新型肺炎の流行について(26)

 大阪府は12日、新型コロナウイルスの専門家会議を開き、これまでの感染状況や対策についての検証を始めた。オブザーバーとして参加した専門家2人は感染のピークは3月28日ごろで、4月7日の緊急事態宣言に伴う休業要請などは効果が薄かったと指摘。吉村洋文知事は、次の感染拡大期には休業要請の範囲を狭めたい考えを示したが、変更には慎重な意見も相次いだ。

 オブザーバー2人は中野貴志・大阪大核物理研究センター長と宮沢孝幸・京都大ウイルス・再生医科学研究所准教授。専門家会議に今回、初めて出席した。府内の発症者が多かったのは4月1日の67人と同月3日の69人。2人は3月28日ごろが感染のピークだったとの認識を示した。

朝日新聞 2020年6月12日)

 

 大阪府が緊急事態宣言の効果の検証を始めた。報道によると、オブザーバー2人は中野貴志・大阪大核物理研究センター長と宮沢孝幸・京都大ウイルス・再生医科学研究所准教授で、そのうちの宮沢准教授は、自身のツイッターで次のように発信している。

2メートルのソーシャルディスタンスはあくまでも、マスクをする人がほとんどいない欧米での話であり、これを日本で新型コロナウイルス対策の一丁目一番地にすることは、私は大反対です。イギリスの知人にも確認しましたが、マスクをしない前提での話であります。元々イギリスではマスクは入手困難。

(宮沢孝幸twitter 2020/5/24)

 

 

 今回の新型コロナウイルスの流行では、現場の医療関係者への賞賛の一方、中央の専門家と言われる人々への不信感も大きくなったように思う。不信感を持たせた第一は、数理的手法による予測の不確かさであろう。感染者数40万人の予測が当たらなかったのは明らかだ。先頃には次のような報道もあった。

【独自】流行前に生活戻すと「都内の感染1日100人」…西浦教授ら試算

 新型コロナウイルスの流行前の生活に戻すと、7月中に、東京都内で再び大きな流行が起こる可能性があるとする試算を、北海道大の西浦博教授(理論疫学)らの研究チームがまとめた。

  研究チームは、5月下旬までの東京都内の感染状況のデータを基に、今後の状況を予測した。その結果、流行前のような生活を続けた場合、7月中に東京都内の感染者数が1日100人以上になると予測した。

 一方、居酒屋や接待を伴う飲食店、医療機関福祉施設などで人との接触を30~50%減らせば、感染者数は低い水準を保てるとした。ただし、医療機関福祉施設は社会活動の維持に不可欠で、人との接触を減らすことは難しいとし、飲食店などで、接触を減らす工夫を求めている。

(以下略)

(読売新聞 2020/6/3)

 

 このような試算にどういう意味があるのだろうか。数理的な予測というものは、ある程度の母数がある対象について、統計的に係数を計測し、それらの係数を元に、全体的な傾向としての今後の方向性を予測するものだが、このような統計的な係数把握は行われたのだろうか。さらに、感染の蔓延期であればともかく、局地的な感染に押さえ込んでいる状況下では、予測対象とされている人々のそれぞれの行動様式や条件も個別的な要因が強いだろう。予測の前提となる係数を統計的に把握しないままに、精密な数値予測だけを行うことは、なんらかの結論だけを科学的な装いをもって人々に押しつける結果になりかねない。 

 

 また、マスクの着用についても、専門家と国民の間で考え方に乖離が生じた。専門家は、当初、マスクは着用しても予防の効果がないとして、彼ら自身、公の席においても非着用で臨むなど、大多数の国民がマスク着用に努めたのとは対照的な姿を示し続けた。多くの国民は、常識的な判断として、マスクの有効性を理解して着用し続けた。ウイルスは、飛沫感染接触感染、エアロゾル感染のいずれかのルートから感染すると考えると、マスクの着用は、素人の目からも、一定の防護効果があると理解できたのだ。

 

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 その後、我が国の患者発生件数は欧米諸国に比べて桁違いに少ない結果となり、マスクの有用性がますます実感される状況となった。世界でも、マスク着用を義務化するようになった国々もあるという。我が国の専門家もついにはそれを追認し、後には、自分たちもマスクを着用して会見に臨むようになった。しかし、今なお、マスク着用にはあまり重きを置かず、あくまでも対人距離の確保、対人接触の削減を中心とする対策を中心に考えているようだ。それに対して異論を述べているのが、先ほどの京都大学の宮沢准教授だ。

 なぜ、専門家と呼ばれる人々は、マスクの有用性を最後まで認めようとしなかったのだろうか、ある意味、不思議にさえ感じる。あまりにも単純な理屈なので、専門家の存在価値に関わると考え、受け入れがたかったのだろうか。

 

 今回の緊急事態宣言の効果については、休業要請の効果は薄かったという意見が出されている。つまり、あれほどまでの全面的な休業が必要があったのかどうかということだ。

 8割の接触制限を掲げて経済活動も抑制しようとした背景には、政策決定者における、経済活動の重要性に対する理解の低さがあったように感じられる。これまでも繰り返し述べてきたたように、経済活動は社会にとって不可欠の要素であるから、もとより自粛の対象には含めるべきではなく、生活と不可分なものとして、感染防止を行いながらどうやって経済活動を維持するかという観点で考えるべきではないかと思う。 

 今回の緊急事態宣言における休業要請の効果、結果については十分検証し、第2波の襲来時に、どのような対応をすべきかを十分検討を行う必要がある。