神戸の都心の「将来ビジョン」及び三宮基本構想の計画について

1 問題点

 三ノ宮構想会議において現在示されている「目標と方針(案)」は、「神戸らしい」とうたいながら、どこの町にでもあてはまる、まるで中小都市のまちづくりプランのように見える。

その理由は、神戸市が、どのような固有条件(地理的条件、自然条件、歴史、規模、国内外の位置づけ等)を有する都市で、どのような将来像を持っているのかが全く明らかにできていないからだ。これでは、市民も方向が定まらず、市外の人々、事業者等も神戸市とどう付き合えばよいのか全くわからない。

大都市は、その市民だけでつくるのではなく、市民以外の国内、海外の人々も参加してつくりあげられるものだ。神戸市の目指す将来像を内外にもっと明確に強くアピールしなければ街づくりの成功はない。

(「ひと中心」、「ヒューマンスケールのまち」のフレーズは、神戸は発展を諦めたかのような、縮み思考の印象を与えるので削除すべき。歩いて楽しめるヒューマンスケールな部分もあってよいが、神戸市が果たすべき大都市の役割があることも忘れてはならない。)

 

2 神戸市の固有条件

 神戸市は、兵庫県県都であるだけではなく、我が国の3大都市圏である近畿圏の3大都市であり、近畿圏の西域の中心都市である。高度に発達した鉄道網により大阪市京都市と1時間以内で結ばれている。さらに中国、四国、九州地方とも鉄道や高速道路で結ばれた交通の結節点であるとともに、瀬戸内海交通の東の拠点である。また、新幹線、空港を擁し、日本各地と直接結ばれている。さらに海外に視野を広げると、発展目覚ましく巨大な人口を有する中国や東南アジア諸国に囲まれている。世界的な規模を有する神戸港を有し、国際貿易の我が国の中心地として発展してきたため、これまでも外国人が多く住み、外国人が生活するための居住、教育等のインフラは全国有数である。

 地形的には、南側は内海に面し、すぐ背後に六甲山系が迫り、平野部が狭小であるが、その反面、海と山を両方望めるダイナミックな景観を誇る。気候はおだやかな瀬戸内気候で暮らしやすい。

 都市の規模は、その都市の利用人口で決まる。神戸市民の人口は約150万人であるが、周辺人口も含めれば、兵庫県550万人、近畿圏2000万人、隣接する中国四国地方の人口500万人、さらに海外を見れば、中国13億、インド12億、インドネシア2億、フィリピン1億等の巨大な人口が存在している。こうした人口が神戸市の潜在的利用人口となる。

  

3 神戸市の優位性の検討

 (1)神戸市は市域人口及び周辺の人口に限っても2500万人の潜在的利用人口がいる。これは、札幌、仙台、広島、福岡に対して優位である。

 (2)同一都市圏内の特に大阪市と強い競合関係にあり、圏内で1か所しか成立しないような都市機能が大阪市に吸収されてしまう弱点がある。しかし、播磨地方、中国四国とも位置的に近いことは大阪市より優位である。

 (3)海と山が同時に臨めるロケーションは他都市に例がなく、都市景観の美しさは世界的にも定評がある。特に競合関係が強い大阪市との比較において極めて優位である。

 (4)大阪市京都市と同一都市圏内で競合関係にあるが、これらの都市が有する産業・学術・観光等の豊富な資源と近距離で結ばれていることは、札幌市、仙台市広島市、福岡市等の単独で都市圏を形成している都市と比べて優位である。

 (5)世界的な国際貿易港である神戸港を擁し、国際拠点空港である関西国際空港と1時間以内に結ばれている点において、仙台市広島市等と比べて優位である。また、アジア諸国と歴史的、地理的に近い点で、東京都、横浜市より優位である。

 (6)国際貿易港として栄え、外国人が多数居住をしてきた歴史から、外国人が生活するための教育、宗教等のインフラが存在し、加えて居住環境が良好である神戸市は、外資系企業を誘致する上で極めて優位である。

  

4 神戸市の将来像

 上記の諸条件から、神戸市がどのような役割を担いうるのかという可能性としての、神戸市の将来像を考えてみた。

 (1)近畿圏西域、中国四国地方の広域の中枢都市

 神戸市は、近畿圏と中国四国地方の交通の結節点にあたり、これらのセンター的機能を果たすに適している。

 (2)東アジアの国際貿易拠点都市

 世界的な国際貿易拠点である神戸港を活かして、国内外の貨物を集積するとともに、既存の関連産業の蓄積を基礎として、さらに関連産業を集積すべきだ。

 (3)我が国における外資系企業の活動拠点

 神戸市が有する教育、住環境のインフラ、既にある一定の集積を活かして、さらに、欧米系はもとより、アジア系の外資系企業を集積すべきだ。

 (4)再生医療を中心とする医療産業の集積地

 近畿圏は医療に関する学術、産業の集積があるが、これらを活かし、さらに、これまでの「医療産業都市」の蓄積を土台にして、医療産業の一層の集積を目指すべきだ。スーパーコンピュータ京を有するのも優位だ。

