JR三ノ宮駅ビルに関する新動向

 JR西日本は5日、神戸市の三ノ宮駅南側に建設予定の新しい駅ビルについて概要を発表した。高さ約160メートルで商業施設やオフィス、ホテルが入る見通し。同社が単独で建設するビルとしては最も高いという。2023年度に着工、29年度の開業をめざす。
 ビル周辺の整備で協定を結んだ神戸市、UR都市機構とともに会見した。(以下略)

(2021/10/5 朝日新聞

 

 10月5日、新聞やテレビなどで、JR西日本が新三ノ宮駅ビルについて概要を発表したと報じられた。同日、神戸市がJR西日本、UR都市機構とともに開いた記者会見が報じられたものである。

 では、神戸市が中心になって開いたこの記者会見の内容は何だったのかというと、次に掲げる記者提供資料のとおりである。

 

記者資料提供(令和3年10月5日)

神戸市、西日本旅客鉄道株式会社、独立行政法人都市再生機構三者連携による協定締結~JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力~


 現在、神戸市は三宮周辺地区において、神戸の玄関口としてふさわしくにぎわいのある「人が主役の居心地のよいまち」を目指して、官民連携のもと様々な再整備を進めています。
 このたび、神戸市、西日本旅客鉄道株式会社、独立行政法人都市再生機構三者は、相互の連携・協力のもと、JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区の再整備を進めていくことに合意したため、以下のとおり協定を締結しました。

 

1.締結日
  令和3年10月5日(火曜)


2.協定名称
 JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力に関する協定


3.協定締結者
 ・神戸市(神戸市中央区加納町六丁目5番1号)
   市 長      久元 喜造
 ・西日本旅客鉄道株式会社(大阪市北区芝田二丁目4番24号)
   代表取締役社長  長谷川 一明
 ・独立行政法人都市再生機構西日本支社(大阪市城東区森之宮一丁目6番85号)
   理事・支社長   田中 伸和


4.背景・趣旨
 神戸市は官民連携のもと、「三宮周辺地区の『再整備基本構想』」(平成27年9月)及び「神戸三宮「えき≈まち空間」基本計画」(平成30年9月)の実現を目指し、「三宮クロススクエア」等の人と公共交通優先の空間の創出や各鉄道間の乗り換えの円滑化、回遊性の向上や都心部におけるにぎわい創出等に向け、三宮周辺地区の再整備を推進しています。
 また、西日本旅客鉄道株式会社は、地域共生深耕の一環として、神戸線の要となるターミナル駅三ノ宮駅において、「訪れたい、住みたいまちづくり」を推進すべく、進取の気性に富んだ神戸の魅力を発信する場所となり、利便性が高く魅力ある空間の創出、神戸の玄関口に相応しい景観形成に向けて、新駅ビル開発の検討を進めています。
 これまで、JR三ノ宮新駅ビルおよびその周辺の整備については、神戸市と西日本旅客鉄道株式会社の二者の連携のもと検討を進めてきましたが、今後、よりいっそうの官民の連携を図り、多様な都市機能の集積と、沿道建築物と一体となった広く豊かな公共空間を創出するため、全国において鉄道駅を中心とする大規模な市街地整備を数多く手がけ、様々な知見やノウハウを有している独立行政法人都市再生機構とともにまちづくりを進めていくこととなりました。
 今後は、この三者が相互に連携・協力し、神戸の玄関口にふさわしい風格と魅力を兼ね備えた空間の創出を目指していきます。


5.協定締結三者の役割
 ・神戸市
   事業実施に必要な行政手続き及び公共施設の整備等
 ・西日本旅客鉄道株式会社
   JR三ノ宮駅新駅ビル開発計画の実現
 ・独立行政法人都市再生機構西日本支社
   公共空間の整備や民間開発等に対するコーディネートによる事業推進

 

 

神戸市:神戸市、西日本旅客鉄道株式会社、独立行政法人都市再生機構の三者連携による協定締結~JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力~ (kobe.lg.jp)

 

 上記を読めばわかるように、新聞が報じるビルの概要や、着工時期、開業時期についての発表ではなく、単に神戸市、JR西日本、UR都市機構の三者が、JR三ノ宮新駅ビル及び三宮周辺地区の再整備を進めていくことを合意し、協定を締結したということを発表したに過ぎない。その発表には、協定書の本文も添付されているが、その中にもビルの概要、着工時期等については何も記載されていない。記者会見資料も公開されており、その中の「JR三ノ宮新駅ビル構想について」というページ(下図)で、新駅ビル概要として「高さ 約160m」、「目標スケジュール」として「2023年度 着工、2029年度 開業」の記述が見られ、あくまでも目標とするスケジュールであって具体的な計画というわけではない。現に、同資料の末尾に「現時点での構想であり、今後3者にて検討の上、具体化を進めて参ります。」と付記されている。

 

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(出典 2021/10/5 神戸市記者発表資料)

 

