新型肺炎の流行について(9)

 安倍晋三首相は11日、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、緊急事態宣言が出ている7都府県のすべての企業に対し、職場への出勤者を最低7割減らす要請を出すよう閣僚らに指示した。繁華街の接客を伴う飲食店などの利用自粛要請については、7都府県だけでなく、全国に広げることも決めた。
 政府は感染の収束に向け、人と人の接触機会を「最低7割、極力8割」削減することを目標に掲げている。首相は同日の政府対策本部で「削減目標との関係では、いまだ通勤者の減少が十分ではない」と指摘。もう一段の国民の協力が不可欠だとして、「オフィス」での仕事は原則在宅で行えるようにし、「どうしても出勤が必要な場合でも出勤者を最低7割は減らす」ことを求めた。中小・小規模事業者を含むすべての企業に対し、関係省庁から要請を徹底するよう指示した。

(2020/4/11 朝日新聞

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大が続いており、感染爆発も懸念される状況となっている。それを受けて、安倍首相が、緊急事態宣言が出ている7都府県のすべての企業に対し、職場への出勤者を最低7割減らす要請を出すよう閣僚らに指示したと報道されている。

 在宅勤務を行うことができる企業もあるとは思うが、出勤者を7割減らすと、ほとんどの企業にとって活動停止に近い状況に陥ってしまうのではないだろうか。

 そもそも、こうした措置が取られるのは、厚生労働省コロナ対策本部クラスター班のメンバーの北海道大学西浦教授の試算が基礎になっているようだ。

 新型コロナウイルスの感染者が都市部を中心に急増するなか、「早急に欧米に近い外出制限をしなければ、爆発的な感染者の急増(オーバーシュート)を防げない」との試算を北海道大学の西浦博教授がまとめた。東京都では感染経路不明の患者が急増しており、現状のままでは1日数千人の感染者が出るとした。人の接触を8割減にできれば減少に転じるとしている。

(2020/4/3 日本経済新聞

 西浦教授は、3月19日の大阪府知事の「大阪兵庫間の往来自粛」緊急記者会見の発端となった「国の専門家から提示された緊急対策」文書を作成した人物であるとされている。その文書で示されていた西浦予測は次のとおりである。

 

 大阪と兵庫で次の7日間で感染者が586人、さらに次の7日間で3374人となる。

 

 では、この予測は正しかっただろうか。

 

 メモの作成日は3月16日である。

      3月16日  3月23日  3月30日  

 大阪府  108人   134人   216人

 兵庫県   82人   113人   137人

 合計   190人   247人   353人

 西浦予測        586人  3374人

(実績/予想)     (0.42) (0.10)

 

 予測期間から10日以上たった4月10日においても、大阪府 696人、兵庫県316人 合計 1012人で、西浦予測の3分の1に満たない。

 上記を見ると、西浦予測は当たっているとは評価できないだろう。

 数値予測というものは、仮定の置き方次第で結果は大きく変わるもので、特に指数関数的なモデルの場合は、極端な差が生じるおそれがある。

 政府の今回の緊急事態宣言や、上記の出勤者の7割削減なども、西浦教授の予測モデルが前提になっていると考えられる。しかし、これらの政策の基礎となっている前提や予測は正しいのだろうか。正しい予測に基づかなければ、正しい政策は打ち出せない。

 確かに、4月以降、感染者の増加率が高まっているようには感じられるが、どちらかといえば、初期の中国経由の感染拡大ではなく、3月の海外からの帰国者の増加に伴う感染拡大ということも考えられ、二次感染者の指数関数的な拡大というのも当たらないようにも感じられる。

 

 今後、我が国のとるべき方針は

(1)感染者の拡大防止

(2)経済活動の維持

(3)感染拡大防止のために休業を強いられる事業者、被雇用者の補償

と考える。

 

 コロナウイルスは、感染力が強く、非常に危険なウイルスだ。一部の人が言うように、大騒ぎしすぎだというのも正しくない。十分に警戒しなければならない。政府は、感染拡大防止に全力をあげるべきである。感染症発生の初期にあったように、インバウンド需要の確保、オリンピック開催の死守など他の理由で、事実判断を曲げることは許されない。

 しかし、その一方で、コロナウイルスの感染のメカニズムを十分分析し、経済活動が破壊されてしまうことのないように、事実に基づいた冷静な対応をしなければならない。