11月1日に投票が行われる大阪都構想に対する住民投票について、様々な報道機関が世論調査を実施している。
その中で、日本経済新聞社とテレビ大阪が行った世論調査では、賛否は拮抗しているようだ。
日本経済新聞社とテレビ大阪は16~18日、大阪市内の有権者を対象に世論調査を実施した。大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票を11月1日に控え、賛否を聞いた。都構想に賛成と答えた人は40%、反対は41%で拮抗した。
6月の前回調査では賛成49%、反対35%で賛成が優勢だった。「どちらともいえない」「分からない」が計19%おり、現時点で態度を決めていない有権者も多い。(日本経済新聞 2020/10/19)
報道機関によっては、これと逆に、賛成派が支持を大きく伸ばしており、圧倒的に優勢であるとの報道もある。
今回の住民投票については、これまで何度か述べてきた。
「大阪都構想」とは、大阪市という地方自治体を廃止し、新たに4つの特別区を創設するものである。大阪市がこれまで保有してきた政令指定都市としての広範な権限、財源の多くは大阪府に引き上げられてしまう。(たとえば、固定資産税、法人市民税、事業所税は大阪府に移管される。)その「代償」として(旧)大阪市民に与えられるのは、地方の市町村にもはるかに劣る権限、財源しかない4分割された特別区である。この特別区の区長は公選制であり、賛成派は、これまで大阪市という巨大な自治体では届きにくかった民意が届きやすくなるということを改革のメリットとして主張している。(「4人のリーダー、4つの役所、4つの議会で問題解決スピードUP」(大阪維新の会))
一見、よいことのように思われるが、注意すべきなのは、都構想が実現すれば、大阪市民全体で見れば、自らの権限と財源を大幅に失うということだ。大阪市民も大阪府民だから同じことではないかと思う人があるかもしれないが、大阪市民は大阪府民の30%しかいない。つまり、大阪市民が単独で保有していた権限と財源、これまで100%自分たちが自由にできた権限と財源は他の大阪府民と共有されることになり、(旧)大阪市民の発言権は30%しかないことになってしまうのだ。
今回の大阪都構想の本質は、「大阪市という地方自治体の廃止」であり、すなわち「大阪市民の消滅」、「大阪市の自治の廃止」なのだ。(旧)大阪市民はその代償として、はるかに劣る権限の特別区を、区長の公選制というおまけ付きで与えられることになる。一見、市民の権利は拡大するように思う人があるかもしれないが、そもそも自分たちが自由に決定できる事項そのものが大幅に縮小されてしまっているのだ。
中国の故事に「朝三暮四」という言葉がある。
「朝三暮四」
中国、宋(そう)に狙公(そこう)という人があり、自分の手飼いのサル(狙)の餌(えさ)を節約しようとして、サルに「朝三つ、夕方に四つ与えよう」といったら、サルは不平をいって大いに怒ったが、「それでは朝四つ、夕方三つにしよう」というと、サルはみな大喜びをした、と伝える『列子』「黄帝篇(へん)」の故事による。(中略)転じて、目先の差別のみにこだわって、全体としての大きな詐術に気づかぬことをいう。
(日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋)
大阪市民はよくよく考えて投票に臨むべきだろう。
ちまたに、今回の都構想によって住民サービスが下がるとか変わらないとかいう議論があるが、それは問題の本質ではない。「大阪都」(実際は、府のままで都になるわけではない)が実現すれば、大阪市から引き上げられる財源は、特別区に交付金として配分されることになっているから、都構想によって直ちにサービス低下は起きないのかもしれない。しかし、大事なことは、その交付金の額の決定については、(旧)大阪市民は30%しか発言権がないということだ。つまり、他の大阪府民の同意を得なければ「与えられないもの」なのだ。自分だけで決定できるのと、他人の判断で与えられるのとでは大違いである。与えられるか与えられないかは「あなた次第」だ。大阪市の廃止による大阪市民の大阪という都市についての「決定権の喪失」、大阪都構想の問題の本質は、ここにある。