富とは何か(8)

 経済活動とは、生産、流通、分配、消費という一連の流れの総称である。生産をするのは、最終的には産出される財やサービスを消費するためであり、人が生きるために必要な財やサービスを生産して、分配して消費することがその本質である。それらの活動は現代社会では企業を中心に行われ、それを行う動機の根本は利潤を得ることである。しかし、それもまた、最終的には、利潤を手に入れることにより財やサービスを手に入れ、消費するためである。したがって、経済の状況を考えようとするならば、このどの局面を見落としても正しい理解を得ることができない。生産だけを行って、消費を考えないということは本来的にはありえない。

 生産されたものが社会に供給されるとして、その需要はどこからくるのだろうか。

 財やサービスの供給に対して発生する需要は、第一に、生産活動に伴い労働者に支払われる賃金である。賃金は消費となって市場に現れる。支払った賃金がすべて消費に充てられたとしても、これだけでは需要は供給にはるかに及ばない。なぜならば、商品の価格は賃金を含むコストよりも高く設定されるから、財やサービスの供給の総額は支払った賃金の総額を超えるはずだからだ。

 経済活動をマクロ的に捉えるならば、供給に対する需要は、消費と投資と政府支出と海外需要である。このうち、最も安定的なのは消費で、最も変動が激しいのが投資である。消費は日々の生活を維持するのに必要な財やサービスの提供を受けるものだから安定的である。一方、投資は、将来の経済の期待に基づき、利益が得られると考えると投資し、利益が得られないと考えると見送るというように不確実であり、変動が大きい。したがって、経済の変動、循環は、基本的には、投資が決定づけることになる。つまり、投資が活発であれば景気は好景気となり、商品がよく売れ、生産現場はフル稼働となり、場合によれば品不足になり、当初、予期した以上の価格で販売でき、企業の利潤は拡大することになる。このような投資が活発に行われたのが高度成長期である。その当時は、社会全体がまだまだ物不足の状態で、作れば売れる状態だったので、生産能力を拡大するために積極的な投資が行われたからである。投資は生産能力を拡張しようとして行われるが、その投資自体もまた需要となり、さらに需要が上積みされることになるので、物不足は一層激しくなり、投資が投資を呼ぶ状態となり、景気が過熱することになった。

 しかし、1970年頃には、我が国は先進国のキャッチアップを達成し、経済の拡大は一段落することになり、低成長の時代に移行した。国内の投資が低下すると、国内の需要は低迷をすることになる。それを補うために着目されたのは海外への輸出である。我が国の輸出への傾斜は、一時の繁栄を我が国にもたらしたが、海外の諸国との貿易摩擦を引き起こし、それは為替の変動、著しい円高を引き起こし、我が国経済は、貿易黒字の縮減を迫られることになった。

 海外需要の縮減を補うために行われたのは、財政赤字の拡大であった。ここに我が国の財政悪化が拡大する必然性があった。財政赤字は、行政の無駄遣いといったレベルの話ではないのだ。

 しかし、財政赤字の継続は、財政の維持可能性の懸念をまねき、行財政改革が叫ばれるようになった。

 こうした状況を打破するために登場したのが、構造改革路線であり、財政支出の抑制を目指したものであったが、財政支出の抑制は、当然のことながら経済全体の需要を減らすことになり、景気が悪化するたびに経済対策として財政支出の拡大、減税などの措置が取られ続け、政府の累積赤字は拡大の一途をたどった。また、この間、新自由主義的な考えが主流となり、市場の自由化や労働規制の撤廃などの競争を激化させ、国民の労働条件、収入環境の悪化を招くことになった。

 経済の発展段階が高度成長期を終えてしまった今となっては、過去のように投資が高水準に達することは基本的にはない。そうなれば、経済全体の需要は慢性的に不足し、それを埋めるために海外への輸出拡大を続けることもできない。その根本的な問題解決は、外需に頼ることなく、内需で国内経済を回せるようにする「内需主導型の経済」への転換が必要であった。1980年代以降は、我が国の経済の改革は、これがメインテーマであったはずだ。言い換えると、国全体が豊かになったので、その豊かさを国民が享受するようにしなければならなかった。つまり、「豊かさの享受」こそが課題であったのだ。

 ところが、取られた政策は、その逆方向であった。

 低成長下は、恒常的に需要不足の状態であり、企業にとっては利潤が不十分な状態である。それを補うために、労働コストの引き下げが図られ続けた。賃上げの抑制、労働の自由化、規制緩和により、派遣労働の自由化、女性や高齢者の能力活用の名目で低賃金のパートや再雇用、外国人労働者の移入などの施策がとられ続けた。また税制においては、法人税所得税の税率の引き下げとともに、逆累進制と言われる消費税への置き換えが進められた。また、年金の支給額の抑制のための引き下げなども行われた。その結果陥ったのは、縮小均衡に陥った我が国の経済であった。

