斉藤兵庫県知事に対する内部告発問題

 兵庫県西播磨県民局長だった男性(60)が斎藤元彦知事らの言動を「違法行為」などと指摘する文書を作成し、解任された問題で、県は7日、男性を停職3カ月の懲戒処分とした。県は内部調査の結果、文書の内容は誹謗(ひぼう)中傷にあたると認定。県議会などからは第三者による客観的な調査を求める声が上がっているが、第三者機関の設置の必要性を否定した。

 県は男性が今年3月、知事や一部の幹部職員を誹謗中傷する文書を作成・配布して多方面に流出させたことで、県政への信用を著しく損なわせたなどとしている。また男性が約14年間で、勤務時間中に約200時間にわたり、今回の文書を含む私的な文書を作成したことなども処分理由とした。

 

産経新聞 2024/5/7)

 

 兵庫県の斉藤知事に対する兵庫県庁の職員の内部告発が話題となっている。県は内部調査の結果、文書の内容は誹謗(ひぼう)中傷にあたると認定し、告発者は停職3か月の懲戒処分となった。この県の対応について、県議会などからは第三者による客観的な調査を求める声が上がっている。

 

 今回の事件について、問題点は二つある。

(1)告発された行為自体

 この内容が事実であるならば、事は極めて重大である。これの真偽については、完全に中立の第三者が客観、公正に調査を尽くすべきであろう。「一定客観的な調査」は、客観的であるとは言えない。

 

(2)告発者に対して不利益な処分を行ったこと

 もう一つ重要な問題は、今回の通報を行った者に対して、公正な調査を行う前に、「事実無根の誹謗中傷」と、告発された当事者が一方的に断罪して、懲戒処分を行ったことだ。

 これは、通報を行った者に対する不利益な取扱いを禁じる「公益通報者保護法」に違反している。公益通報者保護法は、公益のための通報(「公益通報」)が社会全体の利益に資することから、通報者の通報行為を正当な行為として保護しようとするものである。

 

 国民生活の安全・安心を損なうような企業不祥事は、事業者内部の労働者等からの通報をきっかけに明らかになることも少なくありません。
 こうした企業不祥事による国民への被害拡大を防止するために通報する行為は、正当な行為として事業者による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべきものです。
 「公益通報者保護法」は、労働者等が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかという制度的なルールを明確にするものです。

 

消費者庁公益通報ハンドブック」)

 

公益通報者保護制度 | 消費者庁 (caa.go.jp)

 

 今回の通報者に対する処分は、本件について人々の口を噤(つぐ)ませる効果を持つだろう。そして、本件のみならず、今後、公益通報を行おうとする者は、自分が本当に守られるのかどうかの懸念から、必ず躊躇するようになるに違いない。公益通報制度に対する人々の信頼感は大きく毀損されてしまった。このことの責任は極めて重大である。

 今回の通報者に対する懲戒処分が認められるのであれば、通報者の保護という法律の目的は全くの有名無実となり、公益通報者保護法は事実上、空文化してしまうことになるだろう。

 

 そもそも、なぜ斉藤知事は、今回の告発に対してこれほど激烈な対応を取るのであろうか。もし、「事実無根」「嘘八百」であるならば、大騒ぎせずとも、公明正大に真実を明らかにすればよいだけではないのか。なぜ、告発者のパソコンを14年分にもわたって、使用履歴を洗い出す必要があるのか。これだけでも、告発者を萎縮させるのに十分である。そして、告発者は停職3か月の懲戒処分となった。これはもはや「弾圧」(おさえつけること。特に、支配者が権力を行使して反対勢力の活動を抑圧すること。出典「デジタル大辞泉」(小学館))といってよいだろう。斉藤知事は、「公務員倫理の徹底を図るとともに、風通しの良い組織を作っていきたい」(5/8 定例記者会見)と述べたそうだが、悪い冗談である。

 

兵庫県/知事記者会見(2024年5月8日(水曜日)) (hyogo.lg.jp)

 

 

 そして、この常軌を逸した斉藤知事の姿勢こそが、今回の告発文の真偽と重大性を物語っているのではないか。

 

 

 

 今回の報道に触れて、旧ソ連のジョーク(アネクドート)を思いだしだ。

 ソ連末期のアンドロポフ書記長は健康がすぐれず、重病説が広まっていた。一部には心臓が悪いとの憶測も流れていたが、ある男が公衆の面前で、「アンドロポフが悪いのは、心臓ではなく、実は頭なのだ。」と言った。その男は、たちまち逮捕され、処罰されたが、罪名は侮辱罪ではなく、国家機密漏洩罪であった。