大阪都構想住民投票 反対多数に

 大阪市を廃止して四つの特別区に再編する「大阪都構想」の是非を問う2度目の住民投票が1日投開票され、反対票が賛成票を僅差で上回った。政令市である大阪市が存続する。都構想を進めてきた日本維新の会松井一郎代表(大阪市長)は記者会見で、「政治家としてのけじめをつけなければならない」と述べ、2023年4月の市長の任期満了で政界を引退すると表明した。

時事ドットコムニュース 2020/11/2)

 

 

 11月1日に行われた大阪都構想を巡る2度目の住民投票は、反対票が賛成票を僅差で上回る結果となった。賛成、反対のそれぞれの投票数は、賛成675,829、反対692,996(確定)であり、その差は約1万7千票であった。

 大阪都構想は、大阪市という地方自治体を廃止し、新たに4つの特別区に再編すると同時に、従来、大阪市、すなわち大阪市民が保有してきた権限と財源を、区長の公選制と引き替えに、大阪府に引き渡すという内容である。都構想は大阪市民にとって不利益しか存在しないといえる内容のものであるが、今回、反対多数の結果になったものの、最後まで予断を許さない大接戦となったことに衝撃を覚える。

 大阪都構想を推進する理由として、「二重行政の解消」が挙げられるが、仮に二重行政の弊害があるとして、府と市の両者があってこそ二重行政となるはずだ。ところが、なぜか、その責任が市にのみ帰せられ、大阪市が徹底的に攻撃される理由がわからない。地方自治制度の大綱を定める地方自治法においては、市町村と都道府県の事務の分担については次のとおり定められている。

地方自治法(抜粋)

 

第2条 地方公共団体は、法人とする。

2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

3 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。


4 市町村は、前項の規定にかかわらず、次項に規定する事務のうち、その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村の規模及び能力に応じて、これを処理することができる


5 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。


6 都道府県及び市町村は、その事務を処理するに当つては、相互に競合しないようにしなければならない

 

 

 上記を読むと、市町村は基礎的な地方公共団体都道府県は広域の地方公共団体と位置づけられている。都道府県が行う事務は、(1)広域にわたるもの、(2)市町村に関する連絡調整、(3)規模または性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの の3つに限定されている。それに対して市町村は、都道府県が処理するものとされているもの以外の事務を処理することとされているが、前記(3)の事務であっても、その市町村の規模および能力に応じて処理することができるとされている。つまり、広域にわたるものと市町村に関する連絡調整は当然に都道府県の事務であるが、その他は、市町村の規模と能力に応じてどちらが事務を行うかを判断することになる。

 この考え方に従えば、大阪市の場合、大都市の豊かな経済力を背景として巨大で高度な行政機構を有するから、大阪市が幅広く事務を処理することは当然に認められることで、競合を避けるために譲るのはむしろ大阪府であると考えるべきだろう。

 大阪市民は大阪府との二重行政の解消を考えるのであれば、行うべきことは大阪市の解体ではなく、大阪府に対して「大阪市のことは大阪市民が決めるから、大阪市から手を引け」と言うことであったはずだ。大阪市は、大阪という大都市から生まれる豊かな経済力を背景に、その繁栄の維持、発展に力を注ぐべきなのだ。それが、地方自治の基本的な考え方だ。

 しかるに、大阪都構想は、本来の姿とは逆に、大阪市の解体、分割、権限と財源の縮小を内容とする、真逆の方向性を打ち出し、いうなれば大阪市民の自治の破壊を進めようとしたのだった。しかし、その計画は、大阪市民の賢明な判断で阻止された、というのが今回の住民投票の結果の意義だ。

 今回の住民投票は、世界全体を覆う新型コロナウイルス禍の中で、外出や集会もままならない状態で、コロナ対策でマスコミに出ずっぱりの吉村大阪府知事の「人気」を背景に強行されたものだ。選挙戦は、当初は賛成派が圧倒的に優位な状況で始まったが、日を追うに従って、その問題点についての市民の理解が広まり、最終的には僅差での反対派の勝利となった。

 今回の投票に対する議論が十分に深まらないところがあった。それは、大阪都構想の本質を覆い隠すように、特別区の区長公選制の導入や、将来の大阪の発展という裏付けのない約束が盛り込まれたことも影響している。反対派はそうした本質をはぐらかす論点に深入りせずに「自治権の確保」という本質的な議論で応ずるべきであった。にもかかわらず、住民サービスの低下等の水掛け論、泥仕合に突入してしまったところがあり、あまり上手な戦い方とは言えなかった。

 

 今回のこのような僅差の結果になったことを考えると、社会全体に閉塞感が覆い被さり、将来の光が見えない中で、人々の中に既存の秩序を壊したいという「破壊衝動」が鬱積しているのではないかという気がしてならない。理屈ではなく、既存の秩序を壊したい、恵まれた人々への怨嗟が背景にあるような気がする。こうした人々の気持ちをあおり立て、社会秩序に対する攻撃に向かわせたものが大阪都構想だったのだ。もし、大阪都構想が賛成多数となっておれば、大阪では大変な地獄絵図が待ち構えていただろう。そして、そうした姿が、さらなる人々の破壊衝動を呼び覚まし、大阪だけではなく、日本中に広まっていったかもしれない。そのように考えると、今回の住民投票における反対派の勝利は、大阪市民だけでなく、我が国の国民全体を救う意味を持つものであったといえるだろう。