに置き換えられていただろう。会議は、単に「会議」だけではないのだ。

 したがって、コロナ禍が克服された将来には、必ず、再び、以前のように人々が国境を越えて盛んに往来するようになるだろう。長期的に見れば、今日のコロナウイルス禍は攪乱要素であるとしても、その趨勢は変わらないと考える。

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

久元市長 就任7周年インタビュー

 神戸市の久元市長は任期が残り1年となったことを受けて、NHKのインタビューに応じました。
 人口減少対策やコロナ対策などに全力を挙げる考えを示す一方、来年の市長選挙に立候補するかどうかは明言を避けました。

(略)
 この中で、3年前、2期目に当選した時の公約の達成状況について、「60点くらいかなと思う。点数が上がっていないのは、残念ながら人口減少に歯止めがかかっていないからだ。ただ、バランスのとれたまちづくりや拠点駅の整備にはめどがつけられたので、一定の前進があったと考えている」と総括しました。
(略)
 一方、久元市長は、来年の秋に予定されている、次の市長選挙に3期目を目指して立候補するのか問われたのに対して、「任期いっぱいまで全力で仕事をしたい。次の選挙については、自分自身が適任か自問自答しながら、しかるべき時期に判断したい」と明言を避けました。

(NHK NEWSWEB 2020/11/19)

 

 任期が残り1年となった久元神戸市長に対してNHKがインタビューを行った。インタビューは神戸新聞を始め複数の報道機関が行っているようであるが、「3期目の立候補について明言を避けた」と評している点が注目される。

 同インタビューでは公約の達成状況について、60点ぐらいと自己評価している。点数が上がっていない理由として、人口減少に歯止めがかかっていないことを理由に挙げている。

 久元市長が就任した当時、新市長に対する一番の期待は、当時はまだそれほど鮮明ではなかったが、勢いに陰りが差してきた神戸を活性化し、他の大都市に伍して再び力強い成長軌道に乗せることだったのではないだろうか。久元市長は、この期待に十分応えられただろうか。

 都市再生の中核となる三宮再開発は、バスターミナルの建設、市役所の建て替え、東遊園地とウォーターフロントの再整備を挙げて「人の流れができれば、三宮は大きく変わる」(朝日新聞 2020/11/21)としているが、これだけで神戸の都心の吸引力が高まるとは思えない。おまけに三宮再開発の中心となるはずのJR三ノ宮ターミナルビル計画はコロナ禍の中で「白紙」になってしまうという事態に陥ってしまっている。その一方で、六甲山上のビジネス拠点化や北区の里山移住を人口減少対策の切り札と考えているなど、的外れ感が著しい。

 久元市長は就任から丸7年たつが、未だ神戸の都心の活性化、神戸経済の復活という課題に有効な解決策を見いだせていない。解決策を考える場合には、まず、神戸の都心にどのような位置づけ、役割を与えるかということが先決問題だ。久元市長には決定的にこの点が欠けている。美しい街、歩きやすい街、クラシカルな街並み、それは都市の化粧直しではあっても、「だから何なのだ」ということだ。都市は社会を構成するものであるから、果たすべき役割や機能があるのだ。それは神戸市民にとっての役割、関西圏での役割、西日本、国内、世界での役割があるはずだ。その役割をきちんと定義ができていないから、方向性が見えないのだ。目標をきちんと定めないと努力の方向、優先順位が見えない。それができていないから、マスコミからも「総花的」と言われるのだ。しかし、久元市長はその指摘を受け入れることができず、記者に論旨のずれた反論を繰り返すばかりだ。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 この記事の記者は、さすがに重要な点を見抜いている。

 

  これは筆者の仮説であるが、久元市長は博覧強記ではあるが、物事を構造的、分析的に捉えることが不得手なのではないだろうか。だから、重点事項、優先事項、戦略ポイントがなく、総花的になってしまうのだ。

 市長自身も自分が適任でないことに気がついているのかもしれない。今回のインタビューを読んでそのようにも感じた。次の選挙については、「自分自身が適任か自問自答しながら判断したい」という言葉にそれが表れているようにも思われる。

