見失われた宝石 神戸の再発見

 先日、イギリスの大手メディア「インデペンデント」に神戸が取り上げられた。「神戸でするべきこと:過小評価されている日本の都市、オーバーツーリズムからの脱出に最適」として神戸が紹介されている。

 

What to do in Kobe: the underrated Japanese city that’s perfect for escaping overtourism | The Independent

 

 その要旨は次のとおりである。


 日本は今、オーバーツーリズムに喘いでいて、大阪、京都、東京といった有名都市では、観光スポットの混雑やホテルの満室が当たり前となっている。その中で神戸という穴場があるという内容である。大阪、京都から1時間以内という近さにあり、日本第6位の都市でありながら、驚くほど正当な評価を受けていない。外国人の宿泊客数は100万人にも満たず(2024年)、神戸がかつて歴史的に世界への玄関口であったことを考えると皮肉なことだと述べている。


 そして、具体的には、神戸でするべきこととして次の事項を紹介している。

1)歴史と癒やしの「有馬温泉」 日本最古かつ最もアクセスの良い温泉、泉質のよい金泉、古い歴史を持つ魅力的な芸妓文化

2)神戸牛の真髄を味わう 神戸牛の品質の確かさと圧倒的で比類のない美味しさ

3)日本酒の聖地、灘五郷 神戸は日本酒生産の中心地、地元の宮水、山田錦が生み出す旨さ

4)高級ブティックからストリートブランド、古着屋まで充実かつ落ち着いたショッピング

5)散策も楽しい街 北野地区のドイツ風の「風見鶏の館」、アメリカ風の「萌黄の館」、多文化な過去を物語る建築物「神戸ムスリムモスク」、生田神社、新幹線でわずか15分の日本最大で最も保存状態の良い「姫路城」

 

 そして、上記を総括し、国内の賑やかな観光拠点を巡った後に、静かでゆったりとした神戸は素晴らしい休息の場であるという。最後に、「独自の文化、美味しい食事、便利な温泉、そして最高のショッピング、これほど魅力が詰まった街が、いつまでも「秘密の場所」のままでいるとは思えない。」と締めくくっている。

 

 インデペンデントはイギリスの新聞で、2016年に紙媒体は終了して完全オンライン化し、デジタルでは英有力紙の中で最大級の到達規模を誇る。イギリス、アメリカを中心にカナダやオーストラリアなど英語圏で広く閲覧され、読者は世界で1億人程度あり、世界的な影響力を有するグローバルメディアであるとのことだ。

 

 上記の記事を見ての感想を述べる。

(1)現在の神戸はどうみられているか
 まずは、神戸は「過小評価」されているのだという点。過小評価であるということは、つまり、海外ではあまり知られておらず、海外からの観光客も非常に少なく、観光都市としても認知度が低いということである。神戸はかつて歴史的に世界への玄関口であったにもかかわらず、この現状は皮肉であると述べられている。その現状を前提として、もっと評価されてよいはず、というのがこの記事である。かつては世界最大のコンテナターミナルを誇る国際港湾都市は、神戸港の地盤沈下とともにはるか昔のことであるようだ。


(2)外国人がみる神戸の魅力

 記者が挙げる「神戸の魅力」が、有馬温泉、神戸ビーフ、灘の酒と、大昔から言われていたものと全く変わらないということに少し驚きを感じる。近年神戸市が力を入れている、六甲山や里山、下町などは外国人にとって関心外のようだ。

 

(3)この記事による影響
 この記事は、当該メディアの有する影響力から考えて、今後、神戸への海外の観光客の来訪、宿泊が大幅に増える可能性は高まると考えられる。記事にあるとおり、京都、大阪、姫路が近いという情報から、神戸が滞在拠点となり、周辺を周遊するプランも増えることが予想される。筆者が以前にも論じたように、神戸は長期間滞在し、周囲を周遊観光するのに非常に適合的な都市である。なぜならば、神戸は住むのに適した都市であるといわれているからだ。住むように滞在して、神戸市民と同様に日帰り観光を楽しむのは神戸の最も上手な活用に仕方であろう。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 神戸空港開港後、外国人の観光客が顕著に増加したように感じられる。特に目に付くのは、単身ではなく、家族連れで、夜間、日本人がいなくなってしまう午後8時以降に、子供をつれて街中を散策する姿である。皆、ラフな服装で、ゆったりと歩いている。その姿は、京都や大阪で見る姿とは少し異なって、ゆっくりとくつろいでいるように見える。まるでリゾート地のようだ。神戸は、それらの都市と比べると観光客も少ないせいもあるが、歩行者空間が確保されて安全で、治安もよいと認識されているのではないか。筆者は、通りかかった際に、外国人観光客から道を尋ねられたり、写真撮影を頼まれたりしたことが何度かある。それほど、神戸は警戒感なく気ままに散策できる街なのだろう。

 そうした中で、この記事には触れられていない、ウオーターフロントや六甲山、須磨、舞子などの神戸の自然、風土に対する魅力も次第に理解されてくるのではないか。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

 海外旅行の魅力は、その国の観光地を見ることももちろんであるが、その国の社会や生活を見るのも大きな楽しみだ。これまで、外国人が多く訪れたのは東京、京都、大阪であるが、それらは日本の歴史や文化の誇張されたものであって日本の日常とは決して言えない。そうした戯画的な日本ではなく、本当に日常的な穏やかな日本人の生活を見るのに、過度に観光地化されておらず、海、山、都会がほどよく集まった神戸の街は最も適した都市であると言えるだろう。

 外国人の間で神戸が居住に適した都市であるとの理解が高まれば、かつてのように、欧米や中国から多くの人々が神戸に居を構えて生活することもまた復活するかもしれない。さらに、生活の拠点を神戸に移し、神戸でビジネスを行うものも増えるかもしれない。外国の企業が、従業員の生活環境の観点から、神戸に拠点を構えることも増えてくるかもしれない。

 

 神戸は国際都市として発展してきたが、神戸港の相対的地位の低下とともに、海外の人々の視界から消え、「見失われた都市」となっていた。しかし、再び神戸を発見する者が現れ始めた。記者は「これほど魅力が詰まった街が、いつまでも「秘密の場所」のままでいるとは思えない。」と述べている。この記事は、神戸が世界の人々から「再発見」されつつあるという兆候として注目すべきであろう。