兵庫県職員が行った斉藤兵庫県知事に対する内部告発は、当該職員に対して停職3カ月の懲戒処分が科せられ、その後当該職員は自ら命を絶つという痛ましい結果となった。
こうした内部告発については「公益通報者保護法」という法律があり、その中に、当該公益通報者に対して、公益通報をしたことを理由として不利益な取扱いをしてはならないという「不利益取扱いの禁止」の規定が定められている。今回の斉藤知事の対応は公益通報者保護法に違反しているとの声が上がっている。
これに対して、斉藤知事は、この告発文書が、当初、報道機関等に配布され、その後県の公益通報窓口に通報されたということをもって、報道機関等に配布された文書は公益通報には当たらないとして当該職員を懲戒処分に処している。
果たしてその理解は正しいのだろうか。
正しい理解のために、消費者庁「公益通報者保護制度 」の解説をみてみよう。
(1)事業者内部(役務提供先等)
(2)権限を有する行政機関
(3)その他の外部通報先
の3つの類型を定めており、このうち3番目の「その他の外部通報先」については、消費者団体や事業者団体等と並んで報道機関も含まれていると説明されている。さらに、通報先として、公益通報者は、順番を問わず、いずれの通報先に対しても公益通報をすることができると説明されている。
(参考) Q&A集(抜粋) | 消費者庁
Q3 その他の外部通報先とはどのような者を指しますか。
A その他の外部通報先とは、「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」を指し、犯罪行為やその他の法令違反行為の内容等に応じて様々な通報先が考えられます。例えば、事案に応じ、
消費者利益の擁護のために活動する消費者団体加盟事業者の公正な活動を促進する事業者団体
行政機関による不正行為等を監視する各種オンブズマン団体
国政調査権を行使する国会の議員
多数の者に対して事実を知らせる報道機関
などが考えられます。
Q9 まず事業者内部に公益通報をしてからでないと、外部公益通報をすることはできませんか。
A 本法では、通報先として、1 事業者内部、2 権限を有する行政機関等、3 その他の外部通報先が規定されていますが、公益通報者は、順番を問わず、いずれの通報先に対しても公益通報をすることができます。
なお、事業者が、労働者等に対して外部公益通報を禁じたり、まず内部公益通報をするよう公益通報の順序を強制したりすることは、本法の趣旨に反するものであり、事業者がこのような規程を作成した場合は、その他の外部通報先への公益通報(3号通報)の保護要件である「役務提供先から前二号に定める公益通報しないことを正当な理由なく求められた場合」(本法第3条第3号ニ)にも該当し得ると考えられます。
斉藤知事や兵庫県の人事当局は、このことを知らないのであろうか。
法律の扱いに慣れた県庁職員、特に人事行政を担当する当局において、そのようなことはありえないと考えられる。
おそらくは、兵庫県の人事当局は、これらの法律の規定を知った上で、斉藤知事の意向に沿って恣意的な解釈を行ったと考えられる。
こうした対応を白昼堂々と行い、記者団、ひいては県民に対して、誤った説明を延々と繰り返しているところに、現在の兵庫県庁の異常性を感じざるをえない。