 (5)近畿圏及び隣接県の近距離観光都

 美しい都市景観、多数の周辺人口、交通の利便を活かして、周辺の多くの人々が気軽に観光や買い物に訪れる都市となるべきだ。

 (6)海外(特に東アジア)からの観光客が長期滞在する観光拠点

神戸市は、関西国際空港等からも近く、さらに都市機能がそろい、交通が至便で、美しい都市景観を持ち、美味しい料理が堪能でき、周辺も含めた観光施設が豊富であり、海外の観光客が長期滞在できる基盤がある(滞在地の選択において、安全で、なんでもそろっていて、交通が便利というのは優位)。また、神戸港は風光明媚で、世界最長の明石海峡大橋等の名所があり、クルーズ観光の拠点として有望である。

  

4 今後の方策

  神戸市の有する諸条件、潜在的な可能性を念頭において、これらの利用人口に十分対応できる都市機能、容量を想定して、まちづくりのプランを行う必要がある。

 具体的な方策として、例えば次のようなものが考えられる。

 (1)在来線、新幹線、空港、長距離バス、旅客船等の乗り継ぎ機能の強化、利便性増進(ターミナルの改良、新幹線、在来線、神戸空港を結ぶ高速鉄道の建設 等)

 (2)近畿圏、中国四国地方の結節点という優位性を活かして、これらの中枢的機能の集積促進

 (3)医療産業の集積促進

 (4)外資系企業の集積促進

 (5)観光産業の立地促進

① ウオーターフロント部への大型リゾートホテル、遊園地(テーマパーク)等の誘致(神戸の山と海、街とを見渡せるポートアイランド西北岸はこれらの適地(にもかかわらず、マンションと自動車学校を作ってしまったのは惜しまれる)。それらは市街地側から見るウオーターフロントの美観の向上にも寄与する。(神戸港西域を「内海」として一体的に捉えて開発する。ホテルが集積し、宿泊客が増えてくると、それ自体が街の雰囲気をリゾート地のように変える効果がある。)

 ② 神戸を起点とする京都や大阪、姫路等の観光ツアー整備

 近畿圏の主要な観光地へ、神戸からは概ね1時間あれば行ける。神戸市には突出した観光施設はないが、神戸の明るく開放的なムードそのものが観光資源であると言える(リピーターが多いのはその理由であろう。ハワイのホノルル市とその点において似ている。)。神戸に滞在して、神戸の美しい都市景観の中で、神戸の暮らし(食事、ショッピング、山登り、マリンレジャー、クルーズ、温泉 等)を味わいつつ、神戸を起点に周辺の観光地(京都、大阪、奈良、姫路、宝塚 等)も巡るという「滞在型観光」を確立する。(これは神戸で暮らすことのメリットそのものだ)

(海外旅行に行くと、片道1時間程度観光バスに乗って、滞在都市から郊外や隣接都市の観光地へ行くオプショナルツアーは普通である。)

 ③ 神戸港の大型クルーザーの拠点化の推進

 風光明媚な神戸港は、クルーザーの拠点に適地である。しかも、陸路、空路と接続しており、周辺の観光にも至便である。

 (6)都市の美観向上(公園、街路の整備、観光施設の配置 等)

 (7)商業施設の集積

 近年、商業施設開発が進む近隣都市(大阪、西宮、姫路 等)に対して域内の消費需要の漏出を防ぎ、さらに広域から消費需要を集めるための商業施設の拡充、魅力強化が不可欠である。商業施設の集積は、神戸市への来訪者を確保する上でも、観光客の誘致にも必要。

神戸市は観光を兼ねた飲食、ショッピングに優位。地理的にも近畿圏西部、中国四国地方からの来訪者(特に自動車での来訪)を集めるのに優位。(梅田の独り勝ちは幻想にすぎない。→ 大阪の販売効率の低下、三越の早々の撤退。)

  

5 まとめ

  三宮は神戸市の顔だ。都市の繁栄、勢いを象徴する場所だ。三宮は、神戸市の将来像を実現するための玄関口となる要の場所だ。三宮の将来像を検討するのに、神戸市全体の将来像の検討は欠かせない。三宮のまちづくりは、神戸市の将来像を内外に強くアピールする絶好の機会だ。

 神戸市の将来像は、現在の神戸市民の視点だけではなく、近畿圏、西日本、日本全国、アジア、世界から見て、神戸市がどのような役割を担いうるのかを、神戸市の歴史的背景、諸条件等を踏まえ、基礎的データも押さえて、客観的に、具体的かつ詳細に検討して進めるべきだ。単なる印象や、現状の延長線からだけで神戸市の将来像を考えるべきでない。

  

6 補論

 神戸は、もともと、固有の地理的、自然的条件を持っているから都市の強い個性がある。その中では何をやっても結局は神戸らしくなるはずだ。ことさらに、風見鶏、異人館、ハイカラ、ジャズ、異国情緒を神戸らしさと考え、その狭い枠内に神戸を押し込めるべきではない。(「ハイカラ」は明治時代であれば最先端を表す言葉であるが、現在では時代遅れの代名詞だ。このような呼称を有難がっているのはいかがなものか。)明治以来、時代の最先端を積極的に受け入れ続けてきたのも神戸の一つの姿だ。

新旧、和洋中印・・・、いろんな要素が混ざり合っているのが神戸の魅力だ。北野、旧居留地、中華街等、エリアごとの歴史、個性は大切にすべきだが、すべてを単一のカラー(例えば、異人館風)で統一することは妥当でない。