 当日の質疑応答では、JR西日本の長谷川社長に質問が集中したが、商業、業務施設の規模、内容はもちろん、各交通機関との動線となる公共スペースについても、今後UR都市機構の知見を得て検討していきたいという回答で、コロナの影響以前に、計画そのものが本当に進んでいたのだろうかと思うほどだ。

 

 それでは、今回、このような記者会見を行うに至った理由はなんだろうか。それは、会見の中で久元市長が述べた言葉が表している。

 「今回の発表の意義は」という神戸新聞社の記者の質問に対して久元市長は次のように答えている。


 「コロナで非常に難しい局面に直面されたJR西日本は非常に大きいご苦労もあったと思うが、今回、2029年開業という明確なスケジュールを示していただいた上で、今日、長谷川社長にお越しをいただき、この計画を発表していただいたということを大変ありがたく感謝をしている。三宮の再整備については全体の計画はほぼ従来から決定していると理解をしているので、今回JRのビルの計画のスケジュールが明確になったということを含めて、これからバスターミナル、三宮のクロススクエア、これらを、歩行者デッキも含めて計画的に進めていくことができるというふうに考えている。その計画が明確になり、そのスケジュールも明確になり、どのような街の姿になるのかということが、おぼろげながら見えてきた、そして必ず三宮が大きく変わるという確信を持つことができたのが今日の会見の意義であると考えている。」

 

 このような会見が開かれる背景には、昨年2020年10月のJR西日本のJR三ノ宮駅計画の「白紙」表明を受けて、次のような報道が行われていたことがある。

 JR西日本は30日、遅れている三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)の再整備について、社内で検討を進めてきた計画をいったん白紙にし、内容を見直すことを明らかにした。新型コロナウイルス感染拡大による経営状況の急速な悪化を受け、仕切り直す。駅ビルの需要に変化が生じているとし、改めて市場調査をした上で計画を決める。
 長谷川一明社長が同日の会見で「従来の考え方で駅ビルを造れない。業種、業態を含めてゼロから検証する」と言及した。都心活性化の目玉事業は、全体像が示されないまま不透明感が強まった。

(2020/10/30 神戸新聞

 

 神戸市中心部のJR三ノ宮駅に直結する新ビルの建て替え計画が停滞している。旧ビルの解体工事は12月中に終了予定だが、新型コロナウイルスの感染拡大でJR西日本による再整備計画は不透明感が増している。阪神大震災で他都市に比べて開発が遅れた神戸の玄関口の活性化全体にも影響しかねない。

(2020/12/14 日本経済新聞

 

 計画が「白紙」という言葉のインパクトは強烈で、JR三ノ宮駅計画そのものが強い「不透明」感に包まれてしまった印象があり、それは神戸市の「活性化」の見通しそのものが大きく揺るがされる事態であった。

 それに対して、神戸市としては、その「不透明感」を払拭し、「都市活性化計画」が健在であることを内外に示す必要があった。しかも、市長選挙が目前にせまっているこのタイミングで、協定締結を名目に、JR西日本の社長を引っ張り出してでも、その口から計画の存続を明言してもらう必要があったと考えられる。したがって、今回の記者発表、記者会見は神戸市が主導し、神戸市が関係者に働きかけ、開催したものであろうと推測する。

 なぜ、記者発表の内容が、事業化そのものではなく、協定の締結についてだったかというと、確定している事実は協定締結のみで、それ以外は未確定だからではないだろうか。

 また、JR西日本がいったん計画の「白紙」化を表明したこの期にいたってUR都市機構がコーディネーターとして登場したのは、このような事態に陥ってしまったことに対してこれまでの進め方への不信感が神戸市内部にもあって、計画進行の体制強化を図ったのではないかと想像する。

 

 それでは、今後、JR三ノ宮駅ビル計画はどのように進んでいくのだろうか。今回のJR側の姿勢を見ると、三ノ宮駅大阪駅、京都駅と並ぶ最重要拠点と考えており、同社の今後の鉄道事業を含む事業全体の発展のためには、大規模な開発、それによる神戸の発展は重要課題の一つと位置づけていると考えられる。ただし、コロナ禍により、大阪駅西口、広島駅と同時に事業を進めるだけの余裕はなく、優先順位の問題として、三ノ宮駅は後回しにせざるを得なかったということだろう。そうであるとすれば、実際に三ノ宮駅の事業が本格化するのは、早くとも、大阪駅西口(2024年度)、広島駅(2025年度)の完成の目処が立ってからと考えられ、今回の記者会見で述べられた2023年度着工、2029年度開業という保証はなく、さらに数年の期間が必要となる可能性もあるのではないだろうか。しかし、今回の会見の目的は、あくまでも、現在も計画が健在であることをアピールすることにあるから、あまりに長期の目標を掲げるわけにもいかず、会見の中でもJR西日本側は、さらなる工期の延長がありうることを示唆していたように、おそらくは、最短のスケジュールを示したものであると考える。

 仮に、今回の発表で示された2029年度の開業としても、2013年に朝日新聞が報じた「2021年度完成を目指す」からは、8年の遅れが生じることになる。

 

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