新型肺炎の流行について(16)

 安倍晋三首相は4日、首相官邸で記者会見を開き、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を31日まで延長する、と表明した。全都道府県が対象。重点的に対策を取る13の「特定警戒都道府県」は維持した。残る34県は一定の感染拡大策を前提に、社会・経済活動の再開を一部容認する。14日をめどに感染状況などを分析し、解除の前倒しを検討する。

 首相は、延長の対象を全国とする理由を「現時点ではまだ感染者の減少が十分なレベルとは言えない。各地への感染拡大を防ぐためにも、地方への人の流れが生まれるようなことは避けなければならない」などと説明した。

 31日までとしたのは、「医療現場の逼迫(ひっぱく)した状況を改善するためには、1カ月程度の期間が必要である」ため、とした。(以下略)

(2020/5/5 朝日新聞

 

 安倍首相は4日、当初5月6日を期限として発せられた緊急事態宣言を、5月31日まで延長すると発表した。新型コロナウイルス感染症の全国の発生件数(判明件数)は、4月11日が719件、5月3日が201件と、一時に比べ少なくなっているが、「感染者の減少が十分なレベルとは言えない。」というのが延長の理由だ。重点的に対策を取る13の「特定警戒都道府県」と、それ以外の34県に分け、後者では一定の感染拡大策を前提に、社会・経済活動の再開を一部容認するが、前者については、「8割接触削減」が継続される見込みである。兵庫県は、この特定警戒都道府県に含まれている。

 新型コロナウイルス感染症は、人から人へのウイルスの感染によるものなので、人を介してしか感染しない。したがって、人との接触を8割減らそうという方針は、感染防止の一つの方法ではあるのだが、それ以外に方法はないのだろうか。

 人との接触を完全に絶ってしまえば、感染は防止できるだろうが、それでは経済活動は成り立たない。経済活動が完全に停止してしまうと社会の維持もできなくなり、最終的には人は生存することができなくなってしまう。したがって、「人との接触を減らす」という方針は長期にわたって継続することはできない。

 感染症発生からすでに4ヶ月以上経過し、ある程度、感染症の性質もわかってきた。人々は、理解ができないものに対して恐れを抱く。生じている事態が理解できないと、古人が悪魔や悪霊を恐れたように、得体の知れない何かを恐れ、神に祈るしかなくなってしまう。しかし、今回の新型コロナウイルスは、その姿は写真で捉えられているし、悪魔の呪いのように恐れることはないはずだ。

 このウイルスに感染するのは、人の体内にウイルスが侵入するからだ。このウイルスが体内に侵入する経路は、①咳やくしゃみにより宿主から排出された唾液などが飛沫となって、それを直接体内に取り込んでしまう「飛沫感染」、②宿主から排出されたウイルスが物に付着しそれが人の手などを介して口や鼻などから取り込まれてしまう「接触感染」、③飛沫より小さな粒子を吸い込んで感染する「エアロゾル」感染の3つだ。飛沫感染は、患者本人がマスクを着用しておれば、ほぼ防ぐことができるだろうし、周囲の人もマスクをしておればより安全だ。接触感染は、手に付着したウイルスが口や鼻の粘膜に付着することにより発生するが、手を石けん等でこまめに洗ってウイルスを取り除き、さらにマスクをしておれば、口や鼻に直接手が触れてウイルスが付着することを防止できるだろう。エアロゾルについては、換気を十分にして空気を循環させればリスクを大きく低減させることができるだろう。

 我が国の感染者数は、欧米諸国に比べて、著しく少ないように報じられている。その原因としては諸説あるが、最もありそうなのは、マスクの普及率の高さだ。従前より花粉症に悩まされてきた我が国の特殊事情でマスクが家庭や職場で普及していたからだという説だ。

 今や我々は、感染メカニズムに立ち返って、感染機会を減らして、通常の生活に戻る方法を考えることができるはずだ。さらに、これまでの経験から、感染の危険が高いと考えられる状況というのもある程度わかってきた。そうした危険な場面は極力避けるべきだが、すべての場面について、屋内屋外の別なく、人々に一律に活動自粛を求めることは適当ではない。その上で、やはり自粛が必要となる特定の分野については、政府が十分な経済的支援を行うべきだろう。

 政府の専門家会議は、感染の広がりを長期的に防ぐための「新しい生活様式」を発表した。「新しい生活」というのは、これが今後の生活であって、従来の生活が再び戻ってこないということを意味しているのだろうか。