大阪都構想について

 大阪市を廃止して四つの特別区に再編する大阪都構想の制度案について、大阪市議会は3日、大阪維新の会公明党の賛成多数で可決した。大阪府議会に続いて議決したことで一連の議会手続きは終了。否決に終わった前回2015年に続いて2度目となる住民投票は10月12日告示、11月1日投開票の日程で行われることが固まった。

(2020/9/3 朝日新聞

 

 大阪都構想は、2015年に住民投票が実施され反対が賛成を上回る結果となり、実現にいたらなかったものであるが、再び住民投票が行われることが決まったようだ。

 

 大阪都構想とは何か、その定義をネット上で探してみると、次のようなものが見つかる。

 大阪都構想(おおさかとこうそう)は、大阪で検討されている統治機構改革の構想。大阪府大阪市(または大阪市を含む周辺市町村)の統治機構(行政制度)を、現在の東京都が採用している「都区制度」というものに変更するという構想である。 特に、
1. 大阪市を廃止し、
2. 複数の「特別区」に分割すると同時に、
3. それまで大阪市が所持していた種々の財源・行政権を大阪府に譲渡し、
4. 残された財源・行政権を複数の「特別区」に分割する、

ということが記載された「特別区設置協定書」に沿った統治機構(行政制度)改革を大阪都構想と呼ぶことが一般的に多い。

(中略)

 また、同構想の結果できる広域普通地方公共団体の名称は、現在の法制度下では「大阪都」になることはなく、大阪府のままである。「大阪府大阪市を統合する」という枠組みという点から、「大阪府大阪市合併」または「府市統合」ということもある。

wikipedia

 

 この説明によれば大阪都構想とは、大阪市の「廃止」・「分割」構想であるということになる。

 これを、図示すると次のようである。

 

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 横軸は規模の大小を表し、縦軸は権限の大小を表している。現在の大阪市は、神戸市と同様、政令指定都市なので、一般の市町村が持たない財源や権限が与えられている。大阪市の人口は262万人で大阪府人口の約30%に相当し、大阪府下では非常に強大な影響力を持っていることは間違いない。だからこそ、大阪府大阪市が長年にわたって競合する関係にあったと考えられる。

 大阪都になれば、大阪市は廃止され、それまで有していた財源および権限を大幅に大阪府に譲り渡し、4つの特別区に分割される。

 大阪市が従来保有していた財源と権限は大阪府に引き継がれることになるが、大阪市民は同時に大阪府民であるとはいえ、これまでは大阪市民だけで処分を決定することができたものが、大阪府の中の30%分の決定権しか有さないことになってしまう。つまり、大阪市が手放した財源と権限は大阪市民だけでは決定ができなくなるのだ。

 財源でいうと、本来は市町村税である法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税都市計画税事業所税は、大阪府に移され、特別区の手元に残るのは個人市町村民税、市町村たばこ税軽自動車税にすぎない。これでは、特別区の行政はとても賄えないから、「特別区財政調整交付金」として大阪府から特別区に交付されることになるが、大阪市民の自由になる財源は大きく失われてしまうだろう。

大阪府/特別区設置協定書

 

 これまで、人口で大阪府の30%を占め、大きな存在感を発揮してきた大阪市は、権限と財源を失うばかりではなく、一つ一つは4分の1の規模に縮小されてしまう。これにより、大阪市民は、大阪市を通して保有してきた大阪府下での特別な地位を放棄することになるし、大阪市民だけの利益を代表して全国で発言する自らの代弁者を失うことになる。従来のような競合関係を解消するために、大阪市を解体するのであるから、大阪市に代る4特別市が大阪府下で特別な地位を失うのは当然のことだ。しかし、それにとどまらず、大阪市民は、府下の他の市町村にも劣る特別区という権限の脆弱な団体の区民という存在になってしまう。なぜならば、固定資産税すら自主財源とできない市町村は他に存在しないからだ。

 特別区ではそれぞれ区長が公選されるものの、もはや大阪府知事と対等に交渉できるような存在ではないだろう。もはや、大阪市域の住民を代表して大阪府知事にもの申すリーダーは存在しないのだ。現在の都道府県と市町村はどちらも憲法が保障する地方公共団体であり、本来的には上下の関係にはなく、対等の関係であると説明されている。一方、特別区については、これまで幾多の変遷を重ねてきており、一時は都の内部団体と理解されていたこともあるが、次第に権限を回復し、近年、ようやく「基礎的地方公共団体」と位置づけられるようになった。しかし、それでも憲法が保障する地方公共団体であるとは理解されておらず、通常の市町村よりもはるかに不安定な存在であるといえよう。

 これまで大阪市としての一体感を持った市民が大阪の都市を築いてきたと思われるが、人為的に4分割された特別区の区民として、従来のような一体感は持てるのだろうか。この一体感こそが、地方自治の根本であると考えられる。4分割された大阪市民が、これまでのような大きな力を大阪府下、全国で発揮することができるのだろうか。

 東京都を例外として、日本国内すべての住民に基礎的自治体、国や県と法的に対等な存在として、市町村が与えられている。この市町村はその住民の利益を一義的に保障し、体現する存在だ。いわば、住民の財産ともいうべきものだ。大阪市民は、これをわざわざ破壊して、無権利の状態に自ら飛び込もうとしている。

 以上のように考えると、こうした改革を、大阪市民以外の府民であればともかく、大阪市民が諸手を挙げて歓迎することは理解に苦しむ。

 大阪都推進の理由として、二重行政の解消が挙げられているが、二重行政の解消というならば、十分な行政機構を持たない市町村ならばともかく、大阪市は十二分の行政機構を有しているのだから、大阪市域、大阪市民に関わる行政分野であれば、大阪市民のための行政機関である大阪市に権限を委譲するのが筋であろう。

 大阪市は、日本を代表する大都市として、先進的な都市作りを行ってきた輝かしい歴史を持つ。大阪市民は本当にこれを投げ打って大阪都を目指すのだろうか。一度、移行してしまえば、その回復にはおびただしい労力を要するだろう。本当に、このようなことに血道を上げるものだろうか。