 我が国の経済は、もともと強蓄積型で、国民が生活を切り詰め、節約して投資を行う社会であったが、経済成長を遂げ社会が豊かになった時に、そのスタイルの変更を行うべきであったのだが、それができなかった。投資がそれほど必要でなくなった社会では、供給と需要のギャップが生まれる。このギャップを埋めることが課題になったときに、真の原因から目を背け、それを埋めるのではなく、埋めることに抗い続けたのが我が国の経済政策であった。その結果、経済は低迷を続け、30年にわたってゼロ成長の状態に陥り、そこから抜け出せなくなってしまった。その間に、海外の諸国は成長を続け、我が国は遅れをとるようになった。近年は異次元の金融緩和として円安誘導が行われ、国民は海外の品物を高額で買うことを余儀なくされ、生活はすっかり貧しくなってしまった。

 我が国が現在直面している課題は、これまで未解決のままでいる「豊かさの享受」である。国内には十分な生産能力があるにもかかわらず、それを国内で消費することができない。物はあふれているのに、また、人々は物への需要を抱えているのに、それを手に入れることができない、それを解決することが我が国の課題である。本稿の第5回で述べたように、我が国は「世界最大の対外債権国」だ。長年、勤勉に働き、資産を積み上げてきた我が国の国民は、豊かさを享受する資格は十分にある。そして、それは、我が国の生産性を上げ、新技術を開発し、再び世界をリードすることにもつながるだろう。

 

 「成長か分配か」と二者択一で論じる意見があるが、生産能力という点では、我が国はすでに十分な能力を有している。それを不十分にしか稼働させていないというのが本稿の見立てである。したがって、現下のこの課題については、分配が優先となる。分配を増やすことによって、現在有する生産能力から生み出される豊かさを十分享受すべきである。その上で、さらに財やサービスが必要と考えるのであれば、生産能力の拡大のための投資を行うべきである。ところが、「成長がなければ分配がない」というのは、生産能力が不十分にしか活用されていない状況で、さらに生産能力を拡大するために、国民にさらなる節約を強要することになり、それは、これまでの強蓄積型社会の強化につながり、ますます解決から遠ざかることになってしまう。これまで長年に渡って続けられた、企業が利潤を確保できる条件を整えて投資を拡大しようとする試みは失敗に終わった。その間、国内の消費は冷え込み、そのような環境下で投資をしても利益が見込めないからだ。その帰結が、30年にわたるゼロ成長であった。

 

 では、「分配」はどのように実現すればよいのであろうか。

 結局は、お金の余剰のあるところから、お金のないところにお金を回してやればよいということになる。具体的には、企業は大きな利潤を発生させているが、それを国内で使用せずに蓄積してしまっている。その使用されない利潤を、一般の国民に分配すればよいのだ。利潤を蓄積することは資本主義社会では根本的な原理であるから、これを行うには法律による強制力が必要である。つまりは、使用されない利潤に対して課税を行って社会全体に還元させる仕組みが必要である。これを行うのは激しい軋轢を引き起こすだろうから、当面は、政府が通貨を増発して財源を確保して、公的支出または税の減額等を通じて国民に分配することが妥当であろう。その後、時間をかけて安定的な分配構造を構築するべきだろう。

 

 

 

 

 

ニトリがポートアイランドに新物流センターを開設

2021 年 9 月 27 日
報道関係者各位 株式会社ニトリホールディングス
株式会社ホームロジスティクス


国内物流拠点の再配置 ~兵庫県神戸市に物流センター新設~


 株式会社ニトリホールディングスは、兵庫県神戸市に、新たに物流センターを開設します。運用は、株式会社ホームロジスティクスにて行います。
 ニトリグループは、多くのお客様へより一層の豊かさを提供するために国内物流拠点の再配置を行っております。石狩 DC に続き、第 2 弾として神戸 DC を新設いたします。
 ニトリ店舗の出店加速、お客様のライフスタイル変化に伴う EC 需要拡大など、物量に見合う入出荷機能の拡充、コスト削減を図るべく、物流センター機能の全体最適をはかります。今後もニトリグループが一体となり、お客様の更なる利便性向上に取り組んでまいります。
 既存の物流センターである、関西DC(神戸市中央区)より2.5kmほどの距離に立地します。また、神戸圏に位置する立地環境優れたアクセス性を持つ神戸港に至近しており、関西圏の物流拠点として広域配送にも最適な立地です。

施設概要
(1) 名 称 :神戸DC(仮称)(※1)
(2) 住 所 :〒650-0045 兵庫県神戸市中央区港島4丁目7番1
(3) 構 造 :S構造、耐震構造、地上4階建
(4) 敷地面積 :9,752.58坪、32,239.96㎡
(5) 延床面積 :24,609.72坪、81,354.46㎡
(6) 着工時期 :2021年11月1日予定
(7) 竣工時期 :2022年11月5日予定 

※1…DC:Distribution Center(在庫保管型物流センター)の略称。

 

