大阪府が大規模アリーナを建設

 大阪府が、大阪・吹田市万博記念公園に計画している大規模アリーナについて、吉村知事は、建設から運営までを担う事業者に、日本とアメリカの企業3社によるグループを選定したことを発表しました。(中略)


 提案では、アリーナを中心に、商業施設やホテル、オフィスビル、それに共同住宅などを整備するとしています。
このうちアリーナは、最大収容人数が1万8000人と西日本最大級で、フィギュアスケートの世界選手権や、NBA=アメリプロバスケットボールの公式戦など、国際的なスポーツ大会の誘致が可能な施設にする予定です。

(2001/5/19 NHK NEWSWEB)

 

  5月19日、大阪府が大阪・吹田市万博記念公園に計画している大規模アリーナの建設・運営事業者を選定したと発表した。アリーナは、最大収容人数が1万8000人と西日本最大級で、国際的なスポーツ大会の誘致が可能な施設として、2027年秋頃の開業を目標として整備を進める。事業予定者は、三菱商事都市開発株式会社、Anschutz(アンシュッツ) Entertainment Group, Inc.(AEG)、関電不動産開発株式会社で構成される共同企業体で、このうちAEGは世界有数のアリーナ、エンターテインメント・ディストリクト開発、スポーツ、音楽興行の総合企業で、ローリング・ストーンズテイラー・スウィフトセリーヌ・ディオン等の世界ツアーを手がけ、欧米でプロ・スポーツチーム(ロサンゼルス・レイカーズ等)を所有し、数多くのアリーナ、大型劇場の所有・運営の実績を持つ企業とのことだ。

 

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(出典 大阪市HP)

 

 2万人収容クラスの大規模アリーナについては兵庫県も建設を目指しているが、筆者はみなとのもり公園に設置するのがよいと考えている。

 万博記念公園とみなとのもり公園のアクセスを比較をするとどうだろう。

 万博記念公園は、京阪神の中央部に位置するが、都心部からは離れた場所にある。そのため、公共交通機関としては大阪モノレール万博記念公園駅が最寄り駅ということになる。それでは、京都、大阪、神戸の都心からアクセスする場合、それぞれどの程度の時間がかかるのだろうか。

(1)万博記念公園

(神戸)

 三宮 十三 蛍池 万博記念公園 1時間0分 760円

(大阪)

 梅田 南茨木 万博記念公園 36分 520円

 新大阪 千里中央 万博記念公園 35分 570円

 伊丹空港 万博記念公園 18分 380円

(京都)

 河原町 高槻市 南茨木 万博記念公園 49分 570円 

 

(2)みなとのもり公園

(神戸)

 三宮から徒歩

 新神戸 三宮 2分 210円

 神戸空港 貿易センター 23分 290円

(大阪)

 大阪 三ノ宮 21分 410円

(京都)

 河原町 十三 三宮 1時間17分 630円

 

 これを見ると、みなとのもり公園の交通アクセスは抜群に優れている。

 大阪都心と比較しても、料金も時間もみなとのもり公園の方が早くて安い。

 長距離交通機関とのアクセスにおいても、みなとのもり公園は優れている。長距離交通機関とのアクセスがよいということは、広域、日本中から人々が参集し、散会するのに便利だということだ。23時まで運用が可能な神戸空港とのアクセスがよいこともセールスポイントだ。というのは、通常、コンサートやスポーツイベントは、21時頃まで行われることが多い。この場合、伊丹空港では運用時間を超過してしまうから、イベント終了後に飛行機に乗って帰るということができない。しかし、神戸空港であれば、イベント終了後に飛行機に乗って帰るということも十分可能だ。さらに、神戸だと、都心部に隣接しているから、そのままホテルで宿泊することもできる。

