神戸駅前広場再整備基本計画(素案)の公表について

 神戸市は10日、JR神戸駅前広場の再整備基本計画の素案を発表した。歴史ある駅舎や近くの湊川神社の景観を生かし、風格と居心地の良さを兼ね備えた広場に再編する。バスロータリーや駐輪場など各施設の配置も見直して回遊性を高め、周辺エリアの活性化にもつなげる。

神戸新聞 2021/6/10)

 

 6月10日、神戸市が JR神戸駅前広場の再整備基本計画の素案を発表した。

 素案の概要は次の通りである。

 

神戸駅前広場再整備基本計画(素案)概要

(1)基本計画の前提条件
  ・概ね2030年以降の姿を想定した計画
  ・再整備の範囲は、JR神戸駅前広場
  ・駅前広場を人が主役の空間に再編
  ・神戸駅舎は現状を前提
  ・神戸駅周辺の活性化に必要な施策は、整備対象区域外においても適宜実施
(2)再整備のコンセプト
  『駅前広場がつなぐ、人とまち。~神戸“湊”劇場~』
   神戸の名を冠する、歴史ある神戸駅
   駅を出た時からはじまる、まちを舞台としたストーリー。
   暮らす人、訪れる人、“湊(あつ)まる”誰もが主役。
   神戸という舞台へ誘う駅前広場を新たな憩いや交流、コミュニケーションの生まれる拠点として刷新します。
(3)目指すべき方向性
  ① 高質で風格のある景観整備
  ② スムーズかつ安全・安心な交通機能整備
  ③ 周辺地区への回遊拠点としての整備
  ④ “人”中心の広場の管理運営

(4)神戸駅前広場再整備基本計画(素案)

(出典 2021/6/10 神戸市記者発表資料)

 

神戸市:神戸駅前広場再整備基本計画(素案)の公表 ~神戸駅前を見違える空間に~ (kobe.lg.jp) 

 

 JR神戸駅は日本鉄道史上に輝かしい歴史を誇る駅だ。東海道本線山陽本線という二大本線のターミナルであったからだ。今でも、神戸駅の構内にはそれを示す柱標が立っている。

 余所から神戸を訪れる者は、「神戸駅」の名を聞けば、この場所こそが神戸の中心であると思うに違いない。しかし、実際に神戸駅の地に降り立つと、そのイメージの隔たりにとまどうことだろう。

 神戸駅周辺にどのような位置づけを与えるかは非常に難しい問題だ。その難しさは、神戸駅周辺の統一感のなさに現れている。神戸を代表する神社の一つである湊川神社神戸地方裁判所神戸地方検察庁とその周辺に集積する法律関連事務所群、神戸文化ホールや大倉山中央図書館、中央体育館という大規模な都市施設、元町商店街や新開地商店街、神戸大学医学部、そしてハーバーランドの観光施設群とまさにモザイク様の状況となっており、これに何か統一的な性格を規定することは困難だろう。

 なぜ難しいかというと、元々、神戸駅の場所そのものが自然発生的に生まれた都市の中心部ではなかったからだ。神戸は開港後、古くから港町として栄えていた兵庫と少し離れた場所に外国人居留地が設けられたところから飛躍的な発展が始まった。この外国人居留地の最寄り駅が三ノ宮駅で、これがいわゆる狭義の「神戸」であり、古くからの瀬戸内海航路の中心地として栄えた兵庫とが双方とも繁栄している状態にあって、その両者の中間地点にあたる場所に神戸の中心地として選ばれたのが現在のJR神戸駅だ。その後、兵庫が衰退してしまったため、都市の中心として予定された現在の神戸駅は、いつの間にか都心の外れになってしまった。その結果、「神戸」の名前にふさわしく都心的な施設も立地されたが、神戸駅周辺の位置づけが定まらないままに、神戸駅の輝かしい歴史と、豪華な駅舎が取り残されたような姿になってしまった。つまり、兵庫と神戸との中間地点という地理的属性と、「神戸」という看板を背負ってしまったが故に、このようなモザイク状の地区が生まれてしまったとも言えるだろう。

 

