近年、神戸市では、観光を振興しようとして、神戸の名前をあげれば人が来ると思うのか、「BE KOBE」のモニュメントを設置するなどのPR重視の観光政策を行っている。モニュメントは、確かに、撮影スポットにはなっただろうが、入り込み客が増えたような様子もなく、人を呼ぶ効果があったかは甚だ疑問だ。このモニュメントを、メリケンパーク、ポートアイランドに続いて、北区の里山地域に3基目を設置するそうだ。北区は、「神戸市」であることは間違いないのだが、これに神戸を冠して売りだそうとするのは、神戸ブランドの濫用であり、神戸ブランドの一層のイメージの希薄化につながるおそれがある。
また、新しく観光施設を開発するよりも、すでにあるものを発掘して、PRして打ち出す観光戦略をとっている。その中では、神戸のイメージにふさわしいものもあるが、「下町神戸」や「茅葺き家屋の活用」など、神戸ブランドのイメージの焦点がぼやけるような施策も多い。
神戸ブランドは、長年をかけて培われたものであり、もっと大切にしなければならない。ブランドへの「もたれ掛かり」を止め、自覚的にブランド価値を高める方向に舵をきらなければならない。新しいものを売り出すなら、安易に神戸の名をつけずに、商品そのものの力で勝負するべきだ。
神戸ブランドは、繁栄の象徴で、上質、最先端に対する信用であるから、この原点に立ち返って、都市の繁栄を取り戻すことから始めなければならない。ブランドの内実を失って、ブランドの名前にもたれ掛かるのは最悪だ。そうではなく、ブランドの価値を高める新しい内実を創り出さなければならない。
大方針として、まず、神戸ブランドの発祥の地である、神戸の中心部を再開発し、最先端の都市にしなければならない。そこで、優れた交通網を生かした、広域の商業施設・文化施設を集積し、上質、最先端の商品を展示・販売する施設をつくるべきだ。つまり、最優先課題は中心市街地の再生、高度化だ。
北神はもともとが別経済圏なので、北神の振興は別に考えるべき問題だ。北神の振興が、神戸の復活につながるということはない。その中で、北神急行の買収は、神戸の市街地の高度化に資することはなく、優先的な課題ではないだろう。神戸の中心市街地が復活すれば、自然と相互の交通は活発化するはずだ。
神戸は、かつて我が国の中心であった時代があり、その当時に形成された、全国各所につながる強力なインフラ網が残されている。これを維持・発展させることは重要だ。神戸空港の国際化、湾岸道路西伸部の整備はきわめて重要な課題だ。そして、新幹線新神戸駅と神戸空港を結び、既存の鉄道網と連携させ、両者と市街地との回遊性を高める「新神戸・神戸空港アクセス線」の建設が最優先課題である。これについては、阪急阪神ホールディングスの社長も述べている。
問題は、この交通の優位性をどう生かすのかという点である。
一つは、ポートアイランドへの先端科学技術関連施設の集積である。ポートアイランドでは、世界最高速のスーパーコンピュータが建設されており、コンピュータや再生医療などの最先端の科学の舞台として存在感を現し始めている。すぐれた交通網を生かしてこれらを強化していくことが必要だ。
また、コンベンション施設も有望だ。昨年度は、国際会議の開催件数が全国第2位であったという。上記のスーパーコンピュータ、再生医療の集積との相乗効果で、現在でも、「学会に出席しました」という土産物が存在しているように、一定の地歩を固めつつある。大阪のIRとは一線を画する、実務型のコンベンションが有望だろう。
また、アリーナの建設も不可欠だろう。アリーナの重要なところは、自分たちが持っているものを見せるのではないところだ。つまり、世界最先端の文化やファッションを世界から引っ張ってくるというところだ。優れた交通利便性を武器に、全国から人が集まりやすく、こうしたイベントの舞台を提供することだ。
要は、神戸が行うべきことは、神戸の中にあるものを掘り起こすのではなく、全国や世界とつながる舞台を提供することだ。そこに最先端のものを招き入れることだ。たとえば、世界的な国際会議が開かれると多くの要人が神戸にやってくる。また、世界的なアーティストが神戸でコンサートを行えば、日本全国、アジア全域から人が集まってくる。これらをきっかけとして、神戸が世界に再び名前を知られるようになり、また多くの人々が訪れ、交流し、新しい何かが生まれる。このような未来の神戸の姿を思い描く。
神戸に必要なものは、再び神戸に「最先端を取り戻す意思」と「そのための努力」であろう。(USJは、現に「世界最高を、お届けしたい」をスローガンに掲げている。)過去の自分、小さな自分にこだわることはやめて、どんどん外部のよいものを取り込もう。そのためには、政治的なリーダーシップが必要だろう。現状は、全体が進むべき方向が定まらず、それぞれが思い思いに小規模な企画を次々に立ち上げ、各個に粉砕されているような状況に見える。都市全体の優先順位を明確に定め、最先端の復活に資する施策をテーマに、人・物・資源を集中投下するべきだと考える。
そうした最先端が行き交う神戸に流通するものが神戸ブランドを復活させるのだ。