北神急行 事業譲渡問題(その3)

 神戸市は、北神急行の高すぎる運賃を引き下げて、北神急行の利用者増を図り、神戸市北部の活性化を目指して、交通局が北神急行の経営を引き継ぐ方向で交渉を開始することで合意したと報道されている。

 久元市長は、自らのブログ(「すでにあるインフラを活用すべきだ。」2018年12月28日)の中で、今回の北神急行の譲渡の問題に触れ、「人口減少時代を迎え、必要なインフラを整備するとともに、すでにあるインフラを有効に活用して、街の活性化を図っていくことが必要です。」、「今回の交渉がうまく行けば、ほとんど投資を行うことなく、神戸の活性化に大きな一歩を踏み出すことができます。」と述べている。これについては、どう考えるべきだろうか。

 北神急行の神戸市への譲渡は、社会全体でなにか建設がされるわけではないので、資源の利用的な意味では「投資を行うことなく」というのは事実である。しかし、北神急行を引き継ぐのは無償ではなく、200億円という多額の支出をして北神急行を買い取ることになるので、神戸市としては莫大な投資を行うことになる。その意味で久元市長の「投資を行うことなく」というのは正しくない。

 この投資によって、社会に新しい財が誕生するわけでもなく、(運賃引き下げは別として、)スピードアップ等のサービスが向上するわけでもない。市内に新たな雇用が生まれるわけでもない。200億円という巨額を支出しながら・・・。これは、単純に言うと、神戸市が阪急の負債の一部を肩代わりするという話だ。神戸市の帳簿から阪急の帳簿にお金が移るだけだ。

 さらに、運賃を引き下げるので、今後長期にわたって、これまで料金を引き下げるために支出してきた2.7億円の補助に加えて、さらに運賃を引き下げることになるから収益されるはずだった運賃収入を放棄することになる。その多額の費用の支出と収入の放棄の結果、得られる効果は、北神地区の沿線の住民の経済的負担をいくらか減らすことだ。しかし、北神地区の住民はいったいどれだけの頻度で北神急行を利用して三宮に出て来るのだろう。都心で買い物をするにしても、月に1回ぐらいではないだろうか。

 今回の事業譲渡はいったい何のために行うのだろうか。これだけのメリットで、北神地区の人口が増える効果が生じるだろうか。仮に北神地区の人口が増えるとしても、神戸圏の雇用の総枠が増えるわけではないから、せいぜい神戸圏の人口の再配置が行われるだけの話ではないだろうか。

  この投資は、結果的に神戸市の財源の多額の喪失を生じるばかりで、割に合わないのではないか。このように巨額の財源を投じながら、社会全体ではなにも新しい財やサービスは生まれない。全く、下手なお金の使い方ではないだろうか。

 本来、神戸市活性化の柱となるべきは三宮の再開発であるが、目に見える成果が上がっていない。阪急の市営地下鉄への乗り入れ、ポートライナーの延伸、輸送力増強等、大きな課題があるが議論がまとまっていない。今回の北神急行の譲渡が、他にもっと大局的な理由があり、そのための布石というならよいのだが、実績をあせった結果、飛びついてしまったのではないことを願う。