王子公園再整備、関西学院大学が優先交渉権者に決定

 神戸市灘区の王子公園の再整備を巡り、市は29日、大学誘致の公募に名乗り出ていた学校法人関西学院兵庫県西宮市)が選考委員会の審査を通過し、優先交渉権者に決定したと発表した。提案では、国内外から学生約4千人を集め、文理融合の教育を展開。六甲の山並みと調和する緑地空間を設け、公園内のキャンパスにふさわしく誰でも出入りできる空間を創出する。(略)

 

神戸新聞 2023/6/29)

 

 

 

 

 

 6月29日、神戸市は、王子公園再整備について、動物園のリニューアルやスポーツ施設の再編、新たな大学の誘致などを盛り込んだ「王子公園再整備基本方針」を策定し、大学設置・運営事業者の公募を行っていたところ、この度、優先交渉権者が決定したと発表した。

 

神戸市:王子公園再整備にかかる大学設置・運営事業者公募 結果の公表

 

 かねてから予想されていたとおり、学校法人関西学院が優先交渉権者となった。今回の王子公園の再整備計画は、神戸市が先導的に構想したものではなく、関西学院大学の再編成構想に応じて神戸市が計画を立てたという流れについては、ほぼ間違いがないだろう。

 今回明らかになった、「関西学院大学王子キャンパス 事業実施計画提案概要」を見てみよう。

(1)全体コンセプト
 自分で、みんなで。未来を起動するオープンイノベーションパーク ― 地域・社会・世界が大学に入ってくる学び―

(2)王子キャンパスで育成する人材像
 未来をデザインし、起動できる世界市民

(3)アカデミックコンセプト
 V U C A (目まぐるしく変転する予測困難)な状況の時代を切り拓くイノベーション能力を涵養

(4)キャンパスコンセプト
 地域・社会・世界の様々な人、情報が行き交うプラットフォームキャンパス

(5)学生・教職員の規模

 学生数 4,000人程度、教職員数 200人程度

 

関西学院大学王子キャンパス 事業実施計画提案概要から抜粋)

 

 説明は抽象的で内容が不明確であるが、要するに、「目まぐるしく変転する予測困難な時代」なので、「知識伝達」より「能力の育成」を重視し、「専門分野の知識・理論の習得とともに、他者や異なる分野と協働して地域や世界の課題解決に取り組み、地域・社会・世界にイノベーションを起こす」「イノベーション人材」を育成することを目標としているようだ。その目標から、文系と理系の垣根を越える「文理融合」と地域との連携のための拠点が「王子キャンパス」であるということだろう。

 この計画案の中で唯一具体的なのは、王子キャンパスの学生・教職員の規模として、学生数4000人程度、教職員数200人程度と具体的な数字をあげている所だ。

 

 これらの情報から、王子キャンパスの具体的な姿を勝手に想像してみる。

 まず、今回の王子キャンパス構想の発端は、関西学院大学の立地問題、すなわち三田キャンパスの立地があまりに不便であるというということが第一だ。それは、関西学院大学の今後の発展を妨げるおそれがあり、大学側としてはどうしても解決したい問題であったに違いない。そうであるとすると、今回の王子キャンパス開設の主眼は、やはり三田キャンパスからの学部、学生の移転だということになるだろう。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 関西学院大学の三田キャンパスは、従前は理工学部総合政策学部の2学部であったが、2021年度から理工学部が再編され、理学部、工学部、生命環境学部、建築学部の4学部となった。三田キャンパス全体の学生数は、1学年で約1300人、4学年で約5200人という数字となる。現在の内訳は、1学年の学生数で、総合政策学部495人、理学部180人、工学部265人、生命環境学部228人、建築学部132人である。

 新しい王子キャンパスの学生数は4000人程度としているので、すべての学部を移転させることはできないが、およそ4分の3を王子キャンパスに移転させるようなイメージとなるだろう。

 では、どの学部が王子キャンパスに移転することになるのだろうか。これを勝手に推測してみると、おそらくは、都市部にある方が望ましい、都市活動に関わりが深い学問・研究分野が選ばれることになるのではないだろうか。

 まずは、都市活動と関わりが深いのは、総合政策学部であろう。社会政策を研究するには都市の近辺に位置していることが適しているだろう。続いて、建築学部も、建築物が都市活動の需要を満たすものである以上、都市の近辺が適しているだろう。生命環境学部は、神戸の医療産業都市との連携を考えるのであれば、王子キャンパスの方が適しているだろう。

 ここまでで、移転対象となる学部の学生数は1学年ベースで855人となる。残る理学部180人と工学部265人のうち、約150人程度を王子キャンパスに移転させると、全体で4000人程度の規模となる。

 では、理学部と工学部のうち、王子キャンパスに移転するとしたら、どの学科が対象となるだろうか。神戸ポートアイランドにはスーパーコンピューター富岳があり、神戸大学兵庫県立大学甲南大学等の大学研究施設が周辺に集積している。それらとの連携を考えるのであれば、工学部のうちのAIなどの情報技術に関わる、情報工学90人、知能・機械工学60人を合わせると150人となり、このあたりの学部が王子キャンパスへの移転候補となるのではないかと予測する。

 理学部、工学部のそれ以外の学科は、都市活動との関係がないわけではないが、王子キャンパスの容量に限界がある以上、都市部よりも郊外の方が研究環境を確保しやすかったり、研究施設として広い敷地を利用したりする必要があるという点を考慮すると、引き続き三田キャンパスに残ることになるのではないだろうか。

 

 そして、今回の計画案では、各キャンパスの役割としては、次の図が示されている。

 


 関西学院大学は、開学の地である王子公園に敷地を得て、新たに王子キャンパスを開設し、西宮、三田、王子の3つのキャンパスのそれぞれの立地特性を有効に活用し、まさに100年の計として大学を再編し、新たな飛躍・発展を目指そうとしているのだと考えられる。