 また、万博記念公園のアクセスは大阪モノレール1本だから、JR、阪急、阪神の本線が隣接するみなとのもり公園の輸送力は圧倒的に優れている。

 このように考えると、神戸にこそ、こうした施設を建設すべきであって、それが、西日本全域の人々の利便につながるのだ。これほどすばらしい利便性が得られる場所は他にはない。どうして、このようにすばらしい立地条件であるのかというと、そこが神戸港という世界有数の、日本を代表する港湾の鉄道貨物基地があったからだ。日本中からの貨物を集積する場所であったからだ。しかるに、現在、みなとのもり公園は、昼休みのジョギングに利用されているぐらいで、とてもその価値に見合った利用をしているとは言えない。その貴重な立地を活かした施設の立地を考えることが、神戸の今後の発展につながるだろう。 

新型肺炎の流行について(44)

 5月12日に放送された読売テレビの報道番組「かんさい情報ネットten.」に、新型コロナの感染状況やワクチン接種の取り組みをテーマに、久元神戸市長が出演した。その中で、番組側が、兵庫県大阪府京都府と並べて神戸市の病床使用率等を示し、一部の項目については大阪府よりも厳しい数字のものがあることを挙げて、神戸市内の感染状況が大阪市などの「他都市よりも”ひっ迫”」していると指摘したとのことだ。筆者はこの放送を視聴していないが、番組側のコメンテーター等が神戸市長を責め立てるような雰囲気だったようだ。

 

 番組内で示された数字が次の数字である。(フリップには、内閣官房調 として、5月10日時点、神戸市は5月11日時点であることを表示)

           兵庫     神戸市    大阪     京都

病床使用率      92%    92%    87%    69%

重傷者病床使用率   82%    74%    89%    45%

陽性率        15.3%  10.3%  6.6%   9.2%

新規陽性者数     48人    62.8人  67人    33人

(10万人あたり)

 

 確かに、病床使用率は神戸市の方が大阪府より高くなっている。

 しかし、この数字だけをもって、神戸市の感染状況が大阪市より「ひっ迫している」と言えるのだろうか。

 

 厚生労働省が発表した5月12日現在の資料を見てみよう。

 

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(出典:厚生労働省HP)

 

 これを見ると、まず、PCR検査陽性者数の段階で、兵庫県の4,595件に対して大阪府は21,900件と、大阪府の感染者数は圧倒的に多い。次に、自宅待機者数を見ると、兵庫県が1,735件に対して、大阪府は15,031件と8倍以上の数字になっている。これを見る限り、神戸市の方が大阪市などの「他都市よりも”ひっ迫”」しているということは、どうしても言うことはできないだろう。そして、それは、一般の人々の理解に合致しているのではないだろうか。

 

病床逼迫 大阪の死者突出 ~ コロナ 4月以降は全国の3割超

 大阪府新型コロナウイルス感染者の死者が急増している。5月に府が発表した死者数は月別の過去最多となり、15日時点で計487人。朝日新聞の集計では、府が「第4波」とする3月以降、府内の死者数は全国の2割超を占め、4月以降では3割を超える。府は感染者の急増が死者増加の要因とみるが、病床逼迫(ひっぱく)の危機的状況も背景にあると見られる。

朝日新聞 2021/5/16)

 

 にもかかわらず、どうしてわざわざ、テレビ放送で、神戸市長を引っ張り出してきて神戸市の方がひっ迫していると言うのか理解に苦しむところだ。また、神戸市だけ数字を示して、大阪市の数字を示していないところも恣意的な印象を受ける。(※ 大阪市が公表している数字は次のとおり)

 

入院・療養状況

5月15日現在

使用率(入院・宿泊療養者数/確保病床・部屋数)

 重症病床       95.5%(336 (※1) /352 (※2)) 
 軽症中等症病床    73.5%(1669 (※1) /2270 (※2))

 宿泊療養施設      38.7%(1425/3680)


(出典 大阪市HP)

 

