三ノ宮駅ビル計画が白紙に

 JR西日本は30日、遅れている三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)の再整備について、社内で検討を進めてきた計画をいったん白紙にし、内容を見直すことを明らかにした。新型コロナウイルス感染拡大による経営状況の急速な悪化を受け、仕切り直す。駅ビルの需要に変化が生じているとし、改めて市場調査をした上で計画を決める。

 長谷川一明社長が同日の会見で「従来の考え方で駅ビルを造れない。業種、業態を含めてゼロから検証する」と言及した。都心活性化の目玉事業は、全体像が示されないまま不透明感が強まった。

神戸新聞 2020.10.30)

 

 

 JR西日本が30日、JR三ノ宮駅ビルの再整備について、計画をいったん白紙にし、内容を見直すことを明らかにしたと報じられた。 新型コロナウイルス感染拡大による経営状況の急速な悪化を受け、駅ビルの需要に変化が生じているとし、改めて市場調査をした上で計画を決めるとのことだ。

 9月27日の記事で、JR三ノ宮駅ビルの計画が白紙になっているのではないかと予想したが、その予想は正しかったようだ。

 三ノ宮駅ビル再開発計画は同社の2018年4月に発表した中期経営計画(5カ年)において大阪、広島両駅と並ぶ「三大プロジェクト」と位置付けられていた。今回の計画見直しでは、このうち三ノ宮駅ビルのみが見直しの対象になったようだ。どうして三ノ宮駅ビルだけが見直しの対象になったのかというと、その中で一番収益性が低く「不急」と判断されたためだろう。

 

 三宮再開発は神戸市にとって市の将来を担う最重要プロジェクトであり、その中でもJR三ノ宮駅ビル計画は間違いなく最重要のプロジェクトであったはずだ。三ノ宮再開発は、単に神戸の表玄関のリニューアルというにとどまらず、これまで造船、鉄鋼などの重工業や国際港湾都市として発展してきた神戸を、陸海空の交通拠点として経済や文化の交流の中心地という新たな位置づけを与える重要な意味を持つものだ。その計画の基幹事業が白紙に戻されてしまったのだ。それは単にJR三ノ宮駅ビルだけにとどまらず、その周囲の再開発計画にも大きな影響を与えるだろう。

 この事態は新型コロナウイルス蔓延によるやむを得ない事態と理解すべきではない。これは神戸市、特に久元市長の大失態というべきだ。JR三ノ宮駅ビルの建て替え計画は、今から10年以上前の、2008年頃にJR西日本と神戸市との協議が始まり、2013年3月には再開発する方針を固めたと新聞で報じられた。それによると、建て替え計画は同社の13年度からの中期計画に盛り込まれ2021年度の完成を目指すとのことだった。この方針を引き継ぎ、2013年11月に就任したのが久元市長である。ところが、JR西日本は、2021年度の完成を目指すとのことだったにもかかわらず、それから7年後の現在にいたるまで、新ビルの計画すら発表していない。こうした事態の背景に神戸市が一切関わりがないとは考えられない。おそらく、神戸市の方針とJR西日本の方針に重大な相違があったのだろう。神戸市は、三宮再開発を進めるにあたって度重なるアンケートや検討会議に時間を費やし、神戸の道路交通の要ともいうべき三宮交差点から自動車を閉め出し歩行者専用空間に転換させる「三宮クロススクエア構想」などの三宮再開発の本質とは関わりのない計画を抱き合わせにしようとした。そうした議論に時間を費やした挙げ句、迎えた事態がこれだった。

 JR西日本は三大計画のうち、大阪、広島両駅については、計画の見直しの対象とはしなかった。駅ビルの需要に変化が生じているというなら、大阪、広島も同様のはずだ。となれば、神戸だけの特殊事情があると考えなければならない。もしかすると、JR西日本は、神戸市から課せられた条件を、新型コロナウイルス禍を理由に一挙にリセットしようとしているのかもしれない。それが、同日の会見で同社の長谷川社長が「従来の考え方で駅ビルを造れない。業種、業態を含めてゼロから検証する」という白紙宣言なのかもしれない。このことは、同社長が「神戸の中心地の再開発は非常に重要な取り組み。三大プロジェクトの一つとの位置付けに変わりはない」と述べたこととも符合する。

 今後どうなるかを考えると、早くても2023年4月以降の次期5カ年計画に乗るかどうかであり、経済情勢次第ではさらなる先送りもあるだろう。

 本来、神戸のシンボリックな建物が存在すべき市内最大の交通拠点の目の前が長期間にわたって更地、もしくは低利用の状態をさらす事態は、都心の吸引力、都市ブランドの失墜など神戸にとって悲惨な事態というべきだろう。

 神戸市の退潮はもはや覆いがたい。近年の神戸市の停滞感、「下町神戸」や「茅葺き神戸」など、神戸ブランドの毀損は著しい。市政の舵取りを誰にゆだねるかは、都市の発展にとってやはり非常に重要な課題なのだ。

 

firemountain.hatenablog.jp