拠点都市としての神戸

1 明石海峡大橋で淡路、四国と結ばれる神戸(三宮)は、長距離バスの一大発着地となっており、大阪を除けば、瀬戸内圏(大阪湾岸、中国、四国地方)の最大のターミナルとなっている。西日本諸都市間の便に限れば、路線数、便数において、広島や岡山を凌駕し、大阪(梅田)とほぼ遜色のない状況である。どうしてこうした状況が生まれたかというと、西日本の諸都市から長距離バスで大阪に出ようとすると、大阪は神戸より所要時間が片道1時間程度多くかかり、また料金についても片道500円前後余計にかかるため、いったん神戸に出て、そこから鉄道に乗り換えて近畿圏各地で異動するのが、最も合理的であるからと考えられる。これは明石海峡大橋が開通して以後に現れた状況である。 

2 残念ながら、これらの乗客の多くは神戸で乗り継ぐだけで、大阪や京都へ素通りしてしまっているものと思われる。(現状では神戸は広域の需要を満たす目的地たりえていないのだ。)神戸にとって重要なことは、これらの西日本から集まる人の流れを繋ぎとめることだ。それには、交通の至便な三宮周辺に大阪に代替できるような大規模な商業施設や集客施設をつくることだ。西日本からの人の流れを考えたときに、神戸は大阪より地の利がある。「梅田と同じような街になっても仕方がない」とかいう変な負け惜しみをしないで、梅田と正面から競争する気概をもって都市づくりをすべきだ。そうして広域からの集客に成功してはじめて、一か所に都市機能が集中している神戸の利点や、風光明媚な景観が一層光り、「回遊性の向上」が重要となるのだ。

 3 神戸市内のことしか見ないと神戸は近畿圏の西のはずれのような気になってしまうが、西日本全体を見れば、近畿地方 2255万人(うち兵庫県 552万人)、中国地方 740万人、四国地方 385万人(合計 3380万人)で、神戸は中心と言えなくもない。現在の交通の状況でみると、仮に瀬戸内圏で1か所だけに集まるとすれば、三宮は「最も便利な場所」といえる。これこそが神戸の優位性なのだと思う。世界的企業であるP&Gやネスレの日本法人が神戸に本部を置くのは伊達ではない。(ただし、三宮からさらに乗り継ぎが必要になるような、山手線、海岸線沿線、ポートアイランド等は、こうした優位性の点でかなり劣る。)そう考えると、三宮からの徒歩圏(概ね1キロメートル圏)というのは全国でも有数の貴重な場所であり(しかも、それほど開発余地はない)、そんな貴重な立地条件であるからこそ、ビルの高層化等を図って高度利用を図る必要がある。そうした誰もが集まりやすい便利な場所を提供することこそが全国に対する神戸の基本的な貢献なのだと考える。(六甲山が見える、見えないとかいう問題ではない。)

 4 神戸市の三宮構想が、このような都市の物理的条件についての視点がなく、過疎の小都市の「街おこし」の寄集めのような様相を呈しているのは誠に残念なことだ。日本地図(世界地図)を眺め、広域的に捉えると三宮の大きな可能性が見えてくる。立地条件を十分に活かすなら、大概の事業は成功するはずだ。視野を広く持ち、合理的思考をもって神戸の恵まれた優位性を冷静に考え、自信を失わずに、縮小思考ではない大胆な発想、大胆な政策を神戸市に期待したいと思う。