斎藤兵庫県知事に対する内部告発問題(7)

 兵庫県の斎藤元彦知事は7日の定例会見で、自身のパワハラなどに関する内部告発へのこれまでの対応について時系列で説明した。3月20日に知事自身が告発文書を入手したものの公益通報として告発者を保護すべきかどうか検討せず、副知事ら県幹部に調査を指示したことを明らかにした。

 元西播磨県民局長が作った告発文書は匿名だったが、「マスコミ等へ提供」したとの記載があった。報道機関などへの告発は公益通報者保護法が定める「外部通報」に含まれ、保護対象になる

 斎藤知事は、保護を検討しなかった理由について、「信じるに足る相当の理由があることが保護の要件だが、文書には裏付ける証拠や信用性の高い供述がなかった」と述べた。

 文書内容を共有した知事と県幹部らは、3月21日に告発者を元県民局長と予想。片山安孝副知事=7月31日付で辞職=らが同25日、元県民局長を訪れて問いただした。弁護士に公益通報に当たるかどうかの意見を聞いたのは、4月になってからだった。県人事課による内部調査によって「公益通報として保護すべき内容ではない」と判断した上で、県は5月、文書が「核心部分が事実ではない」などとして、元県民局長を停職3カ月の懲戒処分とした。

(以下 略)

 

朝日新聞 2024/8/7)

 

 今回の内部告発について、告発した県職員を懲戒処分に処したことは「公益通報者保護法」に違反しているのではないかという声が高まっている。

 これに対して、斉藤兵庫県知事は7日の会見で、時系列を示して、懲戒処分を行ったことに問題はなかったと説明した。その理由として、3月に行った報道機関等に対する告発文書の配布が公益通報者保護法が定める保護要件に当たらず、保護対象外であることを説明した。

 公益通報者保護法が定める報道機関等に対する通報の保護要件として、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」(真実相当性)がある。

 この「信じるに足りる相当の理由」について、通報を行った県職員が「噂話を元に作成した」と供述し、また、真実であることを裏付ける証拠、関係者による信用性の高い供述などが存在することの説明がなかったことから、当該通報は保護要件に該当せず、保護対象とはならないと判断したという説明である。

 

兵庫県/知事記者会見(2024年8月7日(水曜日)) (hyogo.lg.jp)

 

 その主張の問題点は次のとおりである。

(1)そもそも、当該県職員は、本当に「噂話を集めて作成した」と認めているのだろうか。

(2)真実相当性の基準をきわめて限定的に解釈しようとしていること。

 

 この保護要件である「信ずるに足りる相当の理由」 について、消費者庁HPのQ&Aでは次のように解説されている。

 

Q1 「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」(本法第3条第2号及び同条第3号)がある場合とはどのような場合を指しますか。

 

A 「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」の例としては、単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容を裏付ける内部資料等がある場合 や 関係者による信用性の高い供述がある場合 など が考えられます。

 なお、後日、紛争となった場合に、実際に本法の規定による保護を受けるためには、公益通報者の側が「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」があったことを立証することが必要と考えられます。

 

消費者庁 Q&A)

 

保護要件に関するQ&A | 消費者庁 (caa.go.jp)

 

 この説明によれば、「信ずるに足りる相当の理由がある場合」の「例」として、「単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容を裏付ける内部資料等がある場合 や 関係者による信用性の高い供述がある場合 など、相当の根拠がある場合」を挙げている。つまり、一例としてあげているのであって、それ以外を一切認めないという趣旨ではないはずだ。伝聞であっても、いわゆる「公然の事実」という場合もあるだろう。伝聞を含めば直ちに保護対象外と扱うのは保護要件を意図的に狭く解釈しようとしていると言わざるを得ない。

 「信ずるに足りる相当の理由」があったのかどうかは、告発者の主張を精査する必要があり、そのためには兵庫県知事の指示を受けた内部調査ではなく第三者による客観的な調査が必要である。

 

