少子化問題について(5)

あるべき施策

 

 少子化対策のあるべき施策としては、先のモデルに示したように、「長期的に、1以上のNを持てるだけの経済状況を安定的に確保できる」状態の実現である。

(1)まず第一に必要なものは、長期にわたって、安定的に収入を得ることができる職の確保(雇用)である。現在の非正規雇用の問題としては、安定性に問題があることと、年齢に応じた収入が得られないことである。

 年功序列に対しては非常に風当たりが強いが、年功序列は単なる「年功の評価」ということだけではなく、人間のライフサイクルに沿った生活給的な要素を満たす給与制度である。通常、若い頃は身一つで、肉体的にも元気で、どのような環境でも耐えられる高い適応力があるから、さほどの生活費を要さない。しかし、年齢が進み、子供が生まれ、子供の養育に要する費用が増えてくると、生活費全般が大きく膨らむことになる。こうした、年齢の上昇→生活費の上昇というライフサイクルに適合しているのが年功序列型の給与制度と言えよう。「年功序列型賃金」は「生活給」の近似物なのだ。一方、非正規雇用では年齢が上がっても昇給が得られない。つまり、いつまでも一人分の生活費をまかなうだけの給料しかもらえない。その結果が、子供を持つだけの収入が得られないという、モデル通りの状況を生み出すことになるのだ。

 したがって、人々の生活、ライフサイクルに沿って増加する収入を得ることができるようにすることが重要だ。それは、典型的には、長期的・安定的な雇用である。現在の非正規雇用制度は、この面で、何らかの補完的措置(政府による所得保障など)を講じるのでなければ、社会の永続性を掘り崩す、非常に有害なものである。ついては、これらの非正規労働の無制限な拡大を防ぐための規制が必要がある。

 こうした方針を進めると同時に、安定的な雇用を創出するという意味で公的セクターの役割はきわめて重要だ。公的セクターは、自らの業務においてこのような非正規労働化を進めるのではなく、むしろ逆に正規労働化をはかり、率先して安定的な雇用創出に努めるべきだ。

 

 近年、神戸市でも業務の委託化、正規職員から非正規労働者への置き換えを進めているようだ。それを進める理由としては、コストの削減、すなわち財政の持続可能性の確保というのであろうが、皆が自らの収支を改善する方向に舵を切れば、社会全体で歪みが出てくる。それが日本経済全体の不調であり、少子化問題だと考える。自分の懐だけ改善しようという狭小な視野が社会の持続可能性を掘り崩すことに気づくべきだ。

 久元市長は、神戸市の人口減少の原因について、「人口減少社会」の言葉を好んで用いるが、その一方で、人口減少社会に進む方向を積極的に推し進めているのは、なんと皮肉なことだろう。

 

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 こうした背景には、「小さな政府」論があるが、社会がある程度の経済発展を遂げると、発展途上期を終えて民間投資が一段落し、代わって公的部門の割合が高まるのは自然な流れなのだ。公的部門の活動は営利活動ではないが、社会全体を豊かにする、社会全体の安全を高めるような公的活動を充実させるべきだ。新しい知識や技能を習得し、若々しい正義感にあふれた人々に社会全体の繁栄と幸福に寄与するような活躍の場を与えるべきだ。

 

(2)次に、公的な扶助の拡大によるYの引き上げとXの引き下げにより、「長期的に、1以上のNを持てるだけの経済状況を安定的に確保できる」状態を実現することである。ただし、この財源を消費税に頼るのであれば意味がない。先のモデルが示した条件は、「長期的かつ安定的」に確保できる状態の実現である。仮に、子育てを行う費用が確保できたとしても、老後の生活が成り立たないと判断させるならば、条件を満たしていないことになる。我が国の経済政策がうまくいかないのは、ある助成を行うのに、その財源を同じ人に負担させようとするからだ。つまり、いくら子育ての助成を拡大させても、その財源を助成をもらう同じ層に出させようとするから効果がないのだと考えられる。