王子公園の再整備計画について(3)

 2月16日に神戸市長の定例記者会見が行われ、令和4年度当初予算案について説明があった。その議事録が神戸市のHPで公表されている。その中で、「王子公園再整備」についての説明があったので、その部分を抜粋してみよう。

 

神戸市:定例会見 2022年(令和4年)2月16日 (kobe.lg.jp)

 

 まずは、久元市長の当初予算案についての説明部分である。

 王子公園の再整備は、これまでも申し上げてきましたけれども、本当に動物園の施設、それからスタジアムなど、施設が非常に老朽化している。私が子供のときと風景が変わっていない。変わっていないことがいい面もありますけれども、しかし大きく老朽化している。

 そして、神戸市全体で求められていることは、やはりたくさんの若い世代に住んでもらう、若い世代に働いてもらう、若い世代に学んでもらうという取組み、これが重要です。そういう観点からいえば、大学の誘致というのは非常に有力な手法です。そして、王子公園はあの周辺に、北には神戸大学がありますし、松蔭、海星、そして葺合高校などの高校もある文教地区ですね。大学の誘致としては適地です。

 こういう考え方で王子公園を再整備していこうということで、去年の1月に基本的な考え方の方針を発表いたしました。そして去年、基本的方針の素案を公表いたしまして、必要な意見をいただいてきました。

 これに対しては1,500件ぐらいのパブリックコメントをいただいておりまして、その多くが、これに対しては異論があるという内容になっています。改めて、やはりそういうような多数の御意見に対しては丁寧に説明する必要があるというふうに考えております。

 同時に、王子公園の再整備は、この内容につきまして、パブリックコメントを踏まえた検討も必要になりますが、やはり必要な準備は進めていかなければいけませんから、再整備に必要な測量や、あるいは調査の検討、それから王子動物園の園舎、私も改めて見に行きましたけれども、本当に老朽化しております。象の園舎も見ましたけれども、本当に一生懸命飼育している飼育員の方々の苦労というのが、やはり非常にこれは大きなものがあるということを改めて感じました。やはり王子公園のリニューアル、王子動物園のリニューアル、そして王子公園全体の再整備というのは図っていかなければなりません。

 同時に様々な意見をいただいておりますから、その意見をしっかり踏まえた検討というのをこれから行っていきたいと思いますし、そういう前提の下に必要な予算を計上することといたしました。

 

 続いて、説明後の質疑応答部分である。

 

記者: ありがとうございます。大学といえば王子公園も大変有効な活用方法、手法だということをおっしゃっているんですけど、これは丁寧に説明したいということなんですけど、パブコメの結果を見ても、大学がやっぱり必要なので、そこにはこだわりたいということなんでしょうか。

 

久元市長: やはり大学の必要性というのをもうちょっと丁寧に説明しないといけないというふうに思います。やはりあの近辺に住んでおられる方から見れば、今まで子供を連れて遊びに行って、遊園地で観覧車に乗ったり汽車ぽっぽに乗ったりして遊べるところがなくなって大学がやってくるというのは、自分たちのやっぱり庭のように使っていたところが奪われるという感覚になるというのは、それは分からないでもありません

 

 しかし、神戸全体の今置かれている状況を考えたときに、やはりその必要性というものをよく理解していただく努力というのは我々はより一層やらないといけないし、そして、個別にいろんな要望もいただいていると思いますので、私も詳しくまだパブリックコメントは読んでいませんが、全体の土地利用の中でそれがかなえられるようなものがあるのかないのかというのもやっぱり考える必要もあるんだろうというふうに思います。

 

 

 以上について、コメントしてみよう。

 まず、説明部分を見ると、「神戸市全体で求められていることは、やはりたくさんの若い世代に住んでもらう、若い世代に働いてもらう、若い世代に学んでもらうという取組み、これが重要です。そういう観点からいえば、大学の誘致というのは非常に有力な手法です。」と述べており、王子公園を再編するのは、大学の誘致のためであり、大学を誘致することにより、若い世代を神戸市内に誘致することが目的であることがわかる。そして、若い世代を神戸市内に誘致することは、人口減少に悩む神戸市全体に求められていることであるとのことだ。

 また、「パブリックコメントを踏まえた検討も必要になりますが、やはり必要な準備は進めていかなければいけません」とも述べており、王子公園の再整備は、パブリックコメントを踏まえた検討を行うことが必要であるが、(計画案を進めていくために)必要な準備、調査や測量を進めることを表明し、意見は検討するが、あくまで原案どおりに大学誘致を行う意思が読み取れる。やはり、水面下で具体的な計画が進んでいるのではないだろうか。

 

 続いて、質疑応答部分であるが、「やはり大学の必要性というのをもうちょっと丁寧に説明しないといけない」と述べており、あくまでも大学の誘致が目的であることが改めて確認できる。

 そして、「あの近辺に住んでおられる方から見れば、今まで子供を連れて遊びに行って、遊園地で観覧車に乗ったり汽車ぽっぽに乗ったりして遊べるところがなくなって大学がやってくるというのは、自分たちのやっぱり庭のように使っていたところが奪われるという感覚になるというのは、それは分からないでもありません」と述べている。反対をしているのは、自分たちの庭が奪われる感覚が原因であると述べているが、果たしてそうだろうか。

 人間は、幼少期から青年、中高年、老年と移ろっていくものである。そして、それぞれの世代で必要なものは変わっていくものだろう。だから、幼少期の者にとって重要なものが、青年、老年に全く不要であることは珍しくないし、またその逆の事例もあるだろう。しかし、大人にとって必要がなくなるものが、無価値であるということではないし、どちらが価値があるかということは比べることができないものだ。遊園地の廃止に反対している者は、遊園地も(大学に劣らず)大切で、片方を作るために、もう片方をなくすのはやめてくれ、と主張しているのではないかと思う。

 久元市長は、おそらく、大学の重要性は遊園地・動物園に勝ると考えていることは間違いないだろう。それは、遊園地の遊具を「汽車ぽっぽ」と幼児言葉を使って表現していることから明らかだ。

 ここに、久元市長のインテリズム偏重を感じ取ることができる。久元市長は、図書館やクラシック音楽は大好きだが、大衆の好むものに理解が乏しい。最近の神戸が今ひとつ活気がないのは、久元市長のこの嗜好の影響も少なくないだろう。つまり、いろんな施策を打ち出すが、大衆の関心、支持を得られていないのだ。大衆はわざわざ神戸市の施策に駄目出しなんかしてくれない。ただ、無視して、余所へ行くだけのことだ。

 今回の王子公園の再整備は、市民に遊園地・動物園と大学の2択を突きつけたから、拒絶反応が示されているのだ。それは、単に王子公園だけの問題ではなく、実際に市民が久元市長の方針をどうとらえているかを、あぶり出したものと捉えるべきだろう。

 

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