 

 

 今年1~9月に兵庫県から県外へ移った転出者が、県内への転入者を6515人上回り、全国47都道府県でワーストの「転出超過」になったことが県などへの取材で分かった。(略)

 兵庫県によると、県内では近年、20代前半の人口流出が課題に。県内には大学が多いが、卒業後、就職のため東京や大阪へ転出するケースが目立つという。さらに新型コロナの感染拡大以降、これまで多かった中国・四国地方などから兵庫への移動を見合わせる動きが出ており、転出超過の拡大に影響したとみられる。

神戸新聞 2020/11/17)

 

 最近も、総務省住民基本台帳に基づくデータで、2020年の1月~9月の人口移動で、兵庫県はマイナス6,515人となり、全国最大の転出超過数となったと報じられた。同じ期間での神戸市の社会増減の合計はマイナス1,279人で、兵庫県のこの結果に県庁所在都市である神戸市の動向も大きく影響していることは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

新型コロナウイルス禍の下での関西3空港の状況(4)

 関西エアポートが10月の関西3空港の運航状況を発表した。

  

 

f:id:firemountain:20201128183408j:plain



 

 これによると、国内線の旅客数は、ほぼ半分程度にまで回復している。3空港の中では伊丹空港が一番順調に回復していて、関西空港神戸空港の回復は緩やかである。

 

          旅客数   国内線発着回数

 伊丹空港     △43%   △34%

 関西空港     △51%   △37%

 神戸空港     △49%   △24%

 

 国際線については、今なお運航停止と言ってよいような状況が続いている。

 

 

 新型コロナウイルスの影響で国際線の利用者の回復がすぐには見込めない中、全日空は、羽田、成田、関西、中部の4つの空港で減便や休止している国際線を今後、需要が回復して再開する場合は羽田空港を優先させる方針を固めました。需要が回復するまでの間、羽田空港に集約することで、コストの削減を図る考えで、すでに関係機関との調整や航空機の売却を始めています。

(NHK NEWSWEB 2020/10/21)

 

  全日空は、国際線の利用者の回復がすぐには見込めないことから、国際線を今後、需要が回復して再開する場合は羽田空港を優先させる方針を固めたと報じられている。これは国際線の話だが、国内線でも同様のことはあるだろう。関西3空港で考えると、伊丹空港へのシフトが顕著になるのではないだろうか。上記の3空港の旅客数の実績で伊丹空港の減少率が小さいのは、この事情が数字に表れているのではないだろうか。神戸空港でも同様の状況は生じるはずだが、神戸空港スカイマークが拠点を置いており、その点では幸いである。スカイマークは国内線中心であり、国際線のウエイトが高いANAやJALよりは早期の回復が見込めるだろう。

 

 スカイマーク(SKY)は12日、12月1日~来年1月12日の運航ダイヤを発表した。神戸空港発着便は、12月1日に長崎線1便を運休する以外は通常運航(1日46便)に戻す。国の観光支援事業「Go To トラベル」の効果などで需要が回復傾向で、年末年始の帰省にも対応する。

 神戸発着便がほぼ通常運航に戻るのは約9カ月ぶり。(以下略)

神戸新聞 2020/11/12)

 

  新型コロナウイルス禍は、関西3空港の中では関西空港に最も大きな影響を及ぼすと予想される。しかし、神戸空港規制緩和ということを考えると、関西空港が回復しない限り神戸空港規制緩和に対する反対がやまないだろうから、神戸空港の国際化も先送りになるのではないかと予想する。

 

 そんな中で、11月28日に関西3空港懇談会が開催された。 

 関西、大阪(伊丹)、神戸の3空港の役割を官民で話し合う「関西3空港懇談会」が28日、大阪市内で開かれた。新型コロナウイルス感染収束後の需要回復をにらみ、関西空港の就業者1万7千人の雇用を維持する必要性を確認。課題とする関西空港の発着枠拡大と、神戸空港の国際化は検討を継続することを申し合わせた。