国内物流拠点の再配置~兵庫県神戸市に物流センター新設~-1.pdf (homelogi.co.jp)

 

 株式会社ニトリホールディングスが、ポートアイランドに新たに物流センターを開設すると発表した。ニトリグループは、国内物流拠点の再配置を行っており、神戸DCは石狩DCに続く国内第2弾とのことである。神戸が選ばれたのは、元々ポートアイランド(港島1丁目)に物流施設を持っていたことと、神戸圏に位置する立地環境と神戸港に隣接する優れたアクセス性により、関西圏の物流拠点として広域配送にも最適な立地と評価されたためとのことである。

 これは大変重要な指摘であると考える。神戸圏に位置する立地環境とは、従業員の確保のしやすさであったり、従業員のための住環境が優れていることであったりということを意味しているのであろう。そして、優れたアクセス性により、関西圏全体の広域配送に最適と評価されたということだ。

 ニトリが最適と評価したということは、他の企業にとっても最適であるということを意味するだろう。つまり、これこそが神戸の強みなのだ。物流という最も合理性が追求される分野で最適と評価されたことは、人の移動についても最適と評価される可能性があるだろう。

 現在、神戸市は、大阪湾岸道路の西伸部の建設を進めている他、三宮には西日本最大級のバスターミナルも建設している。現在でも高い評価を得ているところに、さらにそれらの能力を高める取り組みが進められている。今後、これらのプロジェクトが進めば、神戸に物流基地を求める動きはより一層強まる可能性があるだろう。神戸市には、これらを活かすためのビジョンやプロジェクトはあるのだろうか。果たして、それらの需要を受け入れるだけの容量が神戸にあるのだろうか。

 「神戸市企業進出総合サイト」を見ると、神戸流通センター、西神インダストリアルパーク、神戸ハイテクパークは「分譲済み」となっており、あの広大であった、神戸テクノ・ロジスティックパーク、神戸サイエンスパークさえも、ほとんどが分譲済みで、残りはわずかといった状態のようである。

産業用地を探す | 神戸市 企業進出総合サイト KOBE BUSINESS WIND (kobe-investment.jp)

 

 かつて神戸市は積極的な開発により産業用地を生み出してきた。それは神戸に大きな発展をもたらしたが、その一方で「開発行政」として強い批判も受けてきた。それらの土地は売れ残り、無駄な投資、開発のための開発であると非難されてきた。(これに対して、不思議なことに、大阪はこのような批判にはさらされなかった。現在進められようとしているIRこそ、「開発行政」と呼ぶべきだろう。)しかし、現在の状態を見れば、全く無駄なことはなく、神戸市民の経済基盤の確立のため、我が国の経済の振興のために大いに役立ってきたといえるだろう。

 昨今、人口減少に悩み、福岡市、川崎市の後塵を拝することになり、インバウンドでも出遅れ、外国人観光客で賑わう京都、大阪を横目に、神戸市民はすっかり自信を失ってしまったように感じる。それは神戸市の行政についても同様で、かつての開発行政の力強さは見る影もなく、方向性を見失っているように思う。本来の神戸に期待される役割は何なのだろうか。

 

 先日の朝日新聞に次のような記事が掲載された。

若者が流出する神戸市、福岡市に熱視線 人口と経済、なぜ差が出た?

 

 若い世代を中心に、人口減少が止まらない神戸市。対照的に、人口を増やしているのが福岡市だ。2015年の国勢調査で神戸を抜き、積極的な中心部開発や企業誘致で勢いに乗る。違いはどこにあるのか。31日投開票の神戸市長選を前に、福岡との比較から神戸の将来を考える。

(略)

■悩む神戸市 IT産業に遅れ

 一方の神戸市。1956年に横浜や大阪などとともに最初の政令指定都市となり「5大都市」の一つに数えられた。だが人口は近年減り続け、昨年は指定市で7位。2015~20年の人口増減率はマイナス0.7%と指定市で6番目に減り幅が大きかった。九州第一の都市で周辺から人口を吸収する福岡市と違い、神戸は大阪・京都という関西の3極構造のなかで、むしろ大阪に人口を吸収されている。

 神戸の人口減少で特に深刻なのは20代後半~30代前半の流出だ。神戸もまた、「働く場の創出」が急務になっている。

(略)

■「まねる必要ない」 関西学院大学の角野幸博教授

 関西学院大学の角野幸博教授(都市計画)は、大阪・京都がある神戸と九州第一の福岡は前提が違うとし「福岡をまねる必要はないし、しても効果は薄い」と話す。注目するのは郊外だ。神戸市の面積は福岡市の1.6倍。北側には農村地域が広がる。「港町のイメージゆえに注目されなかった農村や自然の活用をめざすべきではないか」

(2021/10/12 朝日新聞

 

 

 上記のようなアドバイスを鵜呑みにすると、「茅葺き家屋の活用」などが上がってきそうだが、本来するべきことは、常に適地を求め続ける産業活動に対して、受け皿となる場所(用地、オフィスなど)を確保して提供することだろう。

