神戸にビジネスセンターの建設は可能か

 神戸市は20年度から新たに、オフィスビルを建設した場合に最大で5年間、ビルの固定資産税と都市計画税を半額に軽減する制度を創設する。都心のオフィスビル不足を解消するのがねらい。新たに神戸市内に拠点を開設する企業のオフィス賃料補助も拡充する。これまで産業団地などで力を入れていた企業誘致は、都心地域への回帰を鮮明にする。企業の集積度を一段と高めて、都市の競争力向上につなげる。

(神戸経済ニュース 2020/2/15)

 2月14日、神戸市の2020年度の予算案が発表された。神戸市は、神戸都心での企業誘致を進めるために、オフィスビル建設に対して固定資産税・都市計画税を最大で5年間半額にする制度を創設するとともに、オフィス賃料補助制度の拡充を行うようだ。

 神戸市の人口減少は神戸経済の低迷による雇用の不振が引き起こしたものと考えられる。神戸市が都心でのオフィスビルの建設と企業誘致を強化することは基本的には正しいと考える。都心のオフィス集積の方針を明確にしたことは一歩前進である。

 しかし、この取り組みは成功するだろうか。

 結論からいうと、現状では成功は見込めないだろう。

 その理由は、神戸のオフィス街としてのブランドの弱さが挙げられる。神戸は、港湾都市工業都市で、大阪に比べて、もともとオフィス街としては弱い。また神戸市の企業誘致も新開発地での企業誘致に重きが置かれ、都心での企業集積をほとんど放置してきたといってもよいような状況であったので、残念ながら神戸はオフィス街としては全国的にはほとんど認識されていない。放っておくと、都心にオフィスビルが建たず、次々にマンションが建ってしまうのはその現状を表している。

 企業の担当者が進出先を考えるときに考えることはなんだろうか。近くに大阪がある中で神戸をわざわざ進出先に選ぶことは、社内はもとより、顧客、株主にも理由が立ちにくい。したがって、少々のインセンティブがあっても、そうした判断を覆すことは困難だろう。そうであるとすると、神戸市の狙いは、おそらくは空振りに終わると考える。

 そもそも、企業は、東京や大阪の、神戸とは比較にならない高額の賃料をはらってでも立地するのだから、賃料補助政策はどれだけ有効なのだろうか。単なるバラマキになっているおそれもある。

 

 しかしながら、人口減少に悩む神戸市としては、オフィス街の創出は、是が非でも実現をしなければならない課題だ。

 では、これをどのように実現すべきであろうか。

 オフィスの集積は一足飛びにはできない。まず、やらなければならないことは、オフィス街としてのブランドの確立である。ブランドの確立のためには、まず、その存在を広く認識してもらわなければならない。したがって、エリアを定めて、コンセプトを明らかにし、なんらかのネーミングを行うことが必要だ。

 一案として、エリアは、西はフラワーロードから東は生田川まで、北は国道2号線から海岸部までのエリアを一括で、新都心、ビジネスセンターとして指定する。

 コンセプトは、関西圏の西の玄関口(ゲートウェイ)であろう。現在の神戸市が策定した三宮構想の「歩きやすいまち」などは、よくいっても長閑で、悪く言えば寂しく鄙びた印象で、最悪だ。市長がよく口にする「人口減少対策」というのも、後ろ向きなので、もっと前向きなコンセプトを構想する必要がある。

 ネーミングは、横浜市の「みなとみらい21」、さいたま市の「さいたま新都心」、千葉市の「幕張新都心」などのようなものが必要である。

 

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 そこへ、新神戸、三宮、神戸空港を結ぶ南北アクセス線を引き、新オフィス街を整備する。セールスポイントは、新幹線、神戸空港、西日本最大級のバスターミナルが集まる西日本有数の交通の利便性である。特に、立地を進めるのは、神戸がこれまで外国人を多く受け入れ、外国人学校などのインフラがあることから、外資系企業がよいだろう。 

 そして、神戸のイメージを明るく賑わいのあるものに変えていく必要がある。賑わいをもたらすためには、集客施設を設置するとよいだろう。ドーム球場などの大規模アリーナや、大規模コンベンションセンター、遊園地などの集客施設を設置する。そのためにも空港と新幹線を結ぶアクセス線の建設が重要だ。それにより、日本全国から日帰りで人が集まることができるようになる。

 オフィスは、一過性のものではなく恒久的のものだから、設置場所の選択は保守的と考えられ、人々の行動を変えさせることは容易ではない。しかし、個人のレジャーや会議の場としてならば、その選択はその時々の1回限りのものだから、行動を変えさせることははるかに容易なはずだ。

 常時、最新のエンターテイメントが市内で催され、多くの人、特に若者が訪れるようになると、まちの雰囲気も明るくなる。街に活気がみなぎり、全国的な注目を集めるようになれば、企業がオフィスの立地として神戸を選択することはより現実的になるだろう。ある程度の進出の実績ができれば、集積が集積を呼ぶ好循環が生まれるだろう。

 

 客観的に眺めた場合に、神戸の立地条件は素晴らしい。神戸市に足りないものは、「ビジョン」や「構想」だ。全国、世界を見渡して大きな絵姿を描くことが必要だ。神戸市のリニューアルは、単に都市の模様替えではなく、これまでとは異なる質、異なるレベルの街にすることが重要なのだ。神戸市の三宮構想のどこにこうした「構想」があるだろうか。そもそも、神戸を全国的な位置づけでどのような街にしようとして、何を目指しているかもわからない。そのような構想が人々や企業の行動を巻き込む力はありえない。

 

 

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(注)上記の文章は、2020年2月下旬に記述したものである。