大阪都構想住民投票のその後

 大阪府の吉村洋文知事は6日の記者会見で、大阪都構想否決を受けて検討している、広域行政の一元化条例案について「広域事務は府に全て一元化すべきではないか。大阪市を残す前提で都構想の対案として、2月議会に提案したいと改めて意欲を示した松井一郎市長も2月議会への条例案提出を目指すが、自民党公明党は慎重な姿勢をみせている。

 広域行政の一元化条例は府市の二重行政を生じさせないためとして、松井氏が5日、制定を目指す考えを表明した。松井氏は6日も「府市が二度とバラバラにならない仕組み作りをやりたい」と強調した。

 松井、吉村両氏は条例化を目指す理由として、住民投票で示された「民意」に言及する。大阪市を廃止して4特別区に再編し、広域行政を府に一元化する都構想について、賛成と反対の票差は約1万7千票。全体の投票数約137万票に対する得票率の差は1・26ポイントだった。

 吉村氏はこの日、都構想の制度設計で府に移管するとした約430の大阪市の事務が条例で府に移管させるかどうかの検討対象になるとしたうえで、「仕事と財源がセットなのは当然」と述べ、財源もともに市から府へ移す考えを示した。また、府市が重要課題を協議する副首都推進本部会議を「条例上の組織」として明記するとした。

 条例案は府市の共同組織「副首都推進局」が策定するが、都構想では法律で基礎自治体が担うと定められた消防も府に移すとしているため、総務省との協議も必要となる。

産経新聞 2020/11/6)

 

  大阪都構想を巡る2度目の住民投票は反対票が賛成票を上回る結果となり、大阪都構想は葬られることになったはずだ。ところが、大阪府の吉村知事と大阪市の松井市長は、住民投票で示された民意として二重行政を解消するために「広域行政の一元化条例」の制定を目指す考えを表明した。

 大阪都構想は、大阪市という地方自治体を廃止し、新たに4つの特別区に再編すると同時に、従来、大阪市、すなわち大阪市民が保有してきた権限と財源を、区長の公選制と引き替えに、大阪府に引き渡すという内容である。吉村知事の発言は、都構想のうち大阪市を廃止する部分については断念するが、大阪市民が保有してきた権限と財源を大阪府に引き渡すという部分については、条例化して進めるという方針を示したということになる。

 大阪都構想の本質は、「大阪市民の保有する権限と財源の縮小」ということであるから、住民投票で反対が多数となった今、これを進めようとする考え方は尋常ではない。大阪都構想の「対案」というが、これは都構想の本質部分で、対案ではなく都構想そのものだ。都構想の本質はそのままに看板だけを掛け替えるようなものだ。これはあまりに不誠実な姿勢だといわざるを得ない。また、住民投票で否決された大阪都構想と本質的には変わらないことを、市議会の多数決だけで行おうとしているのは、住民投票の結果をないがしろにする行為だ。

 先に、地方自治法における都道府県と市町村の事務の分担の考え方について説明したが、法律論、形式論だけではなく、大阪市民の大阪市に対する自治権、決定権という観点に立てば、二重行政の解消というなら、大阪市の権限と財源を守り、さらに拡張する方向から大阪府に権限と財源の移譲を求めるのが本来だと考えられる。そもそも、大阪市民の権利の保護、拡張を考えるのが大阪市長大阪市議会の役割であるはずだ。そのために市民から信託を受けているはずなのに、この一元化条例を進めようとする姿勢はほとんど「背任」といってよいぐらいだ。なぜ、大阪市民から信託を受けながら、大阪市民の権利の縮減に血道を上げるのか。大阪市民の信託を受けた者が大阪市民の権利の縮減に邁進しようとする姿は普通ではない。

 住民投票が反対多数となり、都構想の住民投票は自分たちの手でもう二度と行わないと宣言したその舌の根も乾かないうちに、このような発言があったことに対して驚愕するばかりだ。この執拗さの背後にあるものはいったい何なのだろう。

 「広域行政の一元化条例」大阪都構想の問題と同様に、大阪市民の権利、権限と財源に対する自治権、決定権の問題として、もう一度、大阪市民はよく整理し直すべきだろう。ここをしっかりと押さえないと、また、本質からはずれた水掛け論に突入し、大阪市は混乱の日々を送り続けることになるだろう。

 大阪市は、この問題に既に10年間を費やしている。いったいいつになったら大阪市民はこの問題から解放されるのだろうか。

 

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