 

 

JR三ノ宮駅ビルに関する新動向(補)

 10月5日に開かれた、神戸市、JR西日本、UR都市機構、三者の共同記者会見は、新聞でどのように報じられただろうか。

 

(1)朝日新聞

神戸・三ノ宮に160メートルの駅ビル 2029年度開業めざす
 JR西日本は5日、神戸市の三ノ宮駅南側に建設予定の新しい駅ビルについて概要を発表した。高さ約160メートルで商業施設やオフィス、ホテルが入る見通し。同社が単独で建設するビルとしては最も高いという。2023年度に着工、29年度の開業をめざす。

 ビル周辺の整備で協定を結んだ神戸市、UR都市機構とともに会見した。(以下略)

(2021/10/5 朝日新聞

 

(2)日本経済新聞

JR三ノ宮駅新ビル、29年度開業 駅前6車線化も同時期に
 JR西日本の長谷川一明社長は5日、神戸市内で記者会見し、JR三ノ宮駅に直結する新ビルを2029年度に開業すると発表した。市中心部に位置する同駅周辺の再整備をめぐり、神戸市などとの連携協定を同日結んだ。駅前の10車線道路を6車線に減らして歩行者空間をつくる神戸市の事業は完成が当初計画の25年ごろから4年程度ずれ込む見通しだ。
 新ビルは23年度の着工を計画する。延べ床面積は約10万平方メートルで、高さはJR西日本が主体となって建設するビルでは最高の約160メートルとする。高層階にホテル、中層階にオフィス、低層階に商業施設を入れる構想だ。投資額など事業の詳細は22年度半ばまでに公表する。

(以下略)

(2021/10/5 日本経済新聞

 

(3)毎日新聞

三ノ宮新駅ビルは高さ160メートル 29年開業、JR西で最も高く
 JR西日本は5日、三ノ宮駅神戸市中央区)に建設する新しい駅ビルを2029年度に開業すると発表した。高さは約160メートル。大阪駅に隣接するノースゲートビル(高さ約150メートル)を抜き、JR西の駅ビルでは最も高くなる。
(以下略)

(2021/10/5 毎日新聞

 

(4)読売新聞

高さ160メートルの複合商業施設に…JR三ノ宮駅の新たな駅ビル
 JR西日本は5日、建て替えを計画する三ノ宮駅神戸市中央区)の駅ビルについて、2023年度に新ビルの建設を始め、29年度に開業すると発表した。高さ160メートル、延べ床面積10万平方メートルで、ホテルやオフィスが入る複合商業ビルを想定している。コロナ禍による業績の悪化に伴い、計画の見直しを進めていたが、当初の構想とほぼ同規模のビルとなる。

(以下略)

(2021/10/5 読売新聞)

 

(5)神戸新聞

JR三ノ宮駅ビルが高さ160Mの複合ビルに JR西、29年度開業 ホテルや商業施設、ターミナル機能強化
 JR西日本が建て替え計画を進める新たな三ノ宮駅ビルについて、同社は5日、高さ約160メートルの高層ビルを2029年度に開業すると正式に発表した。商業施設やホテル、オフィスなどが入るほか、公共交通機関の乗り換えをしやすくし、ターミナル機能を高める。外観も含めて「神戸らしさ」にこだわり、にぎわいの創出を図る。
(以下略)

(2021/10/5 神戸新聞

 

 なお、産経新聞については、検索したが、該当する記事を見つけることができなかった。

 

 これらを見ると、すべての記事が、JR西日本が、高さ160mの新三ノ宮駅ビルを2029年度に開業すると発表したと報じている。

 これは、神戸市が期待したとおりの報道であると思われる。

 前回の記事で、JRの三ノ宮駅ビル計画の「白紙」表明の結果、「不透明」という印象に包まれてしまった三ノ宮再開発計画の「不透明感」を払拭し、「都市活性化計画」が健在であることを内外に示す必要があったのではないかということを述べた。上記の記事を見ると、その目的は見事に成就されていると言えるだろう。

 そもそも、記者発表の本来の趣旨は、神戸市、JR西日本、UR都市機構の三者が、JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区の再整備を進めていくことを合意し、協定を締結したということを発表したにすぎない。しかし、その本来の趣旨である「協定」について触れているのは、上記では朝日新聞日本経済新聞の2紙にとどまり、他の3紙は「協定」について触れもしていない。これは、やや不思議な現象である。

 こうした結果をもたらしたものは何なのだろうか。それは、記者会見の中央部で「今回の発表の意義について」という記者の質問に対して久元市長が答えた、「(三宮再整備全体の)計画が明確になり、そのスケジュールも明確になり、どのような街の姿になるのかということが、おぼろげながら見えてきた、そして必ず三宮が大きく変わるという確信を持つことができたのが今日の会見の意義であると考えている。」という言葉が全体的な報道の基調を形作るのに寄与しているのではないだろうか。