 さらに、番組では神戸市がワクチンの大規模接種会場をハーバーランドに準備を進めていることについて、コメンテーターが「どうしてハーバーランドみたいな遠い所を高齢者の集団接種会場にしたのか」と神戸市長に難詰したようだ。神戸市長は直ちに反論をしたようだが、この質問はあり得ない。ハーバーランドは神戸市の都心に位置し、JR、阪急、阪神、市営地下鉄からもアクセスのよい、市内有数の交通至便の位置にあることは、神戸市民なら誰もが知っていることだ。番組は「報道番組」らしいが、これではその名に値しない。

 神戸市長をわざわざ出演させたあげく、事実と異なることを並べ立て、アウェイの状況で責め立てた、この番組の意図は何だったのか。現在、大阪府下ではコロナウイルスが猖獗を極め、その原因の一つとして2回目の緊急事態宣言を早期解除したことが指摘されており、大阪府知事に対してこれまでの対応、言動を含めて多くの批判が寄せられている。その批判を和らげるために、大阪はよくやっている、大阪よりももっとひどいところがあるとして、神戸市をスケープゴートにしようとしたのではないのだろうか。そのために、事実をねじ曲げ、印象を操作しようとしたのではないか。そのようにすら思えてしまう不自然な番組内容だ。

 以前より、在阪のマスコミが、大阪府知事を頻繁にテレビ出演させるなど、特定政党を殊更に持ち上げる姿が見られた。政界から引退したはずの前市長をコメンテーターとして出演させ、御意見番のように特別の発言権を与えてその主張を流布させている。公平中立であるべき放送局の姿勢としていかがなものか。

 

 この番組と前後して、神戸市に関する話題が巷を賑わせた。

 神戸市は7日、同市長田区の介護老人保健施設で先月中旬以降、入所者と施設職員計133人が新型コロナウイルスに感染する大規模なクラスター(感染者集団)が発生し、このうち入所者25人が死亡したと発表した。死亡者のうち23人は症状悪化後も入院先が見つからなかったという。

 市は早い段階でクラスターと認識していたにもかかわらず、この日まで発表していなかった。(以下略)

(2021/5/7 産経新聞

 

  神戸市は12日、新型コロナウイルスワクチンの集団接種会場で、冷温保管すべき米ファイザー社製のワクチンを長時間常温に置く管理ミスがあり、960回分が使用できなくなったと発表した。近く廃棄するとしている。

(2021/5/12 産経新聞

 

 ネット上では、これらの報道に対して、神戸市に対する不信感をあおり立てるようなコメントも一部に見られたが、全般的には冷静な反応であったように思う。 多くの市民は保健所行政がきわめて厳しい環境の中で悪戦苦闘を続けている状況について理解を示しているように思う。

新型肺炎の流行について(43)

 4月25日に東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象に、3回目の緊急事態宣言が発令されたが、その後、過去3回の緊急事態宣言の場合に見られたような、新規感染者の急速な減少という効果は現れず、高止まり、横ばいの状態にとどまっているように見える。従来型とは異なるイギリス型の変異型ウイルスの影響があるものと思われる。

 そんな中で、神戸では老人保健施設で大規模なクラスターが発生したと報じられた。

 神戸市は、市内の介護老人保健施設で4月中旬から7日までに、入所者と職員、合わせて133人が新型コロナウイルスに感染し、このうち入所者25人が死亡したと発表しました。

 神戸市によりますと、長田区の介護老人保健施設「(施設名)」で、4月14日に90歳以上の入所者1人が新型コロナウイルスに感染していることが判明しました。

 その後、ウイルス検査を行ったところ、感染が次々に確認され、7日までに入所者97人、職員36人の合わせて133人の感染が確認されました。このうち、入所者25人が症状が悪化して死亡したということです。

(2021/5/7 NHK NEWSWEB)

 

