神戸空港国際化に関する一部の報道について

 神戸空港の国際線定期便の就航について、ある経済誌が、関西エアポートの山谷社長が「関空が成長軌道に戻らないと難しい」と述べたと報じている。

 

神戸空港の国際線、山谷社長「関空が成長軌道に戻らないと難しい」 (aviationwire.jp)

 

 その記事の要旨は次のとおりである。

 

(1)関西エアポートの山谷社長が、2023年6月14日の記者会見で神戸空港の国際線定期便就航の可能性は、関西空港の国際線旅客需要が、大阪・関西万博後、コロナ前と比較してどの程度回復するかによるとの考えを示した。

(2)関西空港の年間発着回数が30万回を超えることが神戸空港の国際定期便就航の条件であるというのが2022年9月の「関西3空港懇談会」の合意事項である。

(3)神戸空港関西空港の国際線の役割分担について、山谷社長は「3空港懇談会の決議事項なので変わっていない」と述べ、ターミナル開業後も関西圏の国際線定期便は関空に乗り入れ、神戸発着の国際線は将来的な検討課題にとどまるとの考えを示した。

 

(Aviation Wire(アビエーションワイヤー)2023/6/14 から要約)

 

 これによると、神戸空港の国際定期便の就航は関西空港の年間発着回数が30万回を超える場合に限られるというのが、2022年9月の「関西3空港懇談会」の合意事項であるとのことだ。したがって、神戸空港の国際定期便の就航は、大阪・関西万博後に、関西空港の国際旅客需要がどの程度回復しているかにかかっており、将来的な検討課題であるにすぎないとの考えを関西エアポートの社長が示したということだ。

 

 この記事をどのように評価すべきだろうか。

 

 同じ記者会見について、神戸新聞の報道を見てみよう。

神戸空港の国際線「万博後にふさわしい路線考える」 関西エア社長、新ターミナルにも言及

 

 関西エアポートの山谷佳之社長は14日、2030年前後とされる神戸空港の国際定期便の就航について「25年大阪・関西万博を終えて関西空港の需要が伸びる中で、神戸にどんな路線がふさわしいのかを考えたい」との考えを示した。
 22年度決算発表会見で言及した。同社は神戸、関西、大阪(伊丹)の3空港を運営。万博に向けて神戸市が5月、新たに整備する国際チャーター便用のターミナルの概要を発表したことについては「将来に備えて役割を果たしていただいている。今後、航空会社や私たちが使いやすくするための協議を進める」とした。

(略)

 

神戸新聞 2023/6/14)

 

 神戸新聞では、同記者会見で山谷社長は、神戸空港の国際定期便の就航自体ではなく、国際定期便の就航を前提に、大阪・関西万博後に「神戸にどんな路線がふさわしいのかを考えたい」と述べたということだ。その後の発言でも、神戸市が新たなターミナルの整備を進めていることを「将来に備えて役割を果たしていただいている。」と肯定的に評価をしており、前段と整合している。

 

 そもそも、同誌の記事にあるように、神戸空港国際線就航の条件に関西空港の年間発着回数30万回は入っているのだろうか。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 過去の記事でも示したように、神戸空港の国際定期便就航について、関西空港の年間発着回数30万回は条件にはなっていない。そして、その具体化については、「関西エアポートグループの「経営判断を尊重」し、実施する」とされている。

 このことは、2022年9月18日の第12回関西3空港懇談会後に開かれた記者会見での、関西エアポートの社長の発言からも明らかである。

 

 神戸空港の国際線開設について、大阪府の吉村洋文知事は関西国際空港の発着回数である年間30万回を超えた分について、神戸での離発着に回すと主張したという。これについて同じく記者会見した空港運営会社である関西エアポート山谷佳之社長(写真右)は記者の質問に「30万回(の離発着)を達成して、その後どうするというふうなことは(合意事項には)言及されていない」と述べ、「30万回」にこだわらず航空機が混雑する時間帯は神戸で離発着させるダイヤを組むことなどが、関西全体の航空需要拡大に寄与するとの見方を示唆した。

 

(神戸経済ニュース 2022/9/18)

 

 以上のとおり、同記者会見で、2030年の神戸空港の国際定期便の就航について、これまでと異なる考えが示されたとは認められない。

 

 神戸空港の国際化を求めているのは、関西エアポートなのだと筆者は考えている。それは、あれだけ風当たりの強かった神戸空港の国際化が、短時間のうちに関西3空港懇談会での同意が実現し、その音頭をとったのは関経連の会長であったことから十分推測できることだ。

 そして、今年5 月の「ACIアジア太平洋地域総会」が、関西エアポートがホスト役となって、泉南でも大阪でもない神戸で開催されたことが、同社が神戸空港をいかに重要視しているかを物語っている。ACI(国際空港評議会)は世界の空港・航空関係者が加盟する国際組織で、そのアジア太平洋地域総会の日本での開催は、2018年の成田国際空港に続き2回目となる。関西エアポートは、世界的に有名な国際貿易都市である神戸に設置された神戸空港を傘下に収めたことを、非常に重要な業績であると考えているのだと推測する。(なお、同総会が神戸市で開かれることが決まったと同社が発表したのは、神戸空港の国際化が決まった3空港懇談会より前の2022年5月であったことは興味深い。)

 そして、昨年9月18日に神戸空港の国際化が合意された後、まだ1年もたたないうちに、猛烈な勢いで、駐機スポットの拡張、新ターミナルの建設等の計画が進んでいる。それらの計画が、関西エアポートの思惑と無関係に進むことはあり得ない。

 今後、神戸空港は、人々の予想を超えるスピードで発展していくだろう。今回の同誌の記事は、客観的な事実を伝えるものではなく、そうした神戸空港の姿に危惧を抱く人々の願望が色濃く反映したものだと思われる。