六甲アイランドの活性化

 六甲アイランドは、ポートアイランドに続く神戸市第2の人工島で1988年3月に街開きをした。島の周囲はコンテナターミナル等の港湾施設が取り囲み、それに隣接して物流・工場地帯が配置され、その内側に緑地帯を挟み、中心部は「六甲アイランドシティ」と名付けられた住宅街・業務街となっている。その住宅街・業務街の中央を新交通システム六甲ライナーが南北に縦貫し、阪神電鉄魚崎駅、JR住吉駅に接続している。六甲アイランドにはかつてP&Gの極東本部も置かれたことから、外国人の駐在員向けの高規格の住宅が多く建設され、カナディアンアカデミー、ドイツ学院、ノルウェー学校など複数の外国人学校が進出している。島内には、外国人の子どもたちが遊ぶ姿が日常的に見られ、非常に国際色豊かな街である。街並みも、広い街路に大規模な公園が配置され、街開き当初は、バブル経済の潮流を受け、「海の手六甲」のキャッチフレーズの下、上質な住宅地として人気を博した。

 しかし、1995年1月の阪神淡路大震災が転機となった。島内では建物自体には大きな被害はなかったが、液状化現象が生じたり、島と本土を結ぶ六甲大橋が被害を受け、交通やインフラが途絶して孤立化し、六甲アイランドが島であることの脆弱性が意識されるようになり、人気は急激に低下した。また、2018年8月の台風21号では高潮に見舞われ、住宅街・業務街に被害はなかったが、周囲の港湾施設や物流施設が水没し、コンテナが流出するなどの大きな被害が発生し、さらに人工島の信頼感を低下させることになった。

 こうした流れの中で、当初は華々しく街開きをした六甲アイランドであったが、次第に業務施設の転出が目立つようになり、2016年5月にはP&Gが中央区の三宮へ移転したのは六甲アイランド衰退の象徴的な出来事であった。今では、中心部の業務街では空き店舗が目立ち、一部にはビルごとテナントが撤退し、灯りが消え、非常に寂れた風景となっている。

 一方で、六甲アイランドにとっての明るい材料としては、大阪湾岸線の西伸部の建設が決まり、ポートアイランドと巨大な橋梁で結ばれることになったことが挙げられる。また、島の南部に六甲アイランド南の埋め立てが進み、次第にその姿を現しており、将来的には両者が結ばれる予定である。

 

 

 さて、この六甲アイランドを活性化するにはどうしたらよいだろうか。

 神戸市でも、いろいろと検討しているようだが、どうも決定的な案はなさそうだ。

神戸市:六甲アイランドまちの将来像検討会 (kobe.lg.jp)

 

 そこで、六甲アイランドの活性化策を考えてみる。

 すっかり活気がなくなってしまった六甲アイランドであるが、住宅地として人気が高い阪神間に位置しており、貴重な住宅地と言えるだろう。しかも、バブル時代に建設された贅沢なインフラや外国人学校が集積する等のすばらしい住環境を持っている。おまけに、六甲の稜線が見渡せる風景はすばらしい。(六甲の稜線は、三宮ではなく、六甲アイランドで守ればよいだろう。)さらに、外国人が生活するのに適した住環境は、今後の神戸の企業誘致の強力な武器になり得るものだろう。これらは神戸の財産と言うべきで、有効に活用されずにいるのは非常に残念なことである。

 

 六甲アイランドの人気が下降するきっかけになったのは、やはり阪神大震災であろう。その時の本土からの孤立に対する恐怖感が、人々の住宅地としてのあこがれを吹き飛ばしてしまったのだ。だから、六甲アイランドの再浮上のためには、本土からの孤立感を解消し、住民の安心感を高めるように施策を講じればよいということになるだろう。

 現在、本土との交通は、一般道では六甲大橋が唯一であるが、実は六甲大橋は歩いても、自転車でも渡ることができる。しかし、それは余り知られていないことのようで、インターネットを検索すると、六甲アイランドへの自転車や徒歩での渡り方を写真付きで説明するブログが多数見受けられる。このことは、一般の人々にとって、六甲アイランドへの自転車や徒歩での渡り方がわからないということを表しているだろう。これらのブログが説明するところを見ると、エレベーターを乗り降りをしたり、出入り口がわかりづらかったり、勾配がきつかったり、なかなか複雑なルートのように思われる。また、その周辺には工場街が広がっており、大型車が頻繁に走り、振動や騒音や排ガスで、誰もが安心して散策を楽しめるような状況ではない。六甲アイランドの活性化の第一は、まず、六甲アイランドと本土の間を、気軽に安心して歩いたり、自転車に乗ったりして往来できる環境を整えることであると考える。現在のように工場街の中を縫って道を探すような状況ではいけない。子供でも安心して簡単に渡れるような環境を作ることだ。神戸市は「人間中心の街」を目指しているのだから、こうした場所にこそ、その原理を適用すべきだ。本土と六甲アイランドとの歩行者・自転車の導線を設定し、それをシンボルロードとなるように歩道や植栽、街灯、立体交差などを計画してはどうか。場合によっては、三宮クロススクエアのように、自動車を排除する区間を設けてもよいかもしれない。これらの施策は六甲アイランドの住民だけでなく、東灘区民全体の生活環境の向上にも役立つはずだ。

 東灘区では、元来、市民が日常的に気軽にウォーキングを楽しむ習慣が根付いている。休日には多くの市民が住吉川の河岸を散歩している。もしも、そのように人々が気軽に六甲アイランドへ散歩して訪れることができるなら、広々とした公園やグラウンド、プール、美術館など、六甲アイランドはすばらしい環境を市民に提供することができるだろう。また、それによって、島内の住民の安心感も高まるに違いない。

 本土とのアクセス路は、現在は六甲大橋1本しかないが、それでは心許なく、複数のルートを確保すべきだろう。六甲アイランドのアクセス路が少ないのは、六甲アイランドが「島」であることが理由と思われるが、六甲アイランドと本土との間にあれほど広大な水路が必要なのだろうか。つまり、六甲アイランドは島である必要があるのだろうか。場合によっては、最低限を残して水路を埋め立て、地続きの半島にしてもよいのではないだろうか。六甲大橋は、大型の船舶が通行できるよう、海面からの高さもかなりある。それは大きな勾配を必要とし、人々の通行を困難にする。地続きであれば、平坦に通行することができる。そうなれば、もっと本土との往来が容易になるだろう。

 交通路が十分に確保されると、元々阪神間の貴重な宅地であり、住宅地としての人気も再び高まるのではないだろうか。現在の人口だけでは、島内の商業施設等を維持することも難しいだろうから、さらに住宅地を拡大して、人口をもっと増やすことを考えてもよいかもしれない。

 また、六甲ライナーの値段が高いとの声もある。現在の最高250円の運賃を市バスと同じ一律210円にすることも考えてはどうだろうか。島の活性化のために巨費を投じることを考えると、検討してもよいのではないだろうか。

 高潮や津波の脅威から住民の安全を確保できるように防災対策を強化する必要があることは言うまでもない。