 まったく恐ろしい威力だ。新型コロナウイルスが持っている恐ろしさをまざまざと見せつける事例といえるだろう。 

 新型コロナウイルスは、いったん我々の環境の内側に入り込むと、それを排除することは至難であり、その強力な感染力から逃れることは非常に困難だ。防護具を装備していても感染してしまうことがあるぐらいだ。やらなければならないことは、いち早く感染者を発見し、隔離し、安全なエリアと危険なエリアを明確に分別することだ。コロナウイルスは人を襲う冷酷なエイリアンのようだ。昨日までは、仲間であったものが、いったん感染してしまうと、その感染者がさらなる感染を招く危険な存在となってしまう。コロナウイルスへの対抗策は、基本的には検査による感染者の発見と隔離だ。それはまるでエイリアンとの戦争のようだ。ウイルスに捕捉されるか、我々がウイルスを殲滅するか。そこにはウイルスとの共存などということはあり得ない。

 そのような、新型コロナウイルスと戦う最前線の姿を考えると、「ウィズコロナ」という言葉には強い違和感を感じざるを得ない。

「ウィズコロナ」または「withコロナ」は、新型コロナウイルスが(少なくとも短期的には)撲滅困難であることを前提とした新たな戦略や生活様式のこと。2020年5月末に東京都知事が言及したことにより、比較的よく知られる言葉となった。

ウィズコロナという言葉には、「新型コロナウイルスの流行は多かれ少なかれ良かれ悪しかれ世の中に変革をもたらした」「流行する以前の社会に完全に戻すことはもはや不可能である」という認識が含まれる。

新型コロナウイルス感染症によって変わったこれからの社会」を指す言葉としては、「ウィズコロナ」と並び「アフターコロナ」という表現もある。

(出典 「新語時事用語辞典」)

  この言葉には、どこか、自分が感染することを想定していない、気楽な他人事な印象を受ける。周囲にはウイルスが存在するが、マスクや手指消毒の感染防止対策さえ行っておれば感染することはない、そうやってウイルスと共存する社会を受け入れようと言っているように思える。むしろ、新型コロナウイルスをICTを活用した新しい生活、新しい時代を呼び寄せる前向きなものとして捉えている。

 「ウィズコロナ」のこの気楽さが、我が国の感染対策の中途半端さ、感染対応の緩みにつながっているように思う。

 今回のコロナウイルス禍を「戦争だ」と呼ぶ人もいる。もし、我が国の政治家などの指導者が「ウィズコロナ」という言葉を普及させなかったならば、我が国のコロナウイルスとの戦いの様相はかなり違ったものになっていたのではないだろうか。

 

新型肺炎の流行について(42)

 大阪、兵庫、京都を対象とする2回目の緊急事態宣言(1月13日発令)は3月1日に解除されたが、それから1ヶ月もたたないうちに再び感染が拡大し始め、4月に入ると急拡大を見せるようになり、第4波襲来の状況となっている。これを受けて、4月25日、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象に、3回目の緊急事態宣言が発令された。兵庫や大阪では、1日の感染者数が、12月からの第3波の倍に相当している。重症の患者の発生は病院の受け入れ能力を超える状態となり、病床待ちの自宅待機者が多数発生し、待機中に命を落とす者も発生している。

 今回の第4波の特徴は、感染拡大のスピードが速いことと、重症化しやすく、高齢者以外でも重症化する傾向があることだ。今回の感染拡大では、イギリス型などのいわゆる変異株が広がっており、感染の傾向が異なるのはそれが影響しているようだ。

 変異株の脅威は、海外でも大きな問題となっている。インドではインド型が猛威を振るい、いったん収束を見せていたにもかかわらず、感染者が急拡大し、一日の感染者が40万人を超えるという凄まじい状況となっている。病院で治療を受けるどころか、酸素吸入すら十分にいきわたらず、命を落とす者が続出し、遺体を荼毘に付する光景があちらこちらに現出する、さながら地獄絵図の様相を呈している。変異株の感染力の強さの原因として、アジア人が保有している免疫力をすり抜けてしまう性質をもっていることを挙げる説がある。