 そもそも、法律を解釈する場合は、法律の趣旨に立ち戻って判断しなければならないはずだ。「公益通報者保護法」の趣旨はなんだろうか。

 消費者庁の「公益通報ハンドブック」を見ると、次のように説明されている。

 

 国民生活の安全・安心を損なうような企業不祥事は、事業者内部の労働者等からの通報をきっかけに明らかになることも少なくありません。

 こうした企業不祥事による国民への被害拡大を防止するために通報する行為は、正当な行為として事業者による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべきものです。

 「公益通報者保護法」は、労働者等が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかという制度的なルールを明確にするものです。

 

消費者庁公益通報ハンドブック」)

 

公益通報ハンドブック(改正法準拠版) (caa.go.jp)

 

 

 また、保護要件として「信ずるに足りる相当の理由」 を設けた趣旨は、次のように説明されている。

 

⑴ 「信ずるに足りる相当の理由」 
 その他の外部通報先への公益通報の結果、役務提供先の正当な利益(名誉・信用など)が不当に害されるおそれがあることから、単なる憶測等ではなく、公益通報者に故意又は過失がなく、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると「信ずるに足りる相当の理由」があること(真実相当性)が要件とされている。

 

消費者庁「逐条解説」)

 

第3条(解雇の無効) (caa.go.jp)

 

 つまり、公益通報は公益の確保に資することから、正当な行為として通報者を保護しようとするところにこの法律の目的がある。だから、法の目的は、あくまでも通報者の保護である。とはいうものの、外部通報の場合は、無条件に根拠の乏しい通報を認めてしまうと、事業者側の正当な利益(名誉・信用など)が不当に害されるおそれがあることから、通報にあたって「信ずるに足る相当の理由」を求める制度となっている。

 

 ここで、注意すべき点は、あくまでも通報者が「信ずる」のであって、通報の結果、結果的に内部告発の事実が証明されなかったとしても、告発した時点で、告発内容が真実であると信ずる相当な根拠(証拠)があれば保護されるという考え方である。そうした考え方から考えても、真実かどうかの調査に先立って「信ずるに足りる相当の理由」 がないと断定して、いきなり保護の対象外とすることはあまりに性急である。

 また、「保護対象でない=懲戒処分対象」ではないはずだ。法律の趣旨から考えて、保護対象でない場合でも、制度の濫用に当たる場合はともかく、懲戒処分の適用は慎重に行うべきだろう。

 目的はあくまでも通報者の保護であるにもかかわらず、公益通報者保護法の条文に直接記載されていない、解説レベルの、一例の説明部分のさらに一部の文言を抜き出して保護要件を極めて限定的に解釈をしようとしており、結果的に法律の趣旨に反する結論を導き出している。今回の一連の兵庫県知事の対応は、やはり、内部告発については絶対に許さず、意図して報復的な措置を取ったと言わざるを得ない。

 

 今回のように限定的に解釈をされ、保護対象から外され、たちまちに処分され、結果的に生命を失うまでに追い込まれるのであれば、通報者は法律を隅々まで熟知しなければ、おそろしくて通報することができなくなってしまう。それは、やはり公益通報者保護法の空文化に等しい。

 これでは、「公益通報者 保護法」ではなく、まるで「公益通報者 取締法」である。要は、斉藤知事は、公益通報者保護の趣旨に立たないということなのだ。

 

 実際、会見では多くの時間を費やして答弁を続けているが、斉藤知事の言い分に納得する者は誰もおらず、会見を重ねるごとに、理解が進むどころか、むしろ兵庫県知事による事実の改変、話のすりかえ、都合の悪いことに対する不答弁、詭弁と曲解など、異常なまでの不誠実な態度が露わとなり、斉藤知事に対する人々の信用はますます失われている。

 

 我々としてできることは、斉藤知事のこのような不誠実な態度を決して見逃さず、白日の下にさらすことであろう。特に県議会、報道機関等の役割は重大である。

 

 

(参考)

 大阪弁護士会が今回の斉藤兵庫県知事に対する内部告発問題についての動画を公開している(2024/7/19)。

 


www.youtube.com

 

 

 

 

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