新船「フェリーたかちほ」就航

 宮崎カーフェリー宮崎市)の新船「フェリーたかちほ」が就航した。宮崎と神戸を結ぶ航路は、宮崎県経済の「生命線」に位置付けられ、新船就航により、物流の活性化や観光振興が期待されている。
 就航から25年たった「みやざきエキスプレス」に代わる新船は、総トン数約1万4000トン、全長194メートル、幅27.6メートルと大型化。旅客定員は690人から576人に減ったが、客室の個室数を大幅に増やした。大型トラックの積載可能台数も33台拡充し、163台となった。

時事通信 2022/4/19)

 

 宮崎カーフェリーが、神戸-宮崎航路で新たに就航させた「フェリーたかちほ」が16日午前、初めて神戸港に入港した。これまで運航されていた「みやざきエキスプレス」は退役し、その後継として就航することになった。もう1隻の「こうべエキスプレス」も10月に退役し、新造船「ろっこう」と交代する予定とのことだ。

 このたび新造された「たかちほ」は、「みやざきエキスプレス」(総トン数  11,931トン、全長170m)より一回り大きくなり、大型トラックの積載可能台数は33台増加したとのことだ。また、客室の個室を大幅に増加させたとあり、物流機能の増加と観光振興の両方を狙いとしているようだ。

 農業県である宮崎県は外貨を獲得する産業として、農林水産業や製造業が大きな役割を果たしており、これらの産品・製品を大消費地へ安定して輸送することは重要な課題であり、また観光業も外貨を獲得する産業であることから、この宮崎ー神戸航路は宮崎県の『生命線』と位置づけられている。そのため、今回の新船建造については、オール宮崎県として取り組まれたということだ。

 

 宮崎カーフェリーは、従前は大阪南港を関西での発着地としていたが、2014年10月に神戸に移転した経緯がある。神戸港が、大阪南港よりも距離が近く燃料費等の経費の削減ができることと、高速道路、鉄道とのアクセスがよく、市街地に近いことから旅行客の利用の増加が見込めることが移転の理由になったようだ。宮崎県の作成した報告書(「宮崎カーフェリー株式会社の新船建造について 」(宮崎県総合政策部))を見ると、神戸移転後は、減少傾向にあった利用者数は上昇に転じ、年間177千人前後で推移しているようだ。

https://www.pref.miyazaki.lg.jp/gikai/committee/standing/R01/pdf/somu_R011205_02sogoseisakubu2.pdf

 

 交通機関の選択において、それに至るアクセスは非常に重要な要素だ。神戸港は道路網、鉄道網が優れており、また、港と中心市街地が近く、極めて機能性の高い港だ。それは、宮崎フェリーの移転とその後の実績によっても裏付けられた形だ。

 交通機関にとって、もう一つ重要な要素がある。それは、その交通機関そのものの観光的側面である。人々が船旅に求めるものはなんだろうか。ゆったりとくつろげる船内の空間や施設はもとより、船から眺める景色であったり、入出港時の港の景観や港町の風情であったり、こうした要素も重要である。神戸港はそうした港町のムードを色濃く持っている街である。神戸港の強みは、交通アクセスだけではなく、景観がすばらしいことだ。六甲山を背景に南側に開け、陽光が降り注ぐ明るい景観は比類のないものだ。それだけではなく、夜になれば、ポートタワーや海洋博物館、神戸大橋、モザイクの観覧車が美しくライトアップされ、1000万ドルといわれる夜景を堪能することができる。また、市街地が隣接し、クラシカルな旧居留地や、ブティック街、中華街もすぐそこにある。周囲に何もない物流施設のような港と比べると、旅行客はどちらを選択するだろうか。

 

 現在、神戸港のフェリーターミナルは、宮崎カーフェリーと高松・小豆島とを結ぶジャンボフェリーが発着する新港第3突堤の他、六甲アイランドのフェリーターミナルがあり、大分航路のさんふらわあ、新門司航路の阪九フェリー新居浜航路のオレンジフェリーが就航している。

 六甲アイランドは、鉄道からの距離も離れているし、市街地からも隔たり、乗降客は街を素通りをしてしまうだけだろう。神戸港の一部ではあるものの、港の中心部からは遠く、ポートタワーや神戸大橋などの一般の人々が思い浮かべる神戸港の風景や港町の風情とは程遠い。また、市街地からも、それらの船舶の姿が目に触れることは少なく、これではあまりにももったいない。

 以上のことから、神戸港のフェリーターミナルを神戸港の中心部に集約してはどうだろうか。集約の案としては、現在の新港第3突堤またはその周辺、たとえば神戸大橋東側の新港東埠頭が考えられる。

 フェリーターミナル移転により得られる効果としては、高速道路網とのアクセスが優れ、JR、阪急、阪神、地下鉄三宮駅から徒歩圏であり、市街地に近く、買い物や観光にも便利である。神戸空港ともポートライナー1本で結ばれていることも魅力だ。将来的に神戸空港から新神戸まで直通の交通機関を設けると、航空機や新幹線との連携による多様な旅行プランが可能となるだろう。さらに、神戸港の美しい光景や夜景を見ながら入出港ができることから、観光客の利用を促進する効果があるだろう。神戸の都市経済の観点からも、これまで、素通りしてしまっていたであろう乗降客の観光、消費需要も期待できるだろう。常に複数のフェリーが着岸し、入出港する光景は、それだけで観光資源となり、港の華やぎ、賑わいを増す効果が期待できるだろう。それによって、神戸港の魅力が増加するならば、新たなフェリー航路の誘致も考えられるのではないだろうか。

 

 蛇足ながら、当ブログの表題の写真は、ポートアイランドの北公園から神戸大橋と神戸の市街地を収めたものだ。その中央部に写っているのが宮崎フェリー(こうべエキスプレス)である。白と赤の船体、ブルーの煙突がとても美しい。