六甲山と里山は神戸再生の切り札か

  久元神戸市長が、自らのツイッターに上記のような書き込みを行った。

 

 東京23区、大阪市はほぼ100%が人口集中地区ですが、神戸市は3割以下。神戸には六甲山、それに里山もあります。東京一極集中を生み出して来た高密度至上の価値観は必ず見直される。神戸は東京や大阪とはまた違う将来への可能性を手にすることができると思います。豊かな自然環境の保全が大前提です。

久元喜造twitter 2020/10/1)

   

 都市がどうして発生し成長するかについては過去に考察をした。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 都市は、人や物の集中によって生まれる生産性の向上をエンジンとする自立的な発展メカニズムを内包した存在である。それはひとたび集中が生じるとそれ自体がさらなる集中を生むという性質をもっている。

 ひとたび生じた上昇気流が低気圧を生み、それがさらに強い上昇気流、低気圧を招く台風とよく似ている。たとえると、東京は今でも目のくっきりした大型の強い台風だ。神戸は、中心気圧が弱まり、目がぼやけ、近々温帯低気圧になってしまいそうな弱々しい小さな台風だ。台風の目に相当するのが「都心」であろう。神戸の都心は従来の産業が衰え、それに代わるものが見当たらず、商業も周辺都市と比べて老朽化して魅力を失い、業務地であったところが次々とマンションに置き換わり、このままでは台風の目は消失してしまうだろう。それは台風の消滅を意味し、その後は内外の気圧差のない穏やかな状態、すなわち、茫漠と広がるベッドタウンの中に溶け込んでしまうだろう。

 「東京一極集中を生み出してきた高密度至上の価値観は必ず見直される」という根拠は何なのだろうか。東京の一極集中は、「高密度至上の価値観」が生み出したものではない。集中が集中を招くのは自然法則のようなものだ。したがって、この都市発展のメカニズムが働き続ける限り、一時的な攪乱はあるかもしれないが、基本的には一極集中(都心への集中)は続くだろう。

 

 現在の神戸市長に求められている役割はなんだろうか。目がぼやけはじめ、衰退に向かっている台風にエネルギーを与えて上昇気流を強化し、再び強い中心気圧をもった求心力のある台風にすることだ。

 神戸の台風の目は、神戸港を中心とする神戸~三宮の都心である。六甲山や北区の里山の活用を進めることが都心の活性化につながるだろうか。

 同じ市域ではあるが、六甲山は六甲山であり、北区の里山は北区の里山であり、神戸都心の活性化とは関係がない。北区の里山の活性化がされたから神戸の都心が活性化するわけではない。神戸の都心が六甲山や北区の里山に近接しているというだけで、東京や大阪に代わる都市の可能性を提示するものとは言えないだろう。

 都市のパーフォーマンスは、経済活動の度合いではかられる。具体的には国民総所得に相当する市民総所得ではかられる。それは、どれだけの市民を養うことができるかという意味合いを持ち、これが都市の人口水準を決定する。では、六甲山や里山の活性化がこれにどの程度寄与するだろうか。全体に大きな影響を及ぼそうと思えば、大きな部分を占める部分について対策を講じるべきだ。ほんのわずかな部分しか占めないものが2倍になろうが3倍になろうが、その効果はやはりわずかだ。六甲山の活用や里山保全することに反対するわけではない。ただ、それを神戸の活性化、人口減少対策と捉えるならほとんど効果があるとは考えられず、逆に本来すべき施策、三宮の再開発や交通体系の整備、新産業の誘致などに注ぐべき資源が分散されてしまうことにもなりかねない。 

 近年、神戸市の人口は減少を続けている。だから、人口増加対策が必要だ。都市としての発展を目指すのであれば、競合都市に負けないよう都心への人や物の集中を目指さねばならない。市長もこの前提に立つはずなのに、なぜか都心ではなく、山林や農村への指向が強く、六甲山や北区の里山に神戸再生の切り札を求めようとする。神戸市をどうしたいのだろうか。