 これまで感染の中心は欧米諸国であり、アジア諸国の感染状況と比べると桁違いの状況であった。その原因が何であるのか、よくわからないとされていたが、こうした人種による免疫力の相違が影響していたのかもしれない。しかし変異株が広まれば、我が国でも、これまでとは桁違いの感染拡大ということもあるかもしれない。

 

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 変異株の脅威に対しては、何よりも水際で防御し、国内に持ち込ませないということが最重要であろう。では、我が国の検疫は十分な体制がとれているのだろうか。

 例えば、インドからの入国であると、次の措置が取られている。

(1)出国前72時間以内に実施した検査の陰性証明書の提出

(2)入国時に空港で検査を実施、陰性の場合でも検疫所が確保する宿泊施設での待機

(3)入国後3日目(入国日を含まない)に再検査、陰性の場合は宿泊施設を退所

(4)入国後14日間の自宅待機と公共交通機関の不使用の誓約

 

誓約書の提出について|厚生労働省

 

 この検疫体制で十分といえるだろうか。

 新型コロナウイルス対策の困難さの理由は、感染者であっても無症状者が多いこと、検査結果の偽陰性の確率が高いことにある。無症状の場合、検査を行う場合には一定の時間を空けてから行うことが推奨されており、一般に、ばく露後 4 日以上経過してから検体採取することが推奨されているようだ。そうだとすると、上記(2)の空港での検査は正しい検査結果が得られない可能性が高く、上記(3)の入国後3日目の検査も、同様の可能性がある。これを突破してしまうと、上記(4)の14日間の自宅待機となるが、単に誓約だけでは本当に履行されるのかどうかの保証がない。

 そもそも、我が国は周囲が海で隔てられており、陸続きの国と比べると遙かに水際対策は容易なはずだ。新型コロナウイルスは人を介して感染するものだから、徹底した水際対策を講じれば変異株の国内流入を阻止することができるはずだ。しかし、いったん国内に入り込んでしまうと、国民の行動を制限して、感染ルートを洗い出す労力が必要となり、それを排除しようとすることは膨大な努力と犠牲を伴う。だから、最大の対策は水際対策であるはずだ。その要は入国時の検疫体制にあるに違いない。それが完璧に機能するならば、その後の感染対策は理屈上不要となると言ってよいぐらいだ。しかし、上記の対策を見ると、これまで新型コロナウイルスについて得られている医学的知見に照らして不十分であり、不徹底であるといえるだろう。水際対策は原因に対する合理的な対策であり、ここにこそ資源を集中して新型ウイルスの国内への侵入を阻止すべきだろう。

 すなわち、水際対策を徹底しようと考えたら、自主的な自宅待機を14日間させるのではなく、対象となる入国者全員を一律に宿泊施設に隔離して待機させるべきだ。たとえば、空港の周辺に仮設の宿泊所を建設しても、日本国内の経済活動全体を抑制することと比べると遙かに容易であるし、犠牲も少ないに違いない。現時点であれば空港周辺のホテルを棟ごと借り上げて、専用の宿泊施設にあてる方法もできるだろう。そうした大規模な対策は、平時では考えられないような対策であるだろうが、それを行うことは必要なことだ。問題は物理的な現象なのだから、希望的な観測は許されず、ここまで頑張ったのにという心情の問題でもない。しかし、物理現象だからこそ、その要点を押さえた対策をすれば、必ずそれに見合う結果が得られるはずだ。

  前例にこだわらず、予算にこだわらず、原因に対して正しく対策を行うこと、原理に即した対策が必要だ。それが行われないことに、我が国が抱える他の諸問題にも共通する課題があるように思われる。

 

 

神戸港に1万人収容のアリーナ整備へ

 神戸市は26日、神戸港の新港突堤西地区(同市中央区)にある第2突堤の再開発事業で、スポーツや音楽などの興行開催を念頭に、多目的アリーナの整備を提案した企業連合体を優先交渉権者に選んだと発表した。アリーナは1万人規模の収容能力を持ち、兵庫県内では最大、関西圏でも有数の施設となる。民設民営で、2024年度中のオープンを目指す。

