新型肺炎の流行について(6)

 大阪府の吉村知事が19日夜、緊急の記者会見を開き、20日からの3連休、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、大阪府兵庫県の間の不要不急の往来を控えるよう求めた件について、吉村知事がtwitterで次のように述べ、文書を公開した。

厚労省から受けたこの提案を重視し、方針を決定した。単なる有識者やコメンテーターが作成したものじゃない。国がこの書類を持って大阪府兵庫県にわざわざ説明に来て提案された。重要な事実と判断して外に出した。多くのコメンテーターはこんな数字なる訳ないと思うだろうが、僕は無視できない。

(23:44 - 2020年3月19日)

 その文書は、2020年3月16日の日付で、「大阪府兵庫県における緊急対策の提案(案)」と題されており、文書の上部の余白には「3/18厚生労働省コロナ対策本部クラスター班の専門家(北海道大学西浦教授等)が作成した資料として入手」と注記されている。内容は、「現状分析」と「必要な対策の方向性(案)」の2つの項目からなり、「現状分析」には、「全国的に2月14日頃より感染者の増加が加速している。」、「大阪府兵庫県の全域において(中略)見えないクラスター連鎖が増加しつつあり、感染の急激な増加が既に始まっていると考えられる。」として、試算として期間ごとの感染者数と重篤者数が示され、「感染者報告数がこれから急速に増加し、来週には重症者への医療提供が難しくなる可能性あり。」と記されている。

 「必要な対策の方向性(案)」には、「社会的隔離により見えないクラスター連鎖を分断し、感染者の爆発的増大の回避・抑制をはかる」として、「段階1 警戒段階」と「段階2 積極的介入段階」に分け、「段階1」では、「大阪府兵庫県全域で、今後3週間の対策として、「一 市民の感染対策の強化の呼びかけ」、「一 学校休校・イベント中止の呼びかけの継続」、「一 大規模イベントの自粛の呼びかけ継続」、「一 感染拡大リスクの高い施設の使用自粛、集会の自粛の呼びかけ」とあり、最後の項目に大阪府兵庫県内外の不要不急の往来の自粛を呼びかける」が掲げられている。

 

 吉村知事は、19日夜の記者会見では「大阪府兵庫県の間の不要不急の往来を控える」と述べたが、文書では、「大阪府兵庫県内外の不要不急の往来の自粛」と記載されており、内容が異なっている。要するに、大阪府兵庫県の住民に不要不急の往来の自粛を呼びかけるものに過ぎない。他に列記されている対策を見ても、これまで言われてきた対策と比べて何も目新しいところはない。これに対して、兵庫県知事が同日に述べた「これまでも不要不急の外出を控えるようお願いしており、3連休だけの問題ではない。当面は政府の専門家会議がある来週の火曜日までの呼びかけだ」というのも理解ができる。

 

 以上から、今回の吉村知事の発した情報は正確ではなかったし、これだけの資料を元に感染者数の「試算」を発表したことは、市民を混乱させる結果になったように思われる。かえって、兵庫県知事の方が、今回の情報のとらえ方については妥当であったと思える。しかし、大阪府知事に対して感情的と捉えられるような発言もあり、もう少し冷静に丁寧に説明をしておけばよかったのではないかと思う。大阪府知事については、最終的には元資料まで公開したので、その点では首尾一貫していた。

 今回の一連の動きは、情報公開は重要であるが、不正確な情報、不十分な情報は、かえって社会全体を混乱を招くおそれがあるということを示すものであった。