 都市の整備をしようとするなら、やはり、その場所に対して機能、位置づけを与えなければならない。現在の神戸の中心は三宮であることは間違いなく、官公庁やビジネス街、大規模な商業施設は三宮に集中しており、三宮は近距離、中距離、長距離交通の結節点であり、名実ともに神戸の都心である。それに対して、神戸駅周辺は、一時は交通の中心地の様相を呈していたことはあったが、現在はその地位を失ってしまい、もはや三宮と同様の方針で整備することは不可能だ。

 では、神戸駅周辺にどのような位置づけを与えるべきだろうか。それは神戸観光の起点(終点)という位置づけであると考える。地図を見ると、神戸駅の東側にハーバーランドが海に突き出し、都心に隣接した海を見渡せる観光スポットとしてモザイクには大勢の観光客が集まっている。神戸ほど、都心に隣接して海がある都市はない。海は神戸にとって最大の観光ポイントだ。今後、このハーバーランドから東へ、ポートタワー、メリケンパーク、新港突堤と観光地が順次整備されていくことになると思われるが、この区間における交通手段が必要になる。その交通手段は、ハーバーランドとみなとのもり公園との間を結ぶシャトルバスのようなものとなるだろう。ハーバーランドはその交通手段の西の起点として観光客を送り出す場所もしくは観光を終えた観光客を回収する場所ということになるだろう。神戸駅はそのハーバーランドへのアクセスポイントということになる。神戸駅周辺にはJR、阪急、阪神神戸電鉄、地下鉄海岸線などの交通機関が集積している。そして、JR神戸駅は、新快速電車が停車するという素晴らしい交通条件を有している。また、ハーバーランドには大規模な駐車施設が整備されており、現在でも遠方からの乗用車による観光客が多く集まっている。ちょうど、都心では車両の乗り入れを抑制する方向で整備が進められているので、ハーバーランドパークアンドライドの拠点となるだろう。そうした、都心へ向かう観光客を受け入れるゲートが神戸駅周辺の役割だと考える。

 このような位置づけを踏まえて、神戸駅周辺の整備を考えてみたらどうだろう。

 やはりハーバーランドへのアクセスを改善することが大きなテーマとなるだろう。特に駅の北側、地下鉄大倉山駅から神戸駅ハーバーランドへの導線は見通しが悪く、短い道路が入り組み、往来が不便だ。大倉山駅からハーバーランドへの最短のルートは湊川神社の東側の筋(神戸駅前線(下図 青色の矢印))であり、これをハーバーランドへのメインルートと位置づけ、整備してはどうだろうか。大倉山駅からJR神戸駅まで一体的に整備して、メインストリートであることが視認できるように見通しを確保し、可能であれば最短ルートとなるよう地下道を整備してもよいかもしれない。現在、タクシー乗り場が神戸駅との間を塞ぐ形になっているが、タクシー乗り場は直進を妨げないように移設するのがよいだろう。導線が改善すると、人の往来が増える効果が得られるかもしれない。駅の周辺には神戸観光の出発点として降り立つ人、観光を終えた人に向けてのホテルやサービス施設、観光客向けの土産物の販売店兵庫県の特産品を販売し、工芸や文化を紹介する物産館を設置するのもよいかもしれない。

 また、神戸駅周辺の観光資源の開発として、鉄道車両の製造が神戸の重要な地場産業であることも合わせて、神戸駅の輝かしい歴史的位置づけを記念する鉄道記念館のようなものを設置してはどうだろうか。

 さらに、神戸駅は、兵庫運河、兵庫県が建設する「初代兵庫県庁」や能福寺の大仏などの観光の起点としても重要なポジションにあるだろう。

 このような、神戸観光の起点をテーマに周辺を整備するのがよいのではないか。もちろん、湊川神社も重要なランドマークなので、見通しを確保することはよいことだ。

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 ところで、再整備基本計画(素案)では、再整備のコンセプトを『駅前広場がつなぐ、人とまち。~神戸“湊”劇場~』としているが、下町の演芸場のようだ。もっとスマートなコンセプトはなかったのだろうか。神戸駅周辺のイメージを歪めるものだ。