(2021/3/26 神戸新聞

 

 神戸市の発表によると、このたび整備されるアリーナは、プロスポーツ興行、国内外トップアーティストによる音楽興行、MICE など、多様な興行や演出に対応できる、関西圏では数少ない1万人超規模(固定席、可動席で8千席)の世界水準の最先端アリーナという計画である。報道によると、バスケットボール男子Bリーグ2部(B2)の「西宮ストークス」が24~25年シーズンからこのアリーナへ本拠地を移転させるそうだ。

 

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 まずは、大規模アリーナが神戸に実現することについて歓迎したい。 今回のアリーナは、神戸の都心に隣接し、神戸港を臨む開放的で美しいロケーションの下、コンサートやイベントなどに人気を博することになるだろう。

 

 神戸の都心部への大規模アリーナの設置については、これまで何度も述べてきた。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

 神戸にアリーナを設置をする意義については次のとおり考える。神戸は関西圏の西部に位置し、中国、四国、九州地方との交通の結節点であり、西日本全域を見渡した時に、最も交通手段が集中している都市だ。つまり、このエリアで何かイベントを開催するとすれば、そのエリア内の人々が集合するのに最も便利な都市である。したがって、神戸に集客施設を設置することは理にかなっており、そのエリアの人々全体の便益の向上に寄与することになる。神戸が行うべき、都市としての貢献とは、神戸市内にある文化や魅力、観光資源の提供ではなく、「場」の提供なのだ。それによって、エリアの人々の利便性の向上とともに、場を提供する神戸にとっても、多くの人々が集い、そこから派生する消費や飲食、宿泊、サービスなどが都市の経済を潤すことになると考えられる。神戸は関西圏、中国、四国、九州など西日本全域、さらには海外も視野に入れ、これらの人々を対象とした集客都市を目指すべきだ。

 

 ここで、先に兵庫県知事が発表したアリーナ構想との関わりを考えてみたい。2019年12月に井戸知事は、大規模アリーナ(室内競技場・多目的施設)の建設を検討する方針を明らかにしていた。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

 今回のアリーナ計画は、この兵庫県の構想が実現したものなのだろうか。その答は知事の会見の質疑の中にある。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 この会見の中で、井戸知事は次のように答えている。

 

 まだ具体的な詳細が決まっているわけではありません。ともあれ、大きなアリーナがないと、世界大会等も誘致できません。興行的に言うと2万人以上ぐらいの観客が入れないと成り立たないとも言われているようです。(中略)国際大会を誘致できるような拠点施設を兵庫に1つ持つ必要があるのではないかということを、関係者が非常に強く熱望されているところです。

 

 1万人では小さいです。横浜はもう1万7000人ぐらいのアリーナがありますので、それで1万人規模でもそれなりの意味があると思うのですが、兵庫の場合は、基本的にアリーナというのは、神戸市総合運動公園の横にある神戸市のアリーナとワールド記念ホールですので、いずれも5000人から6000人。もっと詰め込んでも8000人ぐらいですので、それではなかなか国際競技大会は、呼びにくいという実情があります。ですから、2万人以上の規模が良いのではないかと思っています。

 

 つまり、兵庫県知事が構想していたアリーナは、世界大会等の誘致を目標としての構想であり、そのためには1万人では規模が小さく、2万人規模のアリーナを構想していると考えられる。

 

 以上から、今回、神戸市が発表したアリーナは兵庫県の構想に基づくものではなく、別の目的の下に計画されたものと考えられる。

 

 今回の神戸市の計画によって、兵庫県のアリーナ構想は無用となるのだろうか。兵庫県の構想と神戸市の計画とは、目的も用途も異なり、別物と考えるべきだろう。現在の新型コロナウイルス禍の状況では、こうした世界大会の誘致も夢物語のように思えてしまうが、いつの日か災厄は克服され、再び自由に人々が往来できるようになるだろう。その日がやってくることを想定して、兵庫県のアリーナ構想もぜひ実現させてほしいものだ。

