2024年11月17日兵庫県知事選挙の結果について

 斎藤元彦・前知事(47)の失職に伴う兵庫県知事選は17日投開票され、斎藤氏が、前同県尼崎市長の稲村和美氏(52)ら新人6人を破り、再選を果たした。パワハラなどの疑惑を内部告発された問題で県議会から全会一致で不信任決議を受けた斎藤氏は、選挙戦で「改革の継続」を訴え、SNSを通じて支持を広げた。投票率は55・65%(前回41・10%)だった。

(以下略)

 

(読売新聞 2024/11/18)

 

 兵庫県職員による内部告発問題に端を発する兵庫県知事に対する不信任決議、失職に伴う兵庫県知事選挙は、11月17日に投票が行われ、斉藤元彦氏の再選という結果となった。9月19日の兵庫県議会での全会一致による不信任案の可決からわずか2ヶ月足らず後の出来事である。

 

 筆者は、この出直し選挙の行方について懸念を表明してきた。

 

 人権無視の重大な法令違反を犯し、これだけの県政の大混乱をもたらしている斉藤知事が、再び兵庫県知事の座に舞い戻ることは悪夢のシナリオである。

 

(中略)

 

 今後の展開は、決して予断を許さない。仮に斉藤氏を含めた出直し選挙となった場合、これまでマスコミの話題を集め続けた斎藤氏の知名度は決して侮れない。対立候補の準備が整わないうちに、早期の知事選挙に打って出ることも考えられる。そこに、「改革を進めようとした知事と抵抗勢力」という構図を持ち込まれると、一気に風向きが変わることもあるかもしれない。場合によると、対立候補が乱立し、票が割れるようなことも考えられないことではない。むしろ、そうした構図を意図的に作り出してくることも予想される。

 

(「斉藤兵庫県知事に対する内部告発問題(12)」(2024/9/22))

 

 

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 まさにその悪夢が現実のものになってしまった。兵庫県民は、県政の早期の正常化の機会を目の前にしながら、みすみす取り逃がしてしまった。痛恨の極みである。

 

 選挙の結果を見てみよう。

 

投票日 :2024年11月17日

有権者数:4,463,013

 

 斎藤 元彦   1,113,911(45.2%)

 稲村 和美     976,637(39.6%)

 清水 貴之     258,388(10.5%)

 大澤 芳清      73,862( 3.0%)

 立花 孝志      19,180( 0.8%)

 福本 繁幸      12,721( 0.5%)

 木島 洋嗣       9,114( 0.4%)

 

 今回の選挙で、あれだけ明確な公益通報者保護法違反を犯し、公の場において虚偽の説明や、法の曲解、詭弁を延々と垂れ流し続け、知事の資質に疑問が呈され、県議会議員全員の賛成による不信任決議を受けた斎藤元彦氏に投票する者が多数となったことは、兵庫県民の良識を信じていただけに、非常に残念なことだ。

 しかしながら、当選した斉藤元彦氏の得票率は45.2%で過半数を超えず、県民の圧倒的な支持を得たという訳ではない。やはり、過去最多の7名という、候補者の乱立が斎藤元彦氏への批判票の分散を招いたことは明らかである。

 また、兵庫県有権者全体でみれば、斎藤知事の得票数は25%弱にすぎず、絶対的な支持を受けて再選されたものでないといえることは救いである。

 

 なぜ、今回のような結果になったかについては、候補者乱立の構造が作り出されたことと、斎藤氏を支持する勢力により強力な宣伝工作が行われたことによるものと考えられる。

 

 本選挙での宣伝工作はすさまじく、今回の内部告発の原因となったパワハラ等の疑惑を「そもそもなかった」として、告発を行った職員を悪人に仕立て上げ、すべてを「斎藤知事を失脚させるための陰謀」と決めつけ、そのストーリーに沿ってSNSや動画サイトを利用して、土石流のような大量の情報を流し込み、斎藤知事の疑惑の追及にあたった議員に対しては威圧し、世論を一色に塗りつぶし、反対論を沈黙させ、対立候補を封殺した。これらは絶大な効果をもたらしたと考えられる。

 今回の選挙における世論の動きを見ると、人は情報を一方向からのみ浴びせられると、いとも簡単に考えを変えられてしまうということだ。

 選挙期間中に、斉藤氏を側面から支援する候補が街頭で演説し、真偽の明らかでない情報を声高に叫び、群衆を扇動する情景は、「ジュリアス・シーザー」の一場面を彷彿とさせるようだった。

 

 その効果は、一つは、その陰謀論をそっくり信じ込む人々を多数生み出したことであり、もう一つは、その陰謀論を信用しないまでも、何が真実かがわからなくなり、今回の内部告発問題は単なる旧体制派と新体制派との「権力争い」であると問題を矮小化させ、「政治不信」を煽り、良心的な県民の投票意欲を喪失させたことであると考える。そのため、本来は、兵庫県政の正常化のために投票されるべき投票が実際に投じられることなく、棄権に回ってしまったと考えられる。

 

 今回の選挙は、もともとは兵庫県庁における斎藤兵庫県知事のパワハラ等の問題が発端である。問題を解消させるべく一人の県庁職員が内部告発という手段で声を上げたことが始まりであるが、その県庁職員は強権的な調査を受け、懲戒処分を受け、自ら命を絶ってしまった。その県知事に対して県議会が百条委員会を立ち上げ、ついには不信任を突きつけ、失職させたにもかかわらず、県民が再びその当事者を県知事の座に押し戻してしまった。これは、まさに悪夢の結果だ。誰かが不正に対して声を上げても、決して是正されず、声を上げた人は、社会からも大悪人として非難を受ける。これは、本当に恐ろしいことだ。これは他人事といえるだろうか。自分に無縁のことと言えるだろうか。この兵庫県職員の姿は、明日の我々の姿なのだ。

 

 今回の選挙の結果、斎藤元彦氏が県知事に再選されることになった。兵庫県政の混乱はこれで収束したのだろうか。斎藤元彦氏の頭上には輝かしい栄光が訪れたかのように見えた。しかし、それは一瞬の幻だった。選挙期間中のマスコミの沈黙を利用した、蜃気楼のような壮大なイリュージョンであったのだ。選挙が終わるとたちまち幻は消え失せ、彼を支持した人波は雲散霧消し、荒涼たる砂漠に斎藤氏が一人取り残されているかのようだ。

 

 選挙の直後から、今回の選挙をめぐって様々な違反や犯罪の疑いが噴出している。11月25日の全国知事会議の出席後に、公職選挙法違反の疑いについて斎藤氏へ取材が殺到した。斎藤知事は、どの質問に対しても、「公職選挙法に違反する事実はないと認識している」、「対応については弁護士と相談している」と延々と同じ回答を繰り返し続けた。これまで兵庫県、関西ローカルが舞台だった斎藤元彦氏独特の異様な答弁が、全国民の目に触れることになった。

 

 選挙後、兵庫県の混乱は、収束するどころか、さらに拡大の様相を見せ、公職選挙法違反による当選無効、知事失職の声まで出始めている。

 斎藤元彦氏をめぐる騒動は、今、第3幕が開いたのである。