少子化問題について(2)

少子化発生の要因と原因

 

 では、我が国の少子化の原因は、同「報告」ではどのように説明されているのだろうか。

 

●80年代以降の少子化の要因

 

<非婚化・晩婚化・晩産化>

 少子化に影響を与える要因として、非婚化・晩婚化 及び 結婚している女性の出生率低下 などが考えられる。1970年代後半からは20歳代女性の未婚率が急激に上昇したほか、結婚年齢が上がるなど晩婚化も始まり、1980年代に入ってからは、30歳代以上の女性の未婚率も上昇しており、晩婚と合わせて未婚化も進むこととなった。

(略)

 さらに、デフレが慢性化する中で、収入が低く、雇用が不安定な男性の未婚率が高いほか、正規雇用育児休業が利用できない職場で働く女性の未婚率が高いなど、経済的基盤、雇用・キャリアの将来の見通しや安定性が結婚に影響することから、デフレ下による低賃金の非正規雇用者の増加などは、未婚化を加速しているおそれがある

 

<女性の社会進出・価値観の多様化>

 1985年に男女雇用機会均等法が成立し、女性の社会進出が進む一方で、子育て支援体制が十分でないことなどから仕事との両立に難しさがあるほか、子育て等により仕事を離れる際に失う所得(機会費用)が大きいことも、子どもを産むという選択に影響している可能性がある。

 また、多様な楽しみや単身生活の便利さが増大するほか、結婚や家族に対する価値観が変化していることなども、未婚化・晩婚化につながっていると考えられる。

 

(同報告)

 

 

 少子化の要因としては、

(1)非婚化・晩婚化

(2)既婚女性の出生率の低下

が挙げられている。婚姻をする者が減少すると出生が減るのは理解しやすい。さらに、既婚であっても、出生率の低下が生じているというのだ。

 

 では、非婚化・晩婚化の背景は何かというと、

 デフレが慢性化する中で、

(3)収入が低く、雇用が不安定な男性の未婚率が高い

(4)正規雇用で働く女性の未婚率が高い

 など、「経済的基盤、雇用・キャリアの将来の見通しや安定性が結婚に影響」し、「デフレ下による低賃金の非正規雇用者の増加などは、未婚化を加速しているおそれがある」としている。

 

 未婚率は、30歳~34歳の年代で、男性の場合、1970年には11.7%だったものが、2010年には47.3%に、女性の場合は、7.2%が34.5%にも高まっている。

 

 

 非正規労働者の未婚率が著しく高い傾向があるということについては、次のような報道がある。

 非正規で働く男性の50歳のときの未婚率(生涯未婚率)が2020年の国勢調査で6割に達したことがわかった。15年時点では5割だった。男女ともに未婚率の上昇傾向は続いているが、なかでも男性非正規社員が際立っている

 総務省が5月に発表した20年国勢調査の就業状態等基本集計を基に分析した。50歳の時点での未婚率は「生涯未婚率」とも呼ばれており、結婚しない人のひとつの指標となる。(以下略)

 

日本経済新聞 2022/6/8)

 

 この記事によると、総務省が45~49歳と50~54歳の未婚率を分析したところ、正社員の男性は19.6%、非正規(派遣、パート、アルバイト)社員では男性は60.4%と6割を超えたという。

 

 非正規労働者の増加については次のデータがある。

 

(参考)非正規労働者割合の推移

総務省統計局「労働力調査 長期時系列データ」より作成)

 

 「報告」では、少子化の要因として「女性の社会進出・価値観の多様化」も挙げられているが、これは、上記のような状況が生じている中で、旧来のように、結婚を迫られることがなくなったということで、これが非婚化・晩婚化を支える条件であっても、非婚化・晩婚化発生の主因とは言えないだろう。それは若年層の結婚意思に関する調査を見てもわかる。

 国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、下の図のとおり、未婚者の結婚意思は、直近の2021年においても、男性、女性とも18歳から29歳までの若い世代においては80%を大きく超えており、依然として高い水準で推移している。これを見ると、人々の結婚に対する価値観に現在起きている非婚化を生み出す程の大きな変化はないことがわかる。

 

図)調査・年齢別にみた、未婚者の生涯の結婚意思

(出典:国立社会保障・人口問題研究所「第 16 回出生動向基本調査結果の概要」)

 

 

 また、非婚化・晩婚化を乗り越えて結婚に至ったとしても、出生率の低下が進んでいる。

 

 

 

 国立社会保障・人口問題研究所による「出生動向基本調査」によると、夫婦に尋ねた「理想子ども数」(折れ線グラフ)は、1977年の2.61から2010年の2.42と幾分低くはなっているが、おおよそ2.50水準にある。これに対して、「現存子ども数」は1987年の1.93から2010年の1.71まで10%以上マイナスとなっている。つまり、2人以上の子供を持ちたいと考えている夫婦が多数であるが、実際には1人しか子供を持てないケースが多いことを表している。この理想と現実の開きを生み出す要因は何だろうか。

 


 考えられるのは、夫婦を取り巻く子育て環境である。

 少子化社会に関する国際的な意識調査によれば、「あなたの国は、子どもを産み育てやすい国だと思いますか」の質問に対して、日本では、2010年の調査では「どちらかといえばそう思わない」「全くそう思わない」を合わせて45.5%と半数近くが「そう思わない」と回答しており、国際的に見てその割合は相当に高く、直下のスウェーデンと比べるとその差は歴然としている。

 

 

 以上の分析をまとめてみよう。

 合計特殊出生率の低下は、社会全体の非婚化・晩婚化、さらに既婚者の出生率の低下が要因である。非婚化・晩婚化に影響を与えているものは、経済的基盤、雇用・キャリアの将来の見通しや安定性であり、デフレ下による低賃金の非正規雇用者の増加などが、これら経済基盤等を不安定にしている。

 つまり、

 低賃金の非正規雇用者の増加 → 経済的基盤の不安定化 → 非婚化・晩婚化 → 既婚者の出生率低下 という図式となる。

 


 「女性の社会進出・価値観の多様化」と言うものの、若者の結婚意思、夫婦の理想子ども数を見ても、この値が劇的に低下しているわけではなく、このことからも、おそらく人々の価値観がそれほど大きく変化したわけではないと言えるだろう。

 このことは、少子化は避けられない自然法則として生じているということではなく、一種の社会経済の問題であるということを意味する。つまり、台風や地震などといった自然現象であるならば、人智が及ばないことがありうるが、社会経済の問題は人間がなんとかできる問題である。これは我々がどのように未来を選択をするかという問題なのだ。