神戸は美しい都市である。そのことは、神戸に暮らす市民なら誰もが実感しているのではないだろうか。
その美しさは、他の都市に見られるように、ある特定の山や川、歴史的建築物が美しいというのではない。たとえば、神戸には富士山や桜島のような圧倒的な存在感のある山があるわけではないし、姫路城や熊本城、金閣寺や清水寺のような超一級の歴史遺産があるわけでもない。街の在り様がきわめて個性的で、全体として非常に美しいのである。
神戸を紹介する場合、ハーバーランドから見るメリケンパークの写真を使われることが多いように思われる。しかし、これこそが神戸だと言うのは少し違うような気がする。神戸には至るところに美しい景観がある。しかも、それぞれが全く別の容貌を見せる。それは、山と海に挟まれ起伏に富んだ神戸の街の一つの特徴だろう。逆に、多様な美しい景観が至る所にあるが故に、神戸の代表的な景観が定まらず、全体的に与える印象が希薄になってしまう要因となっているとも考えられる。
どうすれば、神戸の美しさを外部の人々に理解してもらうことができるだろうか。
山があり海があり、その境に近代的な都会があるという、個性的な神戸の美しさを見るためには、1カ所を見るだけでは足りないのではないだろうか。神戸の街を理解をするためには、最低3カ所くらいは必要なのではないか。そこで、神戸を観光で訪れる者が、必ず見るべき景観として「神戸三景」を独自に選んでみた。

第一景は、市街地から見る神戸港の風景である。おなじみのポートタワー、海洋博物館の大屋根等が青い海と空を背景に美しい景観を作っている。このアングルは、有名な浮世絵「摂州神戸海岸繁栄之図」と同じである。
第二景 北公園から見る神戸大橋と市街地

第二景は、海から見る神戸市街地の風景である。人工島ポートアイランドから見た市街地の風景で、巨大な神戸大橋の先に市街地が広がり、その背後に六甲山系が屏風のように連なる、神戸ならではの景観である。大型客船が入港している場合は、その姿も合わせて見ることができる。
ポートアイランドから見る市街地の風景としては、この他にも「BE KOBE」のモニュメントがあるしおさい公園やポートピアホテルなどのビューポイントがあるが、神戸大橋が目の前に見え、青い海と空との強烈なるコントラストを描く北公園を第一とした。
第三景 市章山から見下ろす神戸市街地

第三景は、六甲山系から見下ろす神戸市街地の風景である。港を取り巻くように市街地が広がっている様子がよくわかる。第一景で見たポートタワー、第二景で見たポートアイランドと神戸大橋、そして神戸市街地の全容が一望で把握できる。
六甲山系から見下ろす市街地という景観は、他にも多くのビューポイントがある。六甲山、摩耶山、布引ハーブ園などが有名である。しかし、神戸港の中心部を真正面に見下ろす、この市章山の景観が最も美しいのではないかと思う。
なお、幕末の神戸港開港時の様子を精密に記録した「イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ」のイラストもこの方向からの景色である。
この第三景は前の二つと異なり、市街地の外れにあって、いささかアクセスがよくない。市章山の麓にあるビーナスブリッジならば、路線バスの停留所もあって、よりお手軽だ。市章山よりは視点が低くなるが、市街地に近いので、より迫力のあるパノラマを見ることができる。
(ビーナスブリッジから見る神戸市街地)

神戸の風景として、夜景を推す声は多いが、本当に美しいのは明るい太陽の光をいっぱいに浴びた日中の風景であると思う。日中の風景こそまずは見るべきだ。
以上、神戸三景を紹介したが、それぞれのスケール感、パノラマ感は写真では伝わらないので、実際に足を運んでそれを体感することをお勧めしたい。
人はこの「神戸三景」、すなわち市街地から、海から、山からの3つの景観を見ることによって、山と海に恵まれた神戸の姿を正しく捉えることができるだろう。神戸を観光する人には、まず、この神戸三景を訪れるよう案内をしてはどうだろうか。神戸三景をベースとして、その後は、旧外国人居留地、異人館街、中華街など、異国情緒にあふれる神戸の街を散策するのがよいだろう。神戸には個性的な美しい景観があふれている。その多様さは万華鏡のようだ。神戸観光は日帰りで十分だと言う者があるが、とても一日では足りないと筆者は思う。