 2025年大阪・関西万博に向け、新型コロナの水際対策や関西空港第1ターミナル改修を進めることも確認。財政支援などを求める国への要望書も決議した。

共同通信 2020/11/28)

 

 

 現在のような状況下では、空港の規制緩和などの新たな枠組みを議論することは困難であろう。そのような中で開かれた関西3空港懇談会であるが、おそらくは主たる目的は、関西国際空港への国の財政支援を求めることにあったのだろう。その開催の体裁として、神戸空港の国際化の検討の継続が確認されたということだと推測する。

大阪都構想住民投票のその後(3)

 政令市20市の市長で構成する指定都市市長会(会長・林文子横浜市長)は5日に開催した臨時会議で、かねて指定都市市長会が制度化を求めていた「特別自治市」の議論を加速することなどを盛り込んだ、大都市制度の多様化を求める提言を採択した。市長会の総務・財政部会長を務める久元喜造神戸市長がとりまとめた。今後、総務省など関係機関に積極的に働きかける。(以下省略)

(神戸経済ニュース 2020/11/06)

 

 「特別自治市」とは、政令指定都市が、市域の県税を全て市税に移管し、県が担っている業務も移して、市域での行政を一元化するという都市構想である。2010年5月に開催された指定都市長会議において、指定都市市長会が初めて提案したものであるとされている。

 これは、域内の行政権限と財源を県から市に一元化しようとするもので、ちょうど大阪都構想と逆方向の構想である。ただし、二重行政の解消ということではなく、基礎的な自治体である市の自治の拡充という意味合いを有するものといえるだろう。

 大阪市の例で考えると、二重行政の解消というなら都構想だけでなく特別自治市という選択肢もあるわけで、都構想を推進しようとするならば少なくとも特別自治市との比較衡量が必要だと思うが、そのような検討はされたのだろうか。大阪府大阪市より適正に判断できると、なぜ自明の前提として主張できるのであろうか。

 都構想は地方公共団体自治を縮減するものであり、市民の自治を拡充する特別自治市の方が優れていると考える。では、神戸市を含む政令指定都市は直ちに特別自治市を実現するように取り組むべきであろうか。筆者はこれに対しては、直ちに取り組むべき問題ではないと考える。

 大阪都構想のように、何か制度を変えなければ目的が達成できないという発想は、現在の制度下においても実行が可能である課題についての関心と努力を疎かにし、結果的に実現を遠ざける結果を招きがちだ。大抵のことは現在の枠組みでもできないわけではないから、まずその枠組みの中で事を運ぶべきで、いたずらに大きな改革案を提唱することは、それによる軋轢を招くばかりで、課題解決という観点からも適切ではない。特に現在のようなコロナウイルス対策に全力で取り組むべきときに行うべきことではないだろう。

 今回の都構想についても、住民投票後に大阪市を存続させた上で同様の改革を行おうとしているのを見ると、本当の目的は大阪市からの権限と財源の大阪府への委譲であったのではないかと考えられ、であるとすると、そもそも大阪市の廃止は必要だったのかという疑問がわく。さらに考えると、大阪市の廃止を謳わなければ、もっと実現が容易だったのではないだろうか。大阪市廃止という不必要な要素を含めた大阪都構想は目的の実現のためのものではなく、「歴史的大改革」という看板を掲げたいがための構想であったのではないかという疑念を抱かせるものだ。 

 

大阪都構想住民投票のその後(2)

 大阪都構想に対する住民投票は反対多数の結果となったが、大阪府の吉村知事は住民投票の余韻も冷めない11月6日に、二重行政の解消が住民投票で示された民意であるとして、都構想に代わって広域行政の「一元化条例」の制定を目指す考えを表明した。

 大阪都構想の本質は「大阪市民の保有する権限と財源の縮小」ということであるから、「一元化条例」は「対案」ではなく、都構想そのものだ。住民投票で否決された案を、自分たちの都合のよい勝手な解釈で、再び、住民投票すら通さずに、俎上に乗せようとするものであり、非難は免れないだろう。

