大阪都 住民投票 終盤の情勢

 大阪都構想の賛否を問う住民投票の投票日が迫る中、報道機関の世論調査が発表されている。

 

 朝日新聞社朝日放送テレビは24、25の両日、大阪市民を対象に電話による世論調査を実施した。大阪市を廃止して四つの特別区に再編する大阪都構想について聞くと反対41%、賛成39%だった。前回の9月調査では賛成42%が反対37%を上回っていたが、今回は反対がやや増えて賛否が伯仲した。

朝日新聞 2020/10/27)

 

 

 「大阪都構想」の賛否を問う住民投票(11月1日投開票)を前に、読売新聞社は23~25日、大阪市内の有権者を対象に世論調査を実施した。都構想の賛否は「賛成」が44%、「反対」が41%で拮抗きっこうした。「答えない」は15%だった。1か月半前の前回調査では賛成が14ポイント上回っていたが、反対が増加した。

(読売新聞 2020/10/26)

 

 

 上記の記事に見るように、いずれの調査も結果は僅差であり、「賛否が伯仲」、「拮抗」と伝えるなど、住民投票の行方は流動的である。まさにふたを開けてみなければわからない状況だ。

 こうした混沌とした情勢は、「大阪都構想」の住民投票についての議論が十分深まっていないことにも一因があるように思われる。

 

 都構想の実現によって、反対派は住民サービスが低下するといい、賛成派は住民サービスの充実を目指すという。両者で全く見解が異なっている。その違いはどこから生じるのだろうか。

 都構想が実現すると、大阪市という地方自治体は消滅し、4つの特別区に分割され、権限と財源を大幅に失ってしまうことになる。権限や財源を失うのだから、ここだけ見れば、大阪市民の権利(主権)は低下することは明らかである。ところが、賛成派は、(1)4分割されることにより住民の声が反映しやすくなること、(2)大阪府が(将来的に)成長することによって大阪がより豊かになることをメリットとして主張している。

 反対派が大阪市全体が保有する権限と財源の喪失を問題としているのに対して、賛成派は(1)(縮小された権限と財源の範囲で)住民の声がより反映しやすくなること、(2)大阪府が(将来的に)成長することによって大阪がより豊かになることという将来の問題を主張しており、論点がずれている。議論が深まらない原因はこの点にある。

 さらに詳細に考えてみよう。(1)の論点について、賛成派は分権によって住民サービスが向上するというが、それが大阪市を解体する理由にはならない。なぜならば、大阪市の枠組みを残しつつ、その中で分権を行うことも不可能ではないからだ。(2)の論点について、大阪府に権限を集中させることによって、成長が加速されるかどうか全く保証がないし、現行の政令指定都市の体制のままで不可能なことなのかが明らかでない。しかし、反対派がこれを決定的に否定することもまた困難だ。あくまで、未来のことだから、どうしても水掛け論になってしまう。そのため、限られた時間内では十分な検討もできないまま、不毛な「サービス向上と低下」の水掛け論が行われているのが現状だ。

 将来のことは明確な結論を出すことは困難だ。ただし、現時点で明らかなことはある。それは、大阪市という地方自治体が消滅し、大阪市民は大幅に権限と財源を喪失した4分割された特別区の住民となるということだ。大阪市民は、政令指定都市という高度の権限と財源を付与された自治体の住民としての地位を失う、すなわち大阪市民が大阪市自治権を喪失することとなる。これこそがこの問題の本質なのだ。

 将来的に住民サービスが増えるのか、大阪が発展するのか、そのような論争に反対派は乗る必要はない。どのような住民サービスにするか、大阪市をどのように発展させるかについての決定権を大阪市民が失うことが最大の問題なのだ。そのような決定権(主権)を大阪府に引き渡すかどうかが大阪市民に問われているのだ。そして、大阪市民は大阪府民の3割しか発言権がない。

 

 

  住民投票そのものの問題として、圧倒的な世論の賛否のある社会的課題について、それを実現するための手段として行うのであればよいが、世論が定まらない、世論の議論が熟していない問題に対して強引に住民に住民投票を迫る、今回のようなやり方は、本来的に住民投票になじまないのではないか。住民投票は、社会を分断し、その後に対立、禍根を残すおそれがある。

 

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

firemountain.hatenablog.jp