 ここで注目されるのは、この質問を行ったのは神戸新聞社である。神戸新聞社は、今回の記者発表に先立ち、9月17日に「三ノ宮駅新ビル 高さ160メートル」と題して、次のように報道している。

 

三ノ宮駅新ビル 高さ160メートル JR西日本計画 開業は25年万博後

 JR西日本が建て替え計画を進める新たな三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)が、高さ約160メートルの高層ビルとなることが16日、関係者への取材で分かった。新ビル計画は新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じたが、費用を圧縮した上でコロナ前とほぼ同じ計画で進めるとみられる。開業は2025年の大阪・関西万博後になる見込み。動向が注目されていた「都心の一等地」の再整備計画がいよいよ動きだす。

(2021/9/17 神戸新聞

 

 この報道が、今回の記者発表の「予告」として、報道各社に発表内容の予見をさせる役割を担っていたのではないか。

 神戸新聞だけが、発表を「正式に」と表現しているのが興味深い。

 

 以上の流れを見ると、今回の記者発表については、周到に計画され、一部の報道機関も巻き込みながら、行われたのではないかと想像する。

JR三ノ宮駅ビルに関する新動向

 JR西日本は5日、神戸市の三ノ宮駅南側に建設予定の新しい駅ビルについて概要を発表した。高さ約160メートルで商業施設やオフィス、ホテルが入る見通し。同社が単独で建設するビルとしては最も高いという。2023年度に着工、29年度の開業をめざす。
 ビル周辺の整備で協定を結んだ神戸市、UR都市機構とともに会見した。(以下略)

(2021/10/5 朝日新聞

 

 10月5日、新聞やテレビなどで、JR西日本が新三ノ宮駅ビルについて概要を発表したと報じられた。同日、神戸市がJR西日本、UR都市機構とともに開いた記者会見が報じられたものである。

 では、神戸市が中心になって開いたこの記者会見の内容は何だったのかというと、次に掲げる記者提供資料のとおりである。

 

記者資料提供(令和3年10月5日)

神戸市、西日本旅客鉄道株式会社、独立行政法人都市再生機構三者連携による協定締結~JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力~


 現在、神戸市は三宮周辺地区において、神戸の玄関口としてふさわしくにぎわいのある「人が主役の居心地のよいまち」を目指して、官民連携のもと様々な再整備を進めています。
 このたび、神戸市、西日本旅客鉄道株式会社、独立行政法人都市再生機構三者は、相互の連携・協力のもと、JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区の再整備を進めていくことに合意したため、以下のとおり協定を締結しました。

 

1.締結日
  令和3年10月5日(火曜)


2.協定名称
 JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力に関する協定


3.協定締結者
 ・神戸市(神戸市中央区加納町六丁目5番1号)
   市 長      久元 喜造
 ・西日本旅客鉄道株式会社(大阪市北区芝田二丁目4番24号)
   代表取締役社長  長谷川 一明
 ・独立行政法人都市再生機構西日本支社(大阪市城東区森之宮一丁目6番85号)
   理事・支社長   田中 伸和


4.背景・趣旨
 神戸市は官民連携のもと、「三宮周辺地区の『再整備基本構想』」(平成27年9月)及び「神戸三宮「えき≈まち空間」基本計画」(平成30年9月)の実現を目指し、「三宮クロススクエア」等の人と公共交通優先の空間の創出や各鉄道間の乗り換えの円滑化、回遊性の向上や都心部におけるにぎわい創出等に向け、三宮周辺地区の再整備を推進しています。
 また、西日本旅客鉄道株式会社は、地域共生深耕の一環として、神戸線の要となるターミナル駅三ノ宮駅において、「訪れたい、住みたいまちづくり」を推進すべく、進取の気性に富んだ神戸の魅力を発信する場所となり、利便性が高く魅力ある空間の創出、神戸の玄関口に相応しい景観形成に向けて、新駅ビル開発の検討を進めています。
 これまで、JR三ノ宮新駅ビルおよびその周辺の整備については、神戸市と西日本旅客鉄道株式会社の二者の連携のもと検討を進めてきましたが、今後、よりいっそうの官民の連携を図り、多様な都市機能の集積と、沿道建築物と一体となった広く豊かな公共空間を創出するため、全国において鉄道駅を中心とする大規模な市街地整備を数多く手がけ、様々な知見やノウハウを有している独立行政法人都市再生機構とともにまちづくりを進めていくこととなりました。
 今後は、この三者が相互に連携・協力し、神戸の玄関口にふさわしい風格と魅力を兼ね備えた空間の創出を目指していきます。


5.協定締結三者の役割
 ・神戸市
   事業実施に必要な行政手続き及び公共施設の整備等
 ・西日本旅客鉄道株式会社
   JR三ノ宮駅新駅ビル開発計画の実現
 ・独立行政法人都市再生機構西日本支社
   公共空間の整備や民間開発等に対するコーディネートによる事業推進

