川崎市 神戸市 人口逆転

f:id:firemountain:20190518084910j:plain

  この5月に発表された神戸市と川崎市の人口が逆転したと各紙で報じられている。

 1972年からの神戸市、福岡市、川崎市の人口をグラフ化してみると、震災までは神戸市も両市と同様に順調に人口が増加していたことがわかる。震災後5年程でほぼ震災前の水準に復したが、やがて人口の伸びが鈍化、2012年から人口減少に転じ、それが現在も継続している。この間、両市の人口は一本調子で伸び続け、福岡市、川崎市と続いて順位の逆転が生じる事態となった。これを歴代神戸市長の在職期間と照らし合わせると、1989年から2001年が笹山市長、2001年から2013年までが矢田市長、2013年から現在までが現職の久元市長である。2000年頃から人口の伸びが鈍化するのは、矢田市長の財政再建路線が影響していると思われる。久元市長は、震災後の財政再建は終わり「新たなステージ」に立ったとの認識の下、「輝ける未来創造都市」をうたい市長に就任した。その後5年を経過するが、事態は一向に改善する気配はなく、むしろ悪化しているように見える。

  

 久元市長は5月16日の定例会見で、川崎市との人口順位の逆転を受けて、「人口減少に対する取り組みが十分ではなかった。」と語り「グレードの高い街づくりが住みたい人を増やす」と述べ、引き続き人口の「規模だけを追わない街づくり」を進めていく方針を強調したそうだ。

 

 人口は都市の活力のバロメーターと久元市長も述べている。では、都市の活力というのは何かというと、突き詰めて言うと経済活動である。経済活動が盛んであれば、人口は拡大するし、低迷すると人口も減少する。つまり、人口は都市の「経済活動の活発度」の指標なのだ。人口が減少しているということは、その都市の経済活動が弱まっており、その都市が利用されることが少なくなっていることを意味している。それは都市の存在意義に関わるところであり、深刻に捉えなければならない。これに対して、神戸市は有効な対策を行っているだろうか。久元市長が言う北神急行の運賃引き下げや老朽空き家の解体補助で経済活動が活発になるだろうか。北神急行の利用客の低迷や、放置された老朽家屋の増加は、神戸の経済活動の低迷の現れであって、原因ではない。圏域の経済活動が活発になれば、自然と利用客は増え、自然とリプレイスが行われていくものだ。 

 では、経済活動を拡大させるにはどうするか。経済活動に人口の増減は重要な要素だ。人口が自然減の状況であれば、社会増を増やすしかない。社会増を増やすには、神戸に人口を流入させることであるが、そのためには、神戸で生活できるだけの雇用が必要だ。神戸で雇用を増やすには、企業が神戸市に進出(創業を含む)すること、市外から神戸市を利用する「利用人口」を増加させることだ。したがって、神戸市は広域的視点から市内に立地できる産業、市内に誘客できる施設を検討しなければならない。神戸市を舞台に、広域にわたる人々が集い、様々な産業、商業、文化、娯楽、教育、学術等の諸活動が行われるようにしなければならない。その舞台が整うよう方向づけることが神戸市の仕事だ。それらの施設が、市内に集積するよう努めるべきだ。

 

 久元市長は、「グレードの高い街づくりが住みたい人を増やす」と述べたが、神戸市の人口が低迷しているのは、神戸市のグレード、生活の質に問題があるからだろうか。現状は、神戸市に住み続けたい人はいるのに、仕事がないので、流出している状況ではないのか。また、地価が高いので周辺に流れている状況ではないのか。神戸市は課題に即した適切な施策を行わず、都市のグレードの向上という的外れな目標に向かっている。そもそも都市のグレードとは何のことだろうか。都市のグレードという抽象的であいまいな目標のため、施策の対象が無闇に拡大し、本来の課題とは無関係なものまでがやり玉にあげられるようになってきているように感じる。しかし、それは問題を拡散させるばかりで、本来の課題の解決をより困難にさせるだろう。本来の課題に集中して取り組むべきだ。

 

 一般に、都市の人口をもって、その都市の重要度を判断することが多い。人口順位の低下は、それ自体が都市の評判、ひいては都市の選択に大きな波及効果を持つものだ。それは、神戸市がなんと言おうと客観的な指標なのだ。この数年のうちに2ランクも順位を下げたことは、深刻に捉えなければならない。