JR西日本が建て替え計画を進める新たな三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)が、高さ約160メートルの高層ビルとなることが16日、関係者への取材で分かった。新ビル計画は新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じたが、費用を圧縮した上でコロナ前とほぼ同じ計画で進めるとみられる。開業は2025年の大阪・関西万博後になる見込み。動向が注目されていた「都心の一等地」の再整備計画がいよいよ動きだす。
(2021/9/17 神戸新聞)
9月17日の神戸新聞の1面トップに、「三ノ宮駅ビル再開発、高さ160メートル計画 開業は2025年の万博後」との見出しで、上記の記事が掲載された。
記事では、「新ビル計画は新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じた」が、「再整備計画がいよいよ動き出す」と、今にも再整備が始動するかのような書きぶりとなっている。
しかし、この記事で述べられていることは、三ノ宮駅ビルは高さが約160メートルの高層ビルであることと、開業が2025年の大阪万博後となるということだけで、これらはすべて既知のことで、特に何か新しい動きが生じたとは読み取れない。しかも、情報の出所は「関係者への取材」というだけで、どこの誰が述べたのかもわからない。
第一の当事者であるJR西日本は、昨年(2020年)の10月に、三ノ宮駅ビルの再整備について、社内で検討を進めてきた計画をいったん白紙にし、改めて市場調査をした上で計画を決めると表明している。計画を白紙にし、市場調査からやり直すことを考えると、スムーズに事が運んだとしても、計画ができるまでに相当の月日を要するだろうし、少なくとも社会全体の状況の好転を待つ必要もあるだろうから、そんなに短時間で計画が再始動するとは考えにくい。見出しの「開業は2025年の万博後」と聞くと、2025年頃に開業するのではないかと思えるが、必ずしも万博の直後であることを意味しない。
また、この三ノ宮駅ビルの動静を報じているのは神戸新聞だけである。
こうしたことを考えると、どうしてこのような記事がこの時期に新聞の1面のトップ記事として掲載されたのか不思議なことだ。
邪推をするならば、やはり、来月に迫った神戸市長選挙が影響していると考えられる。つまり、市政の最重点課題ともいうべき三宮再開発の停滞は現市政にとって重大な失点であることは間違いない。その失点が市長選挙において争点となり、人々の注目が集まることを避けたい意図があるのではないだろうか。
記事では、三ノ宮駅ビル計画が、「新型コロナウイルス禍の影響で遅れが生じた」と書かれているが、計画は「白紙」にされたのであり、「遅れが生じた」というレベルではない。さらに言うと、三ノ宮駅ビル計画が遅れたのは、新型コロナウイルス禍だけが理由ではない。JR三ノ宮駅ビルの建て替え計画は、今から10年以上前の、2008年頃にJR西日本と神戸市との協議が始まり、2013年3月には再開発する方針を固めたと新聞で報じられた。それによると、建て替え計画は同社の13年度からの中期計画に盛り込まれ2021年度の完成を目指すとのことだった。この方針を引き継ぎ、2013年11月に就任したのが久元現市長である。ところが、2021年度の完成を目指すとのことだったにもかかわらず、計画は遅れに遅れ、旧ビルの解体が進む中でも新ビルの計画が発表されないという異例の状況に陥っていた。そこを襲ったのが2020年からの新型コロナウイルス禍である。
このように見ていくと、この記事は、人々に誤った見通しを与えるばかりではなく、多くのことを覆い隠す役割を果たしている。