 

 

神戸市:神戸市、西日本旅客鉄道株式会社、独立行政法人都市再生機構の三者連携による協定締結~JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力~ (kobe.lg.jp)

 

 上記を読めばわかるように、新聞が報じるビルの概要や、着工時期、開業時期についての発表ではなく、単に神戸市、JR西日本、UR都市機構の三者が、JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区の再整備を進めていくことを合意し、協定を締結したということを発表したに過ぎない。その発表には、協定書の本文も添付されているが、その中にもビルの概要、着工時期等については何も記載されていない。記者会見資料も公開されており、その中の「JR三ノ宮新駅ビル構想について」というページ(下図)で、新駅ビル概要として「高さ 約160m」、「目標スケジュール」として「2023年度 着工、2029年度 開業」の記述が見られ、あくまでも目標とするスケジュールであって具体的な計画というわけではない。現に、同資料の末尾に「現時点での構想であり、今後3者にて検討の上、具体化を進めて参ります。」と付記されている。

 

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(出典 2021/10/5 神戸市記者発表資料)

 

 当日の質疑応答では、JR西日本の長谷川社長に質問が集中したが、商業、業務施設の規模、内容はもちろん、各交通機関との動線となる公共スペースについても、今後UR都市機構の知見を得て検討していきたいという回答で、コロナの影響以前に、計画そのものが本当に進んでいたのだろうかと思うほどだ。

 

 それでは、今回、このような記者会見を行うに至った理由はなんだろうか。それは、会見の中で久元市長が述べた言葉が表している。

 「今回の発表の意義は」という神戸新聞社の記者の質問に対して久元市長は次のように答えている。


 「コロナで非常に難しい局面に直面されたJR西日本は非常に大きいご苦労もあったと思うが、今回、2029年開業という明確なスケジュールを示していただいた上で、今日、長谷川社長にお越しをいただき、この計画を発表していただいたということを大変ありがたく感謝をしている。三宮の再整備については全体の計画はほぼ従来から決定していると理解をしているので、今回JRのビルの計画のスケジュールが明確になったということを含めて、これからバスターミナル、三宮のクロススクエア、これらを、歩行者デッキも含めて計画的に進めていくことができるというふうに考えている。その計画が明確になり、そのスケジュールも明確になり、どのような街の姿になるのかということが、おぼろげながら見えてきた、そして必ず三宮が大きく変わるという確信を持つことができたのが今日の会見の意義であると考えている。」

 

 このような会見が開かれる背景には、昨年2020年10月のJR西日本のJR三ノ宮駅計画の「白紙」表明を受けて、次のような報道が行われていたことがある。

 JR西日本は30日、遅れている三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)の再整備について、社内で検討を進めてきた計画をいったん白紙にし、内容を見直すことを明らかにした。新型コロナウイルス感染拡大による経営状況の急速な悪化を受け、仕切り直す。駅ビルの需要に変化が生じているとし、改めて市場調査をした上で計画を決める。
 長谷川一明社長が同日の会見で「従来の考え方で駅ビルを造れない。業種、業態を含めてゼロから検証する」と言及した。都心活性化の目玉事業は、全体像が示されないまま不透明感が強まった。

(2020/10/30 神戸新聞

 

 神戸市中心部のJR三ノ宮駅に直結する新ビルの建て替え計画が停滞している。旧ビルの解体工事は12月中に終了予定だが、新型コロナウイルスの感染拡大でJR西日本による再整備計画は不透明感が増している。阪神大震災で他都市に比べて開発が遅れた神戸の玄関口の活性化全体にも影響しかねない。

(2020/12/14 日本経済新聞

 

 計画が「白紙」という言葉のインパクトは強烈で、JR三ノ宮駅計画そのものが強い「不透明」感に包まれてしまった印象があり、それは神戸市の「活性化」の見通しそのものが大きく揺るがされる事態であった。

 それに対して、神戸市としては、その「不透明感」を払拭し、「都市活性化計画」が健在であることを内外に示す必要があった。しかも、市長選挙が目前にせまっているこのタイミングで、協定締結を名目に、JR西日本の社長を引っ張り出してでも、その口から計画の存続を明言してもらう必要があったと考えられる。したがって、今回の記者発表、記者会見は神戸市が主導し、神戸市が関係者に働きかけ、開催したものであろうと推測する。

 なぜ、記者発表の内容が、事業化そのものではなく、協定の締結についてだったかというと、確定している事実は協定締結のみで、それ以外は未確定だからではないだろうか。

 また、JR西日本がいったん計画の「白紙」化を表明したこの期にいたってUR都市機構がコーディネーターとして登場したのは、このような事態に陥ってしまったことに対してこれまでの進め方への不信感が神戸市内部にもあって、計画進行の体制強化を図ったのではないかと想像する。

 