 では、兵庫県のアリーナの設置場所はどこが適地であろうか。これについても、過去に提言したように、みなとのもり公園が最適地であると考える。今回の新港地区のアリーナとみなとのもり公園を地図で眺めてみると、新港地区は主要ターミナルである三宮駅とはやや距離がある。ざっと2キロメートル近くの距離があり、これは徒歩では少し遠すぎる。となれば、なんらかの交通手段が必要となるが、新登場の連節バスでは輸送力が貧弱である。対して、みなとのもり公園は、ターミナルから約7~800メートルほどであり、徒歩圏として充分である。主要ターミナルから交通手段が不要であれば、数万人が一斉に入退場をしても交通が障害となることはないだろう。

 

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神戸は国際都市か

 かつて神戸は世界有数の国際貿易港を有し、我が国を代表する国際都市を標榜していた。しかし、現在、神戸港はかつての輝かしい地位を失い、国内の一港湾となってしまった。他方、近年のインバウンドブームでも、その動きに乗り遅れ、外国人観光客の姿を見かけることも少なく、かえって、地方へ旅行した際に、外国人観光客があふれている姿を目の当たりにすることになり、かつての誇りも消え失せてしまうようだ。

 久元神戸市長も、「まず神戸は国際都市だという、あぐらをかいたような感性を捨てないといけないと思う」と述べたと伝えられている。(神戸経済ニュース 2020/1/1)

 「国際都市」とは何かという議論もあるが、一般的には「世界各国の人々の居留・往来などが多い都市。国際的な大都会。」(デジタル大辞泉)と理解されている。とりあえず、外国人の居留、居住の状況は一つの指標になりうるものであろう。そこで、大都市の外国人の居住状況を見てみよう。資料は「大都市比較統計年表(平成30年度版)」で、数字は平成30年12月末現在である。

神戸市:大都市比較統計年表 平成30年版

 

 

(大都市における外国人住民の状況(実数))

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(大都市比較統計年表(平成30年度)から筆者が作成)

 まず、人数で見ると、神戸市は、人口は全国で第7位であるが、外国人については、東京、大阪、横浜、名古屋に続く第5位である。全般的には、大都市圏、特に、首都圏、名古屋圏、関西圏の三大都市圏の都市が上位を占め、これに対して、いわゆる地方ブロック都市を見ると、福岡8位、広島12位、札幌15位、仙台18位と順位は低い。

 神戸市の状況をさらに詳細に見ると、国籍の地域別は、アジア州5位、ヨーロッパ州6位、北アメリカ州6位、南アメリカ州11位、オセアニア州4位、アフリカ州5位となっている。南アメリカ州の順位が低いのは、浜松市が第1位になっているように、特定の生産現場で南米からの労働者が集中的に働いていることなどが要因と考えられる。

 元の統計では、国籍別の人数も表示されているが、その中で、インドが京阪神の3都市の中で神戸が最大の住民数となっているのは特徴的だ。

 

 これを全体の人口に占める比率を取ってみるとどうなるだろうか。

(大都市における外国人住民の状況(比率))

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(大都市比較統計年表(平成30年度)から筆者が作成)


 全人口に対する比率で見た場合、神戸は大阪、東京、名古屋、京都に次ぐ第5位であるが、国籍の地域別では、アジア州4位、ヨーロッパ州4位、北アメリカ州3位、南アメリカ州11位、オセアニア州2位、アフリカ州4位と、ほとんどの地域で順位が1~3位繰り上がり、これから考えると、神戸は外国人住民の比率が全国有数に高い都市であることがわかる。

 

