少子化問題について(4)

これまでの少子化対策とその有効性

 

 こうした状況に対して、我が国では、これまでどのような対策が講じられてきたのだろうか。再び、内閣府「報告」を見てみよう。

 

 1994年に最初の総合的な少子化対策となる「エンゼルプラン」が策定され、仕事と子育ての両立に向けた雇用環境の整備や、保育所の増設、延長保育、地域子育て支援センターの整備等の保育サービスの拡充などが図られた。続けて1999年の「少子化対策推進基本方針」・「新エンゼルプラン」、2001年の「仕事と子育ての両立支援等の方針(待機児童ゼロ作戦等)」等により、子育ての負担を軽減し、子どもを産みたい人が産めるようにするための環境整備に力点を置いて少子化対策が実施されてきたが、急速な少子化の流れを変えるまでは至らなかった。

 そこで、これまでの少子化対策のどこが不十分なのか、また、更に対応すべきは何なのかを改めて点検し、幅広い分野について検討された結果、2002年に「少子化対策プラスワン」が政府でまとめられ、その中で「これまでの取組は、子育てと仕事の両立支援の観点から、特に保育に関する施策を中心としたものであったが、子育てをする家庭の視点から見た場合、より全体として均衡のとれた取組を着実に進めていくことが必要であり、さらに、『男性を含めた働き方の見直し』『地域における子育て支援』『社会保障における次世代支援』『子どもの社会性の向上や自立の促進』という4つの柱に沿って、社会全体が一体となって総合的な取組を進めることとし、国、地方公共団体、企業等の様々な主体が計画的に積極的な取組を進めていくことが求められている」との考え方が示された。

 そこで、次世代を担う子どもを育成する家庭を社会全体で支援するため、地方自治体及び企業で集中的・計画的な取組を促進する「次世代育成支援対策推進法」が2003年に制定された。

 1995年に高齢社会対策基本法が成立しているが、急速な少子化が進展しつつも高齢社会への対応にのみ目を奪われ、少子化に対する国民の意識や社会の対応は著しく遅れていたことから、2003年に議員立法による「少子化社会対策基本法」が制定され、少子化社会における施策の基本理念を明らかにし、施策を総合的に推進することとした。また、内閣においても2003年に内閣府特命担当大臣(青少年育成及び少子化対策担当)が設置された。

 

内閣府HP 選択する未来 ‐人口推計から見えてくる未来像‐ (平成27年10月28日発行)(2015年12月2日))

 

 以上を見てみると、基本的な方向性としては、「仕事と子育ての両立」が対策の根本であったということがわかる。

 「仕事と子育ての両立」の前提として、過去の「女性が賃金労働に従事しない時代」から、「女性も賃金労働に従事する時代」への変化がある。1986年の男女雇用機会均等法施行の前後から、「女性の社会進出」として、テレビやドラマも通じて強力に進められた。出産、子育ては女性の離職を招くおそれがあり、こうした問題に対する「仕事と子育ての両立」であり、育児休業制度や育児手当制度の拡充などが図られた。しかし、このような家庭では、家事が女性(妻)に偏る傾向があり、女性に負担が過重となっているため、これを解消する方策として男性の家事・育児への参加が推奨されるようになってきた。

 「女性の社会進出」は、女性の地位向上という側面もあるが、労働力の確保という経済界の要請があり、一方では、労働者の賃金水準の抑制の側面もあったのではないかと推測する。少なくとも、これがなければ、現在のような非正規労働分野のかような拡大は実現しなかっただろう。その結果、過去の「世帯で一人の稼得者(夫)」という社会から、「夫婦共働き」が当たり前の社会となった。それは、当初はダブルインカムともてはやされたが、気がつけば、そうした裕福な世帯は一部に限られ、共働きで過去の一人分の収入という世帯が一般的になった。このような世帯では、出産・子育てによる女性の職場からの離脱は許されないので、少子化を招く結果となってしまう。したがって、これらの施策は必要であったし、少子化の抑制に一定の効果を発揮していると考えられる。

 しかし、これらの施策が少子化に対して効果を及ぼすのは限られた世帯である。というのは、すでに非婚化・晩婚化が進んでいるからである。先のモデルによれば、「結婚しても、長期的に、1以上のNを持てるだけの経済状況を安定的に確保できないと予想する場合には結婚しない」ということである。そして実際に、このような人々の割合が増えているため、すでに結婚をして安定的な経済状況を確保できている世帯での、女性の離職を防止することはできるが、全体的には効果が一部の世帯に限られることになる。少子化の防止のためには、「仕事と子育ての両立」だけでは解決できない構造が横たわっており、むしろこの構造こそが問題の根本なのだ。

 

 その構造とは、フルタイムで働いたとしても、次世代を育成するだけの収入が与えられないという我が国の経済の分配構造だ。もしも、すべての国民に、次世代を育成するに十分な収入が与えられていたら、各世帯2人ずつの出産で、人口の維持ができる。しかし、かなりの割合の人口がこの条件を満たせないがために、出生率が2を大きく下回って、人口維持に必要な水準の7割にしか届かない現象をもたらしていると考えられる。