新型肺炎の流行について(22)

 国内の新型コロナウイルスの感染拡大について、政府の専門家会議は29日、これまでの国の対策への評価を公表した。緊急事態宣言は感染の抑制に貢献したとする一方、感染のピークは4月1日ごろで、宣言前だったことも明らかにした。

朝日新聞 2020/5/30)

 

 政府の専門家会議が、5月29日、新型コロナウイルスの感染拡大について、これまでの国の対策への評価を公表した。

 公表された資料によると、推定感染日ベースで今回の感染のピークは4月1日頃で、報告日ベースでは4月10日頃ということだ。緊急事態宣言が発せられたのが4月7日、宣言の対象が全国に及んだのは4月16日なので、緊急事態宣言は、感染拡大がピークアウトしてから1週間から2週間後に発せられたことになり、宣言のタイミングが遅かったのではないかという問題を指摘する声がある。

 

(全国の感染者発生数および実効再生産数推定値の推移(5月28日版))

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(出典:5/29専門家会議委員記者会見資料)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635411.pdf

 

 公表された資料(グラフ)をさらに詳細に見ると、推定感染日のピークは4月1日ではなく、3月27日であることが読み取れ、感染のピークから緊急事態宣言発令までの時間のずれはさらに大きかったことになる。感染者は3月27日をピークに急速に減少している。これは、実効再生産数(1人の感染者が平均的に何人に感染させるかを表す数値)も4月1日頃に1.0を割り込んでいることからも裏付けられる。

 緊急事態宣言前に感染拡大はピークアウトし、実行再生産数も1.0を下回り、緊急事態宣言によって格段の変動も見られないということになれば、そもそも緊急事態宣言は必要があったのかどうかが問題となる。つまり、すべての地方、すべての分野にわたって、人と人との接触を極力減らし、最低限8割の接触を減らすということが本当に必要であったのだろうかということだ。逆に言えば、通常の生活を維持しながら、感染拡大は防止することができたのではないかということだ。

  この点について、専門家会議は、緊急事態宣言前(3月末)から、市民の行動変容等により、新規感染者は減少傾向にあり、緊急事態宣言後は、実効再生産数が再反転せず、宣言期間中を通じて1を下回り、低位で維持されたとして、緊急事態宣言は有効であったとの立場のようだ。

 

 新型コロナウイルスは人を介して感染する感染症だから、人と人との接触をすべて断てば感染防止ができるというのは当たり前の話で、あまりにおおざっぱな議論だ。それでは専門家は不要だ。未知のウイルスとはいうものの、今回、結果的に、そのような感染防止対策しか提言できなかったのは、防疫の専門家としては「敗北」というべきではないだろうか。

 今後、今回の緊急事態宣言が本当に有効であったのかどうかは十分な科学的な検証が必要だ。というのは、今後、第2波、第3波の襲来が予想されている中で、再度の緊急事態宣言の発令も考慮されているからだ。十把一絡げに緊急事態宣言が有効だったのかどうか、1か0ということではなく、さらに詳細に要因を分析し、具体的にどういう場面で感染が拡大したのか、何が感染拡大を防いだのか、明らかにする必要がある。それによって、対策の範囲を必要な部分に絞り込むことが可能になると考えられるからだ。

 人は生存するためには、経済活動が不可欠だ。新型コロナウイルスとの闘いが長期に及ぶのであれば、経済活動の維持という視点も不可欠だ。今回の緊急事態宣言の背景に、経済活動に対する理解不足があるようにも思う。今回、医療関係者の存在の重要性が再認識されたのは当然として、それ以外の流通や運輸等に対しても社会を維持する存在として重要性が再確認されることになったのは注目される。社会は、様々な要素の集合によって維持されている。特定の重要な者というのではなく、社会の構成員すべてに欠くべからざる役割があり、社会は一体として成立している。すべての構成員を守らなければ、社会は維持できないということが広く認識されるきっかけになるのではないだろうか。