 外国人住民の人口という切り口で都市を見てみた場合次のことがわかる。

(1)外国人住民は、三大都市圏に集中している。地方ブロック都市は外国人住民については、比較的少ない。神戸は外国人住民の数が多く、三大都市圏の特徴を示している。

(2)神戸は、外国人住民の人口に占める割合が全国有数に高い。これは、おそらく幕末の開港後に外国人居留地が建設され、雑居地がそれを囲むように発展し、北野町の異人館街、南京町、インド人街などが形成された神戸の歴史が反映しているのだろう。その歴史の中から、外国人住民の社会が育ち、彼らの生活を支える教育施設、宗教施設、食料品店、飲食店などの社会的インフラが定着したということが現れているのではないだろうか。実際に、神戸の都心部では日常的に、外国人の子供たちが通学する姿や、親子連れで買い物をする姿、飲食店で食事を取っている姿を見かける。それは特別なものではなく、ごく普通の日常の光景だ。そして、それは観光地で見る外国人たちの姿とは異なるものだ。

 

 神戸の街は、やはり外国人の住民にとっても暮らしやすい場所なのに違いない。気候が穏やかで風光が明媚で、古めかしいしきたりもなく、なんでもおおらかに受け入れる風土だ。

 そうした長年に渡り形成されてきた外国人住民が持ち込んだ社会インフラは神戸の街の財産といえるだろう。都市の形成、発展のきっかけは基本的には交通の問題だと考えられるが、ひとたびそうしたインフラが形成されると、それ自身が人々の誘因となる。神戸の今後の発展の一つの鍵は、この外国人住民が持ち込んだ社会インフラで、これをいかに発展させていくかが重要ではないだろうか。

 神戸は、一見、周囲と同質化してしまったかのように見えるが、やはり都市の生成の歴史が根強く残っている。都市の歴史を理解し、自分たちの特徴を伸ばしていくなら、再び神戸が世界の人々が訪れ交流する舞台として注目を集める日が来るだろう。

 

大阪都住民投票のその後(4)

 大阪府・市は22日、大阪市がもつ都市計画の7分野の権限を府に移管する方針を正式に決めた。「大阪都構想」の代案として、条例案を2月の府・市議会に提出する。吉村洋文知事(大阪維新の会代表)は当初、都構想並みに市の権限を幅広く府に移す考えだったが、大規模な移管は他党の協力を得にくいと判断し分野を大幅に絞ったとみられる。4月1日施行をめざす。

日本経済新聞 2021/1/22)

  

 昨年11月1日に実施された大阪都構想実施の賛否を問う2度目の住民投票は、再び反対多数の結果となり、それを受けて、推進派からは都構想断念の表明があったばかりだ。ところが、その舌の根も乾かないうちに、その一部を実施しようとする条例が大阪府大阪市議会に提出されることになった。

 大阪都構想の本質は、大阪市の権限と財源を大阪府に委譲することにある。今回の条例では、大阪都構想で進めようとした権限委譲 427事務のうち、その約半数にあたる、まちづくり 90事務、都市基盤整備 108事務の 198事務が大阪市から大阪府に権限委譲されるとのことだ。これは、住民投票で否決され、断念したはずの大阪都構想の一部をそのまま実行しようとするものに他ならず、これを進めようとしている推進派のご都合主義と民主主義軽視の姿勢を物語るものだ。

  しかし、なによりも疑問に思うのは、大阪市民の利益を代表して行動すべき大阪市大阪市議会が大阪市の権限や財源を包括的に放棄することに没頭していることだ。これは「背任(=他人のためにその事務を処理する者が、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えること)」というべきだろう。

 

 現在、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発せられ、多くの人々が不安を抱え、経済的な困窮に見舞われている。特に大阪府は感染者数、死者の数とも全国有数の状況となっており、人口千人あたりの死者数に至っては東京よりずっとひどい状況(東京都0.07人 ⇔ 大阪府 0.11人)だ。その混乱の最中に、あえてこのような重大な条例の可決を推し進めようとすることは市民の理解が得られるのだろうか。

 

都道府県別 新型コロナウイルス感染者数等(2021/02/05 24時時点))

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厚生労働省HP 「各都道府県の検査陽性者の状況」から筆者が加工)

 

 

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