 それでは、今後、JR三ノ宮駅ビル計画はどのように進んでいくのだろうか。今回のJR側の姿勢を見ると、三ノ宮駅大阪駅、京都駅と並ぶ最重要拠点と考えており、同社の今後の鉄道事業を含む事業全体の発展のためには、大規模な開発、それによる神戸の発展は重要課題の一つと位置づけていると考えられる。ただし、コロナ禍により、大阪駅西口、広島駅と同時に事業を進めるだけの余裕はなく、優先順位の問題として、三ノ宮駅は後回しにせざるを得なかったということだろう。そうであるとすれば、実際に三ノ宮駅の事業が本格化するのは、早くとも、大阪駅西口(2024年度)、広島駅(2025年度)の完成の目処が立ってからと考えられ、今回の記者会見で述べられた2023年度着工、2029年度開業という保証はなく、さらに数年の期間が必要となる可能性もあるのではないだろうか。しかし、今回の会見の目的は、あくまでも、現在も計画が健在であることをアピールすることにあるから、あまりに長期の目標を掲げるわけにもいかず、会見の中でもJR西日本側は、さらなる工期の延長がありうることを示唆していたように、おそらくは、最短のスケジュールを示したものであると考える。

 仮に、今回の発表で示された2029年度の開業としても、2013年に朝日新聞が報じた「2021年度完成を目指す」からは、8年の遅れが生じることになる。

 

firemountain.hatenablog.jp

 

 

 

兵庫県内 住宅地 最高価格地点の変遷(2)

 前回は、神戸市がこれまで保持し続けていた兵庫県下の住宅地の最高価格地点を、芦屋市に譲り渡したということを述べた。それは、単に隣接の市に遷ったというにとどまらず、阪神地区における大きな構造上の変化を映したものではないかということを指摘した。すなわち、阪神地区における従来の大阪と神戸という二重核構造が、神戸の衰退による大阪一極集中構造に変化したことによるのではないかということだ。

 そのことは、次のグラフを見れば、より明らかにわかる。

 

 兵庫県 基準地価 住宅最高最高最高価格地点の推移(市区別)

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 1990年頃、神戸市中央区は県下では他に抜きん出る圧倒的な最高価格地点であった。ところが、その後、全体的な地価の下落局面の中で、相対的な優位性を徐々に失い、2000年代初頭には神戸市東灘区に第一位を明け渡し、さらには芦屋市、西宮市にも抜かれる状況となった。

 上のグラフを見ると、大きく分けて、二つのグループに分かれていることが読み取れる。一つは芦屋市、東灘区、西宮市、中央区、灘区の上位グループと、もう一つは須磨区垂水区明石市、西区の下位グループである。下位グループは2000年以降横ばいが続いているが、上位グループは上昇傾向を読み取ることができる。上位グループの基調に影響を与えていると考えられるのは、大阪のベッドタウンとしての需要だと考えられる。上位グループは大阪のベッドタウンとして人気を博しているのだ。一方、中央区より西側になると、大阪のベッドタウンとしては人気が低くなり、神戸市内では雇用が少ないために需要が伸びず、地価は横ばいを続けているのではないかと考えられる。その結果、上のグラフで見るような、大阪の通勤圏としての上位グループと、神戸の通勤圏としての下位グループの二極分化の状態になっているというのが一つの仮説である。

 その中でも、神戸市中央区は、上位グループに吸収され、その中で同一の動きを示すようになっており、従来は神戸の中心地に臨む高級住宅地であったが、神戸が衰退するにつれてその輝きも失われ、神戸の中心地としてではなく、大阪の通勤圏としてかろうじて命脈を保っているというのが実情ではないだろうか。

 上のグラフは、阪神間の都市構造の変化を裏付けるものだと考えられる。

 

 

兵庫県内 住宅地 最高価格地点の変遷

 国土交通省が21日、土地売買の目安となる7月1日時点の基準地価を発表した。

 これについて、朝日新聞は、兵庫県内の住宅地の最高価格地点が20年ぶりに交代したと報じた。昨年までは神戸市の東灘区岡本2丁目が19年連続で首位であったが、今年はJR芦屋駅近くの芦屋市大原町が最高価格地点となったとのことだ。東灘区岡本2丁目の前の最高価格地点は神戸市中央区山本通2丁目であり、長らく県下の首位の座にあった。

 県下の住宅地の最高価格地点の推移を整理すると、次の表のとおりである。

 

(表)兵庫県 基準地価 住宅地 最高価格地点の推移

(凡例)黄色 第1位、灰色 第2位、オレンジ色 第3位、白色 第4位

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 神戸市中央区が2001年まで首位を守り、2002年からは神戸市東灘区が首位となり、昨年2020年までその座を占め続けた。そして今年2021年、その座を芦屋市に譲り渡した。

 このように見ると、最高価格地点が神戸市中央区から神戸市東灘区、芦屋市 と西から東へ遷移していることがわかる。また、神戸市中央区は、首位から次第に順位を下げ、2012年からは第3位の座を西宮市に譲り渡し、第4位に転落している。

