真珠の街 神戸

 神戸の真珠産業が本格的に始まったのは、昭和3年に真円真珠の特許が公開され、各地で養殖場が増加してからです。

 当時、真珠生産の大部分は輸出に向けられており、国際貿易港を備え、真珠の養殖場が多い三重県や四国に近いという地理的条件から、北野町を中心に真珠の加工・流通が発展しました。

 また、真珠の加工に必要な安定した光が、六甲山に反射して北側から得られたことも理由にあげられます。北野町には、通称「パールストリート」と呼ばれる通りがあり、約220社の真珠関連業者が集まっています。

 現在でも、神戸は世界で流通する真珠の70%の選別加工を行っており、世界有数の真珠の加工・集積地となっています。

 

(神戸市HP 「神戸の真珠加工」)

 

 神戸は「東洋の真珠」とも称えられる美しい都市だ。その神戸が、世界で流通する真珠の70%の選別加工を行う、世界有数の真珠の加工・集散地であることは、神戸市民にも案外知られていないのではないだろうか。それは、その事実を確かめる、目に見えるものがないということも理由と考えられる。「真珠の街 神戸」を標榜するなら、やはり、なんらかのシンボルが必要だと思われる。

 では、これまで、神戸にはそのようなシンボルとなりうる施設がなかったのだろうか。実は、神戸には「日本真珠会館」というものが存在していた。

 

日本真珠会館


 旧居留地の東端に位置する日本真珠会館は昭和27年に建設した鉄筋コンクリート造4階建ての近代建築です。

 2005年には登録有形文化財と登録されました。

 現在でも真珠の入札会場などに使われており、1階の神戸パールミュージアムは無料で一般公開されています。

 

 (神戸市HP 「神戸の真珠加工」)

 

 この日本真珠会館の中にある「神戸パールミュージアム」をかつて訪れたことがある。館内は、あまり広いとはいえず、他の見学者の姿もなく、ひっそりとして、観光施設としては寂しい状況で、どちらかというと資料館的な要素が色濃い施設であった。その展示物は、おそらくは非常に貴重なものばかりなのだとは思うが、建物が古いこともあって、展示の有り様もいささか古めかしく、きらびやかな宝飾品をテーマとする博物館としては華やかさに欠け、学校の標本室のような印象を受けた。

 その真珠博物館であるが、このたび日本真珠会館の閉館に伴い、2023年3月末で閉鎖されてしまった。

 日本真珠輸出組合(神戸市中央区)は17日、同組合の事務所があり、展示室「神戸パールミュージアム」を併設している「日本真珠会館」(写真)を3月末で閉館すると発表した。近代化産業遺産で、国の登録有形文化財だが、老朽化のため建物として使用を続けるのは難しいと判断した。(中略)

 今後の同会館について詳しくは決まっていないが、取り壊して新たな日本真珠会館を建て直す見通しだ。同会館の完成当時から使い続けた入札室の机など調度品は、京都工芸繊維大学京都市左京区)に、神戸パールミュージアムの展示物は神戸ファッション美術館にそれぞれ移り、展示会などを開く。日本真珠輸出組合は今後、日本真珠会館を新築すれば再びパールミュージアムを開設できるか、などを検討する。

 

(神戸経済ニュース 2023/02/17)

 

 冒頭の記事のように、世界最大の真珠の集散地である神戸にとって、真珠産業は神戸が誇る重要な地場産業である。同時に、「東洋の真珠」と称えられる神戸にふさわしい観光のテーマになりうるのではないだろうか。神戸の真珠産業の一層の発展と、神戸の観光振興のため、ぜひ、最新の施設を備えた「(新)神戸真珠博物館」を復活させてほしい。真珠をテーマとする博物館は、国内ばかりではなく海外からの観光客からも高い注目を集めることができるのではないか。

 真珠をテーマとした博物館としては、三重県にある「ミキモト 真珠博物館」が有名である。こちらの方は、施設も新しく規模も段違いの現代風の展示施設である。神戸は世界最大の真珠の集散地なのだから、(新)真珠博物館は、その地位にふさわしい規模とグレードの施設としてほしい。

 建設する場所は、北野町の界隈が適地ではないかと思う。というのは、北野町には数百の真珠加工業者が集積する「パールストリート」なるものがあり、それらが集まる理由は、真珠の加工に必要な安定した光が、六甲山に反射して北側から得られることだという。その光の故に加工業者が集まるのだ。この光は、言わば、世界の真珠の品質を判別する基準の光だと言えよう。この世界基準の光、真珠が最も美しく見える光を活かした真珠の展示施設というコンセプトが考えられるのではないだろうか。その光の中で真珠の美術品、宝飾品を鑑賞するとともに、その作品が生み出される環境の中で、作品が誕生する現場を間近に見、作品の在りのままの美しい姿を鑑賞し、また購入し、自らその加工を体験することができ、オリジナルの作品を創作できるような、そのような体験型の博物館ができれば、きっと人気を博するに違いない。北野町は、新神戸駅からすぐそばにあるから、全国から人々が立ち寄ることも可能だろう。北野町は神戸の代表的な観光地であるが、街並みは美しいものの、中核となる観光施設に欠けるという評判もある。新しい真珠博物館は、そうした北野町の観光の中核となりうるのではないだろうか。

 神戸は美しい街である。その美しさの根源は、六甲山とその南面の海から照り返される光の明るさではないかと思う。実際に、天気の良い日に眺める神戸の街は光り輝くような、一種独特の明るさが満ちあふれている。その明るい光が、人々の思考や行動、服装等に多大な影響をもたらしているのではないだろうか。

 そうした、その土地の自然の風土を体感できる観光資源を整備していくことが、一つの観光戦略となると考えられ、真珠博物館はそうした観光戦略の一つの試みになるのではないだろうか。

 

(美しい北野坂の風景)