新型肺炎の流行について(8)

 新型コロナウイルスによる感染症が猛威を振るっている。

 

 新型コロナウイルスを原因とする死者数が世界で10万人を超えた。国別ではイタリアが約1万9千人で最も多く、米国(約1万8千人)がスペイン(1万6千人)を抜いて世界2位となった。欧米各国とも隔離政策などの実施で新規の感染者の増加を抑えつつあるものの、依然として収束には遠い状況だ。

 米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、米東部時間10日午後4時(日本時間11日午前5時)時点で世界の死者数は約10万2千人となった。感染者数は約168万人だった。米国だけで49万人と、全体の約3割を占める。

(2020/4/11 日本経済新聞

 

 国内でも、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日には兵庫県を含む7都府県で「緊急事態宣言」が発令された。

 国内での新型コロナウイルスの感染者は4月10日時点の累計で6141人、死者は132人に及んでいる。

 

 一方、神戸市は、4月8日に、非常事態宣言を受け、「新型コロナウィルス感染症対策・最優先宣言」を発した。

 きょうの各紙朝刊にも掲載されていますが、昨日「新型コロナウィルス感染症対策・最優先宣言」を発しました。
いま私たちは、新型コロナウィルス感染症という見えない敵と闘っています。
神戸が震災以来迎える最大の危機です。
市役所が持っている人的資源を、感染症対策に集中させる一方、緊急性の低い業務は当面実施を見合わせます。

(2020/4/9 久元喜造ブログ)

 

 久元市長が新型コロナウィルス感染症対策を最優先とすると宣言したことは当然である。しかし、新型コロナウイルス対策を最優先にすべきなのは、最初からわかっていたことだ。ところが、久元市長は、感染症対策の柱として「こどもの居場所作り」を並列するなど、目を疑うような施策を発出し続け、ネット上で多くの批判をあび続けることになった。それが、この時点に及んでようやく理解ができたことに嘆息を禁じ得ない。

 

 筆者が、次のように指摘したのは2月23日のことだ。

 都市の経済活動は、正常な市民生活があってこそだ。基礎的な生活の維持に努めるのは当然であるが、今は、市民の健康・生命を第一に考えるべき時だ。二兎を追うような方針は適切ではない。その上で、当然に生じるであろう経済活動への影響に対しては、行政はしっかりと予想して対策を講じるべきだ。

 

 また、筆者は3月7日には次のようにも指摘した。

 また、今回の市長会見の中で、児童の居場所確保として、森林公園や離宮公園、再度公園などでのクイズラリーやビンゴゲームなど、公園等を活用した野外プログラムの提供や近隣の公園や自然環境を活用する屋外活動・自然体験などのプログラムを提供する団体に対する助成制度創設などにかなりの時間を割いて説明をしていたが、今、緊急に行う必要がある事業なのだろうか。まずは、感染症の拡大のための必要な措置や市民の相談体制の充実、マスクや消毒液の不足、経済的影響などの問題解決に注力すべきで、限りある市の行政資源をいたずらに分散するべきではない。

 

 緊急事態宣言を受け、営業の自粛要請などが進められようとしている。営業の自粛は、経済に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。経済への影響は、まず、ホテルや飲食店、観光や交通などの業種で現れるが、それらの従業者の収入が途絶えることにより、彼らが支出する家賃や消費などが影響を受け、家主の賃料収入や、様々な分野での営業の不振につながっていくことになる。そして、ある事業者に経営破綻が生じると、取引先の財務状況を毀損し、さらなる経営破綻が引き起こされる。それらが順々に波及し、経済全体が悪化する。経済活動は巨大なネットワークであり、経済への悪影響もウイルスのように伝播していくのだ。

 ウイルスの影響が長期間に及ぶことになり、我々は、感染拡大の防止と経済の維持という二正面の敵に当たらなければならない、難しい状況に置かれることになった。

 ウイルス感染の拡大はもちろん防がなければならないが、人間が生きていくためには、最低限必要な消費財やサービス、インフラの維持が必要だ。医療体制の維持が必要なのと同時に、一定の経済活動の維持も必須なのだ。したがって、すべての活動を停止してしまうことは誤りだ。

 ウイルス感染に注力しつつも、最低限の経済活動は維持しなければならない。その他は、収入の途絶えた人々に、なんとか、生活を維持できるだけの施策を及ぼさなければならない。税金や公共料金の支払いの猶予、現金の給付などをスピーディーに行っていく必要がある。神戸市は内定取り消し者の臨時採用などを行おうとしているが、感染症対策で人手が必要であれば採用すればよいが、それだけでは到底救済ができないほど多数の経済的困窮者が発生するだろう。したがって、その効果は限定的だから、それに余り人手を割かずに、現金給付や支払い猶予を中心に施策を考えた方がよいだろう。その最後の負担を行う者は国しかありえない。