 大阪市議会は定数が83人で、大阪維新の会が40人、自由民主党・市民クラブが19人、公明党が18人、日本共産党が4人、市民とつながる・くらしが第一2人となっている。大阪維新の会は最大会派であるが、単独では過半数にはいたらない 。しかし、今回の住民投票のように公明党が賛成に回ると本条例は可決が可能な状況だ。ネット上では、多数決が議会制のルールであるから当然のことだ、嫌なら次の選挙で落とせばよいだろうという声もあるようだ。しかし、市長や市議会議員は市民の信託を受けて市民の代理人として市民の利益のために行動するのが本来の役割のはずだ。市民の権利を勝手に縮減するのはありえない。個別の問題ならともかく、府と市の二重行政を理由に包括的に大阪市の権限と財源を大阪府に献上しようとすることは大阪市民に対する背任行為と言えるだろう。

 大阪都構想でも疑問に思っていたが、なぜ二重行政の解消のために、住民に身近な基礎的地方公共団体である大阪市大阪府に権限と財源を献上しなければならないのだろうか。大阪市より大阪府が適切な意思決定ができるという保証はあるのだろうか。二重行政の解消というのであれば、大阪府から大阪市に権限と財源を移譲するという方法があるし、その方が現行の地方自治法にも則した考え方だ。現に、大阪市以外の政令指定都市では、そのような考え方が主流だ。

 それはさておき、この問題は、どちらが大阪市の住民サービスが上がるか、どちらがより成長するかという問題ではない。大阪市にかかる行政の権限と財源の決定権の帰属の問題なのだ。大阪市にかかる行政の権限と財源を大阪市民が守るのか、大阪府に献上するのか、その決定権を誰が握るのかというのが核心的な問題なのだ。

 

 ところで、大阪市民にとって不利益を及ぼす大阪都構想はなぜ提唱され、進められてきたのだろうか。次は筆者の仮説である。

 大阪維新の会は「維新」を標榜しているものの、実はなんら我が国の具体的な課題を解決するプランなど持っていないのだ。経済政策にしてもせいぜい万博やカジノの誘致ぐらいで、本来、何かを行おうとして政権を握ったわけではない。マスコミの寵児が、何かをしてくれるのではないかという人々の期待を受けて、当選してしまったものだ。

 何かを「敵」に仕立て上げ、その敵が抵抗するから改革が進まないというストーリーで、その仮想敵に対して戦う姿勢を見せることによって民衆の支持を集める「劇場型」が彼らの政治手法なのだ。その敵が大きければ大きいほど、実際にそれが実現するのに時間がかかるし、その間、自分たちの仕事がうまくいかなくても、それを理由に責任転嫁をすることができる、都構想は大変都合のよい隠れ蓑だったのだ。遠い遠い先に素晴らしい世界がある、そこに至ることの希望を振りまき、人々に期待を持たせ、現実の世界では課題の解決は先送りされる。しかし、それはすべて自分たちに抵抗する守旧派が原因だと。

 彼らにとって仮想敵の存在は不可欠で、今回の住民投票で敗れたことは目標の喪失で、存在意義に関わることだ。だから、都構想が否決されたあとも、看板を掛け替えて、闘いを継続させようと目論んでいる。

 しかし、もう、これも終わりだ。いつまでも、架空の劇場に時間を費やすべきではない。大阪都構想は人々の目を欺くものだ。この問題に、どれだけの時日を費やしただろう。いたずらに対立をあおるのではなく、社会の構成員が手を携え、真に人々の平和と幸福の実現のための政治を行うべきだ。

 社会において、権限や能力が誰かに一元化されていることはあまりない。逆に、権限や能力は社会に分散していることが普通だ。だから、社会で物事を進めるためには社会のそれぞれの主体の相互協力が欠かせない。

 自分たちと考えが違う者がいるから、自分たちの幸福が実現できないと考えるべきではない。自分たちと考えの違う者を排除することは独裁の第一歩だ。忍耐と譲歩、協力と分かち合いの中で、物事は進んでいくのだ。破壊することばかりに血道を上げるのではなく、相互理解と協力関係、創ることにこそ精力を傾けるべきだ。政治は、破壊することではなく、信頼と関係の創造であるべきなのだ。