 

 これは、何を表しているのだろうか。

 上の表を見ると、1990年頃においては、神戸市中央区は他を大きく引き離しての首位であったことがわかる。神戸市は県庁所在都市で、兵庫県下第一の都市として君臨していた。その中心地の中央区が住宅地としても最高価格地点であったことは十分納得できるところである。しかし、その中央区は今や、芦屋市、西宮市の後塵を拝し、市内の第一位でさえなくなっている。

 これは、神戸市の県下での相対的な地位の低下を表すものだと考えられる。つまり、県庁所在都市の神戸市の中心地である中央区が神戸の最高価格地点とはならず、神戸の中心地から離れ、大阪に近い東灘区が最高価格地点になっている。従前の阪神地区は大阪と神戸という二つの核が並び立ち、双方が強い磁場をもって、人や物を引きつけあっていた。しかし、現在は片方の核である神戸が衰退し、大阪への一極集中型の構造に変化したのではないかということである。神戸に近いことは、もはやメリットにはならず、大阪により近い方が価値があると感じられるようになってきたのではないだろうか。

 今回の最高価格地点の交代は、新型コロナウイルス禍の影響による一時的なものなのだろうか。それとも、人口減少を続け、一向に有効な策を打ち出すことができず、期待された三ノ宮駅ビル再開発も行方が定まらず、完成の目処が立たない、現在の神戸市の状況を映すものではないだろうか。

三ノ宮駅ビル再開発についての新聞報道について

 JR西日本が建て替え計画を進める新たな三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)が、高さ約160メートルの高層ビルとなることが16日、関係者への取材で分かった。新ビル計画は新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じたが、費用を圧縮した上でコロナ前とほぼ同じ計画で進めるとみられる。開業は2025年の大阪・関西万博後になる見込み。動向が注目されていた「都心の一等地」の再整備計画がいよいよ動きだす

 

(2021/9/17 神戸新聞

 

 9月17日の神戸新聞の1面トップに、「三ノ宮駅ビル再開発、高さ160メートル計画 開業は2025年の万博後」との見出しで、上記の記事が掲載された。

 記事では、「新ビル計画は新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じた」が、「再整備計画がいよいよ動き出す」と、今にも再整備が始動するかのような書きぶりとなっている。

 しかし、この記事で述べられていることは、三ノ宮駅ビルは高さが約160メートルの高層ビルであることと、開業が2025年の大阪万博後となるということだけで、これらはすべて既知のことで、特に何か新しい動きが生じたとは読み取れない。しかも、情報の出所は「関係者への取材」というだけで、どこの誰が述べたのかもわからない。

 第一の当事者であるJR西日本は、昨年(2020年)の10月に、三ノ宮駅ビルの再整備について、社内で検討を進めてきた計画をいったん白紙にし、改めて市場調査をした上で計画を決めると表明している。計画を白紙にし、市場調査からやり直すことを考えると、スムーズに事が運んだとしても、計画ができるまでに相当の月日を要するだろうし、少なくとも社会全体の状況の好転を待つ必要もあるだろうから、そんなに短時間で計画が再始動するとは考えにくい。見出しの「開業は2025年の万博後」と聞くと、2025年頃に開業するのではないかと思えるが、必ずしも万博の直後であることを意味しない。

 また、この三ノ宮駅ビルの動静を報じているのは神戸新聞だけである。

 

 こうしたことを考えると、どうしてこのような記事がこの時期に新聞の1面のトップ記事として掲載されたのか不思議なことだ。

 邪推をするならば、やはり、来月に迫った神戸市長選挙が影響していると考えられる。つまり、市政の最重点課題ともいうべき三宮再開発の停滞は現市政にとって重大な失点であることは間違いない。その失点が市長選挙において争点となり、人々の注目が集まることを避けたい意図があるのではないだろうか。

 記事では、三ノ宮駅ビル計画が、「新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じた」と書かれているが、計画は「白紙」にされたのであり、「遅れが生じた」というレベルではない。さらに言うと、三ノ宮駅ビル計画が遅れたのは、新型コロナウイルス禍だけが理由ではない。JR三ノ宮駅ビルの建て替え計画は、今から10年以上前の、2008年頃にJR西日本と神戸市との協議が始まり、2013年3月には再開発する方針を固めたと新聞で報じられた。それによると、建て替え計画は同社の13年度からの中期計画に盛り込まれ2021年度の完成を目指すとのことだった。この方針を引き継ぎ、2013年11月に就任したのが久元現市長である。ところが、2021年度の完成を目指すとのことだったにもかかわらず、計画は遅れに遅れ、旧ビルの解体が進む中でも新ビルの計画が発表されないという異例の状況に陥っていた。そこを襲ったのが2020年からの新型コロナウイルス禍である。

 

 このように見ていくと、この記事は、人々に誤った見通しを与えるばかりではなく、多くのことを覆い隠す役割を果たしている。

 

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