新型肺炎の流行について(44)

 5月12日に放送された読売テレビの報道番組「かんさい情報ネットten.」に、新型コロナの感染状況やワクチン接種の取り組みをテーマに、久元神戸市長が出演した。その中で、番組側が、兵庫県大阪府京都府と並べて神戸市の病床使用率等を示し、一部の項目については大阪府よりも厳しい数字のものがあることを挙げて、神戸市内の感染状況が大阪市などの「他都市よりも”ひっ迫”」していると指摘したとのことだ。筆者はこの放送を視聴していないが、番組側のコメンテーター等が神戸市長を責め立てるような雰囲気だったようだ。

 

 番組内で示された数字が次の数字である。(フリップには、内閣官房調 として、5月10日時点、神戸市は5月11日時点であることを表示)

           兵庫     神戸市    大阪     京都

病床使用率      92%    92%    87%    69%

重傷者病床使用率   82%    74%    89%    45%

陽性率        15.3%  10.3%  6.6%   9.2%

新規陽性者数     48人    62.8人  67人    33人

(10万人あたり)

 

 確かに、病床使用率は神戸市の方が大阪府より高くなっている。

 しかし、この数字だけをもって、神戸市の感染状況が大阪市より「ひっ迫している」と言えるのだろうか。

 

 厚生労働省が発表した5月12日現在の資料を見てみよう。

 

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(出典:厚生労働省HP)

 

 これを見ると、まず、PCR検査陽性者数の段階で、兵庫県の4,595件に対して大阪府は21,900件と、大阪府の感染者数は圧倒的に多い。次に、自宅待機者数を見ると、兵庫県が1,735件に対して、大阪府は15,031件と8倍以上の数字になっている。これを見る限り、神戸市の方が大阪市などの「他都市よりも”ひっ迫”」しているということは、どうしても言うことはできないだろう。そして、それは、一般の人々の理解に合致しているのではないだろうか。

 

病床逼迫 大阪の死者突出 ~ コロナ 4月以降は全国の3割超

 大阪府新型コロナウイルス感染者の死者が急増している。5月に府が発表した死者数は月別の過去最多となり、15日時点で計487人。朝日新聞の集計では、府が「第4波」とする3月以降、府内の死者数は全国の2割超を占め、4月以降では3割を超える。府は感染者の急増が死者増加の要因とみるが、病床逼迫(ひっぱく)の危機的状況も背景にあると見られる。

朝日新聞 2021/5/16)

 

 にもかかわらず、どうしてわざわざ、テレビ放送で、神戸市長を引っ張り出してきて神戸市の方がひっ迫していると言うのか理解に苦しむところだ。また、神戸市だけ数字を示して、大阪市の数字を示していないところも恣意的な印象を受ける。(※ 大阪市が公表している数字は次のとおり)

 

入院・療養状況

5月15日現在

使用率(入院・宿泊療養者数/確保病床・部屋数)

 重症病床       95.5%(336 (※1) /352 (※2)) 
 軽症中等症病床    73.5%(1669 (※1) /2270 (※2))

 宿泊療養施設      38.7%(1425/3680)


(出典 大阪市HP)

 

 さらに、番組では神戸市がワクチンの大規模接種会場をハーバーランドに準備を進めていることについて、コメンテーターが「どうしてハーバーランドみたいな遠い所を高齢者の集団接種会場にしたのか」と神戸市長に難詰したようだ。神戸市長は直ちに反論をしたようだが、この質問はあり得ない。ハーバーランドは神戸市の都心に位置し、JR、阪急、阪神、市営地下鉄からもアクセスのよい、市内有数の交通至便の位置にあることは、神戸市民なら誰もが知っていることだ。番組は「報道番組」らしいが、これではその名に値しない。

 神戸市長をわざわざ出演させたあげく、事実と異なることを並べ立て、アウェイの状況で責め立てた、この番組の意図は何だったのか。現在、大阪府下ではコロナウイルスが猖獗を極め、その原因の一つとして2回目の緊急事態宣言を早期解除したことが指摘されており、大阪府知事に対してこれまでの対応、言動を含めて多くの批判が寄せられている。その批判を和らげるために、大阪はよくやっている、大阪よりももっとひどいところがあるとして、神戸市をスケープゴートにしようとしたのではないのだろうか。そのために、事実をねじ曲げ、印象を操作しようとしたのではないか。そのようにすら思えてしまう不自然な番組内容だ。

 以前より、在阪のマスコミが、大阪府知事を頻繁にテレビ出演させるなど、特定政党を殊更に持ち上げる姿が見られた。政界から引退したはずの前市長をコメンテーターとして出演させ、御意見番のように特別の発言権を与えてその主張を流布させている。公平中立であるべき放送局の姿勢としていかがなものか。

 

 この番組と前後して、神戸市に関する話題が巷を賑わせた。

 神戸市は7日、同市長田区の介護老人保健施設で先月中旬以降、入所者と施設職員計133人が新型コロナウイルスに感染する大規模なクラスター(感染者集団)が発生し、このうち入所者25人が死亡したと発表した。死亡者のうち23人は症状悪化後も入院先が見つからなかったという。

 市は早い段階でクラスターと認識していたにもかかわらず、この日まで発表していなかった。(以下略)

(2021/5/7 産経新聞

 

  神戸市は12日、新型コロナウイルスワクチンの集団接種会場で、冷温保管すべき米ファイザー社製のワクチンを長時間常温に置く管理ミスがあり、960回分が使用できなくなったと発表した。近く廃棄するとしている。

(2021/5/12 産経新聞

 

 ネット上では、これらの報道に対して、神戸市に対する不信感をあおり立てるようなコメントも一部に見られたが、全般的には冷静な反応であったように思う。 多くの市民は保健所行政がきわめて厳しい環境の中で悪戦苦闘を続けている状況について理解を示しているように思う。