 

 

新型肺炎の流行について(39)

 新型コロナウイルス感染症は夏以降の「第2波」が収まらないまま、流行の波がやってきた。「第3波」との見方もあり、1日あたりの国内の感染者数は13日も過去最多を更新。感染が広がりやすくなるとされる冬を前に、経済を守りながら感染を抑えられるのか。予断を許さない状況だ。

朝日新聞 2020/11/13)

 

 新型コロナウイルスの新規感染者数は、しばらく低位で安定していたが、気がつくと第2波のピークを越え、過去最多を記録した。

f:id:firemountain:20201115094019j:plain

(出典:厚生労働省HP)

 

 やはり、気温の低下が影響しているのだろうか。新規感染者数は10月の終わり頃から急激な増加となり、まさに指数関数的増加の様相を呈している。ひとたび増え始めると連鎖が連鎖を呼び、医療の対応が追いつかなくなり、制御不能、まさに爆発といえる状態に陥る可能性がある。それがこのウイルスの恐ろしいところだ。

 

 経済活動への影響が、次々と報じられている。

 冬のボーナスは、全日本空輸ANA)では見送り、日本航空では例年の4分の1、JR東日本では3割減額と大幅な減額が伝えられている。また、紳士服大手の青山商事 全店舗の2割にあたる約160店舗を閉店、ファミリーレストラン最大手「すかいらーくHD」は約200店を閉店するなど、大規模な店舗の閉鎖も伝えられている。

 また、兵庫県が、一般事業の経常的経費や政策的経費の上限を、20年度の当初予算に比べて2割抑制するなどを柱にした予算編成方針を発表している。コロナウイルスによる大幅な税収減に対応した「緊急特例的な措置」とのことだ。

 このように、新型コロナウイルス禍では、一次的な営業の不振だけではなく、次から次へと、後を追うように経費の縮減に努める個々の企業の対応が続いており、これらがさらなる需要の減退を招く累積的な経済の縮小過程が続いている。その中にあって、行政側も税収減にともなって経費の大幅な予算の削減方針を打ち出している。個々の企業は、独立の経営体として収支の均衡を図るのは当然で、やむを得ないことだ。しかし、行政までがそれに合わせて経費を節減すると、経済は歯止めを失って悪循環が止まらなくなってしまう。この負の連鎖を防ぐ最後のアンカーが政府であり、政府は国債の発行や通貨発行権を使って民間とは逆向きの需要確保のための施策を行わなければならない。単に税収に合わせて施策を行うのは無策で、公的セクターの役割を理解しない愚かな行為だ。地方自治体は、政府に実情を訴え、財源の確保を働きかけるべきだ。

 

 また、婚姻届、出生数への影響も報じられている。

 厚生労働省は21日、新型コロナウイルスの感染が広がった今年5~7月の妊娠届の件数が20万4482件だったと発表した。前年同期比11・4%減で、政府の緊急事態宣言の発令が続いた5月は同17・1%とマイナス幅が最大だった。感染を恐れ、届け出るのが遅れたり、妊娠するのを避けたりしたためとみられる。5月以降に妊娠届を提出した人の多くは来年出産するため、86万人と過去最低だった2019年の出生数を来年は大きく下回り、少子化が加速する可能性もある。

毎日新聞 2020/10/21)

  新型コロナウイルス禍は、社会に大きな爪痕を残しつつある。

 

  世界では、11月13日現在で、感染者数累計 5,273万人、死者129万人に上っている。特にヨーロッパでは爆発的な感染が発生しており、たとえばフランスでは、感染拡大が一時落ち着いていた7月末時点で 感染者数累計 225,197人であったものが、8月から再び拡大を始め、11月12日現在で 1,915,282人と、約3ヶ月で8.5倍にもなっている。我が国では、11月12日現在で感染者数の累計は 113,655人であるが、十分警戒が必要だ。

 冬はまだ始まったばかりだ。今一度、一人一人が感染の拡大防止に注意をしなければならない。